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厚沢部町

誰でも託児ができる!?ワーケーションの新しい選択肢【後編】20220217

この記事は2022年2月17日に公開した情報です。

誰でも託児ができる!?ワーケーションの新しい選択肢【後編】

「誰でも託児ができる!?ワーケーションの新しい選択肢【前編】」の続きです。

前編では町内唯一の認定こども園で、町外の人でも一時保育を利用できる制度を作った木口さんについて、そして厚沢部町の一時保育に関するお話でしたが、今回はその続き、実際に利用者が道外から初めて訪れたところから、始まります!

初めての道外からの利用者

柔軟な一時保育の制度がある厚沢部町に、2021年のはじめに問い合わせが入ったのが、東京に本社を構える株式会社キッチハイクの代表取締役CEOである山本雅也さんからでした。


02assabu_hazeru01.jpgこちらが山本さんです。

本題に入る前に、山本さんがどういった方なのかを少しお話をさせてください。

早稲田大学卒業後、大手広告代理店勤務を経て、2013年4月に株式会社キッチハイクを設立。社会をより良くする手がかりは「食」にあるという気づきから、サービスをスタートさせるにあたり、なんと1年半かけて47ヶ国約80軒ほどの食卓を訪ね、家庭料理を食べ歩いたそうです。その冒険譚は「キッチハイク! 突撃! 世界の晩ごはん」という書籍にもなっているとのこと。

「人は、文化も言葉も違う人同士が食卓を囲むだけでも、深くつながれると実感しました。こんなに楽しくて素晴らしい体験をメッセージとして伝えるだけじゃなく、『食を通じて人とつながる』世界を実現し、根付かせるべきだと思ったんです」

当初は、旅先の家庭に食べに行く、いわば旅行者と食卓をマッチングする「食のAir BnB」のようなサービスでしたが、2016年には旅先で食卓を囲むという形から、日常でも使える様にシフト。1ヶ月に約3000人ほどのユーザーが毎日どこかで料理をふるまいたい人と食べたい人が食卓を囲むサービスへと成長していったといいます。

しかしながら、新型コロナウィルスの感染拡大により、人がリアルに集まって食卓を囲むという事業モデルの運営が難しい状況となりました。

02assabu_hazeru02.jpg当時のことを思い返しながら話をしてくれる山本さん

「事業自体が、感染の拡大を招いてしまうことは、僕たちの望んでいることではないと思いました」山本さんの判断は早く、2020年3月1日にサービスを停止。ですが、「食で人をつなげる」というミッション、「もっともぐもぐ、ずっとわくわく」という哲学は、変わりません。

2020年12月にキッチハイクは、自社が積み上げてきた食コミュニティとオンラインを活用し、全国各地の食材、食文化を軸に、地域と食べる人をつなぐ「ふるさと食体験」を本格始動させました。これが食のつながりを一気に加速させ、現在では全国約60地域が連携する事業となったというのです。

自宅にいながら地域の特産品や文化に触れることができる「ふるさと食体験」。2021年1月には、厚沢部町と地元の農家などで組織する「農に生きる推進協議会」と実施。特産品であるメークインがテーマの「ふるさと食体験」を山本さん自身が体験したことをきっかけに、町の存在を知ったといいます。そこから派生して、今回の親子でワーケーションができる「保育園留学」の誕生につながるのです。

02_assabu_hazeru14.pngキッチハイク社のオンラインイベント。※募集は終了しています。

「それまでは、厚沢部町のことを失礼ながら知らなかったんです。でも、その『ふるさと食体験』を通して厚沢部町を知ったら、もう本当に魅力だらけで。そして興味が湧いて調べていくうちに厚沢部町が運営している『ちょっと暮らし住宅』のことを知り、行ってみたいと思ったんです。僕には2歳になる娘がいて、ワーケーションでいくのであれば、妻も僕も仕事があるので、託児をお願いできないか、と問い合わせをしたんです」

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ちょっと暮らし住宅というのは、厚沢部町内に3棟4戸ある移住体験を目的とした中長期滞在を体験できる建物のこと。

