全国で1000を超す自治体で地域おこし協力隊の募集をかけています。隊員は、1~3年という活動期間中、そこに暮らし、地域を盛り上げるための地域ブランド、農産加工品の開発・販売・PRといった支援や、一次産業への従事、住民支援などを行います。最近は、町が期待すること、やってもらいたいことが明確になっているミッション型のほか、フリーミッション型の募集を行っている自治体も増えています。今回、お話を聞く長沼町もミッション型とフリーミッション型の両方で地域おこし協力隊を募集。長沼の町の魅力とともに、町の地域おこし協力隊のこと、さらに協力隊員をサポートする人たちのことについて、役場担当者、今の隊員、そしてサポートする一般社団法人の方にお話を伺いました。
多品目・多品種栽培が行われてる長沼で、新たな農産加工品づくりを
長沼町といえば、近年、移住希望者にも人気の町。くらしごとでもたびたび町に暮らすステキな方たちを紹介してきました。移住の決め手は、札幌や新千歳空港から近い、おしゃれな店もある程よい田舎感、子育て環境が整っているなど、その理由はさまざまです。これからもより魅力的な町にしていくため、あらゆる方面から町と地域が一体になって取り組んでいこうと考えており、「地域おこし協力隊と一緒にまちの課題解決に取り組めることが楽しみ」と話すのは、長沼町政策推進課企画政策係の高田和孝さん。
高田さんは長沼町役場で地域おこし協力隊を担当する係長です
今回、2職種の地域おこし協力隊の隊員を募集するという長沼町。ひとつは、農産加工品開発、6次産業化というミッション型。「こちらは役場の農業担当部署からの希望があったため、募集をすることにしました」と高田さん。
「長沼は、北海道内で五本の指に入るぐらいの大豆の作付面積、生産量を誇りますが、大豆だけでなく、米、根菜、葉もの、果物など、幅広く生産をしています。日持ちがしないといわれるブロッコリー、イチゴなどを栽培している農家が多いのが特徴です」
日持ちがしない作物を作れるのは、新千歳空港、苫小牧港へのアクセスがいい、そして道内随一の商圏・札幌に近いのが理由なのだそう。
地元の加工センターで日々試作ができる環境。テストマーケティングも可能
ながぬま温泉のすぐそばに、「ながぬま農産加工センター」という施設があります。ここは、町内の団体が整備して、町も運営に携わっている食品加工施設。大型の蒸気釜、蒸し器、醗酵機、熟成庫、味噌用チョッパー、野菜の乾燥機、ガスのデッキオーブン、など、食品加工に必要なものがそろっています。現在、町内の農家さんや近郊の方などがここで味噌、ジャム、パン、トマトケチャップなど様々な商品を作っているそう。
「今回募集するミッション型の地域おこし協力隊員の方には、このセンターを使ってもらって、いろいろな試作を行ってもらう予定です。必要なものはひと通り揃っていると思うので、存分に力を発揮してもらえたらと思います」と高田さん。
さらに、長沼は道の駅や温泉、キャンプ場など観光客が多く立ち寄る場所でもあり、「加工品を町内で売り切ることも可能だと考えています。テストマーケティング的なことも含めて、商品を作って販売するところまで一緒に取り組みたいと思います。作って終わりではないので、ビジネスとしてこういうことをやってみたいと考えている方にはぴったりだと思います」と続けます。加工品の製造販売で起業を視野に入れている人にとってこれは魅力的な話ですし、ビジネスチャンスにもなりそうです。
「地元の農家の方たちとも繋がりを持ってもらいながら、廃棄品を減らすといった課題も踏まえつつ、加工品作りにチャレンジしてもらえたらと」
原材料となりうる野菜や果物はたくさんそろっていますし、試作のための設備もばっちり。あとは、農産加工品を生み出すためのアイデアと行動力があればチャレンジできます。
フードプロセッサーや大型のフライヤーやガスオーブンまで、設備は万全。長沼の多種多彩な産品をどのように加工するかはアイデア次第です
「好きな場所で起業したい」と、フリーミッション型で着任した先輩
