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まちおこしレポート
室蘭市

観光名所や名物だけじゃない!まちの深い魅力を掘り起こす編集者20200827

この記事は2020年8月27日に公開した情報です。

観光名所や名物だけじゃない!まちの深い魅力を掘り起こす編集者

以前くらしごとでは、北海道室蘭市で観光を盛り上げようと活動する、室蘭観光協会の取り組みを記事でご紹介しました。
観光地ではないまちに眠る観光資源を掘り起こす

産業のまち、鉄のまちとして有名で、日本12大工場夜景の一つである工場夜景はいまや観光資源として定着しています。グルメでは名物の室蘭やきとり・カレーラーメンなどが有名で、また様々な作品のロケ地としても有名になりつつあります。観光地というイメージよりは、まだ一般的には工業のイメージが強いと思われる室蘭ですが、観光協会や地域の方の取り組みを通じ、観光を楽しめるエリアであることも認知されつつあるのではないでしょうか。

今回お話をうかがったのは、室蘭市在住のフリー編集者、佐藤大輔さん。「BROCKEN」という屋号で、編集企画を中心に、ライティング、デザインと幅広くお仕事しています。この佐藤さんも、今室蘭を観光で盛り上げようとしている方のおひとりです。
2018年から、室蘭市で第一号であり、2020年現在唯一の地域おこし協力隊員として室蘭の魅力を広く発信し、観光資源を見つけ出したり、新たに作り出したりなど、幅広く精力的に活動されています。

室蘭を飛び出して

声優顔負けの渋い声で、落ち着いた語り口の佐藤さん。今までの人生のエピソードを伺うと、端からみると大変な状況に直面していることも結構あるのですが、逆にそんな状況だからこそ楽しんでいるような、独特の大らかさが感じられるので不思議です。

生まれ育ちも北海道室蘭市で、高校時代まで過ごした佐藤さんは、大学進学で初めて地元をはなれ、北海道恵庭市の北海道文教大学中国語(北京語)専攻へ進みます。
当時は、まだ日本に来る中国人観光客の数はそこまで多くなく、年間100万人にも届かない水準だったそうですが(2019年では約10倍の約950万人強)、
「どんどん発展している隣国ですし、いつか中国語が必要になる時代が来るのではないか?という直感で中国語を学ぼうと思いました。当時北海道で中国語を第一外国語として学べる学部があるのはここだけだったと思います。大学2年のときに、姉妹校である中国陝西省西安市『西安外国語学院』へ交換留学の権利を得て中国大陸に初上陸したのですが、ちょうど滞在中にSARSが流行してしまい・・・志なかばで日本へ強制的に帰国することになってしまいました(苦笑)」

muroran_sd_04.jpgお話を伺ったのはカフェ英国館にて

もう少し中国で学びたかったと話す佐藤さんですが、その後大学を卒業し、新卒では大手旅行代理店に法人営業職として就職したのだそう。
このときすでに観光に興味があったのかというと、実は特に観光業界に絞って就職活動をしたわけではなく、偶然のご縁だったのだとか。
「留学先の中国で刺激を受けて、もっと色々世界を見てみたいっていう気持ちになったのかもしれません」と話します。2年間、ツアーを企画したり受託したツアーに添乗員として同行したりというお仕事を経験します。そして会社の退職後は、「中国以外にも、世界中に行ってみるタイミングがあるとすれば今しかない!」と世界12カ国を回る旅に出発したのだそうです。

世界を周る旅で発見したこと

約半年かけて、香港、中国、ベトナム、カンボジア、タイ、インド、エジプト、スペイン、ペルー、チリ(イースター島)、ブラジル、アルゼンチンをめぐり、宿はバックパッカーが泊まる規模のところを渡り歩いたといいます。
どの国でも、日本との文化の違いに刺激を受けたそうですが、中でも思い出に残っているエピソードについて質問してみました。

「イースター島と室蘭の風景がすごく似ていると思ったんです。海も緑もあって、海岸沿いには低い笹のような植物がたくさん生えていて、岩に茂っているように見える風景とか、ろうそく岩がちょこんってある感じも似てるなと思いました。あくまで北海道と似ているんじゃなくて、『室蘭と』似ていると思ったんですよね」


