
私たちは、「森の魅力発信し隊」という若手林業・木材産業従事者を中心とした仲間を集い、日々情報交換をして盛り上がっています。そんな私たちの会話の一部をご紹介!
この度、「森の魅力発信し隊」として2回目となるオンラインセミナーが開催されましたので、その様子をレポートいたします!
今回の大きなテーマは2つ。
◎森林整備事業におけるドローンの活用について
◎スマート林業の取組について
どちらも、労働負担の軽減や作業の効率化といった新しい林業・木材産業の取り組みです。
それぞれ、講師の方より具体的な取り組みや北海道の事業についてお話を聞かせていただきました。
この日、森の魅力発信し隊からは、厚真町/有限会社丹羽林業の丹羽智大さん、和寒町/和寒町森林組合の佐藤大樹さん、芦別市/なかそらち森林組合の藤田悠介さんの3名が参加し、司会進行は北海道水産林務部林務局林業木材課担い手育成係 成田雅哉さん・くらしごと編集部 土谷涼平が務めました。
それでは、実際のセミナーの様子をお届けいたします。
森林整備事業におけるドローンの活用について
まず、「森林整備事業におけるドローンの活用について」をテーマにお話ししてくださったのは、北海道水産林務部林務局森林整備課 係長 廣永将富さんです。
現在、日本の森林においては、戦後に造成された人工林が利用期を迎えており、それに伴って、木を伐採した後の植林や下刈りなどの森林整備が増えていくことが見込まれています。この森林整備にあたる植林・下刈り・間伐等の作業には、国から補助金が交付されます。実は、森林整備の実作業のみならず、この補助金の申請にも書類審査・現地検査と多くの時間と作業が必要となるのが現状です。
この申請を行う事業主体、検査を行う検査員の負担を軽減できないかと、林野庁を中心として2019年度から検討されてきたのが、主にドローンを利用した「リモートセンシング技術(離れた位置から感知・調べること)」の活用です。
「北海道としても、2019年度からリモートセンシング技術を活用した業務の効率化・省力化の検討を開始し、2020年度には実証実験を実施しました。ドローンを活用することにより、申請においては、これまで行ってきた実測図、事業写真の省力化、検査においては、現地検査の省力化が可能となります」
ドローンを操作したことのある方はそれほど多くないかと思いますが、ドローンで撮影した映像や写真は、テレビなどでも使われているので、みなさん想像できるのではないでしょうか。このドローンによって、森林整備地の写真を上空から撮影することにより、これまで実際に森林に入り、人の手で行っていた業務を省力化できるという画期的な取り組みなのです。
以前、森の魅力発信し隊の上村涼さん(胆振林業⻘年部(㈱イワクラ))がメンバーに見せてくれたドローンで撮影された写真です
リモートセンシング技術の活用とは
つづいて、具体的なリモートセンシング技術の活用方法について、廣永さんより説明いただきました。専門的なお話もありましたが、ここでは簡単に説明しますと、上空からドローンで撮影した森林整備地の写真を専用のソフトを使用して、オルソ画像化(空中写真で生じる歪みを補正すること)し、デジタルデータとして申請・検査で活用するのだそうです。
このようにドローンを活用することで、これまでかかっていた業務量を減らすことに繋がり、また、少ない人員でも適切かつ効率的な事業の実施へと繋がっていくのです。ただ、それにはまだ検討すべき課題もあると廣永さんはいいます。
「現地での検査と比較すると、正確性という点では、まだ課題があり、現地検査との併用が必要なケースもあるというのが現状です。また、ドローンやオルソ画像化するソフトの導入にも費用がかかります。今後は国の補助事業などの活用で導入の促進も図る必要があります」
近年、急速に普及したドローン技術ですが、まだまだ誰でも気軽にというところにいくまでは、もう少しかかりそうですね。
スマート林業の取組について
次に、「スマート林業の取組について」をテーマにお話してくださったのは、北海道水産林務部林務局林業木材課 主任 田中君祐さんです。
この「スマート〇〇」という言葉、最近ではさまざまな場面で目にすることも多いですよね。一般的には、情報通信技術(ICT)を活用して、従来よりも便利かつ効率的にすることをいいます。
「『スマート林業』という言葉も広く定着してきましたが、実は用語の定義はないと言われています。ICTの活用や自動化・効率化、つまり便利になればそれはスマート林業と呼ばれることが多いです。今日はそんなスマート林業の道内の取組事例などをご紹介させていただきたいと思います」
実は、全国一の森林資源を有し、機械化も進んでいる北海道はスマート林業に適しているのだそうです。そんな北海道では「スマート林業EZOモデル構築協議会」という計10団体からなる組織でさまざまな取り組みを行っており、そうした事例をいくつかご紹介いただきました。ここでは、ICTハーベスタの活用事例を取り上げたいと思います。
