HOME>北海道で暮らす人・暮らし方>造林って楽しい!山と共に成長する女性社員の物語。

北海道で暮らす人・暮らし方
三笠市

造林って楽しい!山と共に成長する女性社員の物語。20221114

造林って楽しい!山と共に成長する女性社員の物語。

よく晴れた秋空の下に響く刈り払い機の音。
本日は、三笠市にある堀川林業(株)さんの作業現場にやってきました。
この日現場で行われていた作業は「地拵え(じごしらえ)」。
木を伐採した跡には木の根や枝が残されてしまいます。林業の世界では、木を切った後には植える作業を行うのですが、そのときに邪魔な低木や草を取り除き、苗木を植えやすいように整えることを「地拵え(じごしらえ)」と言います。林業における大切な作業のひとつです。

horikawa2022_26.jpg

急な斜面にも関わらず、刈り払い機を器用に操る作業員の皆さんの様子に「すごい〜」と取材陣が感心していると、その中に一人の女性の姿が。
今回お話を伺う宮城愛さんです。
お話しを聞くと、並々ならぬ想いを内に秘め、しっかりと着実に林業の世界に種を蒔こうとしていたのでした。

林業もいいかも?漠然と進んだ林業への道

宮城愛さんは、埼玉県秩父市の出身。
堀川林業(株)に入社して今年で6年目になります。
北海道大学森林科学科への入学を機に、北海道へやってきました。
今でこそ森林作業員として活躍している宮城さんですが、はじめから「林業をやるぞ!」という意気込みがあったわけではなく、興味のある方向を選んでいった先に「林業」というお仕事があったと話します。

horikawa2022_15.jpg

「高校2年の志望大学を決めるタイミングで、なんとなくかっこいいから理系に進みたいと思って(笑)。理系の学部の中でも、少し興味のあった農業関係の学部の中で学科を絞り込んでいくうちに、森林科学科を見つけました。私はもともと水が好きで『水質保全』に興味を持ったんです。上水道や下水道で働きたいと思っていたんですけど、それらは自治体の仕事のひとつなのでピンポイントで就職することはできなくて。でも、『山』なら水にも繋がれるんじゃないか?と思ったのが林業に興味をもった入口でした。そこからどんどん調べていくうちに、林業という仕事もいいんじゃないかと漠然と思うようになりました」

大学に進学すると、その後は企業への就職を目指し就職活動する学生がほとんどですが、林業への道を考えていた宮城さんは違いました。

「就職活動は、企業の合同説明会に1回行って『やっぱり違う。無理』と思ってすっぱりやめました(笑)」と当時を思い出して笑います。
就職活動はせず、林業への就業を希望する人に向けて開催されている「林業就業支援講習」を受け、林業の基礎的な知識や技術を学びました。

horikawa2022_10.jpg

「刈り払い機やチェーンソーなどの資格をひと通り取れて、林業の大方の仕事を体験できる20日間の講習を受けました。講習を終えた段階で林業に就くことは決めていて。講習の最終日に開催された、林業の会社が集まるガイダンスの中で堀川林業を知りました」

林業未経験の宮城さんが就職する際にみていたポイントは「緑の雇用制度」という就職後のキャリアアップを支援制度を採用している会社であり、札幌からのアクセスもよいということでした。そして三笠市にある堀川林業(株)と出会い、就職を決めました。
こうして、宮城さんの山とともに生きる人生がスタートしたのです。

造林って楽しい!山の成長も自分の成長も分かる仕事。

林業の仕事は大きく分けると、苗を植えたり草を刈ったりなどの木を育てるための作業である「造林」と、育った木をチェーンソーや重機で伐倒し丸太にする作業である「造材」の2つに分かれます。
宮城さんは1年目からこれまでずっと、『造林』作業に従事してきました。

horikawa2022_28.jpg

「造林の仕事は、今日している作業でもある『地拵え』や、苗を植える『植栽』、苗の成長の邪魔になる雑草を刈り払い機で刈る『下刈り』などがメインです。造林のメインの仕事が少なくなる冬の間も、防風林や農家の屋敷林の伐採や、工場での薪割り、屋根の雪下ろしのなど、結構いろんな仕事があります」

林業のお仕事というと、チェーンソーで木を伐倒したり、重機で丸太を運び出したりする「造材」の仕事の方が、一般的にはイメージされやすいと思います。実際、林業の仕事の中でも人気を集めるのは「造材」作業の方なのだとか。