イースター島といえばモアイ像が真っ先に思い浮かび、室蘭と似ているとは意外という印象です!地域おこし協力隊として登壇した室蘭のまちづくりトークイベントでも、イースター島と室蘭の風景を重ねることで、室蘭の自然の素晴らしさやポテンシャルの高さを発表し、参加者の皆さんにも室蘭の良さを再認識してもらえたのだといいます。

そして、こんな出来事も。「旅の終盤のペルーでは、室蘭出身だという女性に会ったんです。その女性に『室蘭に面白い知り合いがいますよ』と紹介してもらって、そこでご縁を繋いでもらったのが、現在室蘭市議会議員を務める南川達彦さん。旅を終えて室蘭に帰ってからは、室蘭の測量山から天ぷら油のエネルギーで光の柱を立てるという『光のアートプロジェクト』にもスタッフとして参加させてもらったりもしました」
海外旅行で偶然同郷の方と出会い、その後の繋がりも生まれるとは、驚くべきめぐり合わせですね。

旅の途中では、「インドでは子どもたちと遊んでいるときにガンジス川の水が肺に入り、肺炎で入院するという、なかなかスリリングな体験もありましたね」とも話す佐藤さん。異国の地で病気に・・・さぞ不安だったのでは?と問いかける取材班に、「いい思い出でしたよ〜。病院はインドで過ごしたどこよりも綺麗でしたし、シャワーも安宿とは違って、水ではなくお湯が出ましたし。海外旅行保険使えることもわかってくれてたので、最上級のおもてなしでしたね(笑)」と笑います。

編集の仕事との出会いは偶然!

世界一周を終えた佐藤さんは、とにかく旅行でカツカツになってしまった生活費を稼ぐため、札幌で高時給の派遣社員の仕事を転々とする日々だったそうです。

「日雇いの派遣(当時は認可)やホテルの立ち上げなどを転々として、次に求人を見つけて入りたいと思った会社は残念ながらすでに募集を締め切っていて・・・ところが、グループ会社である北海道の旅行情報誌を発行する会社がまだ募集しているようだよ、と紹介してくれたんです。同じ営業職で、時給も同じだったので、その会社に派遣社員で入社して、その後社員登用していただきました。この会社は、営業部と編集部の2つの部署があって、営業では約2年くらい、札幌を拠点にしながら北海道富良野エリアを走り周る生活を続けていましたね」

その後、突然の社内の辞令で編集部へ異動することに。希望は出していなかったといいますから、新卒以来ほとんど営業職でお仕事してきた佐藤さんにとって大きな衝撃だったことでしょう。このことがきっかけで、佐藤さんの編集者人生がスタートします。

muroran_sd_01.jpg室蘭観光協会の仲嶋さんとツーショット!

「北海道全域をカバーしていた媒体だったので、編集部の中でもエリアごとに担当をわけており、室蘭を含む西胆振エリア(北海道の左下、胆振管内の中でも西側のエリア。登別市、室蘭市、伊達市、洞爺湖町、壮瞥町、豊浦町)を担当した時期もありました。市町村とのタイアップ記事なども担当する中で色々な人に出会い、繋がりができていきましたね。室蘭観光協会の仲嶋さん(冒頭で挙げた記事でお話を伺っています)と出会うことができたのも、この編集部で働いていたからで、そういった繋がりで協力隊の募集にも声をかけていただくきっかけにもなったんです。今胆振エリアのPRの仕事ができているのもこのときの経験があったからこそだと思っています」
編集の仕事はかなりハードでしたけど(笑)と笑います。

佐藤さんが当時の雑誌編集でその個性を発揮していた点は、北海道中で読まれているメジャーな雑誌で、いわば「王道」が求められる中で、万人に違和感なく受け入れられる企画を土台としながらも、どこかに1つは『あれ?このネタちょっと渋くない?!』と、良い意味で感性にひっかかったり、ツウな方はついクスっとしてしまうようなエッセンスを入れることでした。きっと現在のお仕事でも存分にいきていることに違いありません。

故郷・室蘭へUターン

編集部に異動してからは、大学時代からのお付き合いである奥様と結婚し、お子さんも誕生しました。約10年近くとにかくがむしゃらに働き続け、次第に次のステップを考え始めた佐藤さん。家族のこと、故郷である室蘭のこと、これから先の人生を考え、札幌からUターンで室蘭に戻ることを決意するに至ったのだといいます。

