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温泉だけじゃない、定山渓は「札幌のニセコ」だ!20230906

温泉だけじゃない、定山渓は「札幌のニセコ」だ!

札幌中心部から車で1時間。森林と渓谷に囲まれた定山渓(じょうざんけい)温泉は、札幌の奥座敷として親しまれており、一度に数千人が泊まれるホテルから隠れ家的な宿まで、多様な宿泊施設が集まっています。泉質はナトリウム塩化物泉で肌に心地よく、誰でも安心して入れるやさしいお湯が特徴。特に紅葉のシーズンは人気が高く、札幌の会社では社員旅行の行き先として定番になっているほど。

そんな札幌市民にとって身近な定山渓(じょうざんけい)温泉が、変わりつつあるという情報を耳にしました。
自然を楽しむアクティビティが充実してきているというのです。それも、赤ちゃん連れから体力派、シニア世代まで楽しめる多彩なラインナップが用意されているのだとか。2023年には、アクティビティのツアーデスク、ドッグランのある無料の屋外テラス、レストラン・店舗などを備えた施設「心の里 埜のてらす(ののてらす)」がオープンしました。ほかにも個性的なカフェやスイーツ、パンなどのお店も増えてきています。

jouzannkei_kannkoukyoukai00012.JPG定山渓観光協会の橘 真哉さん。とっても丁寧にお話して下さいました。

定山渓観光協会のマネージャー、橘 真哉(たちばな・しんや)さんは、次のように語ります。「定山渓の魅力は温泉だけではありません。国立公園に位置するこのエリアは、豊かな森と水資源に恵まれた自然の宝庫でもあるのです。登山やハイキング、ラフティング、カヌー、果物狩りに乗馬、冬はスキーやスノーシューなど、多彩なアクティビティが楽しめる。日常から離れてリフレッシュできる場所としての定山渓エリアをもっと知ってもらい、利用していただけるように、私たちはPRや施設を利用しやすくする環境の整備を進めています」

橘さんご自身も、オフの日は登山や水辺でのSUPなどで定山渓の自然を満喫していて、この暮らしをとても気に入っているそう。これまであまり知られていなかった、豊富なアクティビティを楽しめる大自然の魅力と、定山渓温泉で働くメリットについて、自らの経験を交えてお話しいただきました。

国内有数の入浴客、地元で愛されてきた定山渓温泉

jouzannkei_kankoukyoukai00034.jpgこちらは、新緑の定山渓。四季折々、どの季節も素晴らしい景色です

200万近くの人が暮らす大都市、札幌。定山渓温泉がある南区は、面積の8割を森林が占めています。1時間ほどで断崖絶壁の頂上に登れる八剣山(はっけんざん)や、パウダースノーが自慢の札幌国際スキー場も定山渓エリア。広大なゲレンデをひとしきり滑った後に定山渓の日帰り温泉で汗を流すのが札幌市民のお決まりのコースです。

ひと昔前までは、秋の観楓会(かんぷうかい、紅葉の季節に行われる社員旅行をこう言います)などの団体ツアーでおなじみだった定山渓温泉ですが、このところは個人客が国内・海外ともに非常に増えているそうです。そのなかでも多くを占めるのは道内の利用者で、昔もいまも地元に愛される温泉であることに変わりはありません。

jouzannkei_kannkoukyoukai00001.JPG何か困ったら、こちらの観光協会さんへご相談を!

「道外では定山渓を『じょうざんけい』と読めない方が多く、全国的にあまり知名度がないという悩みはあるんですが...」
と苦笑いする橘さん。穏やかな語り口のなかに定山渓に対する愛がにじみ出ます。

「あるリサーチによると、北海道の温泉に宿泊した人数は1位が登別温泉で、2位は定山渓温泉です。宿泊と日帰り入浴を合わせた温泉の利用者数だと、うちが道内第1位なんです。ちなみに、みなさんが温泉に入るときに払っている入湯税がありますよね。その各自治体に納める入湯税は箱根が不動の第1位ですが、コロナ前ぐらいまでは札幌が2位から3位を占めていました」

箱根といえば、人口が数千万という東京都市圏からお客さんが来る人気温泉地。その箱根温泉郷に次いで、定山渓温泉が2位の座を占めているとは...。「それだけ、多くの地元の皆さんに愛されてきたということですよね」と橘さん。

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2018年の北海道胆振(いぶり)東部地震による数日間のブラックアウト(全道大停電)時には、定山渓の温泉街では翌日の朝に電気がいち早く復旧したため、あるホテルでは無料で温泉を開放、SNSで告知しました。それをきっかけとして、定山渓温泉旅館組合の経営者たちが集まって話し合い、「地震で困っている道民に心も体も元気になってもらおう」と、全施設の入浴を半額で利用できる日帰り入浴キャンペーンを実施。同月の日帰り入浴客数は過去最高を記録したそうです。

