40歳で、北海道に移住して、カフェを開店する夢を叶えた!
「いつかは自分でお店をやってみたいなぁ」─なんとなくでも、そんなことを考えたことがある人は多いのではないでしょうか? でも、実際にその夢を実現するのに、「現在の給与をもらえなくなるリスク」や「家族を養えるかの不安」、「自分に本当にできるのだろうかという疑問」などなど、一歩前に踏み出せない理由はいくらでもでてくることでしょう。
でも、そんなリスクや不安を解消するために、一緒に動いてくれるチームがあったとしたらどうでしょう? 開業前の収支や事業戦略の相談から、準備期間や開店後も軌道に乗るまで「給与」というカタチでサポートしてくれるという夢のような制度があるそうなんです。「なんか怪しそう」「裏があるのでは?」と思ってしまうほどでもありますが、その制度を利用して、自分の夢を叶えるために北海道にご家族4人で移住してきた浅野浩司さんにお話しをうかがいました。
その夢のような起業・開業サポートを町事業として実施しているのは、北海道安平(あびら)町という、人口7,000人ほどの小さなマチ。北海道の最大の玄関口、新千歳空港からクルマで20分という北海道外の方々にとっても非常に便利な場所にあります。その安平町が、地域活性化のためにはじめたFanfare(ファンファーレ) 〜あびら起業家カレッジ〜というプログラム。簡単に言ってしまえば、安平町で事業を興したいと考えていて、それが町の活性化につながるのであれば、町が全面的に支援しますよ!という制度です。2021年から始まったばかりの、まだ新しいプロジェクトではありますが、その1期生にあたる浅野さんに、実際のところどうなの? 本当に怪しい制度じゃないの? というホントのところを聞いてみます。
「いえいえ、本当に怪しい制度ではないですよ(笑)。自分の『北海道でお店を開きたい』という夢を、本当に叶えてもらえたんです!」と、笑顔で素敵なカフェに迎え入れてくれた浅野さん。イキイキとした表情は、まさに夢叶えた人!というような雰囲気。現在に至るこれまでについていろいろとお話しをうかがってみます。
浅野さんのこれまで
「生まれは千葉県なんです。成田空港のホテルでフレンチレストランのコックをしていたのがキャリアの最初でした。修行にフランスにも行っていたことがあり、戻ってきたら自分のお店を開業しようと思っていたんですが、そのホテルの料理長に『おまえ、料理は学べているけど、酒のことはわかっているのか?』と尋ねられて、確かにそうだなって思って、バーテンダーとして働いて経験を高めることにしたんです」
バーテンダーとしての道を進むことになった浅野さんでしたが、ここで意外にも選んだ土地は札幌のススキノ。全国でも有数な繁華街に足を踏み入れたのです。
「25〜26歳くらいのときですね、ススキノのお店に就職したのは。若かったので華やかな都会で楽しみたかったっていうのもありましたね。札幌を中心に複数のバーを多店舗展開している企業で、6年ほど働かせていただき、店長職も経験させてもらいました。夕方17時から勤務開始で、深夜3時まで働いて、その後にみんなでススキノで遊ぶ...みたいな。1週間のうち6日は飲み過ぎて記憶がない!って感じのひどい生活をしていました(笑)。この札幌での生活の間で、ピアニストだった妻と出会うのですが、『あなたと私は絶対合わないわ!』と言われるくらいでしたし(笑)」
でも、人生って本当にわからないもの。そんな「絶対に合わない」とまで言っていた奥様とご夫婦になったのも浅野さんの人生の転換期になったのか、転職をすることになります。
「大企業で勉強したいなって思うようになったんですよね。ということで、巨大うどんチェーンなどを運営する誰もが知っている大企業に転職しました。勤務地は東京...ということで、大都会で働くことになります。そこで、経営のことや数字に関することなど、徹底的に学ばせていただきました。そして気がつけば東京に10年。千葉県でも田舎の地域の出身ということもあり、東京や札幌で暮らしてみて、やっぱり大都会が人生の終着点ではないという結論に至ったんです。妻が北海道の最北端、稚内市出身ということもあり、二人の夢は『北海道に移住すること』という目標になりました」
