株式会社竹中工務店といえば、誰もが知る大手ゼネコン。
公共施設やオフィス、商業ビルに、巨大なスタジアム、空港ターミナルまで・・・日本にとどまらず世界のありとあらゆる建築物を手がけます。近年では、森林資源と地域社会の持続的な好循環を「森林グランドサイクル®」と名づけ、建築を通して森林とまちをつなぐ取り組みも行う竹中工務店。北海道支店では、「道産木のある未来を見たいから」を合言葉に、北海道産木材の積極的な活用にも取り組んでいます。
今回は、そんな竹中工務店北海道支店を取材しました!
こちらが今回の取材場所、「北海道地区FMセンター」です。
サステナブルな未来へ。道産材をつかった木造建築へのチャレンジ。
取材で訪れたのは、竹中工務店のオフィスの一つである「北海道地区FMセンター」。半透明のポリカーボネート(耐衝撃性や耐久性に優れたプラスチック素材)の外壁が印象的な建物の中は、柱や梁、階段、机やベンチなどの家具類にも、木材がふんだんに使われています。これらは全て北海道産の木材(道産木材)です。
「北海道支店では、『道産木のある未来を見たいから』というキャッチフレーズを掲げて、色々な建物の木造化・木質化にチャレンジし、道産木材を積極的に利用するようにしています」と話してくれたのは、北海道支店専門役の藤田純也さん。
「我々は自分たちの持つイノベーション力を活かして、木造や木質化の建築による木のまちづくりを目指しています。それによって森の産業が元気になって、持続可能な森づくりにつながる。この『森林グランドサイクル』を実現するために、北海道では北海道産の木材を使おうと、工夫を重ねているんです」
こちらが、北海道支店専門役の藤田純也さんです。
竹中工務店のようなゼネコンが手がける建築物は、耐火などの規制が厳しい大規模なものが多く、一般的には木材を構造に使うのが難しいと言われます。
その一方で竹中工務店では、2016年に木造・木質建築推進本部を立ち上げ、木造・木質建築によるまちづくりを通じて、サステナブルな社会づくりへの貢献も目指しています。
そんな会社の流れの中で、北海道支店は北海道水産林務部ともタイアップ事業連携協定を締結。北海道庁が進める北海道産木材のブランド「HOKKAIDO WOOD」と連携して、北海道産木材の活用をPRしています。
※「HOKKAIDO WOOD」のくらしごと記事はこちら
「北海道水産林務部との協定締結は、北海道支店の取組みの大きな後押しになりました。この協定のおかげで、北海道支店の社員の間でも『道産木材を使おう』という意識がとても高まりましたね。『HOKKAIDO WOOD』のロゴマークと北海道支店のキャッチフレーズ『道産木のある未来が見たいから』を組み合わせて、パンフレットを作成したり、街中の建築現場にポスターを貼ったり、いろんな取組みを行っています」
社屋の柱にも、ひっそりながらも存在感のある「HOKKAIDO WOOD」のロゴマークが。
山からまちまでの距離が近い、北海道だからこそできること。
2016年に東京本店から北海道支店に異動してきた藤田さんは、「やはり北海道の規模だからこそできることがある」と言います。
「東京にいた時は、建物の材料は海外も含め全国各地からやってくるので、建物に使われている木がどこの物かは分かりませんでした。一方で北海道は、山から木を伐り出して、加工して、建物などに使われるまでのいわゆる川上から川下までが集約していて、山とまちの距離が近い。だから、行こうと思えば林業の現場にも行けるし、川上側の生産者とも仲良くなれる。そうした中で、こういう使える材料がありますよという話もできて、道産木材での建物の可能性が広がることもあるんです」
しかし、森林資源が豊かなはずの北海道で、道産木材が建物にあまり使われていないのはなぜなのか。
興味をもって川上側のことを知るようになると、道産木材を使うにあたっての課題も見えてきたと言います。
「北海道は戦後に植えたトドマツやカラマツが育ち、森林資源が豊富にあります。ただショッキングなことに、北海道ではこれらの資源がほとんど、建物につかう建築材ではなく、ものの輸送や保管のための梱包材や木製パレットの材料に使用されています。本州では約80%が建築材に使用されているのに対して、これは大きな違いです」
