普通の企業紹介...と思われてしまうともったいないので、ちょっとだけ先にご紹介。
◎ 土木会社にスキーチーム?
◎ ダムに流れついた流木のゆくえ
◎ CLTっていう建築材料知ってます? 北海道では民間初の建築物
◎ 地域企業のこれからの在り方
そんなことにも触れていますので、ぜひお読み下さい。
士別市(しべつし)は、北海道の真ん中から北部に広がる上川地方にあります。北海道には同じ読み方の標津町(しべつちょう)があり、区別するために「さむらいしべつ」というとっても格好いい別名で呼ばれたりもしています。羊のまちとしても有名なまちですが、士別市の中に広がる山々と畑の風景が美しい「朝日町」というエリアがあるのをご存知でしょうか。18,700人ほどの人口の士別市の中で、朝日町は現在1,250人ほどの人口なのだそうですが、2005年に士別市と合併するまでは独立した自治体でした。
そんな朝日町には地域に密着した、株式会社イトイ産業という個性的な会社がありました。2018年に創業70周年を迎え、企業理念は「Make many good for you.」─「たくさんのいいねを生み出していきたい」そんな気持ちが込められています。
地域貢献をすごく考えている面白い会社があるよ!そんな情報を元におじゃましましたが、とんでもない会社でした。出てきたお話は土木・建設事業に介護事業や飲食事業、そしてスキージャンプのお話しに、民間事業者で北海道初の建物なんかも...。イトイ産業を含むイトイグループホールディングスとは一体どのような企業なのでしょうか。
イトイ産業の誕生と東北との絆
イトイグループホールディングス 代表取締役 菅原 大介さん
今回お話をうかがったのは菅原 大介さん、イトイ産業の3代目の社長です。イトイ産業は菅原さんの祖父がこの朝日町で始めたそう。この朝日町にはスキーのジャンプ台があり、ジャンプのまちとしても有名ですが、秋田出身の菅原さんのお父さんも昔スキージャンプをされていて朝日町を訪れたそうです。そこで出会ったのが菅原さんのお母さん、つまり初代社長の娘さんでした。結婚された菅原さんのご両親はイトイ産業を引き継ぎ、そうして今は菅原さんにバトンが渡りました。
「私は朝日町で生まれ育ちましたが、東北の工業大学に進学しました。大学生時代、夏休みとかに北海道に帰省中、アルバイトでイトイ産業で働いたこともあったのですが、その時に本当にしみじみこの土木の仕事ってすごい仕事だなぁ~と感じたんです。そして、こんなに大変な仕事なんだ!って。それで自分の将来を色々と考えているうちに、他の人よりもちょっと長く大学に通うことになっちゃったのですが(笑)。土木作業員としてバイトした経験や、たまに戻ってきて朝日町が少しずつ賑わいを失っていく姿を見ていたのもあり、『地域のための仕事をするために故郷に戻りたい』って思うようになったのが、戻ると決心した理由のひとつでした」
朝日町を中心に主に上川管内で仕事をしているイトイグループですが、お父さんからつながる東北との縁は続き、唯一道外に東北事業所も展開しています。
この東北事業所は2011年の東日本大震災の際、菅原さんのお父さんの故郷であり菅原さんが学んだ大学のある東北の復興のために役に立ちたいと言う想いからでした。こうして東北はイトイグループの第二の故郷とも言える場所となったのです。
ジャンプの選手も働く、土木の現場
イトイ産業の社員であり、世界を目指して頑張っているスキージャンパーの鴨田 鮎華さん
様々な事業を展開しているイトイグループですが、全ての始まりは土木事業だったと言えます。土木事業部では主に道路を作ったり直したり、川やダム、公園の整備などに関わる仕事をしています。
「土木の仕事というのは、本当にそのまま地域の住民の方々のライフラインを整備する仕事です。地域がなければ私たちの仕事はありませんし、まさしく地域と共に歩んできた仕事です」
そんな土木の仕事だからこそ、菅原さんはこうも思っていました。
