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まちおこしレポート
滝上町

ビジョンは少し置いといて。懐が深いまちで一歩を踏み出そう!20240802

ビジョンは少し置いといて。懐が深いまちで一歩を踏み出そう!

地域おこし協力隊=やりたいことのビジョンが必要。そう思われがちですし、実際、ビジョンを持って来てほしいという自治体も多くあります。でも、そういう町ばかりというわけではありません。「北海道に行って何かしたい、でも何がしたいか分からない...」「自然豊かなところに暮らしてみたい、でも仕事なんてあるのかしら...」「移住してみたい、でも町に溶け込めるだろうか...」。そんなことをあれこれ考えて、なかなか行動できない人は、ぜひこの記事を読んで滝上町の地域おこし協力隊に応募を!

道民であれば知っているかと思いますが、滝上と書いて、「たきのうえ」と読みます。この滝上町、「何がしたい」と明確なビジョンがなくても、「適材適所で合うものを見つければいいよ」と受け入れてくれる大らかな町なのです。今回は、滝上町の地域おこし協力隊に関わる3人に、町で暮らすことになったきっかけ、町の魅力などを語ってもらいました。

豊かな自然だけじゃない!町全体が「歓迎」ムード

3人にお話を伺う前に、滝上町について簡単に紹介しておきましょう。滝上町は北海道の右上、オホーツクエリアにある町で、オホーツク紋別空港から車で50分ほどの位置にあります。町の面積の約9割が森林という自然豊かな滝上町の基幹産業は林業と農業。また、日本最大級と言われる芝ざくらの群生が有名で5月上旬から5月下旬にかけ、芝ざくら滝上公園の斜面は一面ピンク色に染まります。その美しさは圧巻!さらに、和ハッカの生産量日本一を誇り、「香りの里」としても知られています。

202407003takinoue_chiikiokoshi_1.jpg甘い香りに包まれる「芝ざくら滝上公園」

ではまず、滝上町役場に勤務する川原田耕基さんに登場してもらいます。まちづくり推進課まちづくり推進係長を務め、現在地域おこし協力隊の窓口も担当しています。出身は隣の興部(おこっぺ)町で、大学を出たあと滝上町役場に入りました。

「もともとは大学で森林関係のことを学んでいました。滝上町は林業が盛んで木質バイオマスなどの取り組みもしていて、おもしろそうな町だなと思って役場に入りました。実家も近かったですし。今はまちづくり推進課で、まちづくりの指針となる計画や施策の調整などを行うほか、移住定住、空き家対策、ふるさと納税、そして地域おこし協力隊を担当しています」

202407003takinoue_chiikiokoshi_2.jpg滝上町役場まちづくり推進課まちづくり推進係長の川原田さん

地域おこし協力隊を担当するようになったのはこの1年ほどだそう。協力隊全体の窓口として、協力隊を必要とし、受け入れる各部署と、実際に赴任した隊員との調整や隊員からの相談などを受けています。

「今は20代の2人の隊員が活躍してくれています。農業分野が1人、観光分野が1人ですね。町との関わり合いの中で、滝上で暮らしてみたいと思ってくれたり、新規就農を目指したいと来てくれたり。滝上町に興味を持ってくれた理由はそれぞれです」

202407003takinoue_chiikiokoshi_3.jpg町の面積の約9割が森林である滝上町では林業も盛んです

さて、隣町出身で、大学卒業後に滝上町へやってきた川原田さんから見て、町の魅力やいいところはどういったところかを尋ねると、「とにかく静か。そして、自然豊かなところかな」とひと言。人工物が少なく、市街地のすぐそばに森があるので、風が吹くと木々が揺れ、葉擦れの音が夜には心地よく聞こえてくるそう。

「あとは、町が小さいので、一度顔を覚えてもらうと、みんなが声をかけてくれるのも町の魅力かもしれません。何かあってもすぐに助けてくれるようなご近所付き合い的なものがいいなと思います」

