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『レディ魚ー×くらしごと 漁村体験記』第四弾 常呂・佐呂間20240626

『レディ魚ー×くらしごと 漁村体験記』第四弾 常呂・佐呂間

皆さんこんにちは!レディ魚― 漁村訪問担当の船橋河輝、改めふなっしーです!(北海道大学水産学部海洋生物科学科2年)。
今回レディ魚―メンバー3人(しんや、しずき、ふなっしー)で、5月下旬の3日間、ホタテの稚貝放流でにぎわう北見市常呂地区(旧常呂町)と佐呂間町を訪問しました。常呂では、魚食普及や高付加価値化、持続的な社会づくりを目指して活動していらっしゃる漁師集団「マスコスモ」さんの元を、佐呂間町ではホタテ漁を営んでいらっしゃる、レディ魚―メンバー ヨコミクのご実家にお世話になりました。様々なお話を伺い、実際にホタテ漁も体験してその熱気も味わってきましたので報告させていただきます!

redigo_tokoro00002.jpeg今回も記事を書かせていただくふなっしーです!よろしくお願いします!友達にムーディーな写真を撮ってもらいました!

常呂・佐呂間ってこんな町‼

『基本情報』
所在:北海道オホーツク総合振興局管内
人口:北見市常呂地区-3377人(令和6年5月31日時点)
佐呂間町-4664人(令和6年5月31日時点)
特産品:ホタテ、カキ
観光名所:サロマ湖展望台、サロマ湖遊歩道(佐呂間町)、 アドヴィックス常呂 カーリングホール、ワッカ原生花園(北見市常呂)

redigo_tokoro00003.jpegサロマ湖展望台から夕日を眺めるしんや(左)としずき(左)。地図帳で見ていた潟湖 サロマ湖の全貌を目の当たり感動しました!

北見市常呂地区(旧常呂町)と佐呂間町はオホーツク海沿岸に位置し、美しいサロマ湖を共有する町です。サロマ湖は日本で3番目に大きい湖として知られ、細長い砂州に囲まれ一部がオホーツク海につながっている独特な地形と豊かな自然が魅力であり、漁業資源、観光資源ともに恵まれています。
かつては砂州によりほとんど完全にオホーツク海と隔てられていたサロマ湖ですが、現在は海と湖をつなぐ、「セト」と呼ばれる湖口が人工的に2カ所設けられています。この「セト」を通じて海水が湖内に流れ込むことで、湖の塩分濃度が適度に維持されホタテやカキの養殖が可能となり、オホーツク海の恵まれた栄養分により豊かな生態系が育まれています。
この豊かなサロマ湖では何といってもホタテ養殖が盛んで、オホーツク海の恵みをたっぷりと吸収し甘みの強いホタテは全国的に有名で、地域経済を担っています。

redigo_tokoro00004.jpegサロマ湖産のホタテの稚貝。この大きさでもしっかりと甘みがありおいしいです!

今回の訪問で学びたいこと

今回の漁村訪問では主に学びたいことが大きく次の2つ。

1.「オイシイ。でツナガリタイ。」がモットー マスコスモさんの活動を学びたい!
北見市常呂で「オイシイ。でツナガリタイ。」を理念に掲げ、若手漁師さん3名と行政書士さん1名で活動されているマスコスモさん。その理念に込められた思いや現在の活動、そしてこれから目指す先についてお話を伺いたいです。

過去のマスコスモさんの記事はこちら

2.北海道を代表するサロマ湖のホタテ養殖を稚貝放流でにぎわう現場で学びたい!
サロマ湖のホタテ養殖は地域経済を支える一大産業で、サロマの地で先人たちにより築かれ、改良が重ねられてきた歴史ある営みです。これまでの漁村訪問で私たちは何度かホタテ養殖の現場を見学させていただきましたが、ほかの漁村との違いも気になります。
また、今回はちょうどオホーツク沿岸での毎年春の恒例行事、稚貝放流が行われる時期に訪問させていただきます。この稚貝放流のためには多くの人手が必要で、地域の方々のほかに周辺の大学生も大勢バイトで駆け付け、稚貝放流の期間はお祭りのようにとても浜がにぎわうそうです。ほかの漁村では聞かない人材確保の仕方で、同じ大学生としてもとても気になりますし、特定の時期に人手が大勢必要になる一次産業にとって、人手不足解消のヒントがこの稚貝放流事業にはあるのではと興味を持っています。

