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まちおこしレポート
別海町

あらゆる垣根を超える新世代の漁師、自由な発想で描く尾岱沼の未来20210520

この記事は2021年5月20日に公開した情報です。

あらゆる垣根を超える新世代の漁師、自由な発想で描く尾岱沼の未来

「人口の7倍の牛がいる町」で有名な別海町。
どこまでも続く広大な牧草地帯で、のびのびと草を反芻する牛の数は総勢11万頭超!生乳生産量はなんと全国一の酪農大国です。
その名のとおり、海とは完全に別世界かと思いきや、不思議や不思議。なんと一つのまちに「別海漁業協同組合」と「野付漁業協同組合」の二つの漁協がある漁業のまちでもあるのです。
そんな別海町観光協会公式キャラは「別海りょウシくん」。ねじり鉢巻きに寸胴を装備した、食いしん坊でキュートなキャラクターですが、なるほど漁師と牛。しっかりまちの特徴を全身でPRしています。

別海町の海産物って?

取材に伺った日は願ってもない好天に恵まれたので、アポイントまでの時間を利用して、より深く別海の漁業を知るために欠かせないスポット・野付半島に向かうくらしごとチーム。決して観光とかドライブとかではないのです。ほんとです。
国後島を左手に眺めながら、国道244号線を標津町方面から別海町方面に向かうと左手に道道950号線が。ここが野付半島の入り口です。

しばらく進むとカントリーサインが見えてきました。...むむ?この先は行き止まりのはず。ということは?そうです、野付半島は途中で標津側と別海側に分かれていました!ここから先は「標津町を通らないとたどり着けない別海町」というわけです、そうだったのか!
突然突きつけられたミステリーにひとしきり盛り上がるくらしごとチームですが、それ以上に我々の目を奪ったのは、総延長20㎞以上に及ぶ砂嘴(さし)が作り出した野付湾の美しさと、その反対側に広がる雄々しい海(オホーツク海)の絶景です。

これこそ別海町の海産物が豊かな理由。代表的な海産物の一つが、野付湾で水揚げされるホッカイシマエビです。
北海道のハレの日には欠かせないこちらのエビの漁期は、6月中旬~7月末と10月中旬~11月中旬。この時期になると、白い三角形の帆に風を受けて進む打瀬(うたせ)船が湾内に浮かぶ、どこか風流な光景が見られます。野付湾を目の前に望む尾岱沼(おだいとう)地区に住む方たちにとっては、心の原風景でもあるそうです。
あまり他では見られない漁法ですが、これにはちゃんと理由があります。

sibetuhassinnkai36.JPG野鳥にとっても天国。穏やかな野付湾の風景
野付湾の深さはおよそ2m~5mと非常に浅く、一般的な漁船では入ることができません。この浅瀬に生息しているのが、「アマモ」と呼ばれ海の生態系にとって重要な働きをしているといわれている海藻です。
明治時代から続く打瀬船での曳網漁は、船外機やスクリューでアマモを傷つけずに行なえる、水深の浅い野付湾ならではの漁法というわけです。そしてアマモはホッカイシマエビにとって格好の棲処となっているため、アマモを守ることは貴重な海産資源であるホッカイシマエビを守ることにもつながっています。

野付半島沖で獲れる、豊富なプランクトンを食べて成長した甘みの強いホタテも忘れてはいけません。野付のホタテは例年12月~5月頃に水揚げされ、一級品として全国に出荷されています。

突然ですが、ここで読者の皆さんに質問です。
Q.ホタテの養殖と聞いてイメージするのはどんな方法でしょうか?

odaitou10.JPG野付のホタテは一般的なホタテに比べて1.5倍にもなるのだとか
「耳吊り!」と答えたアナタは北海道の南西側にご縁がありそう。かく言う私も室蘭出身。噴火湾でホタテと言えば、稚貝を連ねて海にぶら下げる耳吊りをイメージするのですが、というか、ホタテの養殖は全部そうだと思っていましたが、なんと北海道は広いことでしょう。ここ野付でホタテの養殖と言えば「地撒き(じまき)」なのだそうです。どういう養殖方法なのでしょうか?
地撒きとは読んで字の如く、海に直接ホタテの稚貝をバラ撒き、ある程度自然に任せて育てる養殖方法だそうです。もちろんどこかに行ってしまわないように、区画を作って放流していますが、耳吊りとの一番の違いは「ホタテが自分の力で動き回ることができる」ということ。
ホタテ漁の関係者からは「鍛え上げられた貝柱は耳吊りよりも力強くてうまい」という声も上がるそうですが、うーむ、そういわれると一理あるのかも...?という気になります。逆に耳吊りは、地面に降りずに大きくなるため、ほとんど砂を噛まないのだとか。
なるほど、同じホタテでも地域と漁法によって個性があるんですね。