これまでのご経験から、北海道への移住は目標にしていたものの、札幌や旭川など、いわゆる人がたくさん住んでいるマチは除外していたというご夫婦。商売を始めるのであれば人が多いところ!というセオリーさえも二人には関係のないことでした。起業・開業をすることを軸に、北海道の土地をいろいろと調べていくなかで、冒頭にも説明したFanfare(ファンファーレ) 〜あびら起業家カレッジ〜に出会い、「これだ!」となったそうです。
安平町を選んだ理由
Fanfare(ファンファーレ) 〜あびら起業家カレッジ〜は、たしかに浅野さんご夫婦にとっては、またとないチャンス。でも、制度が整っているからといって、「安平町」というマチで本当に良かったんですか?という質問に対してもとても明確なお答えがありました。
「まず、新千歳空港から20分の距離なんですよね、安平町って。世界とつながれる場所との距離が20分なんですよ!そんなところって、日本中でみてもなかなかないですよ。そもそも千歳市に住めばもっと近いのかもしれないんですけど、僕ら夫婦にとっては、千歳市でも大きすぎるマチって映ってましたから、安平町はもう、本当にベストな場所なんですよね」
千葉県で生まれ、世界の玄関口成田空港エリアで働きだし、フランス、札幌ススキノ、そして東京と、旅をするように自分の生きる場所を転々としてきた浅野さんの経験からこそ、安平町という場所の素性の良さについての説得力はピカイチに聞こえます。でもそれだけじゃなく、この地を選んだ理由として...。
「『子育て』の環境の良さですね。安平町は本当に手厚いんですよ。現在、上の子が中学校2年生、下の子が6歳の年長さんなのですが、実際に移住してきて、その子育て環境や教育の面で、本当に移住してきて良かったというのを実感しています。都会だと、子どもも多いので、どうしても先生の目が届かなかったり、大勢の子どもたちの全体最適になっちゃうので、個人との関わりが薄くなってしまうのを感じていました。都会の先生や保育士さんも頑張っていらっしゃるのは十分わかってはいるので、仕方ないことだとは思っていましたが、でも僕らが大都会を選ばない理由にもなりました。人口の少ない田舎ってことは、子どもが少ないマチってことになるんですけど、だからといって先生が少ないわけではなく、すごくメリットを感じるんですよね」
と、子どもたちがイキイキと暮らすためのことも、ご夫婦にとっては譲れない条件。その点も安平町は充実していたのも大きな加点ポイントでした。ただ、新規でカフェを運営するってことは、寝食を削ってでも店に立って利益を出していくということもあるのでは? 子育てと両立も難しくなるのでは? という想像に対しても。
「カフェの営業は10時〜16時までで、火曜日・水曜日はお休みにさせてもらってるんです。だから、お店の営業が終わってから、僕が子ども園に下の子をお迎えにいって、家で晩御飯をつくるというのが毎日の日課なんですよね(笑)」と、むしろ普通の会社員での働き方よりも、子どもとの時間をとれているそう。なんともうらやましい生活! でも新たな疑問もぶつけてみます。今は協力隊としての給与もあるので大丈夫かもしれませんけど、その営業スタイルで収入は大丈夫なんですか?と。
「今は子どもたちとの時間が大事だと思っているので、これでも十分だと思ってるんですよね。でももっと稼がないといけないとなれば、夜も営業を開始すればいいかなって。今のプライオリティは家族との時間で、その必要が少なくなったら仕事のウエイトを広げようっていう感じですかね。あ、あと、重機の免許も取得したので、除雪の仕事もできますよ(笑)」
金銭的なサポートだけじゃない。地域のみなさんからの応援
安平町事業のFanfare(ファンファーレ) 〜あびら起業家カレッジ〜で、浅野さんが選択したルートは、「地域おこし協力隊」という制度を活用したもの。これは総務省が推奨する人口減少地域に対して移住者を増やしていくための制度で、最大3年間、地域活性化につながる活動をしながら、その地域の生活に馴染んでいくための新しいスタイル。それを「起業」に向けた助走期間の3年間にあてられるとのことで、毎月お給料も支給されているそうです。
