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厚沢部町

誰でも託児ができる!?ワーケーションの新しい選択肢【前編】20220216

この記事は2022年2月16日に公開した情報です。

誰でも託児ができる!?ワーケーションの新しい選択肢【前編】

日頃仕事で忙しく、子どもとの時間をなかなかつくることが難しい...。子育て世代にとっても、旅行をしながら仕事もできるという、とても魅力的な「ワーケーション」。興味を持っている方も多いのではないでしょうか?

ワーケーションについては、もう知ってるよ!という方も多いかと思いますが、改めて説明をさせてください。ワーケーションとは、「Work(ワーク)」と「Vacation(バケーション)」を合わせた造語で、いつも通勤に充てている時間や、土日祝日を旅行する時間、平日いつも通り仕事をしている時間...そこをリモートワークで働くという、2000年代初頭にアメリカで始まった「新しい働き方」です。

日本では、2017年ごろから制度を導入する企業や、長野県や和歌山県が先行して取り組んでいたものの、ごく一部の人のみが「ワーケーション」を知っている状況でした。

ワーケーションが、より多くの方々に知られるきっかけとなったのは、2020年のことです。

新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、冷え込んだ観光や地域経済を盛り上げる目的でGo To トラベル企画が始動したことは記憶に新しいかもしれません。首相官邸が2020年7月27日実施した、観光戦略実行推進会議のなかで、政府として初めてワーケーションについて言及をしたことがきっかけでメディアでも取り上げられ、より多くの人が知るようになりました。

全国さまざまな自治体が取り組むワーケーションの誘致ですが、大きく分けて3つの意図があります。

1つ目は、観光目的です。
観光を長く楽しんでもらいたい!であれば、仕事を持ってくることも必要不可欠になるであろう...という文脈でのワーケーションです。

2つ目は、企業誘致目的です。
企業誘致は多くの自治体が取り組む施策で、首都圏の企業のサテライトオフィスや支社、もしくは本社の移転などによって、住民を増やし、税収を増やすことが主旨になっています。

最後に、関係人口創出目的です。
自治体に関わる人という意味で使われるワードの「関係人口」。
いきなり移住となるとハードルがとても高いので、お試し暮らしや、ワーケーションで中長期に滞在をしてもらうことで、地域に思い入れを持ってもらい、定期的に関わり続けてもらう...という趣旨になっています。

それぞれの市町村が課題に感じている点や、力を入れたい点によって、同じワーケーションといえど、目的が大きく異なるのですが、いずれのパターンでも地域に魅力を感じてもらうために、アクティビティや地域住民との交流などを必須要件に企画をしている自治体が多く存在します。

assabu_hazeru2.jpg冬の北海道はワーケーションにもぴったりです!!

一方で、従業員を送り出す企業側が言う「ワーケーション」は、少し様相が異なり大きく分けて2パターンあります。個人で行くものなのか、それとも、会社主体で修学旅行のように団体で行くものか...というところです。

ワーケーションは、仕事をするとはいえ、「work(ワーク)」の時間を通常時と同様確保をすること、もしくは、同じパフォーマンスをしてもらうことができなければ、企業側からは、「働いている時間」として認めることは難しいですよね。

また、旅行先でのリモートワークは、仕事を行なっているため、移動中に事故や怪我が起きた時、労災の扱いをどうするのかも、判断が難しい点と言われています。(2021年12月現在)

そんな中で生まれたのが、会社主体の団体で行く「ワーケーション」です。

修学旅行のような形で、旅行会社が企画し、決められた工程を決められた時間でまわり、グループワークを行うもの。ワーケーション本来の趣旨とは、少し違うものではありますが、旅行地でリモートワークを行い、企業が就労時間などを管理できると言う意味では最適解だったのかもしれません。

一方で、ワーケーションの対象世代となる年代が、子育て世代でもあるという点も忘れてはいけません。

いつもは保育園や、小学校・学童に子どもが行っている間に仕事をしている方々も、少しだけ長期の旅行や、子どもとの夏休みや冬休みの思い出を作りたい!と思うと、ワーケーションという選択肢も非常に魅力的なのではないでしょうか?

1-2.jpg首都圏ではできないアスパラの収穫体験 写真提供:キッチハイク社

しかしながら、実施や参加者募集がされているワーケーションのプログラムを見ると、託児利用ができる施設が無かったり、アクティビティはあるものの親の同伴が必須だったりと、子連れでのバケーションはたっぷり過ごすことができても、仕事時間の確保が難しいプログラムが多いのが現状です。

そんな中、「保育園の一時保育を利用し、ワーケーションをすることができる自治体がある」と取材陣に一報が!!となると、行くしかないでしょう!!と早速、訪問しお話を伺ってきました。

厚沢部町へいざ!!!