また、町の人たちの協力隊への期待も大きいそうで、「町全体がウェルカムな感じです」と川原田さん。

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幼いころから縁が深いこのまちで、恩返し

次に元・地域おこし協力隊で、現在は滝上町観光協会に勤務する吉田龍ノ介さんに話を伺おうと思います。吉田さんは神奈川県の横浜市出身ですが、両親に連れられて幼少のころから滝上町に毎年来ていたそう。

「滝上町に『森の子どもの村』というところがあり、そこで毎年夏にキャンプをやっていて、1カ月間毎年参加していました」

「森の子どもの村」というのは、40年以上前に本州から移住してきた徳村彰さん、杜紀子さん夫妻が、町内の森の中で始めたサマーキャンプ。口コミと人づてだけで毎年100人以上は集まると言われています。吉田さんが子どものころは、全国各地から200~300人は集まっていたそう。

202407003takinoue_chiikiokoshi_4.jpg元・地域おこし協力隊で現在は観光協会に勤務する吉田さん

「毎年夏の1カ月ほどキャンプをしていました。滝上町に来ていたと言っても、子どもの村があるのは市街地から15㎞以上離れた山の中。ほぼ外界との接点はなく、せいぜい滞在中1、2度、食事や買い物にくるくらいだったので、町のことをとくに意識したことは正直なかったんです」

キャンプ場で毎年過ごすうち、同様に毎年やってくるメンバーの中に気の合う友人もできます。中学生のとき、子ども同士で共同生活しながら同じ高校に通うのはどうだという話で盛り上がりますが、計画性の無さを反対され、結局山村留学のような形で徳村夫婦のところに住みこませてもらい、滝上町の滝上高校(2019年閉校)へ通いました。

「3年間高校に通ったあと、同級生はほとんど札幌へ出たのですが、僕は実家のある横浜へ戻りました。専門学校を出て、4年ほど東京で仕事をしたあと、2年間ほど全国各地を旅していました」

202407003takinoue_chiikiokoshi_6.jpg滝上町を流れ、オホーツク海へそそぐ「渚滑川(しょこつがわ)」。ニジマスをはじめとする渓流魚は地元の保護活動と放流によって守られています

ちょうど富山県に滞在していた際、役場で働いている人から、「滝上町で地域おこし協力隊の募集をしているよ」と聞きます。

「そのとき、だいたい日本一周を終えたところで、自分の中で満足している部分もあったんです。各地を回りながら、どこが自分に合っていて、住みたいかと考えると滝上町で暮らすのもいいかなと。知り合いも多くいましたし」

直感的にそう思ったものの、募集の締め切りが明後日と分かり、「そのころ、髪も髭も伸ばし放題で、髪は胸くらいまであったんですけど、面接があると聞いたので急いで切りに行きました」と笑います。

無事協力隊に採用された吉田さん、観光分野のミッションを担当。「失礼な話なんですが、ミッション内容うんぬんより、滝上町に仕事があるから来たという感じで...。とりあえずお試し期間が3年あると考えて、活動しながらどう自分の生活基盤、自分のライフスタイルを整えるかを考えていました」と話します。

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3年間の任務を経て、観光協会に勤務しながら、まだ完成とは言えない自分の理想のライフスタイルを少しずつ整えている最中という吉田さん。「今は、3年間協力隊として町の人々にお世話になったという恩も感じているので、どうしたらこの町に還元できるかを考えながら仕事にあたっています。それが結果として自分にとっての暮らしやすい町かどうかにつながっている気がしています」と続けます。

町の魅力や良さを尋ねると「いまだに開拓者精神のようなものが残っているところや、よそから来た人を温かく受け入れてくれる町民性でしょうか」と吉田さん。勤務先である観光協会では、イベントごとの実施にまつわることのほか、町の観光に関するあらゆることを担っており、町の人たちと関わることも多いそうです。

