今年度始動した「森の魅力発信し隊」!
若手林業・木材産業従事者を中心とした仲間が集い、日々情報交換をして盛り上がっています。
そんな「森の魅力発信し隊」のメンバーについて、ご紹介する記事の第3弾です!
今回ご紹介する方は、鶴居村森林組合の藤林諒さん。2019年の春に、転職で林業の世界に入った29歳。組合期待の人材です。「森の魅力発信し隊」でも元気に活躍してくれている藤林さんに会いに、道東の鶴居村に向かいました。
海から山へ
鶴居村森林組合は村内の一般民有林23,000haの管理を担当しています。参事の門間孝厳さんに案内していただいて、藤林さんが作業する20年生カラマツの間伐現場へ。
トラクターから降りてきた藤林さんへの門間さんの第一声は、「サンマすごいなー」。藤林さんも「びっくりですね!」と返しています。その日はちょうど、道東・厚岸町の港でサンマの初水揚げがあり、1キロ当たり2万8,000円の超高値がついた日だったのです。そんな日だとはいえ、いきなり森の中でのこの会話、ちょっと変だと思いませんか? 実はこれには、藤林さんのキャリアが関係していたのでした。
森の中でサンマの話題!
藤林さんの前職は、その日サンマが揚った道東厚岸町の漁協職員。なんと、海の仕事から山の仕事へ転身された方だったのです!
生まれも育ちも厚岸町の藤林さんは、江別の大学を卒業後、厚岸漁協に就職しました。その直営店の販売で3年、市場で2年勤務。その後、鶴居村森林組合の求人を見つけて応募したという経緯です。そういった事情があって、古巣の職場関係の話題だったのです。
海から山への転職という、興味深い転身について伺いました。
「漁協の仕事はちょっと合わないな、と思っていました。でも、事務職への転職というのは嫌だなと思って、自然の中で働ける仕事を探していました。そして、林業ってのもいいなと思ったんです」
四季を体で感じられる仕事がしたかったのです。
林業の仕事を調べ始めた藤林さん。すると、様々な情報が入ってきます。
「きついとか、汚いとか、3Kとか出てきて(笑)。でも漁協も一次産業で一緒ですよ。それより事務職で部屋の中で仕事をしたら、四季を体で感じられない。それが嫌なんです。それで、実際に森林組合に電話して現場まで見学に行って、色々と話を聞いて、これは本当にいいなと思ったんです。実際に冬も働いて大丈夫でした」
鶴居村森林組合で採用も担当している門間さんは、この仕事に興味のある人には、とにかくまず現場をみてもらって話がしたいと強調します。
「藤林は最初に現場見学に来た時から少し違ってました。組合の経営が安定しているからとかだけではなくて、現場をちゃんと見てましたからね」と門間さん。
鶴居村の魅力も大きい
鶴居村は釧路市の北西に位置し、釧路空港から車で約30分、釧路市の中心部までは40分というロケーション。その名に冠する特別天然記念物のタンチョウの生息地、そして、国立公園の釧路湿原を抱える、自然豊かな鶴居村。景観の美しさも有名で、美しい農山村の景観・文化を守る「日本で最も美しい村」連合に参加しています。
鶴居村はフランス発祥の「日本で最も美しい村」連合に加盟しているのです。
藤林さんは、鶴居村自体の魅力も存分に感じているようです。
「仕事も大切ですけど、住む場所もすごく大切だと思います。組合への就職は、鶴居村に移住することが条件なんですけど、前もって村のことを調べて好印象を持ってました。特に子育て環境とかですね」
現在29歳で、奥さんと子供ふたりの4人家族の藤林さん。2人目のお子さんは鶴居村に移住してから生まれました。鶴居村では出産時祝金が第1子10万円、第2子20万円、第3子以降30万円が支給されます。さらに高校生までの医療費助成(無料)など、子育て支援の施策も充実していて、藤林さんはそういったところもとても気に入っているそうです。
鶴居村の魅力を語ってくれました。
もちろん、鶴居村の美しく豊かな自然環境についても「休日は家族でキレイな川で遊んだり、近辺をドライブしたり、自然を満喫してます。ただ、ドライブしている最中に、森の木のことばかりが気にかかって、そのことばかり話すので、家族からしつこいって言われてます(笑)」
そして、「村の人たちがとても温かいんです。散歩に出ると、村の人がみんな声かけてくれる。嬉しいです。とてもいいですよね」と話します。
鶴居村の人口は、約2,500人。藤林さん一家は、その中の貴重な「4人」としてしっかり鶴居村に溶け込んでいるようです。
林業という仕事
さて、異業種から転職した藤林さんにとって、実際に2シーズン目に入っている林業の仕事はどうだったのでしょうか。
最初は山の中を歩くだけでもキツかったのです。
「入って最初にやった仕事が枝打ちなんですけど、その時びっくりしたことがありました。現場まで車で行ってから急な山をかなり歩くんですけど、みんなについていけなくて置いていかれるんですよ。体力には結構自信があったんですけどね・・・。想像していた以上にきつい仕事だと思いました。でも働いていると体は慣れてきましたよ。実は仕事を始めてから10キロ痩せたんです。まあ、最初ちょっと太ってもいたんですけど(笑)」
いきなり体力の壁にぶつかりつつも、すでにそこは乗り越えたようです。
「それから植え付けやって下刈り。すべて、まずは現場で上司に教えてもらっていました。その後、緑の雇用の『フォレストワーカー研修』に行かせてもらって、林業作業の基本的なところを学び、チェーンソーの資格も取りました」
チェーンソーはこまめな整備が必要なのです。
初めてチェーンソーで木を伐った時のことを尋ねると、「30年生ぐらいの木だったと思いますが、快感に近い気持ちよさを感じました。でも、チェーンソーの目立ては難しかったです。歯が丸くなっちゃって伐れないんですよ。最初の頃は伐る本数のノルマに全然届かなかったですね。その後、かかり木とか、木が跳ねたりとか、ひやっとすることも経験して、注意しなきゃいけないこともわかってきました」
今は間伐現場でトラクターに乗って、作業することもあるそうです。ちょうど取材の際は、伐倒したカラマツをウインチで作業道に引き出し、グラップルでつかんで集材しているところを見学させてもらいました。
林業用トラクターにグラップルを取り付けて集材します。
上司である門間さんに聞くと、「機械操作のセンスはいいですね」とお褒めの言葉が!
