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まちおこしレポート
苫前町

FIP活動~ また漁村に子どもたちの笑い声が響く日を夢見て。20190722

FIP活動~ また漁村に子どもたちの笑い声が響く日を夢見て。

「漁村(ぎょそん)」という言葉、今回の取材で久しぶりに聞きました。

改めてネットで言葉の意味を調べてみると「住民の主な生業が漁業に依存する集落」だそうです。市町村区分の「村」とは違って、もっと小さな漁港を単位とした集まりという感じでしょうか。

「かつて昔そうだったように、小さな子どもたちの笑い声が港中に響いて、わんぱく小僧が元気にしてる、オヤジ連中やじーちゃんもお母さんたちも、みんな楽しそうにしている『漁村』に戻したい。なんか環境活動とかエコとかっていう、イマドキの格好いいことを言いたいんじゃなくて、本当に目指しているのは、そんなことなんすよね」

そうお話しされた彼は、北海道の北西部、留萌管内にある苫前町で漁師をしている小笠原漁業部の小笠原宏一さん。地元では「こういち!こういち!」とみんなに慕われ、最近ではタコ漁を牽引していく立場からも親しみを込めて「タコ王子」なんて愛称でも呼ばれたりしています。

実は、以前も当サイトくらしごとにて、小笠原さんを取材させていただきましたが、それから2年。20代だった彼が、30歳直前に始めた活動がありました。それが「FIP」です。FIP...きっと知らない方も多いのではないかと思いますが、今回はそのFIPを知るためのイベントレポート記事としてお届けします。漁業の今とこれからについて、ちょっと見聞を広げてみましょう。そして、北海道で頑張る全ての漁師さんにエールをおくるキッカケになったら嬉しいです。

ogasawarakun-FIP03.JPG札幌で開催されたイベントは、お食事もいただきながら、アットホームな感じで行われました。

北海道苫前町は、人口約3,000人ほどの小さなまち。海と面しながらも、内陸方向にも広く土地があり、漁業だけでなく、農業も盛んなまちです。この小さなまちで、高校を卒業後、家業の漁師を継いだ小笠原さん。漁師としての技術を磨いてきただけでなく、苫前町の未来や、その地域に住む子どもたちのことを考える住民活動にも積極的に関わってきました。(小笠原さんについての記事はこちら

そんな小笠原さんが中心となり、新たにはじめたのが「FIP」です。
FIPとは、「Fisheries(Aquaculture) Improvement Project」の略称で、FIPあるいはAIPと呼ぶそうです。日本語的には「漁業改善プロジェクト」と言われ、認証取得可能なレベルまで漁業の持続性を向上していくためのプロジェクトだそうです。

「FIPはまだ世の中ではあまり知られていないので、ぜひ多くの方に知ってもらいたい!って思っています。日本では、まだ4事例しかなく、北海道では初めての取り組みなんです。なので、今日はそんな活動を知ってもらって、できれば広げて欲しい!と思ってイベントを開催することになったんです」そう切り出した小笠原さん。まずはご自身が今、漁として頑張っている「タコ漁」についても説明してくださいます。

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「タコの漁法は、大きくわけて3つあります。海中にタコ箱と呼ばれる箱を海中に沈めて獲る『タコ箱』、海底に釣り針をカーテン状に張り巡らせて絡め獲る『タコから釣り』、そして僕が今、この漁法が楽しくて楽しくて仕方ない、今回のFIPの取り組みでもメインとなっている獲り方の『タコ樽流し』という漁法です。この漁法は、『樽』というウキと釣り竿の代わりとなる仕掛けを使って、海底にいるタコを獲っていくという漁法です。これは『樽』を潮の流れを読みながら動かしていくことや、海面から海底までの深度だけでなく、海底のデコボコや砂利なのか砂なのかなども考えながらやっていくものなので、難しいしセンスも必要...だけど、面白くて楽しい漁法なんですよね」

タコは、縄張り意識が強い習性があるそうで、その習性を応用した漁でもあるんだそう。また、仕掛けにタコが掛かったかどうかも、自分が船上で波に揺られながら仕掛けの動きを判断する難しさもまた、経験を積んで覚えていくということも教えてくれました。

ogasawarakun-FIP13.jpgこれがタコ樽流し漁のシカケとなる樽。右側の針がついたシカケが海底に届き、釣り糸を通じて左側のオレンジ色のバケツのようなものが海面でブイの役割をします。

ogasawarakun-FIP12.jpg仕掛け終わった並んだ樽。「こんなに面白い漁法があるのに、やってみたい!という人に出会えないのは、そもそも知ってもらえてないから」と小笠原さん

