HOME>学校と学生の取り組み>『レディ魚ー×くらしごと 漁村体験記』第11弾 石狩市厚田区

学校と学生の取り組み

『レディ魚ー×くらしごと 漁村体験記』第11弾 石狩市厚田区20250130

『レディ魚ー×くらしごと 漁村体験記』第11弾 石狩市厚田区

皆さんこんにちは!
「水産の未来を考える若者を増やす!」をモットーに活動する学生団体 レディ魚ーの中野伸哉です。北の魚に憧れて大阪からまいりました!北海道大学水産学部海洋資源科学科2年に所属しており、レディ魚―では代表を務めております。
今回は、どうしても書きたい!と懇願し、いつも執筆しております船橋に代わって、中野が書かせていただきます。
漁村訪問の活動では、大学にいるだけでは知ることができない実際の水産現場を訪れて自らの手で漁を体験し、水産の第一線で活躍されている漁師さんのお話を伺うことで、参加メンバーにとって水産の「今とこれから」を考えるきっかけを作り、大学での学びをさらに深めることを目指しています。

redhigo-2025011.jpg今回記事を書かせていただく中野です!よろしくお願いします

第11弾となるその内容は、「石狩厚田のハタハタ漁」です。
石狩市厚田区のマル拓水産さんに見学させていただくことになりました。
11月下旬から12月上旬のほんの短い期間のみ行われるハタハタ漁。
シケの多いこの季節、年によっては2回しか漁を行えないこともあると言います。
ドゴーン、ドゴーンと大荒れの中進む船、その中での作業、まさに命を懸けた大勝負。
ハタハタ漁を見させていただく中でマル拓水産、水口さんの強い想いも垣間見ることができました。
(トップ写真はマル拓水産の皆さん。左から、高橋 大樹さん 水口 拓真さん 水口 満之さん)
是非最後までご覧ください。

石狩市厚田区ってどんなところ?

人口:1631人(令和4年時点)
特産品:シャコ、サケ、ニシン、ハタハタ、望来豚
観光名所:道の駅「あいロード厚田」、厚田港朝市、戸田墓地記念公園

redexigo_atuta00001.png道の駅からみた厚田の町。段丘と海に囲まれて美しい

石狩湾をのぞみ、札幌の中心部から1時間半ほどの場所に位置する石狩市厚田区。
段丘面に位置する厚田の夕日はまさに絶景。厚田展望台は、北海道第1号の「恋人の聖地」として選ばれています。
また秋のサケを中心に一年を通して多種多様な魚が獲れ、4月~11月には毎日厚田港朝市が開催され活気に満ちています。
人が暖かく、魚が美味しい石狩市厚田区は「愛をサケびたくなる町」ではないでしょうか!

いよいよハタハタ漁へ

11月下旬、「昨日網を刺した(仕掛けた)のさ、明日ハタハタ網あげるかも!」とマル拓水産の水口さんより連絡を受け、深夜3時より雪降るオロロンラインに車を走らせました。「今日はよろしくお願いします!」日の出を待ちながら、作業場のストーブを囲みます。薪ストーブがパチパチを音をたてるなか、水口さんの携帯に着信がありました。「今日はだめだ...」水口さんの漁師仲間が早めに沖に出て網をあげ様子を見たところ、ハタハタが2匹しかかかっていなかったとのことでした。
連絡をうけ、水口さんは網を明日まで仕掛ける決断をしました。漁師さん同士の連携に感服しつつ、ハタハタ漁の難しさに驚かされました。日の出後、現在仕掛けていない場所に網をあたらしく仕掛けることになり、その様子を見せていただきました。

redexigo_atuta8.png今回乗せていただいたのは「帝真丸」、先日進水式(新しい船を迎えるお祝い)を行ったばかりの船でした。

ハタハタの群れは、ほんの一瞬その場所にしか現れない

綺麗な船内に乗り込み出船。船後方には、仕掛ける網がスタンバイされています。今回行われる漁は刺し網漁と呼ばれるもので、細い糸で作られた網を海にカーテンのように仕掛け、そこを通る魚を獲るという漁法です。
広い海の中、数百メートルといった長さの網を仕掛けるので、魚がいる場所、魚が通る場所を予測して仕掛ける必要があります。
出港後、海岸線沿いに船を走らせます。船を走らせている間、水口さんは外の景色を注視していました。
「何を見ているのですか?」
「海の様子とか、鳥の様子とか、例えば、浜辺に鳥が集まっていたら、打ちあがったコッコ(ハタハタの卵)を食べている可能性が高いのさ、そしたらその辺にハタハタがいるかもしれないんさ」
15分ほど船を走らせると、速度を落とし、魚群探査機を見ながら周辺を回り出しました。
「ハタハタは日が上がると砂にもぐるから(魚群探知機の)反応を見るのが難しい。この反応は、もしかしたらいるかもしれない」と一瞬魚群探知機に反応が見られました。
そしてほどなくして、「いれて!!」という掛け声がかけられ、網の端が船後方より海に入れられ、カーテンのように網がサラサラと海に入っていきました。
反応が見えてから、網が海に入るまで本当に一瞬でした。

