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まちおこしレポート
室蘭市

観光地ではないまちに眠る観光資源を掘り起こす20170508

この記事は2017年5月8日に公開した情報です。

観光地ではないまちに眠る観光資源を掘り起こす

観光協会のシゴト

「室蘭を知ってもらうことができる、情報を提供して足を運んでいただくことができる。これが観光協会の仕事の面白さです。まちに活気が生まれ、訪れた方が消費をすることでまちに経済的な面でも貢献もできます。楽しいですね。一方で様々な評価をいただきます。いわば私たちの成績表のようなものです。良いことばかりではなく、時には苦情や意見なども。厳しさとやりがいの両方を感じる瞬間です」
室蘭観光協会に勤務する仲嶋憲一さんは、こう仕事の意義と面白さを表現します。仲嶋さんが観光協会に入ったのは平成17年。出身は隣まち・登別市。今も登別から通っているそうです。

「登別と室蘭は一つのまちのような地元感覚です。高校は室蘭でした。登別の地元の青年部でまちづくり活動をしていたこともあり、何かできることもありそうだと、応募しました。登別には登別温泉という一大観光地がありますが、室蘭は一般的には観光イメージのないまちです。だからこそ、やりがいもあると思ったのです」

確かに室蘭は観光地というより、産業のまち、鉄のまち、港まちとしてのイメージが強いと言えます。ところが、観光協会の前身である「室蘭宣伝協会」が設立されたのは昭和6年と古く、函館観光協会(現・函館国際観光コンベンション協会)の昭和10年、小樽観光協会の昭和21年より長い歴史を持っているのです。この室蘭宣伝協会、資料もあまりなく活動の実態が分からないのですが、室蘭は開拓以降、函館と札幌をむすぶ「札幌本道」の要衝地として栄えました。噴火湾の対岸にある森町から室蘭へ船(森蘭航路)で渡り、現在の国道36号をたどって札幌へと人や物資が運ばれていました。昭和3年の室蘭本線全通と、それに伴う森蘭航路の廃止などがありましたが、各地から人が集まる場所に、「まちを宣伝する組織」が生まれたとしても不思議ではありません。

こうした歴史ある観光協会で働く仲嶋さんに、室蘭の魅力をお話しいただきました。

muroran_kankou2.jpg各地へ出かけてまちを発信するのも観光協会の大切なシゴト

muroran_kankou3.jpg姉妹都市の新潟県上越市でのイベント、右は来年フェリーが就航する岩手県宮古市への出展

お気に入り夜景スポットを探すのも楽しい

噴火湾の中にもう一つの湾の地形を持つのが室蘭です。室蘭港を囲むように崖や丘陵で形成され、市内の至る所にまちを見下ろす眺望スポットがあります。だからこそ、近年人気の工場夜景も1ヵ所だけの展望の名所ではなく、いろいろな場所、角度から楽しめ、それらを周るリピーターも増加しているのです。


「過去の資料をさかのぼると、これまでも何度か夜景活用のプランが出ていたようなのですが定着はしませんでした。ただ、以前は夜景に『工場』というキーワードはありませんでした。当時も工場はそこにあったのですが、室蘭の夜景という大きなくくりで進められていたのです。今は『工場夜景』という古くて新しいアイテムで、広く認知していただいています。個人的には私は測量山からの眺めが大好きですね」

muroran_kankou4.jpg測量山からの夜景。以前は札幌本道の道筋を山頂から見当をつけたことから「見当山」と呼ばれ、後に測量の基点となって現在の名となった(室蘭観光協会提供)

工場夜景を気軽に楽しんでもらうため、平成22年から運行されている船での工場夜景クルーズに加えて、平成25年からは室蘭夜景見学バスも運行しています。6~10月の毎週土曜日の夜、約2時間半をかけて市内の夜景スポットを巡るというもので、昨年は約800人が利用しました。料金は大人1000円、子ども500円です。
「カメラと三脚を持って乗車される方も増えてきています」
室蘭市の観光入込客数はここしばらく年間百万人強で推移しています。一方で宿泊者数をみると、平成14年の16万5000人弱に対し、平成24年には21万3000人強と大きく増加しています。夜景観光客の一部が宿泊していると考えられ、飲食を含めてまちにとっては大きな「外貨獲得」の原動力になっています。

muroran_kankou6.JPG夜景手前の夕陽もすごい!(親水公園/室蘭観光協会提供)

産業のまちと観光

工場夜景は平成21年に室蘭市役所と商工会議所、観光協会の3団体で「室蘭観光推進連絡会議」を結成して取り組んできた経緯があります。
「もう一度夜景の価値を考えることと、夜景と他の観光資源をつなげていくことをテーマにスタートしました。例えば室蘭やきとりやカレーラーメンといった食のアイテム、鉄のまちを表すボルタ人形などとヨコの連携を取りながら、より効果の高い観光振興を進めてきました」


muroran_kankou8.jpg豚肉を使うことで有名な「室蘭やきとり」。市民はそれぞれお気に入りの店があるという
muroran_kankou5.JPGナットとネジでユニークな表情を見せるボルタ人形は誕生から10年を迎えた

