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八雲町

道南エリアと世界を繋ぐ!八雲町に蘇った昔ながらの銭湯20200528

この記事は2020年5月28日に公開した情報です。

道南エリアと世界を繋ぐ!八雲町に蘇った昔ながらの銭湯

八雲町に大正時代からあった古い銭湯。かつてそこは、赤ちゃんからお年寄りまで文字通り老若男女問わず、たくさんの町民が集い、1日の疲れを癒やす地元のコミュニティスペースでした。しかし時代の移り変わりとともに銭湯を利用する人は減少。経営者の高齢化や後継者不足の末に閉店となってしまいました。

そんな、古くから八雲町で親しまれてきた銭湯を改修し、形を変えて現代のコミュニティスペースとして蘇えらせたのが、NPO法人やくも元気村の赤井義大さんです。この、地場産レストラン&古民家ゲストハウス『SENTŌ』は現在、世界各国から訪れる旅行者へと町の魅力を発信しながら、同時に旅行者と地元民、または地元民同士の触れ合いの場を提供しています。

gesutohaususento1.JPG趣あるSENTŌの外観。右がレストランの入り口。左がゲストハウスの入り口

かつて浴場だった場所は、八雲の食材をふんだんに使った料理やお酒を提供するレストランへと変身。2つ並んだ小さなタイル張りの浴槽(この中で食事もできます!)や高い天井、牛乳メーカーのロゴがどんっと入った入浴の注意書き看板などはあえてそのまま残され、当時の雰囲気を伝えてくれます。『SENTŌ』の立ち上げからマネジメント、さらには八雲町の観光コンテンツの開発やプロモーションを独自に行い、ゆくゆくは道南全域の魅力を世界へ発信しようと奮闘中の赤井義大さんに、詳しくお話をうかがいました。

gesutohaususento4.JPG浴場のつくりをほぼそのまま活かしたレストランの内観

韓国、ロサンゼルス、ニュージーランド、カナダ、と世界を見た学生時代

はじめての海外は小学校2年生のときだったという赤井さん。町内の旅行グループにお父さんと一緒に所属していたことから、毎年海外を訪れる機会に恵まれ、世界と触れ合ったことで幼い頃から「外国」に対する恐怖心は全くなかったそう。それもあってか中学生になると今度は、国際交流プログラムを通して韓国、そしてロサンゼルスで、現地の人や異文化に触れながらの中学生時代を過ごします。

「ロサンゼルスに行った時は、授業で習った自分の英語がどのくらい通じるのか試したくもあり参加したんですけど、まあ、まったく通じませんでしたよね(笑)。そのとき一緒に行った同級生の英語はすごく通じてたのに。中学で英語だけは成績が良かっただけに、全然通じないのにショックを受けて、やっぱり英語を話せるようになるには早く海外へ行ったほうがいいな、とその時に思いましたね」

gesutohaususento16.JPGこちらが赤井義大(よしひろ)さん

八雲町の中学生のほとんどが八雲高校、その他は函館や札幌の高校に進学する中、赤井さんはニュージーランドの高校への進学を希望します。「みんなが行くルートを通るのは面白くないな、と(笑)」
ちなみにその時のご両親の様子を伺うと、「留学するなら大学からでもいいのでは」とおっしゃっていたそうですが、それでは遅すぎる、という赤井さんの熱意に折れ、その後は応援してくれたそう。
そうしてニュージーランドで3年間の高校生活を過ごした後は、カナダの大学へと進学しビジネス学を専攻します。しかし、就職に有利だと思って選んだビジネス学には思いのほか面白みを感じることができず、赤井さんは徐々にやる気を失っていきます。

「面白くないし、つまらないし。つまらないから勉強もしないしで、だんだんと成績も悪くなっていって。悪循環ですね。そんな中、再び学びたいという気持ちにさせてくれたのが、たまたま副専攻として履修していた心理学でした。先生がとてもユニークな人で。家にテレビもない、携帯電話も持たない、若干浮き世離れしているような部分がある反面、2回遅刻したら授業を受けさせないというような厳しい一面も持っている人でした。その先生の授業は、テストの結果がどんなに良くてもそれだけでAを取ることは不可能なんです。大切なのは積極的に授業に参加して発言することだ、といつも言っていました。その時学んでいた心理学は初歩的な内容で、もし本当に心理学を将来活かしたいと思うのであれば、博士号までとる必要のある学科ではあったんですが、将来活かせるかどうかより、そのとき最も興味のあるものを学びたいという気持ちで、ビジネス学から心理学へと途中で専攻を変えました。今、その心理学を直接活かした仕事に就いてるかといったら、そうではないかもしれないですが、このおかげで確実に物の見方や価値観が広がりましたね」

gesutohaususento5.JPG建物の裏手には、広々した庭とテラスがあり、時に珍しい鳥も訪れます。友人であり食材の提供者でもある平井裕太さんと(※)