鶴居村森林組合の施業は、このウインチ付きトラクターによる作業システムです。藤林さんは、すでに組合のメイン作業を担当できる存在となっていたのでした。
若手林業者たちと繋がりたい。
「森の魅力発信し隊」に入ったきっかけは、インターンシップでやってきていた北の森づくり専門学院の生徒から教えてもらったことだったそうです。
「面白そうだなと思いました。林業界の若手と交流したいと思ってましたので」
その思いそのベースにあるのは、林業全体に関する問題意識です。
「この世界に入ってから調べていて分かったんです。木材価格が低下しているとか、日本は山は多いのに整備する人がいないとか、うちの組合は若いんですけど、林業界では高齢化が進んでるとか」
前向きに林業の未来を考えています。
そして、林業関連の情報をもっと知りたいと藤林さん。
「普通に仕事しているとここの仕事の範囲でしかわからない。例えば木の食害の件で、うちはエゾシカの被害なんですけど、あるところではウサギの被害が大きいとか聞いて、自分のところだけではわからないことがたくさんあるなと思いました」
実際に参加してみての感想を尋ねると、「いろんな情報をもらえてありがたいです。特に厚真の丹羽さん(丹羽林業)とか、和寒の佐藤さん(和寒森林組合)とか、オンラインで話したんですが、自分よりキャリアも長いので知識も凄いし、教えて欲しいことを聞けばすぐ返ってきます。ありがたいです。みんなと会って話がしたいですね」と答えてくれました。
これからの活動や目標についても聞いてみました。
「例えば六次産業化についてみんなでアイディアを出し合って商品化したりとか、いいですよね。他の地域でもやっているように、活発にものづくりをするのがいいなと思ってます」
「森の魅力発信し隊」のネットワークを、最大限に利用して頑張って欲しいです!
林業の魅力、鶴居村森林組合の魅力
「林業は体力のいるきつい仕事ですけど、やっていけそうな感覚はつかんでますし、仕事に魅力を感じてます。うちの組合の『将来の木施業』はムチャクチャいいと思ってます。自然環境に優しい施業なんです。将来に向けて残す木を決めて、その木をより成長させるために競争木を伐るんです。そして、普通だったら重機を入れるようなところにも入れないで、山を傷つけないやり方で間伐していきます」
「将来の木」のために、競争木を選んで伐るのです。
鶴居村森林組合では、「長伐期・大径木生産」と「長期的に安定した森林経営」を目指すことを基本方針として「将来の木施業」を推進しています。ドイツ・オーストリアを中心に導入されている、「目標直径」を定めて「優良木=将来の木」を集中的に成長させる施業方法です。
※『将来の木施業」の詳細はこちらをご覧ください。
「将来の木施業」では、路網(作業道)づくりも大きなポイントです。
「『将来の木施業』は作業的に大変なんですけど、山の環境にとってとてもいいし、SDGsなんかの時代の流れにも合ってると思っています」
「SDGs=持続可能な開発目標」という重要なキーワードが登場しました! 『将来の木施業』は、持続可能な林業を目指していることが大きなポイントです。藤林さんの根底には、未来に向かっての「持続可能」という考え方があるのですね。聞くと漁協にいた時からその発想はあったそう。
「厚岸漁協はサンマ・サケ・マスが中心ですが、あまり獲れない状況が続いてますよね。それでも獲りに行かなきゃいけない。そういう矛盾したところに自分自身に葛藤があって・・・」
持続可能ではないような状況に苦しさを感じていた藤林さんにとって、『将来の木施業』は、そんな葛藤からの突破口だったわけです。
釧路湿原の傍で山づくりをする人ならではの、こんな言葉でも表現してくれました。
「山が完成した時に光が入りやすくなって、植生も守られて水土保全につながっていきます。そして、山を守るってことは人の生活を守るということだと思います」
門間さんは厳しいけれど、すごい人と話す藤林さん。
門間さんもそんな藤林さんを評価しています。
「ヤンチャですけどね(笑)。色々と考えてますね。勉強熱心で、吸収が早いです。『将来の木施業』についても理解しようとする姿勢がいいです。それを周りに広げていってもらいたいですね」
最後に藤林さんの林業という仕事に対する姿勢を表す言葉をご紹介しておきます。
「色々と考えてないとつまらないんですよ。この仕事は、自分で考えておもしろみを見出せる、とても深い仕事だと思ってます」
話を伺っているだけで、こちらも元気になってくるようなパワーを感じさせる藤林さんでした!
- 鶴居村森林組 藤林諒さん
- 住所
北海道阿寒郡鶴居村字雪裡原野北15線西9番8
- 電話
0154-64-2422
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