MONOテクは、ものづくりをはじめとした専門的な知識や技能・技術を身につけて就職しようとする方々を対象にした施設の愛称。正式には北海道立高等技術専門学院といい、かつては職業訓練校と呼ばれていました。手に職がついて就職率が極めて高いうえ、授業料なども比較的安価で条件が整えば制度で免除になることもあります。
2023年現在、MONOテクは北海道内に8カ所にあり、各所とも2年間を基本として職業訓練を行っています。今回は帯広市にあるMONOテク帯広へ取材に伺い、MONOテクの魅力や学べることなどを探ってみました。
まずは、訓練生はどんな想いや目標で学んでいるのか、3名の方々にお話を伺ってみましょう!
2年間雇用保険が支給されて学費も免除/自動車整備科・井戸川誠也さん
1人目は、自動車整備科の1年生、井戸川誠也さんです。井戸川さんは十勝管内出身で今年23歳。高校卒業後にドラッグストアや飲食店、清掃の仕事などいくつか経験したのち、MONOテク帯広の門をくぐりました。
「10代のうちはアルバイトとして働いていましたが、20歳になって正社員雇用を考えるように。そんな時にたまたま友人から、支援を受けながら学べる施設としてMONOテク帯広のことを聞いたんです。その後はMONOテクを目指して1、2年をアルバイトなどで食いつなぎ、今年の春に入りました。一番長く勤めたのはマンホールやタンクなどの中に入って清掃する仕事です。この時に車を運転するようになり、中型免許も取りました」
ここに入るために働いて食いつないできたという井戸川さん、その勤務歴が実は重要なポイントなのです。なんとこのおかげで、MONOテクで学んでいる2年間は雇用保険がもらえるうえ学費も免除になったのです!
雇用保険の失業給付金は、一定期間雇用保険を掛けて就労した場合に、支給条件が整えば就労期間に応じて支給される制度。
井戸川さんの場合、訓練を受けている2年間は継続して雇用保険をもらうことができるのです。
さらに、教科書代などの諸経費を除いた学費が免除にもなるのです。必ずしも満足いく金額ではないかもしれませんが、お金をもらいながら職業訓練を受けられるのです。
「雇用保険を受けながら学べるのはありがたいですね。その反面、雇用保険を貰う以上、中途半端な気持ちで訓練を受けてはいけないと思っていますので、就職に向けて全力で頑張りたいと思っています。
ここには実習に必要な機械や器材もしっかりあります。指導員の方が丁寧にゆっくり教えてくれるので、しっかり復習もできます。クラスは15人で、高校卒業後ですぐ入った方が多く、年長者は私を含め3人なのですが、みんないい距離感で楽しく学べています」
心配や不安もなく学べると語る井戸川さん。指導員は現場の経験をしている人たちが多く、「企業ではこうだった」とか「昔の車はこんな構造だった」と聞かせてくれるそうです。井戸川さんはそんな会話にも興味津々。なぜなら、根っからの車好きだからです。
「父が車好きだったことに影響されて私も乗用車が大好きで、特にバブル期や平成時代初期の旧車が好きなんです。
MONOテク帯広の自動車整備科を出た人は、乗用車の整備をする会社に行く人もいれば、十勝という土地柄もありトラックや農作業の車を整備する会社に行く人もいます。私は、乗用車を直せる工場や会社に就職することが目標です」
ご自身も1984年製のFR車を所有しているという井戸川さん。車検が切れていて当面乗れないものの、ここを修了した暁には自分で整備して車検を取り直すというプライベートの目標もあるそうです。
技能五輪で金メダルを目指す/造形デザイン科・橋本七都さん
2人目は、造形デザイン科の1年生、18歳の橋本七都(ななと)さん。十勝管内の高校を卒業してすぐここに入り、実家から通っています。理由は、ものづくりが好きだから。
「きっかけは、小学校の時の夏休みの自由研究です。木の工作がいろんな人から『よくできてるね』と褒められたことが嬉しくて、ものづくりが好きになりました。私の住んでいる地区はまわりを森に囲まれていて、木が身近にあったんです。木の匂いとか形とかも好きで。