このように、近年はホテル経営者同士が連携することで定山渓という地域づくりを行い、お客さまに喜んでもらうことを目指していると橘さんは話します。400匹の鯉のぼりが舞う春の風物詩「定山渓温泉渓流鯉のぼり」、イルミネーションが美しい「定山渓ネイチャールミナリエ」、冬に無数のスノーキャンドルが灯る「雪灯路(ゆきとうろ)」といった数々のイベントも、宿泊客に積極的に外歩きをしてもらって定山渓という地域全体を楽しんでもらおうと、経営者の人たちが自主的に企画したイベントなのだそうです。

jouzannkei_kannkoukyoukai000026.jpeg「雪灯路(ゆきとうろ)」イベントは、1月下旬〜2月にかけて開催。この時期ならではの幻想的な空間を是非体験してみてください

ニセコのように豊かな自然環境でアクティビティを楽しめる

経営者の代替わりが始まってきた近年は、よりいっそう、定山渓を地域として発展させるという意識が強まってきました。そこで考えられてきたのが、定山渓を訪れるお客さんに、温泉だけでなくこの恵まれた自然を体験してもらうこと。

「定山渓温泉は、支笏洞爺(しこつとうや)国立公園のなかにあります。貴重な国立公園が人口200万の札幌市内にある、それは全国に20ある政令指定都市でも類を見ないものです。この豊かな自然のなかで登山やキャンプ、川遊びや雪遊びを楽しんでほしいですね」

今年は新しく「心の里 埜のてらす」という観光拠点がオープン、地場産の素材を使ったレストランやスイーツ店、屋外デッキやドッグランなどがある複合施設の中に「野あそびベース フリルフスリフ」というツアーデスクができました。ラフティングやカヌー、SUP、テントサウナやスノーシューツアーと多彩なガイドツアーや、焚き火や薪割り、バームクーヘン作りといったアクティビティを提供しています。

jouzankei_nonoterasu.JPG「心の里 埜のてらす」では、温泉以外の定山渓ならではの体験を提供します

特徴的なのは、小さな子ども連れからシニア世代まで、さらには愛犬と一緒になど、あらゆる人向けのメニューが揃っていること。この施設自体がワンちゃん連れOKで、全世代のお客さんにバリアフリーで楽しんでもらえることを目指しているといいます。

観光協会の事務局がある「定山渓観光案内所」でも、お客さんからの質問に応じて、おすすめの観光スポットやアクティビティを案内しています。担当するスタッフの方に、気軽に行ける観光スポットを聞いてみたところ、

「紅葉の名所で景色が素晴らしい『二見吊橋』、温泉の開祖である美泉定山の像があって、足湯や温泉たまごを作ってお楽しみいただける『定山源泉公園』、それから洞窟に33体の観音像が並ぶ『岩戸観音堂』はパワースポットとも呼ばれています」と笑顔で教えてくれました。

jouzannkei_kannkoukyoukai00017.JPGとっても親しみやすい、観光協会の萬谷さん。

橘さんは、「案内所に来られる方からは、よくスタッフが『フレンドリーでいいね』とお褒めの言葉をいただくんですよ。特に指導はされていないのですが、対応上手なスタッフが揃っています」と、うれしそうに話します。案内所の壁には、定山渓温泉の大きなマップが掲示され、アクティビティなどの観光に関するパンフレットや冊子も揃っています。

39歳で観光業未経験から、定山渓観光協会のマネージャーへ

定山渓観光協会のマネージャーとして13年目になるという橘さんに、それまでの経歴をお尋ねしてみました。「うーん、いろいろあるんですよね」と頭をかく橘さん。

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札幌生まれの札幌育ち。北海道東海大学でインテリアデザインを学び、家具設計の会社で2年間働いた後、関西で自営業に。しかし、やはり地元で働きたいとUターンして札幌の土木設計会社に入社します。しかし、同じ「設計」とはいっても、計算を重ねていく土木設計は、これまでとまったく違うものでした。

数字漬けの世界でくじけそうになったのでは...?とお尋ねしたところ、むしろやりがいがあったと橘さんは答えます。
「元々新しいことに取り組むことが好きな性格なんですよ。サイン、コサイン、タンジェントも分からない文系の私ですが、一生懸命に学びました」

jouzannkei_kannkoukyoukai00016.JPG定山渓のアイドルであり、PR隊長の「かっぽん」とツーショット

やがて仕事にも慣れ、徹夜続きが当たり前という職場で順調に働いていた橘さん。しかし、40歳という年齢を目前にして迷いが生じたといいます。
「ちょうど人生の分岐点、とでもいうのでしょうか。自分のこの先が見えてきて、ずっとこの会社でいいのかなと思ったんですよね。そんなときに、定山渓温泉の関係者の方から『観光協会で働かないか』と声を掛けられました」