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等身大の移住者目線で魅力を発信

最後に話を伺うのは、PRの会社の代表を務める中尾拓実さんです。中尾さんは、兵庫県神戸市出身。東京の大学を卒業後、PR会社や企業の広報として勤務したのち独立し、この春から東京都と滝上町の2拠点生活をスタートさせました。現在、滝上町の地域おこし協力隊情報発信サイト「たきのうえびより」やSNSの運用を手がけています。

まずは東京の会社に勤務していた中尾さんが滝上町へ移住を決めるまでの経緯から伺いましょう。

「2023年の2月に紋別市出身の友人が地元でイベントをやると言うので、ちょうど流氷の時期というのもあり、紋別に遊びに来たんです。そのとき、たまたまインスタで滝上町のゲストハウス『ふくらい家』を見つけて、面白そうだなと思って行ってみようと思って訪れたのが滝上町との出合いです」

202407003takinoue_chiikiokoshi_9.jpg「たきのうえびより」やSNSの運用を担当中の中尾さん。東京都と滝上町で2拠点生活を送っています

このとき驚いたのが、北海道の広さと地元の人の距離に対する感覚だったそう。「隣の町だからもっと近いと思ったら、30㎞以上離れていて、車でも30分以上かかるというのにびっくりしました」と笑います。地元の人にとって30㎞の移動は「ちょっと行ってくる」程度。北海道あるあるのひとつです。

訪れた「ふくらい家」(くらしごとで以前ご紹介した「Casochi合同会社」が運営しています)は、中尾さんにとって心地いい場所だったそう。「僕は一晩だけ泊まったんですが、その日は3家族くらいが集まっていて、とても温かい雰囲気ですごく良かったんです。今の東京の暮らしでは得られないものがここにはあるなと思いました」と振り返ります。

202407003takinoue_chiikiokoshi_x_1.jpg大人も子どもも、旅人も地元民も。みんなが「ふくらい家」に集います(画像/中尾さんXより)

その後、夏には会社を辞め、思い切って「ふくらい家」のヘルパーとして滝上町に1カ月滞在。「「ゲストハウスを起点に新しいつながりが、次のつながりを生み出していく感覚がとても面白いなと感じました。1カ月いる間に滝上町の人の温かさもたくさん感じられました」と話し、滝上町にも拠点を設けることを決めます。

「縁もゆかりもないところに行くの?と親にも言われましたが、僕はまだ独身だし、今のうちにやりたいこと、やってみたいことをやっておこうと思って。不安も少しはありましたが、それよりも楽しくやりたいというワクワクした気持ちのほうが強かったです」

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自身でPR会社を立ち上げ、東京の仕事も手がけている中尾さん。滝上町にいながらオンラインで基本的な仕事はできるそう。イベントなど立ち合いが必要な際は東京へ行きます。

「距離でいうと1回で1000㎞以上の移動なんですが、高層ビルが立ち並ぶところから、3、4時間ほどで森に囲まれた町に戻ってくるギャップを毎回楽しんでいます。でもやっぱり、滝上町に戻ってくると空気はおいしいし、車を運転していても景色がいいなぁと感じます」

町での暮らし方も東京とはまったく異なり、「東京はいたるところにコンビニがありますが、滝上町は町に1個。ドラッグストアも町にはありません。でも、町の人たちは特に不自由は感じていなくて、近隣町村へ行った際に買いだめをしておくとか、暮らしやすいように工夫しています。なければないで、それでも暮らせるものなんだと自分も実感しています」と中尾さん。

202407003takinoue_chiikiokoshi_x_2.jpg(画像/たきのうえびよりXより)

また、中尾さんが出会った町の人たちの多くが「生活力に長けている」と言います。「力強く生きている人、たくましい人が多いなと感じます。自然に囲まれた中で暮らしているからか、いい意味での野蛮力が備わっている感じですね」とニッコリ。