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「家族で室蘭に戻ったあとは、個人事業主として『BROCKEN』を屋号としながら、フリーの編集者として働いています。前職の旅行雑誌の編集業は、今も外部協力者として企画・ライティングを続けていますね。ほか、北海道の著名な情報WEBメディアでもライター・カメラマンをしていました(現在はサイトの運営会社変更により活動休止)。そういったお仕事も、前職でライターさんとしてお世話になっていた方に声をかけてもらったりして、ご縁があったものですね」

そして現在のもう1つのお仕事、地域おこし協力隊についてお話を聞いてみましょう。
観光課でのお仕事なので、「観光資源の掘り起こしや魅力づくり・発信」などがメインとなっているのだといいます。業務は観光課からのオーダーを基本に、自身で企画提案するものなどさまざま。企画立案、観光施設のリニューアル、デザイン業務など幅広い役割を担っているといいますが、今までの任期中どのような活動をしてきたのでしょうか?

「任期中に行った大きな活動のひとつは、令和元年5月に日本遺産登録された炭鉄港のストーリー(近代北海道を築く基となった三都(空知・室蘭・小樽)を、石炭・鉄鋼・港湾・鉄道というテーマで結ぶことにより、人と知識の新たな動きを作り出そうとする取り組み)に関することですね。元々科学館にあったSLも、炭鉄港を知ってもらう拠点としてあるべき場所(駅舎)に移し、それだけだとさみしいので、駅舎の中にパネル展示や、お土産品を設置しようという構想で、実際のお土産品を企画しました」

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お土産品として喜んでもらえるもの、炭鉄港を盛り上げられるもの・・・
そこで佐藤さんが考えたのが、お土産として気軽に持ち帰れて、旅の思い出にもなるピンバッジの販売と、記念硬券(日本の明治の鉄道創業期より鉄道会社の乗車券のスタンダードとして使用されていた、厚紙で出来た切符)の販売でした。ピンバッジのデザインは、佐藤さん自らされたのだそうです。

そのほか、道の駅「みたら室蘭」のリニューアル業務なども担ってきたといいます。売場の値札の統一や商品配置や動線について、売場設計に造詣の深いサツドラホールディングス株式会社執行役員の大内秀伸さんにイチから学ぶ講習会を開催し、より良い売場づくりに携わります。また、魅力づくりの一環として、地元企業とお土産品の開発も行いました。クッキーや、木でできた南京錠などの新商品を作ったのだそうです。

これからのアウトドアイベントのあり方を模索

2021年3月で3年の任期を満了する佐藤さんの活動の集大成とも言えるのが、2020年9月開催予定のアウトドアイベント「Outdoor base camp ムロランワンパク〜2020はだんパラだョ!全員集合〜」。
佐藤さんが実行委員長を務めており、9月19日(土)・20日(日)の2日間で開催予定です。

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muroran_sd_22.jpgデスクワークは観光協会の中で行います

「室蘭=アウトドアって、あまり結びつかない方も多いかもしれません。でも実は『だんパラ公園』というあまり知られていないけど良いキャンプ場があるんです。木や林が多くて、水道や水事場、トイレも整っていて無料で利用できるという素晴らしいキャンプ場なんです。ちょうど野外ステージのあるイベント広場もあります。ここで室蘭の観光資源の1つとして、知られていないけど豊かな自然を活かしたアウトドアの可能性をこのイベントで探ってみたいと思い企画しました。『遊び(アクティビティ)、グルメ、音楽』を柱に、野外で過ごす1日を通して老若男女隔てなく笑顔になれる2日間を作りたいと思っています。参加してくれた人が情報発信をしてくれることで、室蘭のPRや今後室蘭以外の人にも多く訪れてもらえる場所になることも目指しています」

muroran_sd_23.JPGフライヤー制作中の1コマ

WEBサイトは、地元室蘭のWEBデザイン会社「BEE8,」が作成。アクティビティでは、秀岳荘やいきものいんくなどが参加し、スラックライン、ハンモック、自然ツアー、ツリーイング、いきもの展示、かご編み体験などで盛り上げてくれるそうです。飲食物は室蘭やきとりで有名な伊勢広さんなど、様々な企業・地域で一体となり取り組みます。