木材が梱包材やパレットに使用されることはもちろん悪いことではないのですが、梁や柱などの建物につかわれる建築材に比べると、木の価格は低くなってしまいます。それはつまり、北海道産の木材の価値が低くなってしまうということ。木材の価値が下がると、山に還元されるお金が少なくなり、北海道の山を整備できなくなってしまう、という問題に繋がっていきます。
「我々が道産木材で建物をつくろうとする時にぶつかるのが、資源はあるのにそれを北海道内で加工できないという課題です。たとえば規模の大きい建物で大断面の集成材をつかいたくても、北海道では加工できる工場が限られている。だから北海道の木材を北海道で使いたいのに、その加工のために道産材を一度本州に持っていかなければならない。それってちょっと変ですよね」
もちろん北海道にも木材を加工する工場はたくさんあるのですが、そのほとんどが住宅向けの中小規模のもの。公共施設などの大きな建築物をつくるとなると、本州での加工や輸入材に頼らざるを得ず、コスト面などから、そもそも木造で建てるという選択肢すらなくなってしまうことも。
「道産木材を道内で加工し、森林のグランドサイクルを北海道内で循環させていく。そのために我々ができることは、道産木材をつかって建物を建てることなんです」
そんな問題意識を持ってつくられたのが、このFMセンターです。
ぼんやり灯る明かりが、なんとも柔らかい雰囲気を出しています。
FMセンターの特徴は、道内で加工している一般住宅用の120角材(120mm×120mmの角材)をメインに使用していること。一般住宅用の120角材は、オフィスのように広い空間を確保したい建物には向きません。しかし、120角材を二重にする「ダブルティンバー」というアイデアにより、道内で一般的に流通している住宅用建築材でのオフィス空間を可能にしました。
FMセンターはまさに、道産木材を道内で加工し、道内で使うという、北海道内での森林のグランドサイクルを実現させた建物となったのです。
「FMセンターは、北海道支店の設計・設備・構造の設計者みんなで集まって意見を出し合いながら作っていきました。社員みんなのアイデアがふんだんに取り入れられた建物です。北海道支店だからこそ、『北海道らしいものづくりとは何なのか』を、みんなで考えながら仕事を進めています」
藤田さんはこう続けます。
「竹中工務店は、鉄骨やRC(鉄筋コンクリート)で札幌ドームなどの大きい建物を作ることが本業でもあるけれど、一方で木造の建物も作るという、幅広い会社ですね。大きいものも小さいものも大切にしながらものづくりをしていく姿勢は、『匠の心=棟梁精神』を軸にする竹中工務店らしいなと。特に北海道支店は170人くらいの小さい組織なので、FMセンターのようにきめ細かいものづくりができることも、ひとつの特長だと思います」
『建築を業とするものは建築の職人であって、営利のみを追求する商人であってはならない。利害を超越すべし』(竹中工務店HPより)
この「棟梁精神」は、竹中工務店の従業員全員に刻まれる大切な芯なのだとか。
世界を見据える一方で、地域にも目を向け、心と技を尽くす。
北海道の建物だからこそ、北海道のまちと森がより良くなることを考える。
FMセンターには、ものづくりに誇りをもつ竹中工務店の「棟梁精神」が大いに反映されているようでした。
一般流通材を二重にする「ダブルティンバー」は、道産木の未来を背負った技術の一つなのです。
人と人を繋ぎ、「道産木のある未来」への種を蒔く。
「このカラマツは○○森林組合さんから、この集成材は○○さん、このベンチは○○さんの山から出てきた丸太を○○さんに頼んで加工してもらって・・・」
藤田さんとお話ししていると、北海道支店が手がけた建物の木材がどこからどのようにしてやってきたのか、そこに携わる人や会社、場所のストーリーが次から次へと飛び出します。
北海道支店がここまで道産木材の使用にこだわり、道産木材での建築を可能にしてきた背景には、藤田さんの抜群の行動力とネットワークの広さがありました。
ここからは、北海道支店専門役である藤田さんについてお話を伺っていきましょう。
藤田さんは神奈川県横浜市のご出身。東京工業大学の社会工学部に入学し、大学院の修士課程を修了後、新卒で竹中工務店に入社しました。
1年目は「見習い制度」と呼ばれる竹中工務店独自の育成過程で、同期全員と大阪の寮で暮らしを共にし、見積りから設計、施工現場に至るまで、建物をつくるための全てのノウハウを学びました。2年目からは東京本店で設計担当として働き、30歳の時にイタリア・ジェノバのレンゾ・ピアノ・ビルディング・ワークショップへの留学を経験しました。
