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学校と学生の取り組み
標津町

『レディ魚ー×くらしごと 漁村体験記』第10弾 標津 波心会20241225

『レディ魚ー×くらしごと 漁村体験記』第10弾 標津 波心会

皆さんこんにちは!
「水産の未来を考える若者を増やす!」をモットーに活動する学生団体 レディ魚ーです!
レディ魚ーが取り組む漁村訪問の活動では、実際の水産現場を訪れて自らの体で漁を体験し、第一線で活躍されている漁師さんのお話を伺うことで参加メンバーにとって水産に関わるきっかけを創り、大学での学びをさらに深めることを目指しています。
今回はレディ魚ー代表の中野伸哉(なかのしんや)と漁村訪問担当の船橋河輝(ふなはしこうき)が、12月の漁村訪問の様子をご紹介させていただきます!

redexigo_hassinnkai00003.jpg記事の前半を書かせていただくふなっしーこと船橋河輝です!よろしくお願いします!

redexigo_hassinnkai00010.jpg記事の後半を書かせていただく中野伸哉です!よろしくお願いします!

今回の漁村訪問では、中野、船橋、相良の3人のメンバーが、道東・標津(しべつ)町で様々な画期的な取り組みをされている漁師組織「波心会(はっしんかい)」のもとを2日に渡って訪ねさせていただきました。「波心会」ではなんと私たちレディ魚ーの創設者 北浦優翔さんと、元副代表の松岡直哉さんが大学を休学して漁師として活動されています!海への想いが詰まった「波心会」の理念や、新しく始動した漁師の枠にとどまらない驚きの取り組み、レディ魚ーから羽ばたかれた先輩方の今について迫りましたので、是非最後まで読んでいただけると嬉しいです!

以前に取材した波心会さんの記事「標津から全国へハッシン!進化し続ける新時代の漁師たち」はこちら!

redexigo_hassinnkai00012.jpg波心会のエンブレム。波心会の「心」の字がデザインに組み込まれており、心で海と魚を人につなげたいという願いが込められています

標津町ってどんなところ?

所在:根室振興局
人口:5,243人(平成27年)
特産物:サケ、乳製品
観光名所:標津サーモン科学館、天空への道

知床半島と野付半島のつけ根に位置し、根室海峡を挟み国後島にほど近い標津町は、かつて長年にわたり日本一の秋鮭漁獲量を記録していたことから「鮭のまち」として知られています。根室海峡での鮭漁の歴史は古く文化的にも重要で、サケ科魚類展示数が日本一の標津サーモン科学館など観光でもサケは大活躍です。また標津町は「日本一気風がいい町」をモットーに、町民にサケ一本やホタテ2kgなどを無料配布するといった大盤振る舞いをしているそうです。とても羨ましいですね!

標津から海と魚を人につなげたい!漁師グループ 波心会とは?

魚価が暴落し標津の漁業が苦境に陥っている中、一匹一匹の魚に付加価値をつける6次産業化(生産者自ら加工・販売を行うこと)に取り組むべく、今から6年前に結成された「波心会」。ともに漁師の、代表の林強徳さんと浅野将太さんがお互いに1万円を出し合い始まったという波心会は、海と向き合いその恵みに感謝し、命をいただく限りどんな魚でも一匹たりとも無駄にしないという理念を貫き、独自商品の開発や未利用魚の活用、さらにはゲストハウスの運営を手がけるまでに活動の幅を広げています。現在は漁師の久保田慶範さん、代表 林さんの奥様 林佑妃さんが加わり4人でご活躍されていらっしゃいます。

redexigo_hassinnkai00018.jpg代表の林強徳さん

しかし、「あくまで主役は魚。自分たちは裏で汗水垂らして魚を獲り、その良さを最大限に引き出すのが仕事。自分たちがキラキラする必要はない」と熱く語るのは代表の林さん。魚へのこだわりは尋常ではなく、魚一匹ごとに神経締めや血抜きなど最善の方法で手当を施す「〆師」としても高い評価を得ています。
この記事を通じて波心会の取り組みの一部や理念についてご紹介させていただきます!

redexigo_hassinnkai00015.jpg波心会の浅野将太さん(右)と久保田慶範さん(左)

緊迫する船上!極寒の底建網漁を体感!