平井裕太さんの記事はこちら

大都会東京で見つけた、田舎でやりたいこと

卒業後、帰国していざ働くということを考えたとき、最初はやりたいことが特に思いつかなかった、と言う赤井さん。
「でもざっくりと思っていたのは、将来的に、どんなに大きくても企業の一社員で終わるつもりは無い。それよりだったら小さな規模でも自分の好きなことにチャレンジできる環境が良いな、と思っていました。そのためにもまずは、日本での社会経験を積まなくてはならない、でもそれに何年もかけたくはない、という視点で就職活動した結果、特にスピード感を持っていろんなことを学べそうだと選んだのが、様々な商材を扱う代理営業の会社でした」

赤井さんは初めて東京に出て、その会社の企画戦略部で働き始めます。

「1年目から取引先の社長と直接やりとりさせてもらえるような会社だったので、早い段階でたくさんのいい経験をさせてもらいました。多少大変でもなるべく時間をかけないで学びたい『せっかち』な自分の性格には合った環境でしたね」

そうして2年がたち、自信もついた頃、とうとう赤井さんはやりたいことを見つけます。
大都会東京で見つけたやりたいこと。それは都会に住んでいたからこその気づきでした。

「東京で感じたのは、友人たちと飲みに行くと、話す内容がみんな会社の愚痴とかマイナスな事ばかりだな、ということでした。だからなのか表情にも覇気がなくて、目が死んでるように見えるというか。逆に地元の八雲町に帰ると、明るい話題が飛び交っていました。田舎は田舎で人口減少とか色々大変な部分もあるんですけど。それでも、地元の方がイキイキしている人が多かったので、東京に住めば住むほど田舎が恋しくなっちゃて、帰るたびに田舎が大好きだという思いが強くなっていきました」

gesutohaususento18.JPGレストランでは、自家製パンや、地域の食材を使ったお菓子(干し芋、カボチャボーロなど)、地元の味噌屋さんの味噌や醤油、その他加工品など、八雲町産のお土産グッズをいろいろと販売

それと同時に危機感も持っていたと言います。
「東京と田舎を見比べて、このまま何もしなければ田舎から先につぶれていくな、と思いました。田舎は元気はあるんだけど、なんせ人がいないんです、特に若い人が。今はよくてもこのままでは将来続いていきません。それに引き替え、東京は人があふれています。でも彼らの多くは現状に全然満足してないように見えました。何のために東京にいるのか、何のために働くのか、わからないままのように見えました」

東京で目にした元気を失っている人たち。彼らも田舎に行けば、ストレスや疲労から開放されて今より生活を楽しめるんじゃないかと考えた赤井さんは、都会の人と田舎の町の仲介役となって一方には移住経験や方法、就職先を。もう一方には働き手を提供してあげられるような存在になれれば、どちらの役にも立てると思い人材紹介会社を立ち上げます。しかし...。

「いざ起業してみると、八雲町の企業からの需要はあったんですが、関東圏から八雲町に来て働きたいと希望する人が少なくて、需要に対して供給が追いつかなかったんです。最大の原因は、そもそも八雲町の知名度が低くて、移住関連事業に力を入れている他の市町村に人が流れていってしまうことでした。東京に比べて収入は低くなってしまうのですが、田舎は生活にかかるコストも低いので充分生活はできるし、むしろ豊かな生活ができるといったような部分もうまく伝えきれていませんでした。
そこで、まずは八雲町を知ってもらうこと、観光でいいから八雲町に来て貰って八雲町の良さを肌で感じてもらうところから始めようと、2018年の11月に、ゲストハウスとそこに併設するレストランをオープンさせました」

gesutohaususento7.JPGゲストハウスの共有スペース。ゲスト同士、スタッフとゲスト、と様々な交流が生まれています

地元民と旅人が交流できる拠点としてのゲストハウスづくり

古くから第一次産業が盛んな八雲町は「北海道酪農発祥の地」とも呼ばれ、牛乳の生産量は道南一の規模。また早くからじゃがいもの作付けが行われてきた歴史があり、今では軟白ねぎの代表的な生産地でもあります。さらに漁業では太平洋と日本海に面している土地柄、豊富な魚介類が水揚げされており、特に噴火湾ではホタテの養殖が盛んに行われています。そんなたくさんの美味しい食材が集まる町であるのに、「八雲町って知ってる?」と聞いても「聞いたことはあるけど、どこだっけ...?」とか「何が名産?」と返されることが多いのだとか。