札幌から車で4時間、函館からは車で約1時間。
北海道の南側、道南は檜山地方の真ん中に、今回訪問した厚沢部町はあります。


1-3.jpgメークイン発祥の地の看板が役場の前に!!

メークイン発祥の地と書かれた看板があるこのまちには、じゃがいものメークインが日本全国に広がるように研究開発をした農事試作場が昭和38年まであったそうです。

まちの主な産業は、農業と林業。道の駅にもたくさんの採れたての野菜と木材を用いた工芸品が並んでいました!

1-4.jpgカボチャや玉ねぎ人参などの野菜が道の駅にはたくさん並びます

今回、保育園の一時保育についてお話を聞かせてくれたのは、厚沢部町政策推進課で移住やワーケーションなどの企画を担当する木口係長です。

assabu_hazeru5.jpg木口係長にこども園を案内していただきました!!

誰でもいつでも子どもを預けられるように

そもそも...保育園やこども園には「一時預かり」という制度があるのですが、みなさんは知っていますか?


例えば、普段保育園には預けていないけれども、何か用事があるときに1日だけ子どもを保育園に預けたいという日や、普段は幼稚園に通っているけれど、延長保育もないので夕方まで預かって欲しいという時に利用ができる制度です。

しかしながら、多くの市町村では一時保育を利用できるのは「その市町村に住んでいる人」に限定されていることが多く、長期旅行先などで子どもを預けようとしても、受け入れていない自治体が多いのが現状です。

1-6.jpg広々としたホールでは、伸び伸びと遊ぶ子どもたちの姿が見られました。  写真提供:アトリエブンク社

冒頭に書いたように、子連れでのワーケーションを実施しようとした時に、ネックになるのが「子どもの預け先」です。

小学生以上のアクティビティを設けている地域は少ないながらもあるのですが、未就学児を預けることができ、仕事の時間を確保することができるワーケーション先は、日本にはまだ多くありません。

仕事をするために保育園に子どもを預けたいとなると、「住民票の移動」が原則必要になってしまうのです。

無認可保育園などは柔軟に受け入れを検討してくれる地域もありますが、ワーケーションをする土地によっては、無認可保育園がない地域や、満員の地域もあり、一様には言えません。

厚沢部町の一時保育は、その名の通り「一時」なので、元の保育園に籍を置いたまま、住民票などを移すことなく、利用することができる全国でも珍しい認可園です。(※利用日数に制限有り)

なぜ、他の市町村が実施できない...という状態の中、厚沢部町は実施することができるようになったのでしょうか?

そこには、木口係長が大きく関わっていました。

「実は、認定こども園はぜるの立ち上げを行ったのは私なのです。規約も0から作ったのですが、どんな人でも一時保育を利用できるこども園にしたいと思ったんです。なので、通常であれば『〇〇市在住の住民』という制限を設けた規約を作ると思うのですが、うちの園はそうではなく、どこに住んでいる人でも、どんな理由でも、気軽に託児を利用できるようにしたんです」

大事な子どもであったとしても、意思疎通がうまくいかなかったり、自分一人の時間を持つことができないと「親」とはいえ、気持ちの切り替えがうまくいかなかったり、つい子どもを厳しく叱ってしまって、落ち込んだりした経験がある方もいるのではないでしょうか?

そんな時、自分以外の誰かが子どもを見てくれて、一息つくだけで気持ちが落ち着いたりするものですが、なかなか保育園の一時保育枠は空いていないことが多く、預けたい日に預けられない...そのことがまたストレスを貯める要因になることもあります。

だからこそ「制限を設けずにどんな理由でも預けたいと思った時に預けられるようにした」といいます。

木口係長も3人の子を持つ父親。
ご自身の育児体験を通して、また役場業務を通して、度々託児環境について「誰でも受け入れられるようにならないかなぁ」と、思いを巡らせていたといいます。

「認定こども園はぜるを作るときに、先生方と一緒に『はぜるを目的に人が集まるようにしたいよね、日本一のこども園にしたいよね』っていいながら、色々試行錯誤して、先生方や街の保護者も一緒に考えて作り上げたんです。ただ町内にある3つの園の保育園の老朽化に伴って、全部を合わせて認定こども園を立て替えました!っていうんじゃなくて、子ども園を目的に人が集まるようになったり、移住に結びついたりしないと勿体無いって思ったんです」

1-8.jpgやりたい保育ができる環境をみんなで実現しました。提供:キッチハイク社

とはいえ、一般的に保育園や認定こども園は「地域に住む人のために作られたもの」保育料の無償化の財源は税収です。地域の人以外が使うということに対して、役場の方々から反対の声は上がらなかったのでしょうか?