訪問初日の早朝、波心会の底建網漁に同行させていただきました。底建網漁とは海底に設置された定置網のようなもので、海底付近に多くいるスケトウダラやコマイなどを狙う漁法です。
この日は網を設置してから今季初めての網上げ(網を寄せて魚を回収する作業)だったこともあり、漁場に着くと船上は緊迫感に包まれます。海では少しのミスが命取り。大きな声が飛び交う中、波心会メンバーによる見事な連携で無事に網が上げられていきました。

redexigo_hassinnkai00008.jpg底建網の網上げの様子。うまく安全に上げるためには全員の連携が不可欠です。

凍てつくような寒さが支配する船上に水揚げされたのは、大量のコマイとカジカ。コマイは市場へ出荷されていくのに対して、カジカは市場では値段がつかずに未利用魚になってしまっている現状があります。波心会は、従来捨てられてしまっていたカジカを無駄にせず、活用する取り組みも展開されていますので後ほど紹介させていただきます!

redexigo_hassinnkai00020.jpg水揚げされたコマイ。「カンカイ」とも呼ばれている北海道の冬を代表する魚の一つです!

一匹一匹を最高の状態で提供!波心会こだわりの加工を見学

帰港後は作業場で暖をとり、漁を振り返り団欒の時間を過ごすとすぐに、波心会によるこだわり抜かれた加工が始まります。
加工場に運び込まれたコマイは、代表の林さんが「冬の標津の食べ物で一番おいしい」と胸を張る、自家製一夜干しに加工されていきます。コマイは氷に漬け込み徹底的に温度管理が施され、波心会メンバー全員による華麗な流れ作業で丁寧に頭・内臓・血合いが取り除かれていきます。氷で冷やしこむことで焼き上げた時にふっくらとした食感となり、またあえて旨味のもとになる血合いを少し残すことで美味しい一夜干しとなるそうです。私たちも少しだけ作業を体験させていただきましたが、作業の随所に波心会独自の魚種ごとに考え抜かれた工夫が感じられました。

私たちも完成したコマイの一夜干しを食べさせていただきましたが、コマイとは思えないほどフワフワな食感で塩加減も最高でした!このように波心会は標津で獲れるその時々の旬の魚が最大限にそれぞれのポテンシャルを発揮できるように、魚一匹一匹に手間暇をかけた最適な加工を施すことで付加価値をつけることを可能としています。
「魚の命を奪うのだから、俺たちには最大限キラキラさせる責任がある」と林さん。波心会の魚が輝く裏には、魚への熱い想いがありました。

redexigo_hassinnkai00006.jpg焼いていただいたコマイの一夜干し。コマイとは思えないほど絶品でした!

捨てられていた「カジカ」を食卓に!一つの命も無駄にしない取り組みとは?

この日の漁でも大量に獲れたカジカは、鍋にするとその美味しさのあまり箸で激しくつつかれ、鍋が壊れてしまうことから「なべこわし」と呼ばれるほどのポテンシャルを持つ魚です。しかし鮮度落ちが非常に早く、胃に内容物が残っていると匂いが身に移ってしまうなど流通させるのが難しいため市場に出しても値がつかず、獲れても捨てられてしまう、いわゆる「未利用魚」となってしまっていた現状があります。価値ある命を無駄にしないように、カジカを輝かせ食卓にあげるために精力的な波心会。企業と連携したカジカ出汁の素や商品開発、東京の一流レストランとのコラボなどその取り組みは多岐にわたっています。

redexigo_hassinnkai00009.jpg水揚げされた大量のカジカ。これが全て捨てられているなんて信じられないですよね...

今回はレストランへ卸すカジカの加工を見せていただきました。一匹ずつ丁寧にエラと内臓を取り、血合いも特殊な器具を使い残さず取り除いていきます。「未利用には未利用な理由がある。だからそこに手を加えてちゃんとカジカも食卓に上がるようにするのが俺たちの努め」と一匹一匹に愛情を込めて扱う林さん。内臓や血合いを完璧に取り終えた後、カジカを丁寧にペーパーで拭き水気を取ってから梱包していきます。高級魚であってもこれ程までに手をかけられている様子を見ることはほとんどなく、衝撃を受けたとともに、波心会の魚への強い愛を感じました。(文:船橋河輝)

redexigo_hassinnkai00007.jpgカジカ一匹一匹に丁寧な下処理を施す林さん。できるだけ魚に触れず素早く扱うことが品質を保つために重要で、高い技術が求められます。

redexigo_hassinnkai00004.jpgカジカを丁寧にペーパーで拭き水気を取っていきます。レディ魚ー現代表 中野(左)と前代表 北浦さん(右)のツーショット!

漁師がつくるゲストハウス⁈ 海と人、魚と人、人と人がつながる「潮目」とは?

