前回の記事(「地材地消」と木育で、地域を元気にする。(株)ハルキ)では、株式会社ハルキの道産材への思い・木育への取り組みについてご紹介しました。
お話を聞かせてくださったのは取締役 企画・開発部部長の鈴木正樹さん。楽しそうに語る笑顔に惹かれた取材班は、鈴木さんご自身のお話も聞かせていただくことにしました。
鈴木さんはなぜ森町に住み、木育活動に関わることになったのでしょうか。そのストーリーと思いに耳を傾けてみましょう。
「カナダと似ている」北海道・森町に惹かれ、関東から移住
鈴木さんは埼玉県富士見市のご出身。就職率100%の建築系の専門学校を卒業したものの、あえて就職の道は選ばず、当時大好きだったスノーボードをするためにワーキングホリデービザでカナダへ渡りました。そこで2年間働きながら、カナダ中を遊び回る楽しい日々を過ごしたそうです。
「1000ドル(カナダドル)くらいで車を買って、アメリカやメキシコにも遊びに行きました。帰国前はタイにも寄り道して、北から南まで旅して回りました。ふらふらしてましたよ、本当に(笑)」
鈴木さんのフットワークの軽さと柔軟な対応力、そして次から次に人と繋がることのできるコミュニケーション力は、もしかしたらこの海外での経験によって培われたのかもしれませんね。
この楽しい日々も3年目という時、お母様の体調不良がきっかけで帰国することに。日本で働くことにした鈴木さんはいくつかの職場を転々とした後、最終的に全国展開するビデオレンタル企業に就職しました。26歳の時でした。
「ここで妻と出会い、彼女が森町の出身だったところから、森町とのご縁がはじまりました。ビデオレンタル企業には10年ほど勤めましたが、首都圏で子ども3人を働きながら育てるのは大変で...。妻の実家がある森町に帰ってくるたび、とてもいい町だなあと思っていたんです」
「誰にも共感してもらえないんですけど...」と鈴木さんは照れながら、
「なんとなく、函館市はバンクーバーに、森町はバンフというカナダの町に似ているなって当時の自分は強く感じたんです」
とにかく楽しく過ごしたカナダの風景と重なる森町に魅力を感じ、移住を決意。同時に、株式会社ハルキに入社しました。鈴木さんが36歳の時のことでした。
多様な繋がりの源泉は「木育」にあり
製材業界未経験でハルキに飛び込んだ鈴木さんですが、プレカットの営業や、道南スギを使った商品の企画・開発にと活躍。そして、こども達の工場見学も鈴木さんが担当することになったのです。
ハルキとしても初めての受け入れということで、子ども向けのヘルメットや見学プランなどあれこれと準備を整えながら「喜んでくれるだろうか...」とドキドキで当日を迎えましたが、結果は大成功。将来を担うこども達が、自分達の仕事を見て驚き、感動し、全身で楽しんでくれるのを目の当たりにして、
「こんな嬉しいことを体験すると、もう戻れません」
こうして、ハルキでの業務と同時に木育にも力を入れていくことになりました。
北海道が認定する「木育マイスター」の1期生にもなるなど、積極的に木育活動を続けるうち、鈴木さんの周りには志を同じくする仲間が増えていきました。林業・木材関係の同業種にとどまらず、建築、デザイン、大学教授、有名企業、学生など、業種も職種も立場も、実にさまざま。
「木育から広がるご縁の力は、ものすごいなと思っています」と鈴木さん。
たとえば函館空港にある道南スギの遊具に囲まれたキッズコーナー「HakoDake Hiroba」や多目的ホール「HakoDake HaLL」は、空港で行った木育イベントがきっかけで生まれたのだそうです。
「はじめはこちらから函館空港さんに、木育のイベントをやりませんかとオファーしたのがきっかけです。木の飛行機をつくる簡単なワークショップだったんですが、500人くらいの人が来て大盛況!函館空港の担当の方が『地域材をつかう木育ってすごいんですね!』とすごく共感してくださいました」
そのご縁から、ハルキがデザイナーや研究機関と共に開発した道南スギの遊具を空港に置かせてもらうことになり、それが「HakoDake Hiroba」の原型となりました。 さらにその後、今度は函館空港からハルキへの依頼で、道南スギでつくられた多目的ホール「HakoDake HaLL」が実現しました。
木育がつないだ縁は、ハルキの仕事だけにとどまりません。なんと北海道・森町へ移住してくる若者まで現れたのです。
「木育で繋がった仲間に武蔵野美術大学の教授がいるのですが、毎年授業の一環で、学生を森町に1ヶ月ほど滞在させることにしているんです。去年が2年目で6名の学生が来てくれたんですが、そのうちの1人は森町役場に就職、もう1人は森町でデザイン会社を起業する予定。さらにもう1人はNHK北海道の地域限定社員として就職し、北海道へ移住したんです」
この話には取材陣もびっくり。この3人は、1年目で1ヶ月森町に滞在し、2年目は森町をテーマとした卒業論文を書くために6ヶ月森町に滞在した強者だったのだそう。
「森町のような田舎には、チラシやホームページを作りたい時にデザインについて相談できる人がいないんです。美術系の学生さんからしても、たとえ才能があっても東京のような都会だと埋もれてしまう。田舎だからこその可能性も感じて来てくれたのかもしれませんね」