MONOテク帯広については、高校で配られた資料を見て知りました。身近にあった木を活かしたものづくりがしたいと思っていましたし、資料を見たらかなり高い技術を学べそうと思ったので、ここを選びました」
MONOテク帯広で学べる技術の高さは定評があります。実際、造形デザイン科に在籍していた方が、若手の技能や技術を競う技能五輪の全国大会で建具部門の金メダルを取って世界大会まで行ったという実績も。橋本さんも来年、技能五輪に出場して上位成績を取ることがまず直近の目標だそうです。
「今はまず基礎的なことを学んでいます。かんななどの刃物の手入れとか。製図などの勉強は指導員の方がわかりやすく教えてくれるのでよいのですが、技術的なことは頭の中で理解しても、まだなかなかうまくいかないです」
まだまだ修行中の身ではありますが、やる気と向上心は人一倍あるようです。
「入学して分かったのはミリ単位の世界だということ。以前は1mmって大したことがないと思っていたのですが、今では0.1mmの誤差でも全体に影響するので修正しなければと感じます。うまくできた時や『上手になったね』と言われると嬉しいですし、これからも頑張っていきたいと思います。指導員の方は3名いるのですが、みなさんすごい技術なんですよ。いつか自分もそういう技術を持って活躍したいと思って学んでいます」
クラス内には同年代の方のほか親くらい年の離れた方もおり、年齢層が幅広いのも造形デザイン科の特徴。上の年代の方や社会人経験のある方とのコミュニケーションも楽しく、さまざまな経験や考え方を聞くことができるのもいい社会勉強になると言います。
橋本さんの将来の目標は、建具職人になること。ここで学んだことを活かし、建具屋さんに就職することを目指しています。
「精巧に作られた襖や障子など建具に興味があり、いつか自分もそのような建具を作ってみたいなと思っています。就職したら、さまざまな人と触れ合うと思うので、コミュニケーションを大事にしながら日々頑張っていきたいです」
高校を卒業して間もないながらも、しっかりと将来を見据えて取り組んでいます。この先きっと日本のどこかの建物で、橋本さんが作った襖や障子が登場することでしょう。
職人を目指し、父と同じくMONOテク帯広へ/建築技術科・齋藤健太さん
3人目は、建築技術科2年生の齋藤健太さん。帯広が地元で、高校を卒業してから1年間札幌のパソコン関連の専門学校に行き、その後帯広に戻ってMONOテク帯広に入りました。
「パソコンの専門学校に行ったのは、独立したかったから。でも、やっぱり身体を動かす仕事がしたくなって、個人でできる仕事として、大工さんがいいなと考えました。
祖父は建具職人で父はユニットバスの職人なので、近いものを感じます。高校生の時は同じような働き方はしたくないと思って高卒で家を出たのですが、やはり祖父や父のように身体を動かして働く職人を目指そうと思い直したんです」
MONOテク帯広を選んだ理由も父の背中を見てきたから。実は、齋藤さんのお父さんもここの造形デザイン科を出ているのです。科目や習得する技術や進路は異なるものの、第一線で活躍している先輩が身近にいるのはとても心強いです。
MONOテク帯広の指導員も、第一線で活躍していた人たちばかり。現場で起こったことなどの経験をもとに話してくれるうえ、昔ながらの技術も伝承してくれます。
「ノミやかんなの使い方も実習します。木を削るとムラになってしまう時もありますが、うまくできるようになると機械よりも綺麗に仕上がるんです。今の大工さんってノミやかんなより機械を使うことが多いようなのですが、ここでは機械に頼らない技術を習得できるのも魅力です」
建築技術科では、科内の訓練生全員で実寸大の模擬家屋を作る実習があります。1年生がメインに動き、2年生はサポートをするという役割です。
こちらが模擬家屋。1年目の訓練生達が実寸大の家を建てます