「まあ、それには理由があって。八雲町は今も昔も一次産業で栄えてきた町なので、観光や物産に頼らなくてもよかったんです。でも最近は後継者不足や飼料高騰、気候変動による漁獲量の減少など、一次産業を取り巻く様々な課題が深刻化していて、こればかりに頼ってはいられなくなっています。それで自分たち独自で観光業をはじめてみようとなったんです」

「観光」と言えばその土地土地の「名所」を見てまわるのが主流でした。しかし外国人観光客が増加した近年、「体験型の観光」が主流となってきていると話す赤井さん。

「正直、八雲町にこれといった観光名所はないんです。でも訪れる人を魅了する人や環境、産業が八雲町にはある。だからそれを『体験』として提供できればきっと楽しんで貰えると思ったんです。あわよくば長期滞在してもらって、地元の人と一緒にお酒を飲んだり食事を楽しんだりしてもらいながら、そこで友達を作ってもらって、この先何度も八雲町を訪れて欲しいんですよね。だってどんなに素晴らしい"名所"でも、それだけを目的に何度も来てくれる人はいません。だからホテルや温泉宿ではなく、ゲストハウスを作ったんです。地元民と旅人が交流できる拠点として」

そんな赤井さんの願いのもとオープンした『SENTŌ』は、予約サイトに情報を公開してすぐに、予想していたよりもたくさんの外国人旅行者から予約が入ったそう。函館から北上するルート上にある八雲町に、ひょっこりと現れた元銭湯の古民家ゲストハウスは、JRや自転車、時にはヒッチハイクや徒歩(?!)で本州から北上してきて北海道内を旅行する外国人旅行者たちに見事にうけ、これまでフランス、台湾、シンガポール、オランダ、オーストラリア、トルコなど様々な国から訪れた旅行者が泊まっていきました。中には八雲町が気に入って2カ月滞在した人もいたんだとか。


「外国人や、バックパッカーは、WWOOF(ウーフ)に代表されるような、労働力を提供する代わりに食事・宿泊場所・経験などを得るというボランティアシステムに慣れているので、気に入った場所に何ヶ月も滞在することは珍しくないんです」

そのため赤井さんは、体験コンテンツの開発にもチカラを入れていて、軟白ネギの収穫体験や和牛のお世話体験、ホタテ養殖体験など地元の生産現場を知れる体験ツアーが大好評だそう。最近では、タイで北海道の魅力を発信する人気インフルエンサーとの縁で、彼のSNSを見たタイからのゲストも増加しているのだとか。
一方併設するレストランでは、地元の食材を使った料理を提供するだけではなく、訪れた外国人と地元の人達との交流を図るイベントが開催され、少しずつ『SENTŌ』の和が広がっています。

gesutohaususento3.JPG2段ベッドを配置した4人用ドミトリー

「日本人にはない視点というか、外国人の感性は新鮮でいつも感動するんです。僕らが当たり前と感じているものが、世界では斬新で魅力的なものになると気づかせてくれる。今や世界的に有名なリゾート地になっているニセコがいい例ですよね。バブルが崩壊した後、衰退しはじめていたあの土地に価値を見いだしてお金を投資したのも、ラフティングなどのアクティビティを始めたのも外国人。北海道ほどあらゆる自然を1年中楽しめる場所って世界的に見ても貴重なのに、皮肉にもそこにいる僕たちはそれがビジネスになるとは気づけなくて、訪れた人たちによって気付かされる。そして改めてその価値を日本人が知るという流れが今後も起きるのではないかなと思っています。だから彼らの視点を大切にしたいと思うし、彼らを身近に置いておきたい(笑)。八雲町の地元の人たちも外国人ゲストと接することで何か意識が変わったり、新しいことを始めたりといい影響を受けてくれたら嬉しいなと思っています」

「道南チーム」で世界にアプローチ

観光事業を進めていく中で、こうした長期滞在者を八雲町だけに滞在させておくには限界を感じ始めていた赤井さんは、次のステップとして道南エリアのまちみんなで手を組み、「道南チーム」で世界にアプローチしていきたいと考えます。