学生たちが滞在の最後に町民の前で森町の良いところを発表してくれて、その内容がとても良かったそうで
「こんな風に木育を通して若い人たちとのつながりもすごく増えてきて、こういったご縁も大事にしたいなと思いますね」と鈴木さんはいいます。
木材業界に携わる企業人として、地元の木材の活用に貢献することはもちろん、木材業界以外ともつながり、会社だけでなく地域や町の盛り上がりにも貢献する。 木育を通じた多彩なつながりが、ハルキという企業の「面白さ」にもなっているようです。
森町が好きだから、人も町も育てていきたい
「木育って、木材業界だけではない異業種とも連携できて、良い関係性を築いていけるのが大きな強みだと思っています。でも、ここまで木育のメリットを活かしまくっているのは私くらいかも」と笑う鈴木さん。
確かに、木育の良さを最大限活かしながら、これほどの活動に繋げていけるのは、鈴木さんの持ち前のフットワークの軽さや柔軟な発想があってこそ。 鈴木さんは、ハルキで働き、木育と出会い、たくさんのご縁を繋ぎながら、ハルキという会社のフィールドを業種の域を超えてどんどん広げてきました。その根底にあるのは、「森町が好き」という思いだといいます。
「森町って本当にいい町だと思うんですよね。でも、森町の人口は減り、子どももどんどんいなくなってしまっている。それをなんとかしたいという思いが、木育の活動に繋がっているように思います」
そんな鈴木さんが今、力を入れていきたいのが次の世代の育成。 ハルキをこれからも成長させるため、そして何より、大好きな森町をこれからも元気な町にするために、「人」を育てていくことはとても重要と考えています。 若い世代を育成するという意味でも、ハルキでは積極的にインターンシップを受け入れているのだそう。
「インターンに来てくれた若い子たちからは、『会社の雰囲気がすごくいい』と言ってもらえます。うちは月に1回若い社員たちに、中小企業診断士から人材育成についての研修を受けてもらうようにしていて。自分の仕事は何のためにしているのか、前と後ろの工程をうまく繋げるためにどう仕事をしていけばいいかをしっかり考えてもらいます。そのお陰もあって、人への教え方もすごく上手になっているし、コミュニケーションもちゃんと意識して取ろうとしてくれている。それが会社の雰囲気の良さと働きやすさに繋がっているんだと思います」
働きやすい環境を整え、人材育成の研修も実施。近年入社の若手も育っています
鈴木さんが担当する木育や企画関係の仕事は、森町の地域おこし協力隊にもパートとして手伝ってもらっているそうです。なんとその協力隊も、木育によるご縁で繋がったのだとか。
「手伝ってくれている協力隊は、札幌芸術デザイン専門学校の卒業生です。彼らの先生は木育マイスターの仲間で、年に1回森町に学生たちを連れてきて、お祭りの木育ワークショップを開催してもらってるんです。それがきっかけでハルキに就職してくれた子もいますよ」
先述の武蔵野美術大学の学生たちもそうですが、木育がきっかけでハルキに出会い、森町を訪れ、魅力を知る。そして住みはじめてしまう人もいれば、離れていても関係を保ち続け遊びに来てくれる人もいる。さらにその人たちが、また新しい人を森町に連れてくる。 こうした人と地域の温かい循環が、少しずつ、でも確実に、森町に出来ているように感じます。
「協力隊にはハルキのレーザー加工機やNCルーター(合板を二次元に加工できる機械)を格安で貸しているんです。それで地域材をつかった製品の開発だとか、地域材を広めてもらう活動にも繋がると思いますし、そういった活躍を見て、また若者が集まるきっかけになるかもしれませんしね。協力隊も、デザインできる子、加工できる子、図面化できる子とキャラクターが揃ってきていて。みんなの得意分野が組み合わさって、新商品だとか面白いものができたらいいなと思っています」
鈴木さんとお話ししていると、お仕事の話のはずなのに、「これから何して遊ぼうか?」と友達と企てているようなワクワクした気持ちになります。 それはきっと、鈴木さん本人がとっても楽しそうだから。この人柄が多くの人を惹き付けて、ハルキや森町へのご縁をどんどん広げているのでしょう。 今進行中のプロジェクトや、今後の企画案など、面白い話がどんどん出てきて、とても書き切れないほどです。
2023年5月には道南スギ製の木育キットを販売するWebショップmokunowaをオープン。これまで木育で培ってきた経験を活かし、実際にワークショップで使用した題材をキットとして商品化。誰でもすぐに木育ワークショップを始められます。
鈴木さんのこうしたアイデアと行動力を活かせるのも、ハルキの社風ならではなのかもしれません。
「ハルキでは何でも自由にさせてもらってます。失敗ももちろん多いですが、何でもトライして楽しめる環境はとてもありがたいですね」
鈴木さんが、ハルキが、森町が、今後どんな風に面白くパワーアップしていくのか。 これからも目が離せません。
- 株式会社ハルキ
- 住所
北海道茅部郡森町字姫川11番13号
- 電話
01374–2–5057
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