「公共事業は国や道市町村の予算を基本として賄われます。つまりは税金です。言い換えれば、私たちはこのまちに生まれて、このまちに、そして地域にお住まいの人々に支えられて会社を続けられてきました。ですので、公共の土木事業を確実に行うことも大切なですが、一方でもっと地域に密着し、地域と共に進んでいくことが理想的な姿だと思っているんです」
そんな想いから始まったことの1つが、スキージャンプ選手を社員として採用することでした。
現在イトイ産業には3名のスキージャンプの選手がいます。彼らは冬はもちろん、夏もサマージャンプの大会があり出場しているのですが、普段はトレーニングをしながらイトイ産業の普通の社員として働いているのです。
※スキージャンプに関わる記事は別でまとめています。こちらをご覧下さい※
地域のために!数々のユニークな事業部
イトイ産業 保険事業部 営業主任の鈴木 雄治さん
菅原さんと一緒に、会社について説明くださったのは、保険事業部 営業主任の鈴木 雄治さん。
「土木・建築となると、各種保険も必要だったりしますので、私はその保険分野をイトイ産業の社員として担当しているのと同時に、人事的な業務も担っています。イトイ産業って社名を他のまちで言っても、ああ、イトイさんね!みたいにはなかなかならないので、ウチの会社のことを説明するのってすごく大変なんです(笑)。もう本当にいろんなことをやってますからね。でも私自身がそう感じているように、こんな田舎に立地してますけど、本当に可能性に溢れた会社で、先進的なチャレンジをしていると自負していますので、ウチの多くの取り組みを知ってもらえたら...って考えています」
菅原さんを含め、鈴木さんも一緒に説明くださった会社の概要を簡潔にまとめてみますが、どれも本当に面白いことばかりでした。
イトイグループの骨格となる会社は、(株)イトイ産業で、公共事業を中心とした土木事業をメインに行っていますが、他にもいくつもの事業をされています。
まず一つ目は「Green Craft」というブランドにて展開する住宅事業部。新築はもちろんリフォームなどの住宅に関わることに携わっている事業部ですが、注目すべきお話しは新社屋を建てるということ。しかも、それは「CLT」という集成材のパネルを使用した社屋で、行政関連の建築物では少しだけ建ちはじめているものの、北海道で民間でこの材料を使って建てられるのは史上初のことなのだそうです。「CLT PROJECT」と名付けられ、2020年2月に竣工予定。北海道産木材のトドマツを岡山県に送り、CLTと呼ばれる部材に加工し、北海道へと戻ってきて建築資材として使われて建設されます。
完成イメージ。TOPにある画像は外観の完成イメージです。
CLTとはCross Laminated Timberの略称で、木材が持つ繊維の方向性を重ね合わせることで高層建築物にも用いられるほどの強度を出します。林業の盛んな北海道では正にこれから期待される建築構造材です。
菅原さんは「他には事例としてなかなかない社屋を建てることで、こんな小さなまちだけど、視察したい!実際に使っている人の話を聞いてみたい!っていうような方々が来て下されば、それで地域との交流が増えたり、少しでも経済効果につながることもあるかもしれない」とも話されます。
とても動かせる家には見えませんし、プレハブともまた違った、今注目のトレーラーハウス
二つ目にご紹介する事業は、トレーラーハウス事業部。年々高齢化が進む社会で、若いころに建てた家ではバリアフリーが進んでいないことや大きすぎて管理が大変になってしまうという問題が高齢世帯にはよくあるのだそうです。
そこで考えたのが、新築ではなくトレーラーハウスという選択肢でした。高齢となってから新築を建てるとなると大変ですが、トレーラーハウスなら敷地さえあれば元の家を壊す必要もなく、管理のしやすい形で維持ができます。移動も可能ですので住宅以外にも店舗などの用途でも需要があるのだそうです。東北や北海道でも起こってしまった震災。そんなときの仮設住宅としても利用できます。
「喫茶&食事 せいふう館」の店内の様子
