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まちおこしレポート
旭川市

生徒への期待を胸に、羽ばたく時まで全力で支える道職員たち20200907

この記事は2020年9月7日に公開した情報です。

生徒への期待を胸に、羽ばたく時まで全力で支える道職員たち

くらしごとでは、北海道唯一の【林業】・【木材産業】の専門学校として2020年に開校した「北海道立北の森づくり専門学院」略称「北森カレッジ」で学ぶ生徒たちへの取材を行い、どんな生徒がいるのかということをお伝えしました。
<その記事はこちら→北海道唯一!林業の専門学校で学ぶ、バラエティ豊かな生徒たち

それでは今回は、この学院ではどんな職員・先生達が教えているのかに迫っていきたいと思います。
北海道の林業担い手確保の動きや全体の動きを教えていただきながら、とある面白い経歴のある先生お一人にもお話を聞いて、この学院を支える『職員』に焦点をあてていきましょう。

北海道に林業の専門学校ができるまで

そもそも、なぜ北海道に林業の専門学校が作られることになったのか、という素朴な疑問を胸に抱きつつ北森カレッジに向かった取材班。
まず迎え入れてくれたのはとっても物腰の柔らかい職員の皆さま。
おや、見たことがある顔がそこにはあるではありませんか。

以前にくらしごとで登場していただいた上川総合振興局林務課にいた斉藤翼さんです。斉藤さんも今年の春から北海道立北の森づくり専門学院 教務課へと配属になり、生徒達とのやりとりを日々楽しみながら働いているようです。
<斉藤さんが登場する記事はコチラ→林業で働くワカモノがイキイキ活躍するために

北森カレッジは道立、ということで北海道職員の皆さんの中でも今まで林務に携わってきた方が配属されています。
出迎えて下さった教務課の皆さま、小笠原昭二さん、髙橋輝(あきら)さん、斉藤翼さんにこの学校が出来た経緯を聞くと、今までの日本の林業や北海道の林業の過去も少しずつみえてきました。

kitamoricollege40.JPG左から高橋さん、斉藤さん、小笠原さんです。

「北海道の森林は日本全国からみても約20%を占めています。そして戦後の北海道で林業に従事していた方は、約1万人程とされています。戦後の高度成長期を迎えた日本では住宅需要が高まり、木材が必要となり、国内の木が伐採されると同時に植えられていきました。北海道も例外では無く、木材が伐り出され本州へ出て行き活用されていたそうです。ですが外国産材の輸入などにより国産材の需要が減り、徐々に業界に従事している人の数も減っていきました。その後、外国産材の使用が慣例化していたところに、諸外国の様々な状況によって外国産材の供給が不安定になっていきます。時期を同じくして戦後に植えられた木の活用時期が来ており、日本国内の木材を見直しましょうという風潮が流れ始めたのです」

今までの日本の林業は、主に40〜50年サイクルで育った木を山ごとまるっと伐採して裸山にして、そして植えるというやり方が一般的でした。
ですが中央ヨーロッパでは1本の木を大径木(たいけいぼく/直径70cmを超える大きな木)へ成長させてから伐採するやり方や、高性能林業機械の導入するなど、日本とは違う方法が行われていました。
日本も海外の事例を学ばなくては、ということで全国で機械化がすすめられ、北海道の林業でも高性能林業機械が用いられることも少しずつ増えていったそうです。

kitamoricollege30.JPGヨーロッパは林業の先進国で持続的な経営をしていることで業界では有名な話です。林業で働くことは若い子どもたちの憧れにもなっているのだとか。

しかし、一度減ってしまった労働人口は一気に増えるはずもありません。
働く人を確保しなければ利用期を迎えた木を伐る人もいない。ということで4〜5年ほど前から北海道への林業大学校の設置が議論されるところとなったのです。

長年北海道職員として林務に就いている小笠原さんと髙橋さんは次のように話します。
「北海道は1997年からずっと人口は減少しています。そして国も2008年をピークに人口減少が始まっています。これから人口が増えることは考えにくいでしょう。
そんな人口減少の時代の中で、各業界で労働力確保が重要になってくる中、林業も確保していかなければなりません。そういう中で安定的に業界へ力を届けられるようにと、全国でも林業の専門学校が出来てきました。そして、北海道でも遅ればせながらようやく2020年に業界待望の林業の専門学校が開校することとなりました」

今現在林業に従事している年齢層は高く、60代以上の方も多く活躍しています。
でもいつかその世代も引退する時期がやってきます。
こうして北森カレッジは、林業・木材産業の期待を背負っての開校となったのです。

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しかし、各業界への労働力確保だけが北森カレッジに課せられたミッションではありません。
むしろ、先生達が目を輝かせて伝えてくれたことがあります。
それは・・・

「林業で働く人は他業種からの転職者が多い、という傾向が今までもありました。山で働くことは『ストレスフリー』なのです。前職で対人関係に苦労された方や成果の見える仕事がしたい!という若い方が林業に転職していたり、社会貢献・環境保全への想いが強い方もいらっしゃいます。自然の中で働くことの気持ちよさもありますが、もちろん危険と隣り合わせの仕事だということもありますので、しっかりこの学校で学んでいただいて、林業・木材産業に就職していただきたいですね」

北海道の各地で実習ができ、この広い北海道をフィールドに学ぶことができるというのも北森カレッジの魅力です。
当面は新型コロナウィルスの影響で宿泊をともなう実習は自粛している、ということでしたが、北海道内でも地域によって植生が違うのでその色々な環境を実習で学ぶことができるのは、将来自分が働くエリアを決めるのにも有効だと先生たちは話します。

山の仕事でアフリカまでいったことのある先生も!

