突然ですが「散走(さんそう)」という言葉をご存じでしょうか?
移動を目的とするのではなく、散歩感覚で道中に何かを見たり、何かに出会ったりすることを愉しむことを目的として自転車に乗ることいい、自転車部品の世界最大手企業である株式会社シマノが提唱する言葉です。
北海道では豊かな自然、幅の広い道路など、その特性や魅力を活かしたサイクルツーリズム(自転車観光)が盛んですが、十勝エリアにある芽室町では、2017年に「芽室町サイクルツーリズム協議会」を設立し、この「散走」を通して、芽室の食や景観といった魅力を発信しています。
今回は、芽室町サイクルツーリズム協議会の副会長を務め、芽室町の地域おこし協力隊でもある及川雅敦(おいかわまさのぶ)さんにお話を聞きました。
都会を離れ、いざ北海道へ。
及川さんは地域おこし協力隊ということなので、つまりは芽室町への移住者ということになります。まずは、及川さんのこれまでの道のりについて伺いました。
「出身は埼玉県川越市というところで生まれました。父が転勤族だったこともあり、仙台市や千葉県、東京都など、様々な土地を転々としました。高校、大学は東京で通い、大学は将来海外で働きたいなという思いがあり、東京外国語大学でポルトガル語を専攻し、ポルトガル留学も1年ほど経験しました。大学を卒業後は、自動車が好きだったので、大手自動車メーカーへ就職し2年半ほど務めました」
留学経験もあり、英語も堪能な及川さんです。
4歳から18歳までクラシックピアノに打ち込んでいたこともあり、ポルトガル留学中には長期休みを利用して、クラシック音楽発祥の地であるヨーロッパ約20カ国を巡るほど旅好きでもある及川さん。こうした経験もあり、就職した大手自動車メーカーでは、語学力を活かし、海外の子会社などを管理する部門でご活躍されます。東京でそうした忙しい日々を過ごしていたある夏、北海道へ骨休めに一人旅で訪れた際、一気に北海道に惹かれたんだとか。
「もともと都会は好きじゃなかったんですよね(笑)。バックパッカーをしていたこともあって、自然に囲まれた土地で過ごしたいなと。北海道に行くための手段をそこから模索して、地域おこし協力隊という方法を見つけたんです」
こうして及川さんは北海道の地を訪れることになり、北斗市地域おこし協力隊を経て、現在の芽室町地域おこし協力隊として、芽室町へ移住してきました。
芽室町のサイクルツーリズムとは?
2018年の秋にサイクルツーリズム担当の地域おこし協力隊として着任した及川さん。任務は2017年に立ち上がった芽室町サイクルツーリズム協議会に入り、事業全体のコーディネートや舵取りです。サイクルツーリズム、つまり自転車を活用した観光ということで、及川さんも自転車が好きなのかと思いきや意外な言葉が。
「実は元々、自転車大好き!という訳ではなかったんです。東京でクロスバイクに乗っていたことはありますが、初心者というか普通に自転車に乗る程度でした。ただ、この地域おこし協力隊の募集要項には『自転車に乗れなくてもOK』と書いてあり、これは思い切っていて面白そうだぞ!と思ったんです(笑)あと、自動車メーカーに就職をした時、好きなことを仕事にしたけど続かなかった経験もあったので、仕事選びに対しては趣味嗜好をあまり介入させない方が良いのかな、なんて思っていました」
こうしていよいよ動き出した芽室町のサイクルツーリズム。大きな特徴は電動アシスト自転車を使用することで、冒頭でも触れました「散走」を楽しんでもらうこと、つまり芽室町の景色や、人との触れ合い、食などを楽しんでもらうことを一番に考えていることです。
「1回の散走の距離は大体20Kmくらいあるんです。なので、自転車を漕ぐだけで疲れちゃう・・・というのは避けるべく、電動を採用しました。スポーツというよりは、観光がメインなんですね。芽室は農業が盛んですから、散走しながら農家さんとの触れ合いや、野菜の収穫体験なんかもツアーに組み込んで、参加した方には、五感で芽室を感じてもらえるようなルートを組んでいます」
