今年度始動した「森の魅力発信し隊」!
若手林業・木材産業従事者を中心とした仲間が集い、日々情報交換をして盛り上がっています。
そんな「森の魅力発信し隊」のメンバーについて、ご紹介する記事の第2弾です!
「林業」。その言葉からイメージされるのは、1人でチェーンソーを持ち、はたまた重機を操って、黙々と木々に向き合うような姿かもしれません。でも、そんな先入観を爽やかに打ち砕いてくれるような出会いが、旭川から稚内方面に約40キロの、和寒町にありました。
北海道の森林は総面積の7割を占め、戦後に植林された豊富な針葉樹などが、伐採に適した時期を迎えていると言われます。その木々を「材」として有効に活用するために、山の所有者と、造林会社・製材会社など林業の現場とをつなぐエキスパートがいます。その1人が、和寒町森林組合の利用係長を務める佐藤大樹さんです。
くらしごとが訪ねたのは、北海道とは思えない真夏日が続いた2021年7月下旬。オフロードが似合う、砂ぼこりのついた四駆のSUVで佐藤さんが、現場を案内してくれました。
和寒町はカボチャや越冬キャベツ、キノコの産地としても知られています。
山でも笑顔を絶やさない。トークはフランクに
現場に到着すると、そこは辺り一面カラマツや白樺が切り倒されており、搬出を待っていました。一斉に伐採する「皆伐」で視界が開け田畑や道央自動車道を見下ろせます。やがて整地が終わると、育林の作業に進み、新たな森としての歩みを始めることになります。ヘルメットに長靴姿がなじんだ佐藤さんは、真っ黒に肌を焼いた、造林会社のベテラン作業員と話をしていました。
作業員:「大変なんだわ」
佐藤さん:「そうっすね」
作業員:「あそこから機械入れるようにして...」
佐藤さん:「うん。このままじゃ積めないかな?」
その会話は専門的で、詳しい中身までは分かりませんでしたが、不思議というか、新鮮なやり取りでした。決して馴れ馴れしくないのに、上下関係を感じさせず、お互いに信頼しているからこそのフランクな会話が交わされていました。山の中で標高が高いからか、太陽が近くに感じられます。佐藤さんは強い日差しに汗を流しながらも、ヘルメットの下からおしゃれに流した髪をのぞかせ、絶やさない笑顔に爽やかさを漂わせていました。
森の現場になじんでいるように見える佐藤さん。てっきりこの業界が長いのかと思いきや、経歴は意外なものでした。町役場にある森林組合で、話を伺いました。
作業状況などの確認でも、定期的に現場を訪れるという佐藤さん。
料理人、美容営業を経て入った林業の世界
ご両親は転勤族で、子どもの頃は道内さまざまな地域で過ごした佐藤さん。和寒町には小学4年~中学1年の時にだけ住んでいたといいますが、2014年、不思議な巡り合わせで和寒へUターンすることになりました。
和寒町のすぐ隣、士別市にある高校を卒業後に札幌に出て、料理の専門学校で学びました。社会人になってからは神奈川県の和食料理店で働きました。未明まで勤務する日々の中で、「昼にスーツを着るような仕事をしてみたい」と思い立ち、美容院などに専門商材を売る会社に転職。転勤で北海道に戻り、札幌を拠点に動き回っていました。
「営業なんで数字目標があって、めちゃくちゃ苦しくて、体に無理がきちゃいました」と当時を振り返る佐藤さん。美容営業の仕事を辞め、ちょうどご両親が和寒で再び暮らしていた時に和寒に戻り、身を寄せることにしました。「札幌にいたらお金がかかる。じゃあ親のすねをかじるか、って考えたんです」と笑って振り返ります。
改めてご紹介します。こちらが佐藤大樹さんです。
アルバイトをしつつ、仕事に追われない生活を続けていたところ、和寒町森林組合から求人が出ていることに気づき、応募。林業の知識や経験はありませんでしたが、自然は好きで、次に就くのは事務職と考えていたのもあって、迷いはありませんでした。
「この仕事はこういうもの」というイメージをあえて持たず、余計な力を抜いて進むのが佐藤さんのスタイル。これまでも、しなやかに2つの業界を渡り歩いただけあって、「不安はあまりなかったですね」と言い切ります。
ただ1年目は慣れない業務に苦労したそうです。組合員の出資で成り立つ組織は初経験で、一年間の仕事のスケジュール感がつかめませんでした。年次総会の資料づくりや、複雑で独特な補助金申請に悪戦苦闘し、毎日夜まで事務所で作業し必死に吸収しました。それでも、飲食時代に日々直面した、ピーク帯の目の回るような忙しさや、数字をひたすら追っていた苦しい営業の経験が、踏ん張る時の支えになったといいます。もちろん、森林組合の仕事も充実し忙しいものですが、時間をかけて人をつなぎ、山に向き合うので、忙しさの「質」は違ったものになっているようです。
目指すは「ウィンウィン」。関わった人を幸せに
森林組合の「利用係」として、資産である町内の山をどう活用していくのか―。経験を積むうちに、徐々に仕事の輪郭がはっきりしていきました。7年目の今は、どんな仕事だと捉えているのか聞いてみると、次のように教えてくれました。
①市況を参考に、現場を調べ、山に価値をつける
②伐採や、その後の育林にかかる費用を見積もる
③森林整備の計画をまとめ、全体の事業費をはじく
④所有者に木々の値段や、費用を引いて手元に残る額を提示する
⑤現場では作業の指示や進行管理といった監督をする
人にも山にも接する、多岐に渡る仕事です。
こちらは皆伐した後の、地ごしらえ(次の植栽に備え山を整理する作業)の現場です。