「『造林』の仕事を選ぶのはなかなか珍しいですよ」と話すのは、堀川林業(株)の代表取締役である髙篠孝介さん。(前回の記事のときは専務でしたが、2021年の6月、社長に就任されました!)
こちらの会社では、作業の監督や管理をする現場管理と、実際に作業をする作業員とで部門がしっかり分かれていて、まず本人にどちらの仕事がしたいかを聞くのだそうです。

horikawa2022_14.jpg

「彼女は最初から現場で働くことを希望していました。普通は現場管理をやりたがる人の方が多いんです。なので最初の一年は現場での作業も現場管理の仕事も経験して貰いました。その上で、1年ほどの研修を終えた彼女に希望を聞くと、『私は管理じゃなくて現場作業をやりたい』と。さらに彼女は現場作業の中でも造材ではなく『造林』の仕事を選びました。現場作業の中でもどちらかと言えば、重機に乗りたいなどの理由で『造材』の方が人気で、人員の募集をかけてもすぐに人が集まるんです。でも『造林』は作業も地味だし、人気があんまり無い。映えないんですよね(苦笑)。それでも『造林』は林業の大事な仕事なんです。だから宮城さんの様に仕事に魅力を感じて働いてくれるのはありがたいですね」

担い手不足が課題となっている林業の中でも、特に深刻に不足しているのが造林作業。
髙篠社長は、造林の仕事の魅力発信は、林業業界全体の課題だと話します。
宮城さんは自ら「造林」を選び、造林の仕事にとても魅力を感じているようです。
宮城さんにとって、造林の仕事の魅力とは何なのでしょうか?

horikawa2022_8.jpg

「造林の仕事って、ビフォーアフターがすごく分かりやすいんです。今している地拵えの作業もそうですけど、自分がどれだけ仕事をしたのか、目で見てすぐに成果が分かります。この場所も、作業前は一面に枝や草があったのが、作業後、自分達の刈った跡がスッキリして筋になっているのを見るとすごく気持ちがいい。この、作業の前と後を比べて感じられる達成感が、一番のモチベーションです」

ビフォーアフターが分かるのは、仕事の成果だけではないのだそう。

「自分が仕事をできるようになっていく過程も、すごくよく分かるんです。就職したばかりの頃の植え付け作業では、みんなが横一列に並んで一斉に作業を始めても、10m、20mとどんどん離されていったり......。下刈りでも、みんなどんどん進んでいくのに私だけずっと遅れていたり......。自分が人と比べて全然できていないこともはっきり分かるので『やってやるぞ!』という気持ちになりますね。ベテランの方の動きを見て、自分でも真似してみて、以前より自分がスピードアップしていることが分かるのも、モチベーションになり続けています」

「それに......」と、宮城さんは笑顔で続けます。

「自分の成長だけじゃなくて、山の成長も分かるんですよ。造林の仕事では、自分が苗木を植栽した場所に、その後何年も続けて下刈り作業をしに入るので、6年も経つと苗木がいい感じに大きく育っているのが分かるんです。農業みたいに種を植えたらその年に収穫できるようなスピード感はないけれど、造林の仕事をしていると、確実に山が成長しているのが見える。自分の成長も、山の成長も、目で見て明確に分かる『やったぞ!』という達成感は、事務作業の仕事では味わえない、現場作業ならではのものだと思います」


horikawa2022_3.jpgこれが下刈りや地拵えで使う刈り払い機です。


造林の仕事の魅力をイキイキと語る宮城さん。本当に現場での作業にやりがいを感じていることが伝わってきます。
では逆に、この仕事に就いて苦労したこと、大変だったことは何でしょう。

「やっぱり体力面ですね。私はずっと文化部で、たくさん運動してきたわけでもないし、山に登ったこともない人間だったので、ある程度覚悟はして入ったものの、まともに動けるようになるまでがきつかったです。言わないようにはしていましたけど、正直に言えば、最初の頃は本当に毎日死にそうでした(笑)。体が慣れるまでは完全に気合いだけで乗り切りましたね」

造林作業は、木陰の無い炎天下で重い苗木を運んだり、刈り払い機を操ったり、持久力・忍耐力が必要な力仕事です。
きつい思いをしながらも6年間続けてこられた理由をたずねると、「この仕事、楽しいんで!」とにっこり。