この漁法を使った取り組みを、「苫前ミズダコ樽流しFIP」と名付けて活動することになった経緯も教えてくれます。まずは小笠原さんから、参加者に向けてこんな質問が。

「みなさん、海にタコがどのくらいるか知ってますか?」

会場内には沈黙が流れます。それぞれの頭では「え?どのくらいいるんだろう、考えたことなかった」が参加者の頭のなかだったと思いますが、間髪いれずに小笠原さんはこう説明を続けます。

「そう、みなさんがわからないように、漁師であり、タコを毎日のように獲っている僕も知りません。でも海にどのくらいいるのかも知らずに獲ってるってどうなんでしょう。わからないから不安なんです。今獲ったタコが、この海で獲れる最後のタコなのかもしれないし。このまま将来も漁を続けていけるんだろうかって。それがFIPに取り組もうと思った理由でもあります」

なるほど。確かに。普段海産物がこれほど身近にあるのに、考えたこともない世界でした。これだけ報道などで、水産資源の乱獲や減少が言われているのに、消費者の立場で考えることはあっても、漁師さんの立場で考えることがあまりにもありませんでした。さらに小笠原さん。

「今も、小さなタコがかかったら海に戻しているけど、そんなことだけで、これからも大丈夫!って言えないと思うようになったんですよね。それでも、もし誰かに、このまま漁を続けていって大丈夫なのか?持続可能なのか?と聞かれた時に、持続可能だ!YES!と自信を持って答えていきたいんです」

私たち編集部では、獲れなくなったらそれはその時に考えればいいや、もうオレらの仕事を後世に残すのはやめよう。そんな声もさまざまな港町にいくと聞くこともあり、もう最初の説明から、泣きそうなくらい嬉しくなります。

ogasawarakun-FIP05.jpgタコのかかった「樽」を引き上げて船上にあげる瞬間

FIPを取り組むことになったキッカケは、人との出会い...だそうです。

「東京が本社の会社なんですけど、(株)シーフードレガシーという海産物に関するコンサルティング会社の村上春二さんとの出会い......というか、向こうから僕を見つけてくれたんですよね。僕の話を聞きたい!って。FIPなんて知識もなかったんですけど、なんか自分が考えていることを受け止めてくれる人がいるならやってみたい!と思いましたね。それから、先輩である焼尻島(やぎしり島・苫前町と隣接する羽幌町の離島)の漁師、高松さんの後押しもありました」

隣にいた高松さんから、「全然先輩!って思ってねーじゃん(笑)」というツッコミで会場にも笑いがおきます。

ogasawarakun-FIP06.jpgイベントでも小笠原さんの横にスタンバイしていた焼尻島の漁師、高松漁業部 高松さん(右)

いやいや、本当っすよ!先輩!という小笠原さんがさらにFIPを取り組むもう一つの理由も説明します。

「FIPって、僕ひとりじゃできないんです。水産試験場や、研究機関、そしてもちろん、苫前の漁師のみなさんの理解と協力もあってこそできることですし、いろんな多くの方々が関わっていくことが、そもそもやっていきたかったことでもあるんです。みんなで協力していくことで、強みになっていくって。今日のイベントも、僕もメンバーでもあるんですが、水産関係者を応援してくださる団体、一般社団法人 蝦夷新撰組の館岡志保さん(八雲町 ナヴィルノワール代表)の協力もあって実現してまして、この活動を通じて輪を大きくしていくっていうのも目的だったりしてます」

ogasawarakun-FIP07.jpgタコ漁に使う船と綺麗にならんだ樽。費用負担も比較的少なく、覚えれば覚えただけ成長できるので、未経験から始める人にもオススメだそう。

小笠原さんが活動しだした当初、苫前で樽流し漁をおこなっている方は27名いらっしゃったそうで、この取り組みを始める想いや取り組む内容など、1軒1軒お宅を回って説明をしたそう。もちろん同じ漁港で仕事をしていても考え方は千差万別。いいね!すぐにやろう!とはなりません。でも、個体数の管理や方針の共有など、漁業に取り組む漁師のみなさんの協力なしでは為しえないことも小笠原さんはわかっていたので、誠意を込めてお願いして歩いたそうです。

「この取り組みを苫前でやれたってなれば、漁業の未来にとって大きいと思ってるんです。27人しかいないこんな小さな漁師町で、持続可能な漁業へチャレンジしてるってなれば、他の漁港でも真似してもらえるんじゃないかって。全国の沿岸漁業のモデルケースになっていくんじゃないかって確信してるんです。そして、未来も漁業を続けていけるという自信をみんなが持ったとき、若い世代にも働いてみないか?って心から言える。そして、それが町の活性化にもつながっていくって本気で思ってます」