「1カ月以上の長期滞在というのはざらで、中にはワーキングホリデーで1年かけて日本中を旅するような人もいます。長期滞在なので節約しながら旅をしている人が多く、宿泊先でボランティアをしながら滞在費を浮かせる人って結構いるんですよね。そんな風にボランティアしながら滞在していると、自然とその地域に密着した生活をおくれるので、お金に余裕があってもあえてボランティアを希望する、という人たちもいます。それって田舎にとっても旅行者にとっても、とてもいい仕組みだと思うんです。だから、道南チームをつくって、そうゆう人たちに滞在期間中できるだけ長く、道南の魅力的な田舎を周遊してもらえるようにしたいんです」

picture_pc_56778cda1d877f3b03b6cc05c18e2f16.jpeg八雲町の春の風物詩、ホタテの耳吊り作業(養殖用のロープにホタテの稚貝を取り付ける)体験をするため、作業着に着替える外国人ゲスト

道南には素晴らしい自然やコンテンツがまだまだ埋もれています。でも外国人旅行客の受け入れ体制が整っていなかったり、積極的なPR活動を行えていなかったりする町が多いと言います。そこで、それぞれが提供できるスキルや地域の強み、情報などを共有しながら連携をとることで、個々ではできなかったことをできるようにする、赤井さんが目指すのはそんな組織です。

「例えば、通訳や登山ガイドなど、それぞれの町が持ち合わせている知識やスキルなどを、お互いにシェアできたらいいなと思うんです。集合体となれば「道南」として大きくPRもできるし、長期滞在がここで完結できるような道南周遊プランも組める。さらには、道南という割とコンパクトな地域で旅が完結できれば、比較的時間の無い旅行者も移動を最小限に抑えることができるし、道南を満喫してくれれば、次は道央に行ってみよう、道東をまわってみよう、と何度も北海道に来る理由作りにもつながる。だから各地域がしっかり連携して、受け入れ態勢を確保してPRしていくことがすごく大事なんです。そのために今は、各市町村で同じ志をもった人たちを集めて、きちんとした組織作りを進めています。具体的にはDMO(※)を目指しての協議会の発足です」
※「Destination Management/Marketing Organization」の略。官民の幅広い連携によって観光地域づくりを推進する法人のこと

その上で、現在赤井さんは、2021年に北海道で開催される「アドベンチャートラベルワールドサミット」という旅行の世界的商談会で道南周遊モニターツアーを提案しようと計画中です。

5D3B6516.JPG今後は、八雲の美しい海を活かしたマリンアクティビティや、ウニの殻割り体験なども実施したい!と赤井さん

「自然・異文化・アクティビティの3項目のうち、2つが入っていればアドベンチャートラベルとして協会から認定されるんですが、アドベンチャートラベルの市場規模って世界的にとても大きくて、これからさらに盛り上がっていくだろうと観光業界でも注目されているんです。そんなアドベンチャートラベルの世界的商談会が北海道で開催されるこのチャンスに、まずはなんとしても道南のモニターツアーを実現させたいんです。世界のメディアや旅行会社を対象に行われるこのモニターツアーで道南の魅力をうまくアピールできれば、そこから商談がまとまる可能性も高まりますし、世界のメディアを通して道南の魅力が発信され、一気に盛り上げていけると思うんです。そのためにも協議会を早く作ってみんなで力を合わせなければなりません。コロナの影響で準備にかける時間はたっぷりありますから、万全の態勢で挑みたいと思います」

赤井さんは、「最大の目標は、少子高齢化を止めること」と言い切りました。見据えるのは、たくさんの人に八雲町や道南を知ってもらい、訪れてもらったその先なのです。

かつて北海道のどこよりも早く世界と繋がり、様々な西洋文化を取り込みながら発展を遂げてきた道南エリアは、赤井さんのような、広い視野と志を持つ人たちによって、近い将来、再び世界から脚光を浴びることでしょう

Yakumo Village 地場産レストラン&古民家ゲストハウス『SENTŌ』
Yakumo Village 地場産レストラン&古民家ゲストハウス『SENTŌ』
住所

北海道二海郡八雲町末広町30

電話

0137-66-5526  (お問合せ時間 9:00~17:00)

URL

https://yakumo-village.com


道南エリアと世界を繋ぐ!八雲町に蘇った昔ながらの銭湯

この記事は2020年4月16日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。