移住や定住に興味がある人にとっては、知りたいことや相談してみたいことが本当にたくさんありますよね。特に現地での仕事探しは、早めに情報収集をしておきたいものです。
今回ご紹介するのは、十勝エリアの芽室町で「移住」と「仕事」の両方を相談できる、NPO法人 Qucurcus(ククルクス)です。2021年に設立されたこの民間団体は、芽室町ハローワークの窓口を担当する永井健士(たけし)さんと、移住コーディネーターの八所(やところ)かおりさんのお二人が活動しています。ちなみに、以前「くらしごと」で紹介した八所さんは声優・ナレーターでもあり、バーチャルリポーター「ユスラ」としても活躍中なんですよ!
地域おこし協力隊を経てククルクスを立ち上げたお二人は、東京と大阪出身の移住者であり、まちを良く知る頼もしい存在。芽室町を「おもしろい、熱い人たちがいるまち」と話すお二人に、そのユニークな経歴と、「十勝に暮らす、来る、託す」を名前の由来とした「ククルクス」の活動についてお伺いしました。
移住検討中でも登録できる「芽室町ハローワーク」窓口
芽室町は、帯広市の西隣にある農業が盛んなまちです。ここでは生産量日本一の甘~いスイートコーンをはじめ、小麦、ジャガイモ、マメ、ビート(砂糖の原料)など、多種類の農作物が収穫されます。また、酪農と畜産も盛んで、牛乳やお肉もおいしい!帯広からはJRや車で20分とアクセスが良く、とかち帯広空港からも車で40分の距離にあります。町内には高速道路のインターチェンジが2つあるため、交通の便も良いのが特徴です。
ククルクスは、JR芽室駅や町役場から歩いて数分の中心地にあります。前面がガラス張りになった事務所は、開放的でカジュアルな雰囲気。プライバシーを重視した打ち合わせ室も設けられています。
まずは、永井さんに地方版ハローワークの事業についてお聞きしてみましょう。
元々は芽室町の役場内に窓口があったそうですが、現在はククルクスが運営を受託しています。永井さんはそのメリットを教えてくれました。
「本来、自治体が設置する『地方版ハローワーク』は利用者が町民の方に限られるのですが、民間であるククルクスが受託することで、芽室町以外の方にも対象が広がりました。移住コーディネーターの八所さんとも連携して、芽室町への移住を検討している方々にもPRしていますし、実際に東京や大阪などの首都圏に住んでいる方も求職者として登録されています」
民間の団体が地方版ハローワークの業務を受託するというのは全国的にも珍しいこと。芽室町の場合は、ククルクスの設立前に、永井さんが地域おこし協力隊として地方版ハローワークの立ち上げに携わっていたという経緯がありました。町内の求人情報を集めるのはなかなか大変だったそうで、永井さんは当時を振り返りながら次のように語ってくれました。
「芽室町でも初めての試みだったので、最初は手探りの状態でした。まずは求人を募る事業所を探すため、商工会の求人掲示板を見ながらリストを作成して1ヵ所ずつ訪問したり、商工会の担当者から直接求人情報を教えてもらったりしていました。芽室町には、例えば名産のスイートコーンを使った大手のスープ工場といった、農畜産物の食品加工工場がとても多いんです。3つの工業団地に300もの企業があります。そこで、役場の工業団地担当者に協力をしてもらって地方版ハローワークの宣伝をしてもらいました。その結果、ククルクスに求人票を出してくれる企業が増えていきました。取りこぼしがないよう、少しでも関心がありそうな企業へ、役場職員と一緒に説明に回りました。とにかく足で稼ぎましたね」
2020年、永井さんは役場内にオープンした芽室町ハローワークの業務に励みます。こうした熱心な取り組みが役場の信頼を受けて、のちに永井さんが設立したNPO法人ククルクスで業務を引き継ぐことになりました。現在では「無料職業紹介所といえばククルクス」という認知が広まり、求人数は120以上に達しています。それでも、働きたい人のほうが多く「今日も朝一番に来た方がいらっしゃいました」と永井さん。取材中も来客対応に追われるなど、忙しい日々を送っていらっしゃいます。
幸せなマッチングのために「芽室町プライベートツアー」を開催
ククルクスのもうひとつの大きな業務は「シティプロモーション・移住促進」です。この業務を担当している八所さんは大阪出身で、大阪と東京でナレーターや声優として長く活動していました。北海道へ移住してからは、芽室町など2つのまちで、移住・定住促進やまちのPRを行う地域おこし協力隊として活動してきました。