 私たちは今回、波心会さんが運営されている「ゲストハウス潮目」という場所に宿泊させていただきました。ゲストハウス潮目は古民家を改装し、海と人、魚と人、人と人が繋がれる場所として今年2024年8月8日オープンしました。リフォームには、波心会の皆さんを中心に、訪れた旅人や学生、地元の産業の方、魚屋さんなど100人以上の様々な方が関わり完成したそうです。今まで訪れた人の写真も張られており、ゲストハウス潮目の人とのご縁を大切にされる理念が垣間見えます。
加工場での作業を終えた私たちは潮目に移動し、食事を頂きました。

redexigo_hassinnkai00005.jpg潮目のリビング 宿泊者で集まって食事や団欒、水産、魚の未来の話などが交わされます。

波心会に集う熱い若人たち

ホタテやタコマンマ(卵巣)等、標津で獲れた海産物を囲み、現在波心会で漁師として働いていらっしゃる北浦優翔さん、松岡直哉さん、宇井ひかるさんと様々なお話をしました。
北浦さん、松岡さんは、昨年度レディ魚―の代表、副代表として私たちを引っ張ってくれていました。今年4月より1年大学を休学して、現在は波心会で漁師としてご活躍されています。常に命のやり取りである漁師の仕事は、つらいことも多いと言います。「早く仕事を覚えて一人前の漁師になりたい」、そう前を向いて頑張っているお二人の目は、本当にかっこよく輝いて見えました。お二人は来年大学に戻られ卒業した後、標津に戻られ漁師として働かれるそうです。

宇井ヒカルさんは今年の11月、前職の方の紹介により林さんと出会い、広く強い背中についていきたいと思い斜里町より引っ越してこられたそうです。「まさか自分が漁師になるなんて、本当に何があるかわからない」、そうおっしゃられながら、漁師になることへの決意は強く燃えているように感じました。

実は3人は、次代を創る「チーム波心海」のメンバーとしても活躍されています。
「チーム波心海」とは、それぞれの分野に特化し、波心会の理念に共感したメンバーが、これからの標津町の、ひいては日本の水産を作り上げることを目的に今年発足した団体です。その皆さんに改めて、「将来したいことや、夢はありますか?」と尋ねてみると

北浦さん
「来年大学に戻ったら大学と水産の現場が連携できるように動く。大学卒業後は標津に戻って漁師として頑張る。水産を変える」

松岡さん
「将来ものづくりをしたい。生き物、自然を取り入れたものづくり。そのために漁師。波心会の漁師として一人前になって自然を見る目を作りたい」

redexigo_hassinnkai00014.jpg標津の海と宇井ひかるさん

宇井さん
「日本一の女性漁師になる!そして、結婚して子供と自分の船の先でタイタニックのあの名シーンのように立ちたいな~」

と、それぞれのこたえが。
皆さん抱いている想いはそれぞれ違っていますが、波心会でしか得られないものを求める強い信念が熱く強く伝わってきました。

このような将来の話や、水産の話、私たちの相談等にものっていただき、ゲストハウス潮目の明かりは夜中まで消えませんでした。(文:中野伸哉)

今回の漁村訪問を振り返って

今回は、波心会が持つ海と魚への並々ならぬ想いと、標津から水産を動かすという強い推進力に圧倒された漁村訪問でした。波心会は「海と魚を人とつなげたい」というシンプルな理念のもとで活動されていますが、その言葉が持つ意味は限りなく深く、自分自身は目立たなくていいからと地道な労力を惜しまず、とにかく魚を輝かせることに重きを置き、海を舞台に人と人が関わり合い成長していく場を提供し続ける波心会の一貫した熱意のこもった取り組みに、強く共感させられました。
今後の波心会の活動がさらに次はどのように水産に新しい風を吹き込んでいくのか気になりますが、私たちも今回学び、感じたことを活かしていきたいです!

redexigo_hassinnkai00013.jpg暖炉を囲み波心会のみなさんと談笑する一幕。

波心会のみなさんにはお忙しい中訪問を受け入れていただき、大変お世話になりました。
またチーム波心海の北浦さん、松岡さん、宇井さんには夜遅くまで潮目でお話を聞かせてくださりありがとうございました。私たちレディ魚ーとして、そして個人としても成長に繋がる訪問だったと感じています。
これからも頑張って参りますので、よろしくお願いいたします。

それでは次回の漁村訪問もお楽しみに!

移動式鮮魚店レディ魚ー×くらしごと
住所

札幌市北区北20条西5丁目2-50(レディ魚ー事務局)

URL

https://www.instagram.com/ready_5500/


『レディ魚ー×くらしごと 漁村体験記』第10弾 標津 波心会

この記事は2024年12月18日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。