2018年には「撮る散走」、「農を感じる散走(めむろごぼう編)」というテーマでモニターツアーを実施し、参加いただいた方たちからは「普段は農家さんと話す機会なんてないので、農業への認識がすごい変わった」などと好評だったそうです。2年目となる今年は、「農家のお母散走(おかあさんそう)ツアー」と題して、ジャガイモ農家さんがガイドを務め、ジャガイモの花の魅力を味わえるツアーも行っています。
こうした観光に特化した芽室の取り組みはまだまだ始まったばかり。観光ガイドは現在二人しかおらず、ツアーの参加人数も限られてしまうとのことですが、しっかり安全面を考慮しながら、今後も芽室らしい散走を企画し、「自転車を芽室の特徴の一つにしていきたい」と及川さんは言います。
2019年度もこうしたテーマの「散走」を実施しています。
移住を決めた理由の一つは「人」。
つづいて、移住者として及川さんが感じる芽室町についても聞いてみます。
「すごく住みやすいというのはいつも感じます。町内で日常の買い物に困ることはないですし、帯広までも車で30分かかりません。大らかな人が多くて、助けていただくこともたくさんありました。そして、芽室に来て改めて思うのは、やっぱり東京が苦手だったんだなということ。正直、東京にいる時は息苦しさがありました(笑)芽室は東京のような圧迫感はないし、緑は多いし、空気もおいしい。最高ですね」
及川さんが住んでいるのは役場が借り上げている民間のアパート。水光熱費、通信費など日常生活に係る費用は自分で負担しますが、家賃は町の方で負担してくれます。JRの芽室駅にも歩いて行けるので、何かと便利な立地。ただ、北海道の中でも一段と厳しい十勝の寒さには、慣れるのに少し時間が必要だったのだとか。
このように芽室についてお話を伺っていたのですが、一呼吸をおいた後、改めて及川さんがこう言います。
「でもやっぱり、人が一番ですね」
そして、こう続けてくれました。
「北海道に来る前から十勝に憧れはありましたが、この芽室町への移住を決めた理由の一つは『人』なんです。今もサイクルツーリズムでお世話になっていますが、芽室町で農業を営む廣田農園の廣田さんご夫婦とは、移住前から面識があり、廣田さん自身も移住者なので、色々なお話を聞かせていただたり、親身になって相談に乗っていただいたりと大変お世話になりました」
廣田農園は及川さんたちが企画するサイクルツーリズムのコースにもなっており、廣田さんご夫婦はこうした新たな取り組みに賛同してくれる大切な協力者でもあるのです。
取材中、廣田農園さんにもお邪魔させていただきました!写真左が奥さまの廣田由美さんです。
人との交流を大事に。
この秋で及川さんが移住、そして地域おこし協力隊として着任してから1年が経とうとしています。今後はサイクルツーリズムツアーのバラエティを増やしていくために、廣田農園のように、農家さんなどの協力者を増やしていきたいと及川さんはこれからの抱負も語ってくれました。
「観光を目的としたサイクルツーリズムももちろんですが、これからは芽室町の子どもたちや地元に住む方々にも改めて自分のまちを散走して、新しい発見をしていただくようなツアーもやりたいと思っています。そうして町民の方々にも楽しんでいただき、この取り組みを知っていただくことも大事だと感じています」
休日はロードバイクのイベントなどにも参加しているそうです。
これからもサイクルツーリズムを通して色々な取り組みを模索している及川さんですが、大事にしているポイントはやはり「人」とのこと。最後にこう話してくれました。
「人との交流を生む仕掛けを考え、『また芽室に来たい』そう思ってもらえるようにこれからも頑張ります」
- 芽室町 地域おこし協力隊 及川雅敦さん
- 住所
北海道河西郡芽室町町東2条2丁目14
- 電話
0155-62-9736(芽室町役場 商工観光課)
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