ククルクスでも同様の業務を担当し、ラジオや動画発信、イベントなどを通じて芽室町の魅力や暮らしを広く発信しています。また、十勝圏や北海道、全国の地域おこし協力隊やOG、OB、自治体の移住担当者とのイベント企画や参加を通じて、芽室町だけにとらわれないネットワークづくりに取り組んできました。
そのひとつ、道内の移住コーディネーターが自主的に集まって、オンラインイベントを開催するグループ「北海道移住のすゝめ」にも参加しています。「この6月には東京でリアルイベントを行いました。道内の9市町が参加したんですが、みなさん面白いメンバーばかりでしたね」と八所さんは楽しそうに話してくれました。
移住相談においては、直接ククルクスの事務所まで訪れる人は少なく、電話やメール、SNSでのやり取りが主になるそうです。本格的に移住を検討している人に対しては、完全オーダーメイドの「プライベートツアー」も提供しています。これは、芽室町で会いたい人や行きたい場所、住みたい物件など希望に合わせて、八所さんが1日1組限定で案内するサービスです。
「今年もプライベートツアーを通じて移住してきたご家族がいらっしゃいますし、年内にも移住が決まりそうな方がいらっしゃいますね。芽室町で仕事を探したいという方には、永井さんが対応しています。また、ほかの自治体が集まる移住フェアでも、芽室町には地方版ハローワークがあることを宣伝しているので、仕事の面でも安心感を持っていただいています」と八所さんは手ごたえを感じています。
Vチューバーも、資格取得も、まずは自分でやってみる八所さん
八所さんは、芽室町をより広く知ってもらうために、さまざまなことにチャレンジしてきました。Vチューバーとしての活動もその一つです。まちのPRに使えるのではと自力でクリエイターを探し、自費で「ユスラ」というキャラクターを創り上げました。まずは自分でやってみる、そんなタイプの人です。
こちらはバーチャルリポーター「ユスラ」が芽室町の紹介をする動画です。ユスラの可愛らしさはもちろんですが、動画にはまちへのアクセスから「どれぐらい雪は降るの?」「車は必要?」など、現地での暮らしに関する知識が5分間にギュッと凝縮されています。
それにしても、なんて心地よく響くユスラの声...。
コンテンツを含めた動画編集も八所さんによるもので、他自治体からもユスラを使った動画の注文が入ったそうです。真冬に行われる『めむろ氷灯夜』というイベントの中継もVチューバーとして務めました。「屋外で気温はマイナス10度以下、寒かったです...」と振り返る八所さんですが、プロ根性で乗り切ったといいます。
最近では、移住検討者向けのツアーをほかの自治体と共同で行うため、みずから国内旅行業務取扱管理者の資格を取得したそうです。「全国の地理やJR、航空やフェリーの運賃、団体旅行など、多岐にわたる知識を覚える必要があって大変でしたが、勉強になりましたね」と、どこまでも前向きな八所さんです。
「思い立ったら即実行」というアクティブな姿勢を持つ八所さん。北海道に移住したのも、全国を旅して「北海道に住んでみたい!」と思い立ったことがきっかけだといいます(詳しくは、過去の「くらしごと」記事をご覧ください。【芽室町】十勝から全国へ響かせる、まちの魅力を伝える声。)。
永井さんも同様に、仕事で訪れた北海道に一目惚れして移住したのだそう。では、永井さんが北海道に移住したいきさつについてお聞きしてみましょう。
十勝の景色に一目惚れ、東京から移住を果たした永井さん
生まれも育ちも東京。ホテル系Webサイト制作の会社で、コーダー(Webページをhtml等を用いて制作する仕事)として働いていた永井さん。北海道エリアのホテル担当となった永井さんは、コンテンツ作成のために十勝の観光情報収集に同行することとなり、スポットを巡るなかで、忘れられない出会いを経験します。
「最初から『十勝はいいところだな』と感じながら回っていましたが、池田町のワイン城を訪れていたときに、素晴らしい光景に出会ったんです。ブドウ農園があり、その向こうにまちが広がっていて、ちょうどその時、日高山脈の向こうに夕日が沈んでいく様子が見えたんですよ。雲の隙間から神々しい光が差し込んできて...」と、その感動を表情によみがえらせる永井さん。「一目惚れです。『絶対にこの場所に住むんだろうな』と直感で思いました」
東京の生活や仕事に不満はなかったという永井さんでしたが、その後は池田町をよく訪れるようになり、さまざまな偶然も重なって地域おこし協力隊へ入ることになりました。「池田町に住むことに不安はありませんでした。当時お世話になっていた会社の人たちや、池田町の人たちとはいまでも仲が良いんですよ。周りの人たちに恵まれたと思っています」
でも、「池田町」の協力隊だった永井さんがなぜ芽室町に?