さて、もう1つの地域おこし協力隊の募集は、フリーミッション型。そもそもフリーミッション型って何?と思われる方も多いかもしれません。フリーミッション型というのは、あらかじめやることが決まっているわけではなく、地域に入って課題を見つけ、その課題を解決していくためにできることを決めていく形。長沼町の場合は、「自ら新たな仕事を創出する」というフリーミッションになり、募集要項にある活動内容部分には、「自らが感じたまちの課題解決、またはまちの魅力を更に高められるような起業を目指す」と記載されています。ここからは、昨年11月にこのフリーミッション型で長沼の地域おこし協力隊になった徳留正也さんにご自身の活動やこれからのことなどを伺っていきましょう。
徳留さんは埼玉県出身。東京のコールセンターを運営する会社で、オペレーターの管理を任されていました。ちょうどコロナがはじまったころ、新しい事業所の立ち上げで1年間秋田へ。その頃から、いつかどこかへ移住するのもいいかなと考え、休みになると東北6県と北海道を少しずつ見て回っていたそう。
「ちょうどコロナがひどくなりはじめ、在宅ワークや地方拠点など、働き方についても考えるようになりました。ゆくゆくは何かで独立してみたいという気持ちもあったので、好きな場所に移住してそこで起業できればいいなと考えていました」
移住先の候補探しで函館から北海道に入ったとき、「広さに驚くとともに、そこに惹かれました」と徳留さん。空の広さ、道の広さなど、本州とは異なる広さに心が奪われます。全道を回りましたが、徳留さんがピンときたのは道央か道南。札幌に近い北広島にひとまずアパートを借り、1年間かけて自分たちが暮らしたい町を探すことに。
「そんなとき、長沼の地域おこし協力隊の募集を知りました。新たな仕事を創出するフリーミッション型ということで、起業を考えていた自分にとってぴったりの内容だったので、応募してみようと思いました。空が広く、自然にも恵まれ、札幌からも近く、空港へのアクセスが良いのも魅力でしたね」
自分で掲げたテレワークの推進と空き家・空き店舗活用に向けて活動中
無事採用となった徳留さんが、最初、町に提出したのが「テレワークの推進」でした。「通勤時間がもったいないから自宅で仕事がしたい人、地方にいても首都圏の会社の仕事がしたい人など、テレワークを希望する人の潜在的な数は多いと考えています。私自身、好きな場所で暮らしながら、仕事をしたいと思っていたので」と話します。町民の中にも希望する人がいるのであれば、仕事の紹介などもできると考えているそうです。
徳留さんは隊員としての活動以外に、町から許可を受け、自宅でテレワークの仕事を行っています。「まずは自分がテレワークで働く経験をすることで、協力隊としてのテレワークの推進にも役立つと考えています」と話します。また、「着任して3カ月はインプットが続いていたので、そろそろアウトプットに向け、テレワークに関するイベントや講座なども開いていきたいですね」と続けます。
また、11月に着任してから、もう一つ取り組みたいものが見つかったそう。それは、「空き家や空き店舗の活用」。200戸近くの空き家や空き店舗があると分かり、これらを生かせないかと模索中です。「テレワークの拠点やワーケーションで利用できる施設などに使えないかと考えています。あとは、飲食店の間借り店舗としても活用できるのではないかと...」と徳留さん。
実はすでに、町内では「こころ食堂」という店で間借り店舗をやっており、徳留さんをはじめほかの協力隊隊員も一緒に、今度居酒屋のようなものをやってみようと企画中なのだそう。町の人たちに来てもらって、隊員と交流してもらいたいと考えています。
「実は私、調理師免許を持っていて、週1くらいで料理を提供する機会があればと思っていたことも。だから、こころ食堂の企画は楽しみなんです。そして、空き家・空き店舗の活用につながるヒントもあるかなと思っています」
地域おこし協力隊の活動拠点・ホワイトベースは、地域との交流の場
ほかの協力隊員の話が出たので、彼らとの交流について尋ねると、「隊員は私も含めて4名。もうすぐもう1名増える予定です。世代も異なりますが、人数が増えることで活動も活発になっているように思います」と徳留さん。長沼の地域おこし協力隊は、ミッション型、フリーミッション型に関係なく、隊員として町内の祭りやイベントへの参加も活動に組み込まれています。新たな地域おこし協力隊募集の際の説明会や移住相談会などにも隊員たちが一緒に参加。「ミッションは違っていても、ひとつのチームという感覚があるので、孤独感はありませんね」と話します。