1台何役!?画期的なICTハーベスタ
ご説明いただきましたのは、ICTハーベスタによる丸太の径級(原木取引に用いられるクラス分け)の自動計測です。
「先ほど話があったドローンの活用にも似ているのですが、これまで林業においては人の手による地道な作業が非常に多くあり、丸太の太さを計るのも、一本一本手作業で行ってきました。このICTハーベスタを活用した実証実験を芦別地域で行ったところ、これまでよりも生産コストの削減にも繋がることがわかりました」
ハーベスタという機械について補足しますと、伐採・枝払い・玉切りまでの一連の作業をこの機械1台で行えるという、高性能林業機械の一つです。
森の魅力発信し隊の西田健太さん(㈲真貝林工)が操るハーベスタ
このように、これまでチェーンソーなどを使用して人力で行っていた作業を1台でこなしてくれる優れもののハーベスタですが、ここで注目すべき機能は、丸太の自動計測です。従来からもこの機能は備わっていましたが、昨今では技術の進化に伴い、精度自体が上がっていることに加え、ICT技術を融合させ、機械制御・データ管理なども行えるものが、ICTハーベスタといわれています。
この丸太の自動計測の精度が上がると、木材流通では欠かせない「検知(丸太を計測し、木材の材積を算出するための作業)」という作業を人ではなく機械が行ってくれるため、作業・コストの削減が可能というカラクリです。


写真検知システムの使用状況

写真検知システム画面
さらに、このICTハーベスタの注目すべき点として、木材の収益性の向上が挙げられると田中さんはいいます。
「ICTとの融合により、採材(丸太を用途や市場の動向に合わせた長さに切断すること)も最適な収益を上げられる答えを機械が提案してくれます。本来、儲かる採材ができるようになるには多くの経験が必要ですが、この機能により、経験の浅い若手オペレータでも、熟練者と同じように実施できるようになります」
木材は、長さ・太さによって取引される単価が大きく変化します。そのため、丸太のどの太さの部分をどの長さで切るか、これが非常に収益に関わるのです。このことを「バリューバッキング=最適採材」とも呼ばれます。収益性アップが見込める点はもちろんですが、経験が浅い若手でも採材ができるようになるという点で、人材不足への対策としても非常に期待されています。
「ちなみに、林業先進国フィンランドの事例ですが、木材の流通がほぼデータ管理されており、モニタリング可能となっています。先にお話しました検知一つ取ってみても人力作業はほとんどなく、ICTハーベスタによるものが8割以上、近年では、より簡便な重量による計測が増加しているのも特徴です」
第1回のオンラインセミナーの記事でご紹介しましたが、日本と海外の林業・木材産業そのものの在り方に相違があるというお話がありました。こうした差異はあれど、田中さんも仰っていたのは、「川上・川下の連携が必要」ということで、そこから新しい林業・木材産業が見えてくるということでした。
ちなみに、このスマート林業の実証実験には、丹羽林業の丹羽さん、なかそらち森林組合の藤田さんも、参加されていたようです!
最後に、今回の参加者は皆さん事業体の方々ということもあり、専門的な質問等もありましたが、その一部をご紹介いたします。
質疑応答
■なかそらち森林組合/藤田さん → 北海道庁/廣永さん へ
- なかそらち森林組合/藤田さんドローンを活用することで、これまで測定のために必要だった杭打ち(地面に目印を付けること)が軽減されると思いますが、実際に植栽する時の目印がなく、混乱しそうだなと思ったのですが、どうなんでしょうか?
- 北海道庁/廣永さん仰る通り、そのような課題も挙がっています。ある事業主体では、作業員の方にタブレット端末を渡して、作業中にもドローンで撮影された区画の写真を見てもらいながら、実施してみたそうです。
- 和寒森林組合/佐藤大樹さん廣永さんからお話がありましたドローンについてですが、森林調査において活用する際には、枯れた木なんかも1本として計測されてしまうんでしょうか?
- 北海道庁/田中さんドローンによる計測は、空中からなので、細い木なんかは点になってしまい、計測できないのです。なので、実質落葉すると森林調査には使えないというのが現状です。作業道の調査なんかをする場合は、逆に落葉している時の方が調査しやすいということもあります。
- 北海道庁/田中さん実は丹羽さん&藤田さんには、今回のICTハーベスタの実証実験にもご協力いただいていました。丹羽さん、ハーベスタの性能ってどうでしたか?
- 丹羽林業/丹羽さん自分たちが普段使っている機械が結構古いっていうのもありますが、それに比較したら相当良かったですね。あとは、バリューバッキングは慣れてない人にとっては特に良いと思います。
■和寒森林組合/佐藤大樹さん → 北海道庁/田中さん へ
■北海道庁/田中さん → 丹羽林業/丹羽さん へ
- 森の魅力発信し隊