「昨年、模擬家屋を作った時には挫折しかけました。うまくいかないことだらけで、自分はこんなにもできないんだって...。ずれが生じてうまくいかなくなった時、最後は指導員の方がなんとかしてくれたこともあります。授業内容によっては、一人ではなくさまざまな人と協働して作っていくので、誰かができないと雰囲気が悪くなってしまうこともあります。でも、うまくいったらやっぱり盛り上がります。年代は近い方が多いのですが、40代や50代の方もいて、全体的には雰囲気はいいですよ」
齋藤さんはここを修了したのち、地元で独り立ちをしてやっていくことを目指していますが、独立してもまわりの人たちとの協働も必要。そんなことも肌で体感しながら学び、近い将来には社会へ羽ばたいていきます。
MONOテク帯広の魅力とは
最後に、MONOテク帯広の魅力について、学院の訓練管理課長 大野隆明さんと訓練主幹 泉野孝之さんにお話を伺いました。
「MONOテクは、技術を身につけて職に就いてもらうことを目的としています。魅力は5つ、専門的な技能や技術が身につくこと、少人数制できめ細かい訓練指導ができること、企業が求める資格の取得を目指せること、就職率が限りなく100%近くと高いこと、そして、学歴や経験が一切関係ないことです」
現場経験がある職業訓練指導員がつきっきりで訓練する1〜2年間。1科目10~20名程度なので、しっかり技能が身に付きます。一度身体で覚えた技能は一生の宝物です。
一生の宝物という視点では、資格が取れる点でも一緒。電気工学科であれば第二種電気工事士、自動車整備科なら二級自動車整備士の養成施設に指定されているので、学びながら資格を取ることが可能です。
「就職に関しては、ほぼ100%を誇っています。入ってくる方は若い方が多いものの、年齢や性別、経験など関係なく学ぶことができます。2023年は47名の方がいますが、そのうち30~60代の方が6名程度、20代の方が5名程度、あとは高校新卒です。今まで釘一本打ったことがないという方も入ってきますが、みっちり実技をやるので未経験でも大丈夫です」
本人のやる気さえあれば、しっかり技能を習得して就職までできる環境であることは間違いありません。どんな職に就きたいか。そのために何を学ぶか。MONOテクは道内に8か所ありますが、各地域で学べる内容に特色もあります。
「造形デザインは帯広のほか旭川と北見、木材生産の多い地域にあります。旭川は家具製造が盛んですし、北見は木材が採れるエリアです。帯広の造形デザインは木工で家具や建具を作っています。
同じ科目であっても地域の産業に合わせて内容にも違いがあります。例えば金属加工ですと、札幌だと鉄骨や建物の加工の仕事が多いのですが、帯広ではトラクターの後ろに付ける草刈機などの農業機械の仕事が多く、室蘭は製鉄業で栄えた街なので鉄工や精密機械もあります。自動車整備に関しても、十勝だと乗用車を扱う会社のほかに農協の整備工場等への就職があります」
同じ北海道でも地域によって特色があり、帯広では農業王国十勝ならではの科目と就職先があります。十勝の地域性に惹かれてか、MONOテク帯広の訓練生は十勝管内出身の人が多いものの、例年道内各地から数名、道外からも1~2名は応募があるそうです。
1〜2年間みっちり学んで一生ものの技能を身につけて就職できるという夢のようなお話。でも、夢ではなく事実で、訓練生のほとんどの方が手に職をつけて社会で活躍しています。
さぞかし費用がかかると思いきや、決してそうでもありません。さまざまな支援制度もあり、条件次第では訓練生の井戸川さんのように雇用保険の失業給付金を受け取りつつ授業料も免除になるケースもあります。
これから自分の将来を見つめ直したいと思っている方、生涯役立つ技能を身につけてみたいと思っている方、ものづくりの仕事をしたいという方、ぜひ「MONOテク」で学ぶという選択肢を検討してみては?
- MONOテク(帯広高等技術専門学院)
- 住所
北海道帯広市西24条北2丁目18番1号
- 電話
0155-37-2319
- URL