皆さんこんにちは!
水産の未来を考える若者を増やす!をモットーに活動する学生団体 レディ魚ーのふなっしーこと、船橋河輝(ふなはしこうき)です!
北海道大学水産学部2年で、レディ魚ーでは主に「漁村訪問」を担当しています!漁村訪問の活動では、実際の水産現場を訪れて自らの体で漁を体験し、第一線で活躍されている漁師さんのお話を伺うことで参加メンバーにとって水産の「今とこれから」を考えるきっかけを作り、大学での学びをさらに深めることを目指しています。
今回も記事を書かせていただくふなっしーです!よろしくお願いします!
今回の漁村訪問では、網走湖に自らを「しじみバカ」と名乗り様々な画期的な取り組みをされている漁師さんがいらっしゃると聞き、しじみ漁師 嶋田一生さんのもとを訪ねさせていただきました。 嶋田さんは嶋田漁業部5代目として、先祖代々漁を営んできた網走湖、そこで採れる最高なシジミの魅力を伝えていくために商品開発や積極的な発信など様々な活動をされていらっしゃいます!
また今回は私ふなっしーともう一人、北大水産学部1年の後輩 星野在冬(ほしの あると)君の2人で訪問させていただき、実際にシジミ漁とシラウオ漁を体験させていただいたとともに、網走湖のシジミや生まれ育った網走の町への熱い想いを伺ってきました!訪問のラストには想像もしなかった作業を見せていただきましたので、是非最後まで読んでいただけますと嬉しいです!
こちらが嶋田漁業部5代目の嶋田一生さん。嶋田さんオリジナルTシャツを着てくださっています!
今回一緒に訪問した星野在冬君。朝に弱い筆者は彼に起こしてもらえたおかげで漁に同行できました。ありがとう!
網走ってこんなところ!
『基本情報』
所在:オホーツク総合振興局
人口:32,319人(2024年9月末現在)
特産品:シジミ、毛蟹、シラウオ、ワカサギ、あばしり牛
観光名所:網走監獄、網走湖、オホーツク流氷館、流氷砕氷船
網走監獄や流氷など観光地として全国的にも知名度の高い網走市ですが、実はオホーツク海や網走湖からの豊かな水産物に恵まれた漁業が盛んな街でもあります。特に嶋田さんが漁をされている網走湖は日本有数のシジミが名産な汽水湖として知られ、毎年冬季には全面凍結するためワカサギ釣りでも賑わいを見せています。
網走湖から眺める日の出
実際の漁の様子をご紹介する前に、嶋田さんの熱い想いや取り組みについて伺わせていただきましたのでご紹介させていただきます!
伝統あるシジミ漁、そして生まれ育った網走の魅力を全国に!しじみバカこと嶋田さんの取り組み!
現在、嶋田漁業部5代目として様々な取り組みや発信をされている嶋田さん。そんな嶋田さんですが実は最初から漁師をされていたわけではなく、生まれ育った網走を離れ医療の道へ進まれたご経歴があります。しかし自分を育ててくれた網走に恩返しを、そして伝統的な漁の文化を守るために網走に戻り漁師を継ぐことを決意されたという背景があり、枠にとらわれず新しい視点を取り入れることにも精力的です!
「網走のために何かしたい」と発信活動に積極的な嶋田さん。私たちが最初に驚いたのは訪問前のこと、嶋田さんのホームページを見た時です。一人の漁師さんのサイトとは思えないほどに豪華で、シジミ漁や網走湖、オリジナル商品の紹介などコンテンツが充実しており、お会いする前から嶋田さんの並々ならぬ熱い想いが伝わってきました。ウェブサイト運営や発信活動についてお伺いすると、外部と連携をとり徹底して「しじみバカ」としてのブランディングを進めていらっしゃるそうで、「まずは知ってもらわないと始まらないから発信活動には特に力を入れている。自分だけでもできなくはないが、プロの力を借りるのが一番効果的なんだ」と、シジミ漁や網走についてより広く発信していくことを重視されていました。
しじみバカとしてのブランディングを積極的に展開されています!