redhigo-2025013.jpgきれいにたたまれた網は船の動きに合わせてサラサラと入っていきました。船の運転と網の流す作業の完璧な連携でした

網を入れ終わり帰港のため加速し始めました。
港に戻るまでの間、昨年の様子はどうだったのかお話を伺いました。
「昨年は良く獲れたのさ、多くの人が浜益側(北側)に網を仕掛けている中で、石狩で獲れたという情報を聞いて石狩方面(南側)に網をかけてみたのさ、そしたらいっぱいかかって、ほんと、網から魚を外すのに丸1日かかった」と笑顔で水口さんは話します。
翌日の大漁を願い私は札幌へ戻りました。

翌日、私は大学の授業の関係で仕掛けた網を上げる作業を見に行くことが出来ず、水口さんから連絡を頂きました。「今日はハタハタ4匹でした」とのことでした。
改めてハタハタ漁の厳しさを痛感しました。

一週間後、ハタハタ網を上げる様子を見学させてもらえることになり、私は厚田にきていました。この日は風が強く、夜中の時点では波も高く船が出せる状況ではありませんでした。番屋のストーブを囲み、波が収まるのを待ちながら、昨日の様子を伺いました。
「昨日はハタハタどうでしたか?」
「昨日は30~40kgぐらい獲れた。今日、網を上げるのが楽しみだわ!」
昨日ハタハタが獲れた!群れが来ていて、ハタハタを見れるのではと心が高ぶります。

redhigo-2025014.jpgまだ日の上がる前に出船します。この日は大荒れでした

夜明け前、出発の準備を行い、船に乗りこみます。船が動き出し、港を出ると...
大荒れでした!
船が、ザバーンと大きくうねる波の中進みます。
ポイントに到着すると網を巻き上げる作業が始まりましたが、よろめき立っていられないほどでした。
船に乗っている皆さんは、平然と作業をつづけられており、皆さんの力強さに驚かされました。
大きく揺れる船、そして暗闇の中、網の目印となるぼんてん(浮き)を探し、船を慎重に動かします。ぼんてんを見つけると船を慎重に動かし、長いカギを使って海に浮いているぼんてんを取ります。ぼんてんにつながるロープを引っ張り、船についたローラーに巻き付けます。一気に船内はあわただしくなります。

redexigo_atuta00004.pngぼんてんを取る様子。広く暗い海から探すのは至難の業
redhigo-2025015.jpg網を巻き上げる。機械を用いるが、巻き上げるのにはかなり力とコツが必要

少しずつローラーに巻き上げられて網が海から上がってきました。
今か今かとハタハタを待ち構え、半分ほど網を上げたとき、
「あっ!」
ハタハタが2匹かかっているのが見えました。すぐにハタハタを取り込み、次のハタハタを待ち構えます。
その後、網が海から上がってくるのを神妙な面持ちで見つめていましたが、この日、それ以降ハタハタは上がってくることはありませんでした。

redhigo-2025016.jpgこの日獲れた唯一のハタハタ。もう一匹はカモメに持って行かれました

さらに1週間後、今シーズン最後のハタハタ漁に私もお邪魔させていただきました。
この日も海は大きくうねり足元が動き続ける中作業は行われました。
緊張が走る中、数百メートルという長さの網を巻き上げ船に取り込みましたが、この日のハタハタは10匹前後でした。
大漁のハタハタを見ることが出来ずシーズンが終わってしまいました。
今年のハタハタ漁は今までに類を見ないほどの不漁だったようです。

redhigo-2025017.jpg最後のハタハタ漁で獲れた魚。ハタハタは全然獲れなかった

網外し体験!?看板にかけられた想い

「今日カスべある~?」「あるよ~」「じゃあ2枚!」
番屋(加工場)がそのまま直売所にもなっているマル拓水産には朝から、新鮮な魚を求めて、様々な人が訪れます。「これカワガレイ、刺身でも、唐揚げでもうまいよ、おまけね」買ってくれたお客さんにおまけを渡すことが多いと言います。「なんもなんも~」と笑顔で魚を渡す水口さんのこれまでを伺いました!