三つ目にご紹介するのは飲食部門である「きずなキッチン事業部」。こちらの始まりは、菅原さんのお母さんが食堂をされていたことから始まります。朝日町という小さなまちでも、飲食店は絶対に無くなってはいけないという想いからこの飲食店を事業化しました。
「せいふう館」というレストランを開店し、地元の方はもちろん、社員食堂としても人気があるそう。その他にも、地域の食を守るために、施設給食や配食サービス、宿舎向けデリバリーなども行っているそうです。
左上に固まっているのが流木。それを船で少しづつ引っ張っていき、丘に引き上げ、木を乾燥させます
四つ目の事業は地域再生エナジー事業。名前だけを聞いてもピンとこないかもしれませんが、この事業は「株式会社あんぐらエナジー」として去年イトイグループの中に生まれたばかりの会社です。
これもとっても面白いお話しなんです。水をせき止める「ダム」好きな方も多いかと思うのですが、すごく綺麗ですよね?でも実は、倒れた木なども流れついて、ダムがためている水にたくさん浮かぶんだそうです。ダムを放水するときにはそれが邪魔になってしまうため、それを回収するお仕事が世の中にあるなんて知ってましたでしょうか?そう、それもイトイグループで専用の船を使って回収する業務を行っていました。
海のないまちなのに、船舶免許を持って仕事をしている人がいるんです! でもそれで終わっては面白くありません。これまでは集めた流木はゴミとして扱われていたのが、とてももったいないということに気がつき、これを活かしてバイオマスチップを作るというのが地域再生エナジー事業です。以前は下川町の工場で行っていた作業だったのですが、(株)あんぐらエナジーを立ち上げたことによってエネルギーの地産地消が可能となりました。生産されたチップは木質バイオマスボイラーを利用している朝日地域交流施設「和が舎」で燃料として活用されています。
こうして4つの事業を紹介してきましたが、もう一つ特徴的な会社がイトイグループにはあります。それが、介護事業部です。もう少しクローズアップしてご紹介します。
笑顔あふれる介護事業 (株)北秋
イトイグループにある介護事業を担う会社、それが株式会社北秋です。北秋では先ほど紹介したトレーラーハウスと飲食事業の他に、認知症専門の介護施設「グループホーム 絆」を運営しています。
その始まりもやはり「地域のため」。市が朝日町に介護施設がないので事業主を探していたところに名乗りを上げたのがイトイグループだったのです。
1号棟 施設長 花山 勇太さん
まずお話をうかがったのはグループホーム1号棟の施設長、花山 勇太さんです。
「北秋は来年で10周年を迎えるのですが、10年前の施設の立ち上げの時は大変でしたね。以前僕は札幌で介護の仕事をしていたのですが、会社でこのエリアに施設をつくるんだと決まって、イトイ産業が親族の関わっている会社だったことと、もともと朝日町で生まれ育ってましたから、前社長に立ち上げをお願いされて、朝日町に戻ってきました」
当時26歳で住み慣れた札幌を出て朝日町に戻ると決めた花山さん。かつての友だちもいない、通いなれた居酒屋もない朝日町では、暮らすことにおいては、やはり寂しかったそうです。さらに施設を立ち上げて施設長となった花山さんに試練が訪れます。
「なんというか、介護って受け身の仕事だと思っていたんですよね。前にいたところは割と大きな施設だったので、人も多いし、分業もできていたので、同じ介護という仕事でも施設の規模や地域にあった動き方をしなきゃいけないのに、やらなきゃいけない仕事がそこにあって、それをこなしていく...みたいな感じで、まだ僕も若かったのでスレていたんですよね。それで人間関係が行き詰って施設の雰囲気が悪くなって...みたいな悪循環に。本当に悩んでた日々が続きました」
1度は施設長としての任も解かれたことがあったそうですが、その逆境があったからこそ、客観的に全体を把握できるようになり、自分が悪かったところを見つめ直すことで、花山さんは前に進むことができたと言います。
「あの経験からスタッフへの伝え方ってとっても大事だと学んで、受け身ではなく『選ばれる施設』になることを目指しています。介護の仕事って、相手が笑ってくれることが大切だと思っていて、笑顔が笑顔を生む、そんな環境を目指しています」
