函館市から車で1時間ほど、北海道の渡島半島に位置する森町は、内浦湾と駒ヶ岳を有する自然豊かな町です。
人口は約1.5万人、漁業と農業が盛んですが、ここには北海道内でもひと際目立つ木材の加工会社があります。
製材・集成材・プレカットの生産を一貫して行う珍しい生産体制はもちろん、「木育」を通したユニークな活動もとっても気になる、なんだか面白そうな会社。それが、株式会社ハルキです。
お話を伺うと、木材加工だけにとどまらない多種多様なプロジェクトのお話がどんどん飛び出しびっくり!
地域を思い、人を育てるハルキの魅力に迫ります。
地材地消にこだわり、挑戦をつづけるハルキの取り組み。
株式会社ハルキは、1960年に製材所として創業しました。創業から60年余りの間に成長を続け、現在は90名以上の社員が働く製材会社です。
ハルキを訪れると、広大な敷地の中に様々な工場が立ち並ぶ光景に圧倒されます。
ハルキが他の製材所と大きく異なる特徴は、「一貫生産体制」を取っている点。
製材所は丸太を挽いて板や角材をつくります(この工程を「製材」と言います)が、さらにその先の、製材した板を貼り合わせる「集成材」への加工や、柱や集成材を建築施工現場向けにカットする「プレカット加工」は、製材所とは別の工場で行うのが一般的。
しかしハルキでは、「製材」だけでなく、集成材加工やプレカット加工を社内だけで一貫して行っているのです。
「このように製材から集成材・プレカット加工までをシームレスに社内だけで行えるのは、北海道内ではハルキだけ。全国的にも数社しかない仕組みです」
そう話してくれたのは、取締役 企画・開発部部長の鈴木正樹さん。
現在は八雲町にある集成材工場も、これから森町の本社に移転させる計画です。同一敷地内での一貫生産体制は、全国的にも初めての事例になるのだとか。
「運搬のコストが低くなることに加え、材料を効率よく使えるのが大きなメリットですね。普通なら品質を保つためにはじかれてしまう部分を、強度が必要ない部分や、短くカットしたら使える部分に有効に活用できますし、チップは製紙用に、おがくずは近隣の畜産業で敷き藁に...というように、材料を無駄なく全て使い切れるんです」
また、ハルキがもつ大きなこだわりの一つが、地元である道南及び北海道の木材をつかう「地材地消」。大きな設備投資をしているのも、効率的にコストを抑えて地元の木材を使っていくためです。
「ハルキはもともと自社で山を持っていて、そこに植えていたスギやトドマツを有効に使おうと、道産材や国産材にこだわっていました。その後国内の資源量の関係から海外産の木材も使うようになりましたが、ここ10年から20年の間でスギやトドマツなどの針葉樹が成長し、使いやすい時期になってきたので、再び道産材に戻していこうと努めています」
現在ハルキの売上げの約8割は、道産材が占めています。道内のプレカット工場でこれほどの道産材率の高さを保てているのはハルキだけなのだとか。鈴木さんはこう話します。
「今はカーボンニュートラルやSDGsで、地元の木材を使う流れに追い風が吹いています。そんな世の中の流れやウッドショックの経験もあって、地域の木材にこだわっていきたいという工務店やハウスメーカーは増えていて、見学にも結構来てくれるんです。今までは家を建てる時、その骨組みが何でできているかなんてこだわる人はいませんでした。でも最近は、地域の木材を使うことに『いいね!』と共感してくれる人が増えてきたように感じますね」
北海道では南部にしか生育しないスギは「道南スギ」と呼ばれ、ハルキの主力製品の一つとなっています。ハルキで加工された道南スギは、国立競技場の一部にも使われています。
その他にも、道産カラマツの強度を活かした集成材「ようていプレミアム集成材」を研究機関と連携して開発するなど、何にでも挑戦するハルキの姿勢と高い技術力で、道産木材を活かした製品づくりが行われています。
今年完成したばかりの新社屋には、外装や内装にハルキの道産材製品がふんだんに使われ、まるでショールームのよう。さらには、
「社屋の骨組みとなっているトラス構造は、道産のトドマツ、カラマツ、そして道南スギの3種類を使用しているんです。建築家やデザイナーなどが共にプロジェクトメンバーとなって、これを森町オリジナルのトラス構造にしていこうと開発中で、今年の建築学会で発表しようという流れになっています」
地材地消にこだわり、柔軟に世の中の流れに乗りながら挑戦しつづける。
ハルキの事業規模がどんどん拡大する秘密が、ここにあるのかもしれません。
ハルキが信じる「木育」の大きな可能性。
一貫生産体制や地材地消の他に、ハルキを語るうえで欠かせないのが「木育」の取組み。
ハルキは、木育ワークショップを年間数十回も開催するなど、木に親しんでもらう活動を積極的におこなっています。
木育の可能性に気づいたのは、こどもの工場見学がきっかけだといいます。
「間伐体験をした七飯町の認定こども園が、木がその後どのように使われるのかを子ども達に見せたいと希望し、ハルキに工場見学の相談があったんです。会社として工場に子どもを受け入れるのは初めてのことで、危ないところにチェーンや手すりを付けたり、子ども用のヘルメットを用意したり......安全にもかなり気を遣って当日を迎えました」
その結果は大成功!子ども達は大きな機械で丸太が切られる様子や大きな音、木の香りなど、初めて体験する世界に大興奮して喜んでくれました。さらに、この見学会の効果は思わぬところにもありました。
「こんな風に子ども達が見に来てくれる機会があると、従業員も頑張ってるところを見せようと気が引き締まり、相乗効果ですごくいい刺激になったんです」
最近では地元の小学校や幼稚園の子ども達も見学に来る機会が増えたそう。ハルキで子ども達のお父さん・お母さんがハルキで働いている場合も多いため、
「親の職場を見学ということで照れて恥ずかしがっていた子も、実際にお父さんが働いている姿を見た後に『かっこよかった!』と言ってくれたりして。泣けちゃいますよね」と嬉しそうに話してくれた鈴木さん。
こうして木と触れ合う体験をした子ども達が、いずれは木に携わる仕事を自分の職業の選択肢にすることもあるかもしれませんね。その取材陣の言葉に、鈴木さんはご自身の考える木育について、こんな風に話してくれました。
「確かにそうなれば一番いいですね。でもそこまでいかなくても、木に親しんで地元の木を知ってもらうことで、『地元の木を使おう』と思ってもらえたら嬉しいな、という思いで木育をやっています。たとえば将来、DIYをする時でも、家を建てる時でも、海外の材料を買って使うのではなくて、『地元の木を使ってみようかな』と思ってもらえたら最高ですね」
こうした思いで取り組む木育こそが、様々な業種・立場の人達とつないでいくことになるのです。
- 株式会社ハルキ
- 住所
北海道茅部郡森町字姫川11番13号
- 電話
01374–2–5057
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