また嶋田さんはワークウェアブランドと共同で、「A BASHIRI FISHERMAN(ア・バシリ フィッシャーマン)」という嶋田漁業部オリジナルブランドを立ち上げるなど活動の幅は水産業のみにとどまりません。2022年には漁師を格好いいイメージに変えようと東京農業大学の学生と連携してファッションショーを行い、さらには役目を終えた漁師ガッパをバッグやポーチに加工し、道の駅などで販売することを計画していらっしゃいます!嶋田さんは「漁師を格好いい職業にすることは、就漁者の減少に歯止めをかけてシジミ漁の伝統を後世に繋いでいく上できっと助けになる」とおっしゃられていて、その視野の広さに驚かされました。
たくさんお話を伺わせていただきましたが、溢れ出る熱意に圧倒されました。
日の出とともにまずはシラウオ漁に出漁!
それでは実際の漁の様子をご紹介させていただきます!
まずは10月の網走湖の風物詩 シラウオ漁に同行させていただきました。シラウオとはあまり聞きなれない魚かもしれませんが、シラスをニ、三回りほど大きくしたような細く透明な魚で、主にかき揚げや新鮮なものはそのまま生食や寿司ネタとして料亭などで楽しまれている高級魚です!
日が昇る朝6時前に呼人(よびと)漁港を出港!シラウオ漁は大小2隻の船で協力して行う「引き網漁」で行われるのですが、出港して少し湖に出ると2隻の船をロープで係留して待機します。何が始まるのだろうかとソワソワして待っていると6時の時報が!それと同時に沖で待機していた各船が一斉にフルスロットルで漁場をめがけ走り出したのですが、その光景はまるで競艇さながらの迫力で、私と星野君は圧倒されながら必死に船にしがみついていました..
左の大型の船は母船、右の小型の船は網船と呼ばれています。
6時の時報が鳴るとともに全速力で飛ばして漁場へと向かいます!
漁場に到着してからは小型の船(網船)が母船のもとを離れて、表層に集まっているシラウオを狙い網を入れていき巻き上げるという一連の流れを繰り返していきます。シラウオ漁には資源量の低下で長年休漁へと追い込まれていた過去があり、一人30㎏の漁獲枠を設定し徹底して資源管理が行われています。また網を入れられる時間は10時までと決められており、まさに時間との戦いです!
網を投入していく網船。網の入れ方も大きく漁獲量に影響してきます。
網を巻き上げ、魚をカゴに移している様子。この日はワカサギが多く入ってしまいました..
網を回収してからは根気のいる選別作業が始まります!
引き網では狙ったシラウオだけでなく、どうしてもワカサギやスジエビが混獲されてしまい選別する必要があります。特に今回はワカサギの混獲が多く手作業で分けていくのですが、浮袋を持つワカサギは水に浮き、浮袋がないシラウオは沈むという魚の特性を生かした手法も取り入れられており、先人の知恵が感じられました。
船べりに取り付けた網に魚を入れ、シラウオと比べ浮きやすいワカサギを掬って除いていきます!
最後は手作業でシラウオの中からワカサギを取り除いていきます。
このようにして漁獲・選別されたシラウオはまるで宝石のように光り輝き、その透き通りまっすぐな魚体は「白魚のような手」や「白魚のような肌」という言葉が生まれるのも納得な美しさでした。シラウオを少し食べさせて頂きましたが、プチプチと弾ける食感がクセになり、想像以上に旨みが強く驚きました。地元の漁師さんは卵とじにして食べることが多いそうで、シラウオからもいい出汁が出て美味しいのだそうです!
まるで宝石のようなシラウオ。プチプチとした食感がくせになる美味しさ!こんな華奢な魚が湖の中で泳いでいるイメージがつかないです...
遂に念願のシジミ漁に!
シラウオ漁を終えて船を乗り換え、そのまますぐにシジミ漁に出航!嶋田さんが行うシジミ漁ではプロペラがついた特殊な鋤簾(じょれん)を船で引き、プロペラで水流を鋤簾に送りながら効率的にシジミを採っていきます。
実際に漁のポイントに着き鋤簾を入れると、ほんの少し船を進めただけであっという間に大量のシジミがあがってきたのですが、あまりにも一瞬のことで私と星野君はあっけにとられてしまいました。採れたシジミは船上で洗って泥を落とし、機械で大きなシジミのみに選別して小さいなシジミや貝殻を除去していきます。
こちらが鋤簾です。口の前にプロペラがついています。
シジミを洗って泥を落としながら、貝殻も除去していきます!