山の所有者に提案する、そして木材を製材工場など販売するといった意味では営業と言えますが、「まずは僕たちが山を買わせてもらいます。プレッシャーの中、お金をもらって何かを売るのとは違います。その意味では気持ちは楽ですね」と気負いはありません。これまでいくつもの事業で、所有者から「こんなにお金になるとは思っていなかった」という声を掛けられたといいます。
「山を持っていてもどうしていいか見当もつかず、価値が分からない方は多いですね」
だからこそ、山主と事業体をつなげる役割が必要とされています。
その価値を高め、効率性を考えて、実入りを増やすための努力も欠かしません。
例えば、まずは情報収集。製材工場などに売る樹種や時期を先読みすることで、事業としての収支を良いものにします。
仕事を通じて知り合った、道外の合板工場の関係者らに直接連絡することで、木材の市況をつかみます。新型コロナウイルスの世界的なまん延で、木材が不足して高騰する「ウッドショック」が大きな話題になりました。その余波で、道産材にも全国から注目が集まっていますが、佐藤さんは「ウッドショックで和寒の周辺ではトドマツの単価が上がってくはずです。便乗して、カラマツも上がると思います」と予想します。(※取材日は2021年7月26日)
次に、待つこと。和寒周辺は一般的な伐期を迎えている山が多いと言いますが、焦りは禁物のようです。木にとって一番良いタイミングを見極めます。
「適した樹齢はカラマツなら実質40年と言われていますが、もうちょっと成長の余地があるので、50~60年で切れるよう調整することもありますね」
そして、無駄をなくすこと。現場は規模が小さくなるほど、事業費全体に占めるコストの割合が高くなってしまうため、複数の候補地をまとめて森林整備ができるように、所有者の確認や交渉に当たります。
「ある程度大きな仕事にしたほうが、所有者さんにもお金を返せるし、下請けの業者さんにも苦しい思いをさせずにすみます。関わった人を幸せにできた方がいいですからね」
目指すのは、ウィンウィンの関係です。
普段は事務所での作業がメインの佐藤さん。
若者同士のつながりで、林業を未来へ
一方で、林業の現場に携わったことで、多くの課題も見えてきました。「業界全体として、造林など現場の業者さんが足りていません。若い人が入ってこず、経験豊富な人ばかりになって、新陳代謝ができていません」と指摘します。数十年と長いスパンで森を育てるからこそ、若い人材を長い目で育てることが欠かせませんが、北海道での林業・木材産業従事者のうち、若年層は3割に満たない状況。新規の就業や、定着が課題になっています。
その深刻な担い手不足の問題を肌で感じているからこそ、佐藤さんは立場や組織の垣根を超えて悩みを共有したり、相談したり、情報を交換したりするネットワークに参加しています。所属する組織だけでは解決できない、担い手不足や事務作業のスリム化を訴えていく場としても捉えています。
上川総合振興局と連携して立ち上げた「上川林業ワカモノ会議」や、道水産林務部林業木材課が事務局の「森の魅力発信し隊」でも積極的に活動しています。コロナ禍で、一カ所に集まる催しが難しいため、オンラインで交流したり、SNSで気軽に意見を交わしたりしています。「森の魅力発信し隊」ではある時、白樺の樹皮を集めて販売することが話題になりました。
「製材工場で捨てるだけだったものが売れるといいなと思いました。樹皮がお金になると思っていなかったので、視野が広がった印象です」と佐藤さん。
樹皮細工などクラフトの作り手の間では、樹皮は引っ張りだこです。林業はすそ野が広いからこそ、つながることで可能性が大きくなります。
佐藤さんの普段の仕事としては、切った材を工場に出荷してメドがつきます。ただ、若者同士のネットワークがあることで、「その先」の人とも交流できるかもしれません。「川上から川下まで、いろいろな人とつながれます。例えば自分たちの出したカラマツがどんな最終製品になるのかを知れたら、うれしいですね」と期待を膨らませます。
和寒町内の20代から慕われている佐藤さん。自宅をみんなで集まれるような場にして、若手から相談を受けることもあるといいます。そんな頼れる存在だからなのか、「上川林業ワカモノ会議」では会長を引き受けています。
「林業の事業体では、『組織の若手が自分しかいない』というケースも多いと思います。ただでさえ若者が少ない業界で、せっかくできたつながり。絶やしたくありません」と熱く語ります。
「森の魅力発信し隊」でも気さくにメンバーとコミュニケーションを取るリーダー的存在です。
これだけの思いがある佐藤さんを突き動かすものとは―。林業に携わる魅力や、可能性を聞いてみると、こんな答えが返ってきました。
「山はサイクルしていく資産で、なくなるものではないのが面白いです。その資産価値に気づいていない人が多いのは、ビジネスとしてもチャンスがあると思います」
なるほど、と視界が開けた気分になりました。
人の一生に匹敵するほどの長い時間をかけて育まれ、何世代にもわたって人間に恵みをもたらす森。そして、それを生かす林業という世界。「若者よ、来たれ!」と願わずにはいられませんが、未来ある若者同士もつないでいく佐藤さんの目は、頼もしい兄貴のようです。
- 和寒町森林組合 佐藤大樹さん
- 住所
北海道上川郡和寒町西町120番地(和寒町役場内)
- 電話
0165-32-4115