「造林という作業自体が、私はとても好きみたいです。体を動かすことって楽しい、気持ちのいいことなんだと、仕事を通して思うようになりました。自分には向いていないのかなと思う時もあるけど、やっぱり続けたいなと思う。あんまり上手くいってたら面白くないじゃないですか。楽しさと、仕事ならではのしんどさと、その強度のバランスが今ちょうどいい感じなのかもしれません」

horikawa2022_29.jpg

そう笑顔で話す宮城さんからは、造林の仕事が大好きな気持ちがダイレクトに伝わってきます。大変さばかり着目されがちな造林のお仕事ですが、自分自身を成長させ、山を育てることにやりがいを感じ、楽しんで働いている宮城さんのような若者がいることに、頼もしさを感じました。

「朝ちゃんと起きて、体を動かして、夜は自然と眠くなる。学生時代よりも健康になったように思います。体を動かして、健康になって、お金ももらえるなんて、いい仕事だなあと思います(笑)」

男女も年齢も関係なく築いていく信頼関係

造林の仕事を続けてこられた理由として、造林の作業自体が好きで楽しいという他に「職場関係もいいからだと思います。先輩方がちゃんとサポートしてくださったから、無事に続けられています」と話してくれた宮城さん。
実は宮城さんが林業の仕事に就くと決めた時は、いろんな人から「やめた方がいい」と止められたそうです。中でも、林業関係者から止められることが多かったのだとか。

「『基本的に何にも教えてくれないし、自分で全部考えて学んでいかなきゃいけないから本当に厳しいよ』と実際に林業の業界にいる人から言われて。だから何も教えてもらえないものだと思って入ったんですけど、実際はみんなちゃんと教えてくださるし、挨拶も返してくださるし。それですごく安心しました(笑)」

horikawa2022_20.jpg取材時にスタッフみなさんに集まっていただき撮った写真。カメラマンの「全員宮城さんの顔見て下さ〜い」に照れる宮城さん

思っていたよりも親しみやすい職場の雰囲気に安心した宮城さんですが「逆に言えば、自分から聞かないと教えてもらえないのは、当たり前のことなんですよね」と、真剣な表情。

「山でずっと働いてきたベテランの方々は、山に入ったことのない人間が何が分からないのかが、そもそも分からないと思うんです。たとえば、『ここに尾根があって、集材路を通って...』という作業員にとっては当たり前の会話でも、初心者からすれば『オネって何?』『シュウザイロって何?』という状態なんですよね。だから、逐一『ここが分からないです』とちゃんと伝えないと、分かっていないということにすら気づかれずに流れていってしまう。これはどんな業界でもそうだと思うんです。だからどんどん自発的に聞くようにしていました。こちらが誠実に聞けば、ちゃんと教えてもらえるので」

林業に限らず、どんな仕事でも難しさや厳しさはつきもの。宮城さんが仕事を「楽しい」と言えるのも、林業という仕事の難しさ・厳しさにも真摯に向き合い、覚悟をもって臨んでいるからこそなのかもしれません。
それは宮城さんの先輩作業員である宮本祐介さんのお話からも分かります。

horikawa2022_19.jpg

「宮城が入ってきた当初は、現場に女性を受け入れることに乗り気にはなれませんでした。やはり女性が入ってくると、ベテラン側の負荷が増えますからね。それまで男性ばかりの職場だったら、たとえば今日は作業を終わらせたいから休憩無しにしよう、みたいな多少の無理もできていたけど、女性がいるとそれはできなくなる。でも、こうして女性が入ってきたことで、効率だけではなく、安全面を大事にした仕事のやり方に変化していきました」

宮城さんが入ってきたことによるこの変化が、最終的には仕事の効率化にもつながったと宮本さんは話します。
でもこの変化を受け入れることができたのは、宮城さんが「女性だから」ではなく、「宮城さんだったから」という理由が大きいようです。

「堀川林業に最初に入ってきた女性が宮城と兼丸(前回の記事参照)の二人じゃなければ、こんな変化は無かったかもしれません。二人は林業に対するモチベーションが非常に高かったですから。やっぱり男でも女でも性別関係なく、やる気のある奴って受け入れやすい。宮城はしっかり自分の意見を言ってくれるので、こちらとしても助かっています」