まだコロナについて十分気をつける必要がある中での開催準備やリスクへの対応は、想像以上に多岐にわたるものだったといいます。
「屋外イベントといえど、リスクがないわけではないので、参加者の見えないところでも現実的な対策を多岐に渡りおこなっています。料理の提供も、スマートフォンや携帯電話を使って注文・取りに来てもらうなど、できるだけ人が密集する場所を作らないようにしています。その他、対策をする中でも楽しんでもらえるよう、フェイスシールドに木や葉っぱで装飾ができる取り組みなども考えています。またアウトドア体験は、事前に時間枠を設けて申し込み制とし、参加者同士が密集する機会を減らしています」

キャンプやアウトドアを楽しみながら、遊びあり、音楽あり、美味しいグルメあり、と盛りだくさんなこのイベント。「こういった状況下で開催するイベントの、新しいスタイルになればという思いです」と佐藤さんは話します。

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ちなみに、会場である「だんパラ公園」。ちょっと重厚感を感じさせる響きですが、実は「家族だんらんパラダイス」の略なのだそうですよ。

室蘭の可能性を探り続ける

最後に・・・札幌から室蘭に戻ろうと思った理由は、故郷であること以外に何かあったのですか?という質問をぶつけてみました。

「室蘭って、住んでいても知らないこと・わからないことが結構あって・・・『知られざる室蘭を掘り起こしたくて』戻ってきたんだと思います。まちとしての歴史も深い分、これがまた掘ったらいくらでも面白いものが出てきたんです。例えば、伊達の野菜と地元の海産物が入ってくるから実はイタリアンが美味しいお店がたくさんあるとか、全国でも2%しかやってないと言われる釜火で作った間嶋豆腐店の100年豆腐(気泡の大きさがうまく調整されてるから煮物にしたら味がしみてめちゃくちゃうまい、のだそうです)とか、北海道で捕れる魚のうち種類だけならここ室蘭で7割が捕れるとか、表に出ていない魅力がいっぱいあるんです。協力隊の活動や、取材・WEBでの情報発信などを通じて、今後もっと伝えていきたいですね」

muroran_sd_13.jpgデスクワークは観光協会の中で

他にも「裏がある感じがいい」「まるで魔界(まだまだ何があるかわからない、という褒め言葉)」など、佐藤さん節で室蘭愛を表現した言葉がたくさん出てきます。表には地球岬やカレーラーメンのようなメジャーなものがあり、掘っていったらニッチな魅力がどんどん飛び出してくる、そんなイメージなのでしょう。魅力を掘り起こしていく最中には、いわゆる普通の視点とそこから角度を変えた視点の両方を持つこと、細部に面白さを感じるアンテナ・センスが必須なのだろうと想像できます。長年たくさんの情報を見聞きし、人に面白さを伝えていくことを考え実践し続けてきた、編集者の佐藤さんだからこそできる発掘作業です。

そして、室蘭の伝えていきたいことのもうひとつのキーワードは「自然」だといいます。

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「これだけの自然が工場と同居しているというすごさが伝わればいいなと思います。山もあって海もあって、それぞれ20分くらいで行き来ができて、その上工場がはぐくんだものづくりとかレトロな風情があるのが室蘭なんです。あまり知られてないですが、渡り鳥があつまって上昇気流をとらえる「鷹柱(鳥が越冬地までの数千kmを旅するために、上昇気流に乗ることで高度をかせぐ様子)」が見られる場所や、カマイルカが子育てをしにくる海なんかもあるんですよ」

その魅力にもっと触れてみたくなる情報がどんどん飛び出す、味わい深いまち室蘭。
知られざる室蘭の魅力を届けてくれる佐藤さんの活動に、今後ぜひ注目してみてください。

佐藤大輔さん(Brocken/室蘭市地域おこし協力隊)
住所

室蘭観光協会/室蘭市海岸町1丁目5番1号(一般社団法人室蘭観光協会内)

電話

室蘭観光協会/0143-23-0102

◎佐藤さんが室蘭の情報発信をしているブログ「鉄の国から」


◎イベントWEBサイト(ムロランワンパク)ムロランワンパク2020


観光名所や名物だけじゃない!まちの深い魅力を掘り起こす編集者

この記事は2020年7月17日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。