くらしごとの取材をしていると『北海道の大自然に憧れて』ということをよく耳にします。
地元に住んでいると当たり前にすぐそこにあるもので、なかなか気が付かないかもしれませんが、それだけ「北海道」にはポテンシャルが秘められているなぁと感じます。
ここ北森カレッジでも北海道に憧れて進学を決めた生徒も少なくありません。

ですが、生徒だけでなく先生たちにも『大自然といえば北海道!』という理由で北海道に移住してきた方がいらっしゃいました。
川鍋博(かわなべひろし)さんです。

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川鍋さんは宮城県出身、道内の学校に進学して林学を学び、そのまま林業関係の民間企業に入社しました。
幼いときから自然が好きだったという川鍋さん。世界的に自然環境への破壊が頻繁にニュースに上がり、それが心に残っていて、自然の中で働けて環境を管理するような仕事をしたいという想いで進学も就職も森林に関わるところに決めたのだとか。

当時の配属先は道北のとあるまちでした。
憧れの大自然のあるまちで働き充実感のある一方で、川鍋さんはまた一大決心をするのです。

それは『青年海外協力隊』への参加でした。
世界での環境保全や森林環境のことにも意識が高かった川鍋さんは、森林経営という職種でアフリカへと飛び立ったのです。
アフリカでは薪や炭を生活で利用するために木を伐採している現地で、大人や子どもたちに木の大切さを話し、一緒に苗木を育てたり、少ない薪の消費で済むカマド作りを教える活動に取り組みました。
2年と3カ月、任期を終えて日本に戻ってくるときに川鍋さんが選んだ地はやはり「北海道」でした。

土台は安全第一で

アフリカから戻った川鍋さんは北海道職員募集に応募し見事採用。
そこからまた北海道の森林に携わる人生がスタートしたのです。

北森カレッジの教務課に配属されるまでの川鍋さんの道職員歴を簡単にご紹介します。
スタートは別海町。林業普及指導員として山主さんからの山の管理の相談にのったり、山づくりのアドバイスやお手伝いを行いました。
その後、札幌の北海道庁で森林計画の策定やエゾシカによる森林被害対策など、さまざまな業務を経験したあと、2019年の4月から北森カレッジの準備の仕事に配属されたのでした。
2020年2月から旭川へやってきて、北森カレッジ開校後は今までの経験を基に生徒に森林計画やエゾシカ被害についての授業などを行う予定です。

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「まさか道職員になりながら生徒に教える立場になるとは思いませんでした」と優しく笑いながら話してくれる川鍋さん。
生徒に伝えたいことはたくさんあると思いますが、一番意識していることは?と聞くと
「安全を第一に!ということですね。この意識を植え付けていかなければ。どうしても危険の伴う作業がある業界ですから、授業でも安全対策していることはもちろんですが、基礎の基礎から教え、あとは反復練習を何度も行い体に染みつかせる、ということで将来も安全を第一に活躍してほしいという意識は常に持ち続けています」

ヒューマンエラーによって甚大な事故に繋がりやすい林業業界。
従事する方の安全意識をなるべく高くすることで少しでも減らしていきたい、そんな想いが伝わってきました。
そして今後の生徒達への期待も熱く語ります。
「本当に第一期の生徒はバラエティ豊かな人達が集まりました。卒業後は色々な分野で就職して活躍していくと思います。キノコが好きな生徒や現場で働きたい生徒、森林組合で働きたい生徒、製材工場に興味のある生徒など。あげればキリがありませんが、林業と一口に言っても世界が広がるような分野もある。魅力的だなと感じながら働き続けられるような物の考え方・捉え方をできるようになってもらいたいですね。そのために授業の工夫もしています。ただ講師から教えるだけでなく、なるべく生徒が主体となって考えるような授業や対話をしながら答えを出していく授業、少人数でグループワークをやるなど詰め込むだけじゃない授業も計画していますよ」

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まだまだ北森カレッジは始まったばかり。
教務課の先生達も試行錯誤しながらその時考えうる最善の授業を行っています。
新型コロナウィルスの影響で入学式すら行わずにいきなり授業に入らざるを得なかったのだとか。
「生徒たちはお互いの素性も知らずに授業がスタートしたのですが、この前パワーポイントを使いながら自己紹介をする、という情報処理の授業を行いました。これが生徒たちには大好評でした。18歳から40代まで本当にバラエティ豊かな経歴をもった仲間だったんだ!とみんな目を輝かせながら聞いていましたね。みんな林業に想いがあって集まったメンバーですので共通の趣味などもありました。おそらくこれから就職をしたあとには、みんな現場現場で担い手不足だと言われるでしょう。ここを卒業した生徒には一作業員として活躍するだけでなく、将来企業の中核を担うような人材になり、地域で就職したからには林業を通じて地域を盛り上げられる人になって欲しいなと思っています」

まさにくらしごと!
いつか近い将来、林業をツールに北海道の地域に根ざし、そのまちを盛り立てていく北森カレッジ卒業生が誕生することでしょう。
北森カレッジが蒔いた小さな種がいつか大きな木となり森となる。そんな成長を見せてくれることを願っています。

北海道立北の森づくり専門学院
北海道立北の森づくり専門学院
住所

北海道旭川市西神楽1線10号

電話

0166-75-6161(代表)
0166-75-6163(教務課)

URL

http://www.pref.hokkaido.lg.jp/sr/kms/index.htm


生徒への期待を胸に、羽ばたく時まで全力で支える道職員たち

この記事は2020年6月23日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。