redigo_tokoro00006.pngホタテ養殖の記念碑。サロマ湖はホタテ養殖発祥の地でこの地域に欠かせない産業です。

ホタテ養殖ってどうやるの?

みなさんはホタテ養殖がサロマ湖でどのように行われいるかご存知ですか?私は佐呂間でレディ魚ーメンバーのヨコミクに教えてもらうまでよくわかっていませんでした。みなさんに簡単ではありますが、サロマ湖で行われている地撒き方式のホタテ養殖について説明させていただこうと思います!

ホタテ養殖はまずホタテの赤ちゃん(稚貝)を自然から採取することから始まります。ホタテは卵や幼生の状態で海中を漂っており、春から初夏にかけて目の細かいネットで作られた採苗器(写真左下)をサロマ湖内に投入して、ホタテの卵や幼生を付着させある程度の大きさまで育てます。その後、夏から秋にかけて採苗器を回収して成長した稚貝を選別し、育成用のカゴに入れてさらに湖内で育てます。この間、海に沈めているカゴに付着物がつきホタテの成長を妨げたり、カゴに対してホタテが大きくなっていくため、成長に合わせてホタテのカゴを何度か入れ替え成長させるそうです。こうして4cm程度に育て上げられた稚貝は最初に採苗器を入れてから約1年たった春に収穫され、オホーツク海にばら撒かれます。今回体験させていただくのはこの収穫です。穏やかなサロマ湖から出て、厳しいオホーツク海で4年間成長したあと再び収穫され、国内外に向け出荷されていきます。

初日 強烈‼ 目に、鼻に染みる「洗い物」を見学‼

それでは今回の訪問の様子を紹介させていただきます。
初日はあいにくの時化で、残念ながら漁はなかったのですが、佐呂間町でホタテ養殖を営んでいらっしゃる横山さん(レディ魚―メンバー ヨコミクのご実家)に、「洗い物」という作業を見学させていただきました。この「洗い物」という作業は、海中で付着物が大量についた稚貝の育成カゴを専用の洗浄機に通してきれいにするというものです。一見楽そうな作業に思えますが、これが想像以上に過酷でした。ヨコミクさんからは、「来るなら覚悟してきてください!猛烈に臭くて鼻がやられますよ!」、と忠告を受けてはましたが、その忠告通り作業場は強烈な刺激臭であふれていて、目と鼻が悲鳴を上げてしまいました..。
この強烈な刺激臭の正体は、発酵した着生生物やカゴに絡まったゴミなのですが、これらの汚れが落ちやすくなるようにわざと放置して発酵させているそうです。よく見てみると洗浄前のカゴからは湯気が立ち上っていてほのかに温かく、衝撃を受けました。しかし洗浄機を通すと、見違えるようにカゴはきれいな青色を取り戻していて、これほどの刺激臭の中での作業を敢えて選択するのも納得でした。

横山さんは今回、「ざぶとん」という角カゴを洗浄していましたが、お隣で作業されていた方々は、丸カゴと呼ばれるものを洗浄されていました。丸カゴの方が使い勝手がいいことから、近年は丸カゴが主流となり、順次ざぶとんを丸カゴに置き換える流れがあるそうです。

redigo_tokoro00011.png洗浄される丸カゴとそれを奥で見つめるレディ魚―メンバー

マスコスモの川口さんに常呂の漁業について伺いました!