「私たち家族にとって、安平町が、ベストな北海道の地であるだけでなく、このファンファーレの制度は本当に素晴らしい取り組みなんですよね。このカフェとなるお店のトレーラーハウスも月1〜2万円という賃料設定で貸し出してもいただけるので、それも使わせてもらっています。ご覧いただいてわかるとおりで、車輪もついていて、動かせるような建物ではあるんですが、中は十分に広くてキレイ。上下水道との接続もされているので、普通のお店と同じ感じに利用できます。チャレンジショップ的な位置づけの建物になるのかな。もしファンファーレ事業を活用しないで、普通に移住者として誰も知らないマチでお店を開業しても地域の人々からすぐには信頼されず、難しかったと思うんです。なのでこの借り物の店舗や地域おこし協力隊の制度を通じて、本当の意味で地域のみなさんと一緒にお店を運営して、関係を広げられているっていう実感があるんですよね。金銭面よりも、それが一番この事業のいいところかもしれないです。このお店のオープンのときは、町長自ら足も運んで下さいました。最近では野菜なんて買った記憶がないですね(笑)。地元のみなさんが、食べな食べな!って持ってきてくれるんですよね(笑)」
ファンファーレ事業について
プレゼン時の浅野さん。ファンファーレ事業のnoteより
聞けば聞くほど、やはりFanfare(ファンファーレ) 〜あびら起業家カレッジ〜の仕組み、すごく良さそうです。でも、誰でもOKじゃないのでは?条件があるのでは?という疑問もわきます。
「そうですね、このファンファーレ事業に選ばれるには、町長や地域住民のみなさんに向けたプレゼンが必要になります。僕のときもいろんな起業・開業に関するプレゼンが行われました。どんなことをこの安平町でやっていきたいのかをPRするんですよね。さすがにちょっとそれは緊張しました(笑)」。と浅野さん。
カフェを開店したい!という夢を語った浅野さんと同時に、別で奥様はピアニストとして地域活性化したいというプレゼンもされたそうです。みごとに事業案を採択された浅野さんに、プレゼンの秘訣も少しうかがいました。
「特別なことは何もしてないですね(笑)。ただ、カフェを開きたい!ということだけではなくて、数字的な計算や将来の展望や裏付けなど、これまでに会社員として培った経験なども企画書に入れ込んで、それをわかりやすくみなさんに説明させていただいたっていうのがポイントだったのかな?と今は思っています」
今後も、このファンファーレの事業に参加してみたい方々の募集は安平町で続けていくそうなので、もしかしたら参加されることを検討している方は、浅野さんが運営する「あびらカフェ」にきて、アドバイスをもらうという裏ワザも使えるかもしれないですね(笑)。その際には当サイト「くらしごとを読んだんですけど!」と浅野さんに話しかけてください。盛り上がること間違いなしです。
浅野さんのこれからの目標
開店する前から、お店の前に子どもたちが夢を感じられるオブジェを何か置きたい!と決めていたそう。ということで、「どこでもドア」を自作して設置された浅野さん。みんな開けたり閉めたり、写真撮ったりと大人気だそう。最後に、今後のことについて聞いてみました。
「今はまだ、この借り物の店舗なので、自分のお店の場所を探している最中です。実際に仮店舗で営業を開始しながら本当の場所を探せるのもすごく助かっています。まずはここで、地域のみなさんとさらにたくさん交流を深めて、新しい場所にうつってもお越しいただけるような人間関係を築けていけたらと思っています。最近、パンの提供も始めたのですが、パンのサブスク(サブスクリプション:一定料金で決まったタイミングで商品が届くサービス)を地域のみなさんに提供できたらって考えています。他にもポップアップ店舗(期間限定店)なんかもつくってみたいなって思っていますし、いろいろな地域が元気になる活動をやっていきたいですね!」
取材中、浅野さんがなんとなく口にした言葉がとても印象に残りました。
「自宅からこのカフェに向かうほんのちょっとのクルマの移動なんですけど、その時に見える草原が広がる『丘』。毎日のように見る風景なんですけど、本当に北海道に、安平町に来られて良かったって思うんですよね」
「北海道への移住」「自分のお店を開業」「子育て環境を向上する」という人生において素晴らしい目標を達成してしまったという、ウソのような本当のお話。浅野さんのこれまでの経験やこれからの想いがつまった「あびらカフェ」。地域の人が集まり、外からの人々と地域をつなぐ拠り所として、今後も安平町の顔となる予感をヒシヒシと感じました。
- コーヒーとクロッフル あびらカフェ 店長・バリスタ 浅野浩司さん
- 住所
北海道勇払郡安平町早来大町68
- 電話
080-8445-5331
- URL