FIPの具体的な活動は、「主体者としての認識と行動」「定期的な情報収集(放流・水揚尾数の記録と報告」「定期的な会議への参加」を漁業者がやっていくこととしてあげた小笠原さん。これまで取り組めていなかったことを改めて、みんなでできることから始めているそうです。1人の力ではなく、27人の漁師が力を合わせて、データ収集と情報交換を密に行い、専門機関も引き入れて資源確保の評価をし、生態系への影響なども考えて行くこととなったのです。網漁などの水産資源をガバッととる手法ではなく、タコしか獲れない─つまりはタコ以外の生態系に被害を与えないこの漁法は、昔ながらの手法を変えずに活用しながら、未来に向けて仕事をしていく準備が整いました。「持続可能な漁業へと、自分たちで発展させていっている」と自信をもって言えるようになったのです。

ogasawarakun-FIP08.jpg小笠原さんが最後にみなさんに見せた、彼が好きな写真。自分の作業場の屋根に上って撮した苫前の漁港だそう。少し視点を変えただけで、同じ風景なはずなのに、物事の見方が変わる...そう私たちには伝わりました。

最後に小笠原さんから。冒頭にも触れましたが、この言葉に心打たれます。

「なんか流行の環境活動とか、エコみたいなことを格好つけて話しちゃったようにもみえるかもしれないんですけど、本当の理由は、子どもたちの笑い声が響き渡るような漁村にしたいって思っているのが一番のやりたいことです。今は、漁港に働くためだけに出勤するような感じにみんななっちゃってて、昔みたいな生活がそこにあるようなコミュニティにしたいなって。小さくてもいいから、楽しい場所にしていきたいんですよね。そしてFIPを通じて、もっと漁師が儲かる仕組み作りもして、もっと仕事もわかりやすくして、若い人たちに伝授していく。未来の漁業への不安を無くすのを頑張って、担い手になりたい人も増やしていきたいんです。人口の多い大きな町や、かつての苫前町の賑わいにはならないかもしれないけど、この取り組みを通じて、素敵な小さな漁村ならまたつくっていけるかもしれないって思ってるんです。ぜひこの活動を多くの方々に広げてくれたら本当に嬉しいです。苫前町とこのFIPの活動をどうぞ今後もよろしくお願いします!」

ogasawarakun-FIP10.JPG小笠原さんが獲ったタコを使い、様々なお料理も出ました。こちらは北斗市 七重浜の喫茶店「豆宝堂」さんが調理して下さいました。

イベントでの講演の後、小笠原さんが獲ったタコを使った料理を会場で食べながら、私たちの席の前に座って、こんなお話しもしてくれました。

「今、ゴミ袋の分別って、みんなやるじゃないっすか。でも、きっと、最初に言い出した人って周りから『この人、何をめんどくさいこと言ってんの?』みたいになってたと思うんすよ。きっと今、自分はそれと同じ環境なんじゃないかって。最初に始める苦労っていうか。意味あるの?なんて言われるかも知れないけど、これからも頑張っていきますよ!だから、この取り組みをみんなに広げてくれたら嬉しいんすよね!漁業だけじゃなくって、苫前町のみんなのことも知ってもらいたいし!」

講演を一通り聞きましたが、個人的な熱い想いを一方的に押しつけるように伝えるのではなく、最後は『タコクイズ!』みたいに笑いにも逃げていたのは、彼らしい講演でした。そして、講演中も「くらしごとさんに2年前に取材してもらった時、この活動が始まる直前だったんですけど、取材してもらえて良かった。そして今日、この結果を報告できてそれも良かった」とも言ってくれました。

まだまだ小さな取り組みで、始まったばかりの「苫前ミズダコ樽流しFIP」。漁師界隈では、まだまだ若造!と言われても仕方ないくらいの小笠原さんが始めた小さな一歩は、未来に向けた大きな一歩と言えそうです。きっとこの想いは、今の漁師さんや消費者に対して安心を与えるだけでなく、漁業で働いてみたい若者たちの背中を押し、北海道、そして日本のためにも繋がると信じています。

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小笠原漁業部 FIPの取り組み報告
住所

北海道苫前郡苫前町字苫前

電話

0164-68-7924

URL

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FIP活動~ また漁村に子どもたちの笑い声が響く日を夢見て。

この記事は2019年6月28日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。