2号棟 施設長 林 雅也さん
一方、グループホーム 絆 2号棟の施設長の林 雅也さんは旭川のご出身。奥様が士別の出身で、移住した際に介護の仕事を選んだことからイトイグループとの縁が始まりました。
「元々は自衛官をしていたので体力には自信があったのですが、初めての介護の仕事で人と関わる仕事の難しさは感じつつ、実際働いてみるとすごく楽しくて自分に向いていると感じました。実は資格もたくさん持っていますし、ガタイもいいので、イトイ産業の土木部門から『こっちで働かないか』と言われたこともあるんです(笑)。でも自分は介護の仕事も、利用者さんも好きなのでグループホーム 絆の社員として続けさせてもらっています」
そんな北秋の雰囲気はまさに活気のある職場。スタッフの半分が若者で、しかも男性が多く定着率も高いというのが特徴なんだそうです。その秘訣について花山さんはこう言いました。
「私たちの施設は夏休みや冬休みがしっかりあって、シフトもそれぞれの事情を最大限考慮するようにしています。しかし何より一番の特徴は職員同士が仲が良いというところですかね。夏にはみんなでバーベキューをしたり、冬にはスキーをしたりするんです。それにイトイグループがどんどん新しいことを始める会社なので、次々に斬新なことを見ることができますし、業種も仕事も全く違うイトイグループ全体での交流会があったりもするので、他の事業部の話を聞いたりして、いつも新鮮で刺激のある影響をもらえるのは、他にはない特徴だと思います」
人こそがイトイグループの財産
新しい社屋の模型
本当に様々な事業を行うイトイグループですが、その中心にあるのは「人」。イトイグループで働く社員について菅原さんはこう言いました。
「私たちイトイグループの社員は地元士別出身の人が本当に多いんです。このまち出身の人はまちのことが大好きな人が多いんだなっていう印象も抱いています。仕事があれば地元に残りたい、外に出たとしても戻りたい!となった方に対しても受け皿となり、これからも地域愛のある人々の雇用を守っていきたいですね。もちろん朝日町を好きになってくれて、移住してくれるような方も大歓迎ですよ。そして、地域に対しての想いのある人たちで構成するグループとして存在していきたいですね」
土木事業関連をはじめ、数々の表彰を受けるほど技術力のあるイトイ産業ですが、社員の多くは土木関係の大学出身というわけではなく、全くの未経験からのスタートなのだそうです。イトイグループでは経験や実績、技術はもちろん大切ですが、何より大切なのは「人」自身なのです。
だからこそ快適な社員寮の完備や社員食堂を安く提供したり、社員旅行や長期休暇、社員の自宅の除排雪といった福利厚生にも力を入れ、仲間たちが気持ちよく仕事ができるように努められているのだとか。
最後に菅原さんはイトイグループの価値についてこう語ります。
「もちろん過酷な現場も時にあるでしょう。だからこそ人として自然体で生活をし、年間を通じて働ける環境、人生設計ができる環境を提供したいと思っています。これからのこの地域、そしてこの地で楽しみながら暮らしていく生き方を考えていくことが、このまちに支えられてきた私たちイトイグループの使命ではないでしょうか」
地域企業は疲弊してきた、将来の存続をどうしよう...そんなことも言われることが多くなりましたが、イトイグループでは、どこか大変なことも楽しそうにチャレンジしているのが見えてきます。大企業ではありませんが、SDGsの考えを掲げ、世界レベルの基準を士別市で、朝日町エリアで考え抜いて実践している様は、他の多くの企業にとっても学ぶことがあるように思えました。
- イトイグループ ホールディングス(株式会社イトイ産業)
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北海道士別市朝日町中央4025番地
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