女性も少しずつ増えてきているものの、林業の現場はまだまだ男性の方が圧倒的に多い職場です。そこに女性が入るとなると、ともすれば「女性だから」という遠慮や珍しさを含んだレッテルを貼られがちですが、堀川林業(株)の先輩社員の方達と宮城さんの間には、男女も年齢も関係なく、フラットに尊重し合う心地よい空気が流れているのが印象的でした。

horikawa2022_6.jpg

「男性であれ女性であれ、仕事の内容が造材であれ造林であれ、林業はそれぞれに大変さがある仕事」と話してくれた宮城さん。
どうしたら楽しく働き続けられるのか、良い会社になっていけるのか、林業の魅力を伝えていけるのかと考えていると言います。こうして真摯に仕事に向き合う宮城さんだからこそ、先輩方からも信頼を得て、林業の現場にもなじむことができたのでしょう。

働きやすさ・楽しさが良い循環に

ところで、今回取材にお邪魔させてもらった地拵えの現場。
取材が進むにつれ奥の方に入らせてもらうと、宮城さん以外にも女性の作業員さんが沢山いることに気づきます。
なんと現在、堀川林業(株)の造林チームには、女性の作業員が宮城さんも入れて5人もいらっしゃるのだとか!
しかもなんとなんと!その中の一人の女性は、前回のくらしごとの記事を見て、会社の門を叩いたのだとか。
「以前は内装業の仕事をしていたのですが、くらしごとの記事を見てめちゃくちゃ楽しそうだなと思って転職しました。実際に入ってみたらやっぱりすごく楽しくて、実は親友までこの会社に引っ張ってきちゃいました」と満面の笑顔。
なんとこの方の親友も転職して2022年の4月1日から働いているのだそうです。

horikawa2022_24.jpgくらしごとの記事を見て入社した水野さん(写真右)。そして紹介されて入ったのが佐藤さんです(写真左)。

林業の現場を多く取材してきたくらしごとの取材陣も、こんなに女性が多い造林現場を見るのは初めてのことでびっくり。
スゴイですね!と投げかける取材陣に「女性が入るからと特別なことをしたわけではないのですが、いつの間にかこうなった、という感じです(笑)」と笑う髙篠社長。
「宮城たちには『堀川林業(株)に人を呼ぶためにはどうすればいいか』という意見もたくさんもらいました。以前は基本的に日曜日のみの休日だったウチが、第四土曜日を休みにして月に一度週休2日の週をつくったのも、彼女たちの意見を組み入れたからなんです」

実現可能かどうかは別にしても、社員の意見をできるだけ聞こうという姿勢の髙篠社長。
「(社員の意見を聞いて会社を良くしていかないと)僕がこの会社にいる意味がないじゃないですか」と笑います。
宮城さんは最近では、会社のホームページを作ってはどうか?という意見を伝えているそうです。
「いま求人情報を探す方法って基本的にインターネットじゃないですか。林業の仕事を探している人に企業の情報を届けて信頼を得るためにも、会社のホームページは必須だと思うんです。こんな風に、実現性は別にしても、自分の意見を聞いてもらえる場があるのはすごくありがたいと思っています」と宮城さん。

社員の個性を受け入れて変化しようとする会社の柔軟な姿勢が、自分らしく働きたいという気持ちをもった女性を、林業の世界に惹きつけているのかもしれません。

最後に、宮城さんにこれからの抱負を聞かせてもらいました。

「今後は、先輩方がいらっしゃる現場じゃなくても、どんな作業も無事に自分だけでできるようになりたいと思っています。もう6年目ですから。今は、自分より後輩ばかりの現場作業となった時はまだ不安ですし、先輩方から見たらまだ半人前な仕事をしていると思うので、自分の責任で仕事をしても、ちゃんと形にできるようになりたいです」

林業に対する熱い思いと、絶え間ない向上心を抱いた宮城さんの言葉はとても力強く、これからも柔軟に進化していくであろう堀川林業(株)の未来が、とても楽しみになりました。

horikawa2022_22.jpg

この取材をしている様子を、くらしごと母体である(株)北海道アルバイト情報社の広報で撮影し、動画を撮影致しました。
もしどんな様子で取材しているか知りたい方はこちらをご覧下さい。

https://youtu.be/pehdvlAtziQ

堀川林業株式会社
住所

北海道三笠市幾春別栗丘町13

電話

01267-6-8051


造林って楽しい!山と共に成長する女性社員の物語。

この記事は2022年9月14日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。