いきなり移住!といってもハードルが高いですよね。なので、旅行よりも少し長く滞在をしてみて、町で暮らすことを体験して、自分がその町で「生活」をするイメージを持ってもらうことを目的としています。

厚沢部町は、関係人口創出や移住促進の観点から、前述のちょっと暮らし住宅や、移住交流センターを設け、ちょっと暮らし住宅に滞在されている方々との交流を図るなど、ハード面ソフト面の双方から積極的に移住の誘致をおこなってきたといいます。

02assabu_hazeru05.jpgこちらが厚沢部町にあるちょっと暮らし住宅

旅は非日常ですが、暮らしとなると、日常の話になります。

景色が綺麗、食べ物が美味しいだけでは、もしかすると移住先のミスマッチが起こり得るかもしれません。こういったお試しの制度や、地域団体の受け入れサポートがあると、安心しますよね。

さて、話は一時保育受け入れ調整の話に戻ります。

「町のこども園のページを見たときに、ここに娘を預けたい!!!って思ったんですよ。今、横浜に住んでいるのですが、普段預けている保育園は商業施設の中にあり、子どもが伸び伸び園庭で遊ぶといったような環境ではないんです。認定こども園はぜるは、まさに理想としていた園で、こういったところで、自然と触れ合う経験を子どもにして欲しいと思ったんです」

02assabu_hazeru06.jpg厚沢部町のホームページより、はぜるの写真

こうして、子どもを預けたい!という山本さんと、柔軟に子どもを受け入れられる制度を作っていた木口さん、まるで「あなたを待っていたのよー!」と言わんばかりの運命のような出会いが生まれたのです。

厚沢部町役場ではぜるの創設に走った木口さんは「一時保育の制度はあるものの、ワーケーションでの託児利用を想定していたわけではなかったんです。そして、道外からの受け入れも全く想定していなかったんです。来たとしても、周辺市町村ぐらいかなって思っていました」と当時を振り返ります。

「新型コロナウィルスが感染拡大している状況でもあったので、一度こども園の先生方と検討する必要がありました。ですが、『○○だからできない。』と言うんじゃなくって、『どうやったらできるか』を一緒に考えてくれる先生がはぜるには多いのもあって、山本さんの一時保育の受け入れも、前向きに検討してくれました。その結果、こども園は感染症対策をしっかりしているし、山本さんにも感染症対策をちゃんとして貰えば、制度もあるし受け入れられる事になったんです」

02assabu_hazeru08.jpg当時を振り返りながら話す木口さん

保育園留学事業ができるまで

そして冒頭のお話に戻り、町と地元の農家などで組織する「農に生きる推進協議会」がキッチハイクと「ふるさと食体験」を実施し、それをきっかけに厚沢部町を知った山本さんが訪れたのは7月のことでした。

広い園庭で走りまわりながら遊んでいる娘さんを見た時は、嬉しさに感極まり、涙が出そうになったと山本さんは言います。

02assabu_hazeru09.jpgこちらがその時の実際の写真

「こういう体験を娘にさせたいという思いがあったものの、今の住環境ではなかなか実現できないことをもどかしく思っていました。ですが、子連れでワーケーションができることが、むしろ子どもにとっての偉大な体験になると思いましたし、それが親にとっての価値につながると実感しました」

そうして、滞在期間中に役場職員の木口さんと山本さんは、子連れでのワーケーションや長期滞在について、情報交換をする場を設け、山本さんからは体験後の感想やフィードバックを、木口さんからは一時保育や認定こども園はぜるに対する想いを互いに話し合ったそうです。

「そうしたら、翌日山本さんから提案書が出てきたんですよ。二人の想いがたくさん詰まった『保育園留学』という事業になって」と、木口さん。

そう木口さんが目を丸くするのも、無理はありません。

ものすごく高い完成度の新規事業の協業提案書が、次の日に出て来たというのです。二人でこうなったらいいね、と語り合った想いが事業として形になっていたことに、とても驚いたと言います。