地域おこし協力隊情報発信サイト「たきのうえびより」の運用に関しては、「町の良さをサイトやSNSを通じてアピールし、地域おこし協力隊の応募や移住を考えている人たちに興味や関心を持ってもらい、滝上町を選んでもらえるようにしていきたいです」と意気込みを語ります。

「僕自身、こちらで生活をはじめたばかり。町のこと、町の人のことはまだまだ分からないので、イベントなどにも参加して町の人とも関わっていきたいと考えています。そして、等身大の移住者の目線で、滝上町での生活のイメージができるような発信をしていきたい。観光地を紹介するより、できるだけ町の人によった情報発信や町の人のインタビュー記事を載せていきたいですね」

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受け入れる間口と懐の広さがウリ

今回、滝上町で募集している地域おこし協力隊のミッションはさまざま。介護や福祉、ハーブや農業関連、観光、特産品開発など多彩です。

「やりたいミッションがある方にはやりたいことをサポートしていきます。もし、特にこれというのがないけれど、町で暮らしてみたいという方とはコミュニケーションを取りながら、その方に合ったものを見つけていけたらと考えています」と川原田さん。

話を伺っていると町全体の大らかさ、懐の深さを感じます。田舎特有の閉鎖的なものはなく、外から来た人を受け入れる土壌がもともとあるのかもしれません。

202407003takinoue_chiikiokoshi_12.jpg「和ハッカ」生産量が日本一の滝上町

協力隊OBの吉田さんは、「自分はたまたま知っている町に協力隊として入ったわけですが、とはいえ、実際に来て働いてみないと分からないことはたくさんあります。チャレンジする気持ちで、気兼ねなく滝上に来てみてくれたらと。滝上町はミッションがいろいろあるので、何がやりたいか分からない人も何か自分に合ったものが見つかると思います」と話します。

吉田さんら協力隊のOB、OGと現役協力隊をつなぐ機会や飲み会などもあるそう。はじめての町での暮らし、最初は不安がつきものですが、こうした先輩たちがいるということは安心材料のひとつになります。

202407003takinoue_chiikiokoshi_13.jpg渚滑川とその周辺の森が心を癒やしてくれます

滝上町に滞在したのがきっかけで移住してきた中尾さんは、「何かやってみたいけど、何がやりたいか考え中という人にこそ、滝上町に来てもらいたいですね。自然に囲まれて、良い意味で何もないから、自分と向き合ったり、シンプルに物事を考える時間を持てたりもできます。本当にいい場所だと思います」と話します。

また、いきなり地域おこし協力隊に応募することに抵抗がある方のために、今年度から地域おこし協力隊のインターンも始めた滝上町。「短期移住体験の『ちょっと暮らし住宅』もありますし、まずは滝上町に訪れ、町や町の人に触れてもらえたらと思います」と川原田さん。中尾さんも「僕が最初に泊まったゲストハウスに泊まってみるのもいいと思います。『ふくらい家』は町の人たちもたくさん集まってくるので、そこで町の人とも交流できるので」と教えてくれました。

20240724hulkuraiya_.jpgローカルたちとの触れ合いが大きなきっかけになることも

チャレンジしてみたいと一歩踏み出した人を温かく受け入れてくれる滝上町。「何かやってみたいけど、何をやりたいかまだ分からない」という人は一度訪れてみてはいかがでしょうか。この町で、その「何か」が見つかるかもしれません。

◎滝上町役場まちづくり推進課まちづくり推進係 川原田耕基さん
◎(一社)滝上町観光協会 吉田龍ノ介さん(元・地域おこし協力隊)
◎「たきのうえびより」運用担当 中尾拓実さん
住所

滝上町役場/北海道紋別郡滝上町旭町

電話

0158-29-2111(滝上町役場 まちづくり推進課 まちづくり推進係)

滝上町ホームページ

滝上町地域おこし協力隊情報発信サイト「たきのうえびより」

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ビジョンは少し置いといて。懐が深いまちで一歩を踏み出そう!

この記事は2024年7月3日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。