redhigo-2025018.jpg番屋でカスべの加工をしている様子。丁寧に皮をはがします。その場で買うこともできます

札幌で生まれ、学生時代を札幌で過ごし、営業職を経験後、漁師になったという水口さん。漁師になるきっかけとなる出来事が、中学校の卒業後にあったみたいです。「中学を卒業してたまたま見た求人で、アキアジ場(サケ漁)にパートで入ったのさ。その時の印象がずっと残っていて厚田で漁師になりたいって思った」
27歳で厚田で弟子入りをしてはじめは分からないことも多く大変苦労されたようです。
「働きながら、40歳で独立っていうのは決めてて、それに向かって進んだ感じなのさ」
そして、一昨年マル拓水産として独立を果たしました。札幌で建築業を行っていたお父さん(水口満之さん)に声をかけ、独立を機に厚田で共に漁師をすることになったそうです。

redexigo_atuta02.jpg魚が大好き!水口さん

現在、直売所と飲食店も行われている水口さん。それぞれにこだわりと想いがつまっていました。
「独立前からお客さんから、『厚田には朝市はあるけどご飯を食べるところが少ない』と言われることが多くて飲食店を始めたのさ。とにかく地物の魚にこだわろうと思って始めて、安定してきたのは本当に最近。最初は盛り付けなどでお客さんの満足が低くなってしまうこともあったけど、もっと良く、喜んで欲しいと思ってやってると次第に良いものができる」と強く語る水口さん。
とにかくその時期に獲れる厚田の魚にこだわられており、朝獲れた魚を使って作られた海鮮丼などが提供されます。
「これからは魚以外の物も地物を用いるなど、もっとこだわってお客さんに喜んでもらいたい」

redexigo_atuta01.jpgタコ・ハマチ丼

redhigo-2025019.jpg番屋の入り口。「魚はずし体験募集」と書かれている

マル拓水産の番屋(加工場)の入り口には「魚はずし体験募集」と大きく文字が書かれています。私はこの文字をきっかけにマル拓水産に出会いました。魚外し(網外し)とは、刺し網にかかった魚を網から外す作業なのですが、マル拓水産ではタイミングがあれば作業を体験することができます。どうしてこのような取り組みを始められたのか聞いてみました。

「番屋(加工場)に魚を買いに来たお客さんの中には、網外しの作業を見てやってみたいっていう人も何人かいたから、こういうの(網外し体験)をできたらいいなと思ってた。網外し体験を始めてみると、お金払ってでもやりたいですっていうお客さんもいてびっくりした。網外し体験を通して、魚を買いに来たお客さんにも魚に触って感動してもらってマル拓水産と厚田を好きになってもらいたい」
そう笑顔で話します。

飲食店も網外し体験も、来た人に喜んでほしいという想いが作り上げたものなのだと強く感じさせられました。
「なんもなんも~」笑顔で話す水口さんの姿はとてもやさしく、たくましく見えました。

redexigo_atuta00003.png魚はずしの様子(写真はニシン漁)

「本当に魚が好きで、毎日ご飯は魚で良い、自分がとってきた魚をたべていたい」
とその日獲れたカワガレイを持ちながら笑顔で話します。
「厚田に来た人に感動してほしい」
これからも多くの人に厚田の魚で感動してもらうために、通販や公式ラインなど様々な取り組みを始められるようです。
「厚田は年間通して、ニシン、カレイ、ヒラメ、タコ、サケ、ハタハタと本当にいろんな魚が獲れる。ハタハタのように魚が移り変わることもあるけれど、その時期の旬の厚田の魚を食べてほしい」

「とにかく来てもらったらわかる」そう強く言いました。

redexigo_atuta00005.png↑網を仕掛けるための準備をされている水口さん

ハタハタ漁を見させていただき、漁そのものの難しさ、変わりゆく海、魚を間近で感じました。そんな中、その土地でその時期の旬の魚が、おいしく、心動かされるものだと思います。
厚田の魚を愛し、魚はずし体験も含め、厚田の魚で多くに人に感動を与えている水口さんに心動かされました。
何度も何度もお忙しい中お邪魔させていただき、お話を伺ったマル拓水産の皆さん、水口さん。本当にありがとうございました。
地物の旬の魚を食べにぜひ、厚田のマル拓水産さんに足を運んでみてはいかがでしょうか。

移動式鮮魚店レディ魚ー×くらしごと
住所

北海道札幌市北区北20条西5丁目2-50(レディ魚ー事務局)

URL

https://www.instagram.com/ready_5500/

GoogleMapで開く


『レディ魚ー×くらしごと 漁村体験記』第11弾 石狩市厚田区

この記事は2025年1月24日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。