機械での選別の様子。それにしてもすごい量のしじみですね
網走湖ではシラウオと同様、シジミにも1日の漁獲制限が定められており、資源管理が徹底されています。この時は1日あたり60㎏の制限だったのですが、わずか15分ほどで採り終えて帰港。
このまますぐに出荷するのではなく、一度作業場に持ち帰って最後に手作業で選別をしていきます。ここで頼りにするのは「音」です。作業台の上にシジミを落とした時の音で貝の中身の有無を判断していくのですが、音の違いが想像以上に聞き分けにくく難しく、私たちは大苦戦...。一方でジャラジャラと一度に大量にシジミをふるいにかけていく嶋田さんの姿はまさに圧巻で、熟練された技術を感じました。
網走湖のシジミはとても大粒で身が詰まっています!
音を頼りに中身が入っていない貝がないか確かめます。星野君(奥)は耳を近づけ一生懸命選別しています!
消費者の方に直接最高のシジミを届けたい!しじみバカ謹製 「八月のしじみ粥」の挑戦!
ところで、みなさんは「シジミ」の旬ってご存知ですか?私は全く見当もつかなかったのですが、嶋田さんによると産卵期を迎えた8月のシジミが最高においしいのだそうです。8月になると網走湖のシジミ漁師さんはご家族用に一年分のシジミを一斉に冷凍し始めるほどだそうです。ただ8月のシジミがおいしいと伝えるのではなく、科学的に証明することが何よりも強い説得力を持つと考えた嶋田さんは、専門機関に依頼して何度も検証を重ねました。すると8月のシジミがどの時期よりもうまみ成分が多く、産卵を終えた9月のしじみと比較すると8倍以上もうまみ成分が多いことが示され、「8月のシジミが一番おいしい」ことが証明されたのです!
成分分析で8月のシジミのおいしさを確信した嶋田さんは、8月に採れた最上級のシジミを消費者の方々に最高の形で味わってもらいたい、そして「おいしかった!」という感想を直接聞きたいと一念発起し、「八月のしじみ粥」の開発を決意!クラウドファンディングを実施し見事に達成。構想から2年近くの年月をかけての開発を経て去年無事に販売を開始すると好評を呼び、テレビで紹介されたり網走市のふるさと納税返礼品に選定されるなど注目が集まっています!
シジミの強い旨味が出た煮汁で炊いた雑炊はまさに絶品だそうで、「普段はみそ汁などで脇役だったシジミが主役になれている」といいます。私もいつか食べてみたいです!「8月のしじみ粥」は11月頃から数量限定で網走市内の道の駅などで販売が始まるほか、嶋田漁業部HPでも予約販売されていますので皆さんもぜひご賞味ください!
こちらが「八月のしじみ粥」です!筆者はたった今ネットで購入しました!
パッケージにもこだわり高級感を演出しています!
漁師と農家の二刀流!最後はまさかの農作業を見学!
さて、昼前に漁を終え嶋田さんが向かったのはなんと広大な小豆畑。そうなんです!嶋田さんは漁師のほかに代々受け継がれてきた畑で農業もされていて、まさに二刀流でご活躍されています。特に今回訪問させていただいた10月は収穫時期と重なり忙しい時期だそうです。所有されている約52ha(およそ東京ドーム11個分)と広大な畑で、小豆のほかにも馬鈴薯など様々な作物を育てられているそうで、ただでさえ大変な漁のあとに夜まで農作業をされる嶋田さんのタフさに驚かされました。
小豆の収穫作業をされている嶋田さん(左)
収穫された小豆と嶋田さん。
今回の漁村訪問を振り返って
今回の訪問では嶋田さんの活動について学ばせていただき、その幅広さや熱意に心を動かされました。特に漁師だけの視点だけではなく、ブランディングやファッションなど枠にとらわれない新しい視点を積極的に取り入れ、これまで水産とは関わりが少なかった異業種を巻き込みながら伝統を守っていこうされている嶋田さんの数々の取り組みのカタチは、これからの水産業が必要としているものなのではないかと強く感じます。
また星野君は今回の訪問を終え、「授業や記事からでは伝わらない漁師さんの逞しさや船上の空気感を肌で感じ、その迫力に圧倒されるばかりだった。また嶋田さんの活動にも触れ、とてもいい学びになった」と感じたようです!
船上で漁の様子を見守る嶋田さん。
嶋田さんには特に忙しい時期にも関わらず訪問を受け入れていただき、大変お世話になりました。本当にありがとうございました。
これからも頑張って参りますのでよろしくお願いします!
それでは次回の漁村訪問もお楽しみに!
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