佐呂間での洗い物の見学を終えて常呂に移動し、漁港でマスコスモの川口さんとお会いして常呂の漁業について伺わせていただきました。いろいろお話を伺っていくと、豊かなオホーツク沿岸であるがゆえの特異な点がいくつも見えてきました。まず私達が衝撃を受けたのは、オホーツク沿岸の漁協は、漁師や仲買人の外部からの新規参入を認めず、継承のみを認めているということです。人手不足が問題となっている時代の流れに逆行しているのでは?と私達は感じてしまいました。しかし、孫の代まで食べさせられることのできるホタテ養殖だからこそ、後世に資源を守るための仕組みとしてあるという事を知り、ホタテ養殖の偉大さを痛感させられました。
川口さんは、「常呂の漁業は排他的で漁協は日本一厳しいといわれているけれど、その分守ってもらっていると感じる」、とおっしゃっていました。しかし同時に川口さんは、「最近は確実に漁師が減ってきていて、後継者がなく廃業する家も出てきた。これからは働き方や継承の範囲を考え直して、外部から人を受け入れる体制を築いていかないと持続させることは厳しくなってくる」ともお話になられていて、危機感を持っていらっしゃることが伝わってきました。

redigo_tokoro00012.png川口さんにお話を伺うしずきとしんや

ほかにも私たちが気になっていた、主に北見工業大学と東京農業大学から稚貝放流に来る、大学生アルバイトのことについても伺わせていただきました。レディ魚―メンバーの間では、漁師さんは必要な時期に集中的にたくさんの若い労働力を確保でき、大学生は授業前に稼ぐことができる双方にとってwin-winなシステムで、人手不足解消にいろいろな現場で一役買うことができるのではと考えていたのです。しかし川口さんによると、「大学生に来てもらって助かっているのは事実だけどいいことだけではないんだ。今は漁師の間で人の取り合いになっていてバイト代は高騰していて正常だとは言えないし、大学生の方も学業をおろそかにして授業に全く出ていない子がよくいるし、作業では危険も伴う」、とのことで、見えなかった問題点に気づかされました。同じ大学生として学業とバイトの両立の難しさは自覚していますが、そのお話を伺いながら我が身を省みていました。

2日目 マスコスモについてお話を伺いました!

2日目を迎えましたが、この日も時化で漁に出ることは叶いませんでした...。
しかしマスコスモの皆さんにお誘いいただき、昼ご飯にご一緒してお話を伺わせていただけることになりました。

redigo_tokoro00013.pngレディ魚―ポーズをとってくださっている皆さんと一枚。左からマスコスモの柏谷さん(代表)、川口さん、レディ魚―のしんや、しずき、ふなっしー(筆者)。

お話を伺うと、マスコスモさんのモットー、「オイシイ。でツナガリタイ。」は、先代でマスコスモの創始者である川口さんの兄 洋史さんの思いが込められていて、生前は魚食普及に向けた活動を精力的に行われていたそうです。洋史さんがお亡くなりになられた後も洋史さんの遺志を引き継いで、柏谷さんが代表に就任し、川口さんは北見市の職員を辞めて漁師となり、オホーツクの最高の食材で「オイシイ」という感動を与える活動を続けられています。魚食系男子として料理教室を開催したり、調理専門学校に魚を提供したりなどの取り組みで食育に力を入れていらっしゃいます。また6次産業化も積極的に進め、最新の3D冷凍技術を活用されていたり新しい商品を考案するなど、高付加価値にも取り組んでいらっしゃり、その活動の幅の広さに驚きを受けました。

マスコスモの皆さんとは、何を現場が求めているのか、そして私たちレディ魚ーが何ができるのかについてもお話を伺い、これからの活動がより漁村のためになるように意識していきたいです。

最終日 念願の出漁!まずは常呂へ!