子どもの頃から目標は漁師一筋

すっかり別海町=海のまち!というイメージが固まったところで、今回お話を伺ったのは、野付漁業協同組合に所属し、サケの定置網やホタテの桁曳き網漁を行なう側ら、地元・尾岱沼の活性化に尽力する、藤村亮太さん。

odaitou3.JPG前列、左が藤村さん。漁師は天職!
藤村さんは生まれも育ちも別海町尾岱沼。漁師の家に生まれ、「生まれた瞬間から漁師を目指してきた」という方。途中で一瞬ブルドーザーの運転手もいいな、と思ったそうですが、その理由も漁の準備作業でタイヤショベルを運転するお父さんの姿を隣で見ていたから。最終的に道は全て「漁師」につながっていました。
漁師になるため高校は尾岱沼を出て小樽水産高校に進学。高校卒業後は故郷に戻った藤村さんですが、お父さんと一緒に漁に出ていないそうです。
「昔からの慣習で、親子で同じ番屋に入ることはまず無いんです。私も小樽から戻ると、すでに父が修業先を決めてくれていました」
こうして標津町にいる、お父様の知人の元で定置網漁を5年。その後は野付に戻り、サケの定置網漁の修業を始め今に至るそうで、修業は19年目に突入。
標津町波心会

前回記事はこちら

のお二人とも親交の深い間柄で、住んでいるまちは違えど目指すビジョンが同じ漁師仲間です。また柔道の指導員としての顔も持ち、波心会、林さんのお子さんを全道大会3位!に導いた名トレーナーでもあります。
プライベートでは四姉妹の父でもあり、波心会の林さん曰く「めちゃくちゃモテる」と評判の藤村さん。普段の温和な表情と物腰の柔らかさと、勇ましい漁師姿とのギャップはかなり女性票を集めそうです。(う、うらやましい...)

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尾岱沼で25年ぶりの花火大会を開催

さて、そんな藤村さんの記憶に焼き付いている懐かしい情景があります。それは、子供の頃に自宅のベランダから見た花火の美しさです。

実は尾岱沼地区で打ち上げられた花火大会は、25年以上前の「尾岱沼えびまつり」が最後。「港から上がる花火を眺めていた思い出。その感動を、今の尾岱沼の子供たちとも共有したい」という思いが藤村さんを突き動かします。その裏には、「子どもたちに故郷・尾岱沼のことを、もっともっと好きになってもらいたい」。という願いがありました。

花火復活のため、仲間と共に「尾岱沼花火実行委員会」を結成したのが2019年秋。補助金の申請や打ち上げ会場の交渉など準備を進めていた矢先に、新型コロナウイルスが全世界を襲います。
それでもあきらめず周囲の賛同を集め、今できる範囲でやろうと決意。花火業者に委託するのではなく、自分たちで打ち上げました。

むむ!
自分たちで打ち上げる!
そんなことが!?

百聞は一見に如かず、ぜひ尾岱沼花火実行委員会のFacebook、2020年8月9日の投稿動画をチェック!

投稿動画をチェック!!

花火は市販品の1本1000円程度のものを約300発購入。
市販品と聞いて侮ることなかれ。スタンダードな花火だけでなく、迫力満点のナイヤガラや、スターマインのように上空ではじけて無数の星が炸裂するような仕掛け物まであり、見ごたえばっちり。音楽の臨場感も相まって、とても素人が上げているとは思えないクオリティです。

「300個の花火を並べるのも大変でしたが、一個一個火をつけるのがまた大変でした。曲に合わせてのタイムラグも計算しながらでしたから」と振り返る藤村さん。その笑顔からは、大変さというより楽しさが伝わってきます。

odaitou16.jpg並べるのも火を付けるのも全て手作業で
打ち上げ会場となったのは町営「尾岱沼スケートリンク場」。本当は野付半島で打ち上げたかったそうですが、彼の地は言わずと知れた鳥獣保護区。一応藤村さんが問い合わせて見たところ、「ラムサール条約的にもNG」との回答だったそうです。

開催にあたっては、志を一つにする仲間たちはもちろん、地元中学生と学校関係者の協力が大きかったと言います。
「まちの外から来てくれる方はもちろん、元々住んでる人にも尾岱沼を好きになってもらいたいという気持ちでスタートしました。そこで中学校に協力のお願いをしたところ、校長先生はじめ学校関係者から多くの応援をいただけたことは、とても心強かったたです」
当日は20名の学生ボランティアの力を借りて、花火の設置作業や会場整備・コロナ対策を行なったほか、地元「野付龍陣太鼓」に所属する生徒に太鼓叩いてもらったりと、年齢や立場を超えた協働が生まれていました。

「尾岱沼で生まれた子供たちの多くは、いつかまちを出るでしょう。その時に、『ああ、自分が育った尾岱沼というまちは、いいまちだったな』と、故郷に自信を持って旅立って欲しいんです。花火に関わってもらうことで、より強くその気持ちを持ってもらえるんじゃないかと思いました」

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花火大会開催後は関係者の達成感だけでなく、まちのひとからの反応も非常によく、手伝ってくれた中学生も含め一体感が高まったそうです。また花火業者さんとのつながりもでき、今後はさらに規模を拡大できる可能性も...。いつの日かトドワラを照らす大輪の花火が見られることに期待しましょう!