「はい、協力隊を卒業してからもそれまで活動していた取り組みを続けようと考えていたのですが、池田町ではタイミングが合わなくって、どうしようかなと考えていたところ、芽室町地域おこし協力隊の1年目だった八所さんに声をかけていただいたっていうのがキッカケなんです」
八所さんが声を掛けてくれたのを縁に、永井さんは地域おこし協力隊としてもう一度、今度は芽室町で活動することを決めました。地域おこし協力隊から地域おこし協力隊に転職です。
「実は、いまも池田町には住まいがあるんですよ。協力隊時代にも大変お世話になりましたし、やっぱり大好きなんですよね」という永井さん。平日は芽室町の家に住みながら働いて、休日には電車で50分の距離にある池田町でオフを楽しむ。そんなニ拠点生活を、永井さんは気に入っているといいます。
自主的に助け合い、進取的な気風を持つ芽室の人たち
八所さんも、2つのまちの地域おこし協力隊として活動してきました。芽室町の良さについては、自主的に地域活動をする人や協力してくれる人がとても多いことだと話します。
「私が芽室町に来て驚いたのは、すぐにいろんな方々とつながりができたこと。『子育てについてはこの人に聞けばいい』とか、必要な人材を探す際も『思い当たる人がいるから、声をかけてみるね』といったふうに、みなさんが協力的で、一緒に何かをするときもスムーズなんですよ。仕事だけでなく、住んでいてとても良いまちだと実感しています」
ちなみに、移住相談では30代の子育てファミリーが多いそう。「芽室町は子育てがしやすいまちとして知られていますね。保育園や幼稚園はもちろん、『育児ネットめむろ』という育児サポートの民間団体があって、ものすごく親身になって相談に応じたり手助けをしてくれる。だから安心して子育てができるというお話を地元のママからもよく聞きます」
開拓時代の十勝では、移住者たち自身が力を合わせて地域を開拓してきた歴史があります。この自主的な気風と助け合いの精神が引き継がれて、新しい人や取り組みを受け入れやすい環境となっているのが芽室町の魅力。ククルクスの八所さん、永井さんも積極的にまちづくりに参加しています。
「例えば、『ちいさな森のマルシェ』というピクニックイベントが毎年あるのですが、これは「めむろプラニング」という会社が主催しています。道内各地の地域おこし協力隊やOB、OGに呼び掛けて、グルメやコーヒー、ハーブティー、農産物販売などのブースを出店してもらいました。このイベントはコロナの影響で始まったものですが、芽室の人たちにとっては目新しいものを売っているし、広い屋外でのんびり過ごせるので、毎回とても人気があるんですよね。出店者からも、来場するお客さんからも感謝される素晴らしいイベントです」 (※2023年は敷地内での工事のためお休みでした)
より良いまちを、共に創り上げる一員として
芽室町では、ククルクス以外にも地域おこし協力隊やOB、OGの人たちがユニークな活動や事業でまちを盛り上げています。例えば、ククルクス立ち上げ時のメンバーであり、いまは自転車で芽室を体感するサイクルツーリズムを推進している及川 雅敦さん、先日当サイトでもご紹介した、大学を卒業してすぐ地域おこし協力隊に入り、ゲストハウスを立ち上げた芳野 都馬さんなど、たくさんの人たちが活躍しています。
5年前に移住してきた八所さんによれば、芽室町の地域おこし協力隊OB、OGの定住率はほぼ100パーセント。新たにやってきた人々にとって住みやすく、新しいアイデアや活動に対しても積極的に歓迎してくれる、まちの懐の広さが感じられます。
永井さんは、今や欠かせない存在となった芽室町ハローワークの、これからの取り組みについて語ってくれました。それは、障がい者や高齢者など、就職が難しいとされる人たちの雇用を、芽室町の事業者に広げていくことです。「国に申請を行うことで、事業者には助成金が支給されます」と永井さん。
「芽室町は障がい者施策に力を入れており、就労施設も充実しています。ひとり暮らしのシミュレーションする体験住宅もありますが、この制度はあまり知られていないんですよね。ご家族は、本人がひとりになってしまった後の生活をとても心配していらっしゃるので、持続的に仕事ができる場を増やしていきたいと考えています」
自主的に動いて、お互いに助け合う気風を持つこの芽室というまちを、もっと良くしてきたい、盛り上げていきたい。前向きに充実した日々を送るお二人からは、そんな気概が感じられました。
- NPO法人 Qucurcus(ククルクス)
- 住所
北海道河西郡芽室町本通3丁目2
- 電話
0155-67-5144
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