前述した宿泊者の増加は、こうした方針の効果が出てきたと考えられています。一方、広い意味での産業観光にはまだ課題も多くあると言います。

「一般的に産業観光の目玉と言われる生産現場は室蘭の場合、鉄鋼や石油化学などで、お菓子のようなエンドユーザー向けの製品ではないことと、古くから稼働しているため最新の工場のように見学ラインが整備されているわけではありません。また、大型の機械が動き、高温になっている工程があるなど、安全管理の面からも見学のハードルが高いのです。これは企業からすると当然の措置です。そこで室蘭では工場夜景を産業観光の一つとして考えています。今後は日中のアイテムを加えていけるように考えています」

室蘭の工場夜景はスケールも美しさも観る者の心を打ちます。一方でふと疑問も。これだ けの夜景を維持していくためにはライトの設置など、企業にとって大きな負担になっているのではないかと質問してみました。すると。
「よく誤解されているのですが、工場の施設の明かりは、安全を守るための保安灯です。唯一、ライトアップのために点灯しているのはJXTGエネルギー室蘭製造所の180mの集合煙突だけです。」
なるほど、変な表現ですが、室蘭の工場夜景は無理に作られたものではなく必然性があって点いているからこそ、多くの人を引き付けるのかもしれません。

muroran_kankou10.jpg市内には多くの夜景スポットや撮影スポットがあり、同じ工場の夜景でも見る場所や高さで表情を変える。最近は自分だけの撮影場所を探して歩くカメラマンも多い(室蘭観光協会提供)

鉄のまちはロケのまち

室蘭は映画やドラマ、CMのロケ地としての顔も持っています。例えば、映画「探偵はBARにいる2」、ドラマ「Mother」など、40本以上の映像がここから発信されています。観光協会でもロケ地マップを作製する等、「ロケ地観光」にも力を入れています。でも、なぜ室蘭なのでしょうか。

「様々な映像が一度に撮影できることが魅力のようです。自然景観、工場群、商店街といった必要な要素がコンパクトにまとまっています。撮影する側にすると、予算やスケジュールの関係上、使いやすいまちということなのでしょう。こちらとしてはロケハンにも積極的に協力して、ドラマや映画を観た人にロケ地観光を楽しんでいただき、さらに室蘭の魅力を口コミで広めてもらえれば最高ですね」

muroran_kankou7.jpg室蘭の魅力はもちろん夜景だけではない。特異な地形が生みだす自然景観も大きな財産。こうした景観もロケ地としての人気につながっている。写真は「撮りフェスin室蘭2016」の大賞作
€muroran_kankou7.jpg同準大賞作(2枚とも室蘭観光協会提供)

市民を巻き込んでいきたい

「夜景やロケ地巡りで少しずつまちに観光客が来はじめて、市民の方々も徐々に変化していると感じています。来年には岩手県の宮古と室蘭がフェリーでつながります。こうした機会をとらえて、多くの市民、店、企業を巻き込み、観光マインドを高めていくことがこれからの課題です。一方で、北海道新幹線が札幌まで延伸するルートから室蘭は外れています。少し先のことですが、2030年も視野に入れた観光のあり方を考えておく必要もあります」
いま、観光という言葉の意味が大きく広がりつつあります。観るだけでなく、ふれる、学ぶ、体験する――「観光」は今、多くの人にとって他人事ではありません。

「より多くの市民に、観光のプレーヤーとしての意識を持ってもらうことができれば、室蘭にとって新しい活路が開けるのかもしれません。難しいことですが、小さなことから少しずつ、その流れに乗せて行くことが自分の役割だと感じています」
観光地と非観光地の境界があいまいとなり、観光の概念も大きく変化していく中で、観光協会の仕事も広がっています。観光協会は全国どこにでもある組織ですが、すべてオンリーワン。羅針盤は自らが作りだしていくことになります。

札幌から2時間のドライブで行ける室蘭。歩けば歩くほどに深みを感じます。週末にはちょうどよいお出かけ場所としておすすめします。ちなみに、観光案内所も兼ねている室蘭観光協会は、これまた必見の旧室蘭駅舎の中です。

muroran_kankou11.jpg現存する北海道最古の木造駅舎「旧室蘭駅」

室蘭観光協会
住所

室蘭市海岸町1-5-1(旧室蘭駅舎内)

電話

0143-23-0102

URL

http://muro-kanko.com


観光地ではないまちに眠る観光資源を掘り起こす

この記事は2017年3月3日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。