「もし、『一時保育の利用料は無料です』としていたら反対の声は上がったと思います。ですが、そもそも一時保育は利用した分の利用料をいただくという形をとっています。なので、町の財源から何かお金を出しているというものではないんです。あとは保育園の定員に少しだけ余裕があるというのもポイントなのかもしれません」

利用した分は利用料をいただくという点と、保育園の定員に余裕があるという点の二つが今回上手く合わさり、トントンと一時保育の受け入れ条件を広める事に関しての話が役場の中でも進んでいったといいます。

「より良くしたい」が全ての源

全国にも例があまりない今回の制度を作った木口係長は、どんな人なのか、どういうバックグランドであれば新しいことにチャレンジできるのだろうと、とても気になり生い立ちを伺ってみました。


木口係長は厚沢部町生まれ、厚沢部町育ち。

専門学校の時だけ、札幌に2年間住んだものの、その後20歳のときに厚沢部町役場に採用され、役場職員として働き出したと言います。

「実家も厚沢部町ですし、高校は江差に通っていたのですが、本当にずっと厚沢部ですね。役場職員になって早20年が経ちました」

assabu_hazeru9.pngたくさん想いを語ってくださった木口係長

役場の職員になった当初、先輩職員は友達のお父さんたちが多いという、なんだか気まずい環境なのでは?とも思いますが、木口係長は気まずさよりも「どうやったら友達のお父さんが仕事で楽になるだろう」ということを考えながら、先輩職員が楽になるために細かい作業をサポートする役割に回ることが多かったと言います。

「気がついたら、(先輩が)やらなきゃいけない仕事が終わっていたっていう状態を作るのが好きなんですよね」

新卒の時から、周りの人のことをよく見て行動していたそうですが、働き方や、勉強の仕方が大きく変わったのは津野さんという上司に出会ったことが始まりだったと言います。

「自分が総務にいたときの上司で、すごく発想豊かな人なんです。いろんな研修に行かせてもらって、町の外の人とたくさん情報交換をしたり勉強をさせてもらいました」

町には、「まちづくり研修」という、他の市町村の事例を見て、自分の町の施策に活かすといった趣旨の研修があるものの、行く人が誰もいなかったというのです。

「誰も行かないのをいいことに、ものすごくいろんなところに視察や研修に行かせてもらいました。徳島や長野、海士町にも。しまいには『木口くんは研修に行き過ぎだから、他の人に行ってもらいなさい』と名前を見ただけで言われるようになってしまいました(笑)」

多くの視察や研修に行き、視野を広めることができたという木口係長。多くの研修にいった先に思うものがありました。

「研修にいった報告書を決裁するだけだったら誰も見ないし、せっかく研修に行ったのであれば、役場のみんなに還元をしたいという思いがあって。みんなに見てもらうためにはどうしたら良いのかなと、町長に資料を作ってプレゼンをしたり、そのプレゼンを職員全体に見てもらえるようにしたり、少しでもまちが良くなるように繋げて行きたかったんです」

研修をして、全職員が聞けるように説明会をしてという行動をしていた中で、ふと気づいたことがあると言います。

assabu_hazeru8.jpg

「いくら良い研修を受けても、説明会や会議でいいことを言ったとしても、実際に行動に移して、何かを変えたり作ったりしていかないと、意味がないって思うようになったんです。いいなと思ったことは、どうやったらやれるかを考えようって」

目の前にあることを、前年通り、元ある通りにやるのではなく、より良くしていきたいという思いから、初めて作る書類は日付だけ変えるのではなく、全部一回自分の手で打って作るなど、「仕事を理解する」ということに、力を注いでいた木口係長にとって、何かを改善すること、そしてより良いものを作り上げるということは、身体に染みついた働き方なのかもしれません。

次回は、そんな一時保育制度を拡充した厚沢部町に初めての道外からの利用者が訪れます。

そこから、「保育園留学」なる新しい事業が町に誕生して行きますのでお楽しみに!!

厚沢部町役場政策推進課
住所

北海道檜山郡厚沢部町新町207番地

電話

0139-64-3312

URL

https://www.town.assabu.lg.jp/


誰でも託児ができる!?ワーケーションの新しい選択肢【前編】

この記事は2021年12月23日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。