「それから、地域おこし協力隊の隊員の拠点となるホワイトベースがあることで隊員同志はもちろん、協力隊のOBや町の人たちとも交流ができるのは大きいです」
ホワイトベースというのは、以前くらしごとでも紹介させてもらった場所。
【長沼町】地域の人と資源が輝く情報発信基地を作った男たちの物語
協力隊隊員の活動拠点でもあり、テレワークやコワーキングスペースとして、町内で起業した人や農家の人、町内外のビジネス関係者らが数多く訪れます。
町の人とのパイプ役にもなってくれる協力隊OBのサポートがスタート
続いて登場してもらうのは、このホワイトベースの2階に行政書士の事務所を構える坂本一志さん。協力隊OBでもあり、町内の青年で立ち上げた有志の非営利会社「一般社団法人ながぬま」の理事という顔も持っています。実は、この春から坂本さんは、地域おこし協力隊のサポートに入ることが決まっているそう。
「自分の経験や町での人脈を生かして、協力隊の隊員がスムーズに活動に取り組めるようにサポートしていきたいです。行政書士としても役に立てることがあると考えています」
坂本さんは協力隊員として長沼に来る前は、江別市役所に勤務。協力隊の隊員側の立場、受け入れる役所側の立場、どちらも経験している坂本さんならではのサポートが期待できます。また、地域の商工会などのパイプもあるので、地元の人たちと協力隊を繋ぐことも行っていきたいと考えているそう。
「ホワイトベースのオーナーをはじめ、一般社団法人ながぬまのメンバーは経営者がほとんど。また、ホワイトベース内にあるシェアオフィスも4ブースが全部埋まっていて、ホワイトベースに来ると、町で起業するイメージがわきやすいと思います。地域おこし協力隊の期間が終わったあと、起業を考える人もいるでしょうし、期間終了後にどうするかを考えるのにもいい場所だと思っています」
坂本さんの話を聞いていた役場の高田さんは、「協力隊OBのサポートが入るのは、とても大きい」と話します。さらに、「長沼の地域おこし協力隊は、独自性の高いミッションは少ないのですが、協力隊メンバーがチームとして動くことが多いので、孤独になることはまずないし、活動も暮らしもわりとスムーズかと思います。そこにOBのサポートが入ることで、町の人とも繋がりができ、なじみやすいと思います。3年の期間のうち1年目は焦らずじっくり町になじんでもらえたら」と続けます。
理想と現実のギャップはつきもの。でも、チャレンジしやすい環境が長沼にはある
協力隊OBの坂本さんは、隊員になったあとの理想と現実のギャップについても事前に伝えておきたいと考えているそう。「活動を行う中で、どうしてもギャップは出てしまうと思うんです。ギャップのことも含め、単なる移住と協力隊の違いなども、協力隊のお試しツアーに来た方には、厳しく聞こえるかもしれませんが自分の経験を踏まえてきちんと伝えさせてもらおうと思っています」と話します。高田さんも「お互いにとってミスマッチを起こさないためにも、OBからのアドバイスは大事」と頷きます。最後に、高田さんと坂本さんに長沼の町の魅力を尋ねると、「チャレンジしやすい環境ですかね。個人はもちろん、企業も新しいことにチャレンジしやすい。もともと新しいものを受け入れることに寛容な地域なので、ビジネスチャンスもいろいろあると思います」と高田さん。さまざまな企業が長沼で新しい事業をスタートさせていて、地域おこし協力隊と一緒に何かをやりたいと希望している企業もあるそうです。
坂本さんも「僕はずっとグリーンツーリズムに関わってきましたが、長沼の農家さんはオープンな人が多く、新しいことにも積極的。高田さんが言うように、商業だけでなく、農業の分野でもチャレンジしやすい町だと思います」と語ってくれました。
5月には東京と大阪で地域おこし協力隊に関する説明会を行うそう。そこには、徳留さんも同行します。まずは、長沼のことや長沼の協力隊の活動、体制について、現隊員からリアルな話を聞くのもいいかもしれません。
新しいことをはじめてみたい、地方での起業を考えたいなど、フリーミッション型に関心のある方も。長沼町の地域おこし協力隊にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
- 長沼町役場
- 住所
北海道夕張郡長沼町中央北1丁目1番1号
- 電話
0123-88-2111
- URL