もともとは2日目に札幌へ帰る予定でしたが、急遽わたくしふなっしーが残らせていただくことに。
運命の最終日、最後の最後でようやく時化が収まり、念願の稚貝放流に参加することができました!常呂で川口さんの作業場を見学させていただいた後、佐呂間で横山さんの船に乗せていただいたので、実際の様子を紹介させていただきます!
漁は早朝3時頃から始まりましたが、港には多くの人が集結し熱気であふれていました。常呂では2つの家が班を組んで稚貝の収穫を行う班制度を採用しているため船に乗ることはできませんでしたが、港で待っていると大量のカゴを積んで川口さんの船が帰ってきました。帰港するとすぐに作業場で角カゴに入った稚貝を専用の台を使って取り出す「ほろい作業」が始まり、手際よく稚貝が集められていました。取り出された稚貝には海水を絶えずかけて、放流までに弱らないように工夫されていました。

佐呂間で実際に稚貝収穫を体験

常呂でお世話になったあと佐呂間に移動して、実際に船に乗せていただき稚貝収穫を体験させていただきました。時間になると一斉に港から船が出ていき、それぞれの家のカゴが投入されている場所をめがけて放射状に散っていく様子は、まさに圧巻で美しかったです。場所に着くとすぐさま丸カゴを引き上げ、常呂とは異なり船上で「ほろい作業」が始まりました。「ほろい作業」は引き上げられたカゴを4人で息を合わせて行い、次から次へと稚貝が集められていきます。実際にやってみると稚貝を素早く出し切ることは想像以上に大変でしたが、ヨコミクさんとバイトに来ていた北見工業大4年の寺田さんにコツを教えていただき、何とかついていくことができました。全員で息を合わせて行う船上でのほろい作業はどの工程も効率化されており、時間との戦いである稚貝放流の難しさも体感しました。
常呂と佐呂間で稚貝放流を見せていただきましたが、20㎞ほどしか離れていない漁港で行われているにもかかわらず、常呂の方にはある班制度や、ほろい作業を船上で行うか作業場で行うかなど、いくつも違いがあることが興味深かったです。

redigo_tokoro00016.png一斉に扇状に広がっていくたくさんの船。

収穫を終えて放流へ!

収穫された大量の稚貝は、オホーツク海へ放流に行く大型の船、「がんがら船」の前に集められ、大勢の人たちによってがんがら船へと積み込まれていきます。その様子はまさにお祭りのようで、港は活気にあふれていました。漁村にこれほどまで多くの人々が集結しているところは私自身初めて経験し、ホタテ養殖の規模の大きさを知りました。がんがら船での作業は危険が伴い体力的にも大変なようですが、外海へ向かっていく屈強な乗組員さんはとてもたくましかったです。がんがら船からオホーツク海に撒かれた稚貝は4年後に大きく成長した姿で収穫され、皆さんの食卓に並びます。

redigo_tokoro00020.pngがんがら船に稚貝を積み込んでいる様子。活気で満ち溢れていてお祭りみたいでした!

常呂・佐呂間訪問を振り返って

今回は常呂と佐呂間に3日間訪問させていただき、マスコスモの皆さんとお話しさせていただき、実際に漁も体験させていただきました。オホーツクで行われるホタテ養殖の独特な慣習や能率化された漁法を学び、同時に改善すべき課題の数々にも気づかされました。マスコスモさんの魚食普及に向けた活動はとても魅力的で、私たち移動式鮮魚店レディ魚―としても学んだことを活かして、魚の「オイシサ」を伝えていく活動や販売をより一層頑張っていきたいです。

image20.png水揚げされたばかりでまだ生きているホタテを食べさせていただきました!めちゃくちゃ甘くておいしかったです!

 訪問を受け入れてくださったマスコスモの皆さん、横山さん、本当にお世話になりました。恩返しができるように頑張りますのでこれからもよろしくお願いします!

次の漁村訪問もお楽しみに!

redigo_tokoro00021.pngとりたて、焼き立ての稚貝。これからホタテを食べるときはどこのホタテか気にしてみると面白いかもしれません!

移動式鮮魚店レディ魚ー×くらしごと
住所

札幌市北区北20条西5丁目2-50(レディ魚ー事務局)

URL

https://www.instagram.com/ready_5500/

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『レディ魚ー×くらしごと 漁村体験記』第四弾 常呂・佐呂間

この記事は2024年6月20日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。