厚沢部という過疎が進むこのまちに、移住やイベント開催といった人との関わりだけではなく、新しい形での関係人口を創出できる切り口が生まれた瞬間でした。

「保育園留学は、 もともとあった『認定こども園はぜる』『ちょっと暮らし住宅』『厚沢部町の暮らし』を融合させた企画だったのですが、行政が関わる事業となると、早くても始められるのは来年ぐらいかな?と思っていたんです」

山本さんの想定とは裏腹に、役場内での話はトントンと進んで行きました。

02assabu_hazeru10.jpg保育園の大きな廊下から一直線で繋がる園庭

7月に山本さんの往訪があり、保育園留学のサービスリリースは10月。

実質、わずか3ヶ月でスタートすることができたのは「何も変えなくてよかったというのが一番大きい」と木口さんは言います。

今回、保育園留学という事業を始めるにあたって調整は必要だったものの、既存の制度を合わせるだけで良く、何か新しいものを作る必要はなかったというのです。

「認定こども園」という形を超えて、その先の「あり方」を見据えて作った制度や、「こういうこども園にしたいよね」と、園に勤める先生方と夢を語り合った時間が、町の新しい事業作りの土台になったのです。

世界一素敵な過疎のまちを目指す

こうして、「保育園留学」という、宿泊から保育園の一時利用までがパッケージになったサービスが形になり、受け入れに向けて走り出したのですが、反響はどうだったのでしょうか?木口さんに聞いてみました。


「すでに道内外の多くの方から問い合わせをいただいていて、テレビの取材なども入りました。保育園留学という仕組みに、皆さんからの関心の高さを感じています。やはり、他の市町村のワーケーションでは子どもの預け場所に困っていたという方が多いようで、この形を待っていたという声も聞こえてきて、とても嬉しく思っています」

サービスをリリースしてから半年間で約70件の問い合わせがあったという、本サービス。問い合わせ理由は、さまざまだそうですが1番多い理由を山本さんはこう教えてくれました。

02assabu_hazeru11.JPG

「こどもの感受性が生まれる大事な時期に、なるべく自然に触れたり、多くの経験をさせてあげたいという親心が最も多いです。特に、都市部に住むご家族で、自然に触れ合う機会が少なく、子育ての環境としてこのままでいいのか、というお悩みをみなさん抱えているようです」

また、今後の保育園留学という事業に対して、このように語ってくれました。

「まずは、厚沢部町と認定こども園はぜるが、子育て家族にとってすばらしい環境なのでぜひひとりでも多くのご家族に、厚沢部町での保育園留学を体験していただきたいと思います。長期的な展望としては、こどもや家族の暮らしを良くしていくことと、地域の過疎というのは、どちらも日本のとても重要な課題です」

そして、キッチハイク社としては山本さんはこう話します。
「厚沢部町をはじめ各地域の方々と連携しながら、この2つの課題に対して、保育園留学という形で同時に向き合い、より豊かな未来を創造していきたいと考えてます」

これから保育園留学は、さらに発展した事業に育つと思いますが

「保育園留学をしたときから、こどもがいろんなことに興味をもつようになった」
「保育園留学がよかったから、家族と話してまた来年いこうと思っている」
「保育園留学を通して、過疎のまちに人が出入りするようになった」
「まちの人たちが、まちの子育て環境に対して誇りをもち、定住するようになった」

そうした声がたくさん生まれてきたらと思っています。

02assabu_hazeru13.jpg

今後、保育園留学や中長期滞在を目的とした、20〜40代の方々の受け入れを増やし促進していくことで、厚沢部町にどのような影響があるのか、そして、保育園留学という制度で、時間を過ごした子どもたちがどのように成長をしていくのか、いろんな面でこれからがとても楽しみな事業ですよね。ぜひ、みなさんも親子で「保育園留学」を体験してみてはいかがでしょうか?

厚沢部町役場政策推進課
住所

北海道檜山郡厚沢部町新町207番地

電話

0139-64-3312

URL

https://www.town.assabu.lg.jp/


誰でも託児ができる!?ワーケーションの新しい選択肢【後編】

この記事は2021年12月23日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。