大組織のメリットとデメリットを実感

別海町には別海漁業協同組合と野付漁業協同組合の2つの組合があります。新型コロナウイルスが現れるより以前は、例年10月に両青年部の合同事業として、小学校でサケ漁の仕組みを教える授業を実施していました。内容は座学と実技に分かれていて、まずはサケ漁の方法や使用する漁具の紹介をはじめ、漁師の一日のスケジュールや選別の目利きなどの説明を座学で行ないます。さらに実技では家庭科室に移動し、サケの3枚下ろしのやり方を教え、生徒に実際に捌かせます。一昨年までは身は生徒が持ち帰り、イクラは青年部が醤油漬けにして後日給食の時間に生徒に食べてもらっていたそう。

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なんて贅沢な食育体験!
※残念ながら現在はウイルス感染防止の観点から、授業は座学のみ。魚を扱う実技は行なっていないそうです。

さらに別海町では、各漁業協同組合ごとにサケやアサリやホタテ(何とバター付き!)の町民配布も行なっているそうです、なんとうらやましい...。

こうした取り組みの実績があったことから、「漁師がやることは漁協青年部で何でもできる」と思っていた藤原さんですが、実際に自分で動いてみたところ、枠組みのしっかりした組織ゆえの良さもあれば、手続きの多さや承認までのハードルなど、動きづらい一面もあることを知りました。
それもあって「尾岱沼花火」は実行委員会形式で開催しましたが、元々「尾岱沼の良いところを広く発信し、まちの知名度を上げていきたい」と思っていた藤村さん。今後の活動を行なうにあたって「尾岱沼花火実行委員会」名義だと活動内容とのギャップがありそうだとも感じていました。

新たな団体「RINC」の発足とこれから

そこで、尾岱沼花火も含め、より幅広い取り組みを身軽に実行するために立ち上げたのが「RINC」です。RISING(日の出)、NOTSUKE(野付)、CONECT(つながる)の頭文字をとり命名しました。
21年4月現在8人いるメンバーは、半分が漁業関係者。他に仲買いや鉄工所・ガソリンスタンドなど幅広い業種の有志で運営しています。

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今年からデザイナーを含む2名のSNS部隊も増強したRINC。「今はまだ、コロナの影響もあり、予定していたイベントなどが中止になったりして実績を作ることができていませんが、いずれはメンバーそれぞれの業務をきちんと仕事として対価を得られるように事業化していきたいです」と抱負を聞かせてくれました。

「別海」や「野付半島」という地名に比べると、「尾岱沼」はもう一歩だと藤村さんは感じています。その一歩を自分たちで踏み出すために、これからやってみたいことは?という質問をすると、真っ先に「漁業と観光のコラボレーション」という答えが。
観光シーズンにはクルージングやアサリの潮干狩りが楽しめる尾岱沼。確かに観光と漁業の接点は多そうです。
「クルージングで景色を楽しみ、アサリ掘り体験をし、自分で採ったアサリを含めた海鮮BQQキャンプまでをセットで提供するなど、尾岱沼をもっと知ってもらえる観光メニューを企画していきたいですね。農家さんとのコラボにも取り組んでみたいです」。
尾岱沼の良さを生かしたアイディアはどんどん溢れてきます。

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漁師や農家、行政や民間、といったあらゆる垣根を軽々と超え、自由な発想で地元・尾岱沼の未来を楽しくする。
そこには、藤村さん自身の、職業や年齢や地域などによる壁をつくらない、しなやかな人間性があるように感じました。

「おだいとう」の名前が全国区になる日も遠くないかも知れません。
前回記事の「波心会」に続き、今後の「RINC」の活動にも是非注目です!

尾岱沼 「RINC」 代表 藤村亮太さん
尾岱沼 「RINC」 代表 藤村亮太さん
住所

北海道野付郡別海町尾岱沼

URL

https://www.facebook.com/尾岱沼花火実行委員会-110613507038546/

RINCの活動はFBを要チェック


あらゆる垣根を超える新世代の漁師、自由な発想で描く尾岱沼の未来

この記事は2021年4月2日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。