「関西国際空港なども手がけている世界的に著名なアトリエ系設計事務所で、木のこともここで色々勉強させてもらいました」と藤田さん。この時のイタリア滞在の経験を買われ、3年後に再び、イタリアでの任務を任されます。
「木造建築を含む新しいプロジェクトのためにイタリアのローマに行ったんだけど、最初に準備されていたのは、寝泊まりするホテルだけ。後は全部自分たちで始めなさいと(笑)。そこから事務所探し、秘書探しから、もう1人の仲間とゼロからたった2人でプロジェクトを立ち上げていきましたね」
イタリアからの帰国後は再び東京本店で働き、2018年度木材利用優良施設コンクールで内閣総理大臣賞を受賞した「江東区立有明西学園」の設計などに携わりました。
こうして、イタリアや東京などで多様なプロジェクトに携わってきた藤田さんは、2016年に北海道支店の設計部長として初めて北海道にやって来ました。
「北海道は東京とは違って、建物につかう木材が生産される山や製材工場がすぐ近くにある。木材をつかう川下側である我々が、林業や加工など木材を生産する川上・川中側の人たちと、すぐに知り合って仲良くなれる環境なんです」
社屋の中は、道産木の温もりに溢れる空間です。
しかし実際は、林業や加工業の人たち(いわゆる川上や川中の人たち)は自分たちが伐って加工した木材がどこに使われているかを知らず、木材をつかう人たち(いわゆる川下の人たち)は自分たちが使う木がどこから来たのかを知らない、というのが現状です。
「北海道の木は曲がりやすいから、という単純な理由で、建築材に使われないという話も聞きます。でも、たとえばフィンランドでは、X線で木の強度をはかり、適切な用途に使用して木の価値を最大限に上げる使い方をしている。川上・川中・川下の距離が近い北海道だからこそ、もっとお互いに繋がって北海道の木の価値を高めていけたらいいですよね」
そんな思いを抱く藤田さんは、持ち前の行動力を存分に発揮して、北海道内で林業・木材業界に限らず幅広いネットワークを築いていきました。
その多様なつながりは、ただ会社で働いているだけではなかなか広がらないもの。
「単なる仕事じゃなくて、その人自身やその人がやっていることに興味を持って繋がるのが面白いよね。そうして仲良くなるとさらに面白い人を紹介してもらえたりするんです」
私たちくらしごと編集部も、くらしごとの取材先で藤田さんと偶然出会ったり、面白い人を紹介していただいたり、藤田さんのネットワークの広さを実感することが何度もありました。
北海道支店部長 企画担当の大垣内千秋さん(写真右)と、トドマツの風倒木から制作したベンチで談笑する藤田さん
藤田さんは、その広いネットワークの中で、人と人を繋げることも得意です。
「面白い人から紹介してもらって、また繋がって・・・を繰り返していると、なんとなく知り合いが揃っていく。林業・木材の業界って狭いんだなと思う一方で、その人たち同士は繋がっているようで繋がれていなかったりする。我々のような木材を使う川下側の人間が、道産材を使う仕事をつくることによって、繋がれていない人たちを繋げられたりすることもあるんじゃないかなと思っています」
そんな藤田さんが作り上げる人と人を繋ぐ「場」は、実に多彩。
FMセンターで使用した木が育った山に社員で植樹をしたり、大学の先生や研究機関と合板の簡易建築を開発して、高校生たちと組み立てるイベントを企画したり、高校に呼ばれて林野庁職員と共に授業の講師をしたり・・・
建物をつくるだけにとどまらない藤田さんの活動は、「道産木材」にさまざまな角度から関わる人たちを繋げ、「道産木がある未来」への可能性の種を、蒔き続けているようです。
「ウキウキしているのがいいよね。ただ仕事をしているだけじゃなくて、いろんな人のこうすると面白いよねという発想が発酵していくことが、一番大切かなと思いますね。実現するにはすごく苦労するけど、やってみないと始まらない。失敗のない人生は失敗だなんて言う人がいたけど(笑)、新しいことにトライしていくのが重要だと思っています」
竹中工務店北海道支店の「道産木がある未来」へのチャレンジは、まだまだ続きます。
- 株式会社竹中工務店北海道支店
- 住所
北海道札幌市中央区大通西4-1道銀ビル
- 電話
011-261-2261
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