謙虚な気持ちで学び、若手後継者たちからの応援を受けた日々

観光に関してはまったくの未経験で、定山渓温泉には数回泊まりに行った程度。それでも、新しい世界で学ばせてもらおうと定山渓観光協会に飛び込んだ橘さんは、働き始めたころを振り返って、こう語ります。
「39歳でゼロからのスタートというハンディもありましたが、元々謙虚とか素直と言われるところがあって、定山渓温泉のみなさんに受け入れていただけました。また、私は学んでいくことが好きなので、アドバイスや指摘をもらえることが自分の成長につながると思うとうれしかったですね」

jouzannkei_kannkoukyoukai00013.JPG大都市の近くにある大自然。この素晴らしい環境をもっと知ってもらい、自然とのつきあい方も学べるような場所になれば、さらに定山渓の価値があがるはず、と橘さん

そのころ、ホテルの若手後継者や施設従業員の有志たちによる青年部が、観光協会内に結成されたことも幸運でした。「定山渓という地域をより良くしていこう」と意欲に燃えた青年部の人たちが、新人である橘さんに対して旅行会社との橋渡しにひと役かってくれたり、目の前で橘さんの顔を立ててくれたりと、各所とのつながりをつくる上での強力なバックアップを行ってくれたのです。業界内でないと分からない、いろいろなことも教わりました。

「あのころは、いつも『頑張れよ』と声を掛けてもらって...、とても応援をしてもらいました。あれから10年以上たって、みなさん経営者側にいらっしゃいますが、本当に人格者と呼べるほどの方々で、一緒に楽しく仕事をさせてもらっています。私がこの仕事をずっと続けていきたいと思っているのは、定山渓の地域発展に貢献したいという思いがありますが、もっと言えば、応援してくださった経営者の方々のお役に立ちたいという、そんな気持ちが強くありますね」

jouzannkei_kankoukyoukai00037.JPEG6月〜10月末まで開催される、宿泊者向けイベント 「JOUZANKEI NATURE RUMINARUE」もすっかり定着

橘さんのこれまでの経験とご自身の持つ強みが、観光協会のマネージャーという業務で生かされている場面も多いようです。
「経営者の方々が集まって企画したことを、外に出していくのが観光協会としての私の役割のひとつ。ここに来る前も、さまざまな設計・デザインを学び、仕事にしてきましたが、空間をデザインしていくのが自分でも得意かなと思っています。それに、私は元々客観的、俯瞰的に物事を見るところがあって、定山渓がいまどのように見られているか、どう発信していくべきかが分かるように思います。10年以上勤めてこの土地にも慣れてきましたが、そういった視点はいまも意識するようにしてします」

日々の活力をチャージする大自然に触れてほしい

jouzannkei_kankoukyoukai00036.jpg橘さんお気に入りの場所。舞鶴の瀞。

音楽鑑賞からレーシングまで、書ききれないほどの趣味を持つ橘さんですが(奥さんと知り合ったのもサーキット場だとか!)、いまはオフになると山登りや、ボートの上に立って水面を漕ぐSUP(サップ)を楽しんでいるそう。
「さっぽろ湖が実は穴場で、とてもきれいなんですよね。あと、カヌーでしか行けないんですけど、『舞鶴の瀞(とろ)』という渓谷に囲まれたところが、ものすごく良い場所なんですよ。『ここも札幌市なんだよなあ』と、不思議に思いながら漕いでいます」

「いつもと違う非日常的な空間で過ごすことは、人が生きていくなかで意外と大事な要素じゃないかと私は思っているんです」と橘さんは語ります。

jouzannkei_kannkoukyoukai00022.jpg日帰り客にも人気。足湯のある定山源泉公園

「札幌の方々にとって定山渓は、気軽に来られるという利点も含めて、日々の活力をチャージできる場所になるのではないでしょうか。それに、自然のなかでアクティビティ体験をすることで、キャンプなどの野外活動のマナーや、安全に遊ぶためのルールを学ぶことができます。そうやって、みなさんが定山渓という貴重な自然を知り、より良く使うことでブランド力が高まっていく。近い将来に、そうなればいいなと思っています」

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「国立公園内に住むことができるなんて、実は定山渓はすごい場所ですよね」と話す橘さん。ご自身は南区の地下鉄駅近くにある自宅から車で通勤しているそうですが、「地下鉄のラッシュに遭わずに済むし、空き時間やオフの日には職場エリアでアウトドアを楽しめる。充実した暮らしができますよ」と定山渓で働くメリットを語ります。
札幌の大都会と大自然の両方を満喫できることは、橘さんがおっしゃるように何よりもの贅沢なのかもしれません。

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一般社団法人 定山渓観光協会
一般社団法人 定山渓観光協会
住所

北海道札幌市南区定山渓温泉東3丁目

電話

011-598-2012

URL

https://jozankei.jp/


温泉だけじゃない、定山渓は「札幌のニセコ」だ!

この記事は2023年7月21日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。