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学校と学生の取り組み
旭川市

未来の森林を支える、高校生たちの今20190902

この記事は2019年9月2日に公開した情報です。

未来の森林を支える、高校生たちの今

2020年4月に北海道旭川市での開校が決まった、林業・木材産業に関する人材育成を目的とした「北海道立北の森づくり専門学院」。旭川市は「旭川家具」を生産する日本でも有数の家具産地でもあり、森林資源や林業に関わりの深いまちです。そんな旭川市にある「北海道旭川農業高等学校」(以下、旭川農業高校)が今回の取材の舞台です。

おや?農業?と思われた方もいるかもしれませんが、旭川農業高校には森林科学科という森林の育成や管理、林産物の加工や利用といったことを総合的に学習できる学科があるんです。そこで活躍する3年生の生徒さんが、さまざまな観点でチームに分かれ、林業に関するおもしろい研究を行っているということでしたので、そちらの授業に突撃取材させていただきました。

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林業経営班「GPSを使った森林経営の手法」

まず最初にお話を聞いたのは、林業経営班のみんなです。この班のテーマは「GPSを使った森林経営の手法」ということで、代表して班長の二川七海さんが詳しく教えてくれました。

「私たちのテーマは簡単に言うと、GPSとGISを活用して地図上に森林の中にある樹木の情報を表示するシステムの研究を行っています。このテーマにした理由は、現在林業で木材が流通する中、消費者はどこでどのように育った木なのかという事を知るのは難しいのですが、そうした問題を解決するコミュニケーションツールとしてこのシステムを活用したいと考えました」

asanou4.JPG二川さん、将来は林業に関する公務員を目指していると言います。

たしかに例えば自分の買った家具が、どこで生産され、どのように育てられ、どのように管理された木なのかということを、もし知る事ができるならば、家具への愛着もより一層深まりそうです。取材時にみんなが行っていたのは、樹木の情報の収集を行う作業。実際に森林に入って、木を一本一本、樹種、高さや太さ、GPSの位置情報などを調査してデータ収集をしているところでした。今後はそのデータをコンピューターに蓄積し、そのデータと地図データを組合わせることで、地図上で樹木の細かな情報が確認できるという訳です。続けて飯原優斗くんがこう話します。

asanou5.JPG飯原くんは、中学生の時、小説と映画で林業に興味を持ったそう。

「高校生でもGPS、GISを取り扱ってみたかったこともありますし、こうした管理方法は現状そんな例はありません。そして今は就業人口も減り、森林経営が難しいと言われている中、どうしたら効率の良い経営ができるか、さらには6次産業化も考えられるような仕組みづくりができたらいいなと思っています」

将来、旭川市で作られた家具は、何年にどこに植えられ、どのように育った木から作られたという、詳細情報までも付与して消費者に届けられる日が来るかもしれません。

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森林環境班「旭農版コンテナ苗の栽培マニュアル」

続いては、森林環境班に研究テーマの「旭農版コンテナ苗の栽培マニュアル」について話を聞きました。こちらの班は今年卒業した先輩たちが昨年まで研究していたという「ササ紙を使ったコンテナ作成」を引き継ぐ形で研究を続けているそう。具体的にはどんなことをしているのでしょう?教えてくれたのは三浦太陽くんです。

「この班の中でもいくつかのチームに分かれて研究をしているのですが、主にコンテナ苗の発芽率を上げるという研究と、先輩たちが作った『ササ紙』というササの葉と牛乳パックの繊維を混ぜ合わせたポットのさらなる改良の研究をしています」

asanou7.JPG 森林環境班の班長、三浦くん。

コンテナ苗というのは、生産作業の効率化や労働負荷の減少を目的として、近年導入されてきている新たな苗木の育成技術です。このコンテナにササ紙を使えないかと考えた先輩たち。ですが、発芽率とササ紙の耐久性に課題がまだ残っているということで、みんなが想いを引き継いでいるのです。

「種子に与える水のpH(水素イオン濃度)を変えることで発芽率に影響があるのか調べています」(新井廉くん)

「形状が保湿性優れているたまごパックを使って発芽率が上がるかを研究しています」(阪上進之介くん、京本大志くん)

「ササ紙の耐久性を向上させるために、新聞紙やトイレットペーパーの繊維ではどうなるのか実験しています」(森田竣士くん)

このようにそれぞれがさまざまな視点でさらなる改良を続けている森林環境班の研究でした。

林産加工班「トドマツを利用した商品開発」

3番目に話を聞かせてくれたのは林産加工班の堀陽登くん。班員は全部で6名とのことですが、この日は堀くんが代表して取材に対応してくれました。

「僕たち森林環境班は、木材をレーザーなどで加工して、スプーンやペーパーナイフといった木工品を作っています。今年の大きなテーマは、『トドマツを利用した商品開発』で、トドマツの欠点を活用したシェードランプの作成があります。トドマツは白い、軽い、柔らかい、という他の木材に比べて傷つきやすいという欠点があるのですが、その欠点をどう活かしたものづくりができるかの課題に挑戦しています」

asanou9.jpg生徒会としても頑張っている堀くんです。

堀くんは小さい頃から親に、ものづくりイベントなどによく連れて行ってもらっていたこともあり、将来は家具職人になるという夢を持ってこの学校に入学したそうです。人と木を繋いで、たくさんの人々に木の素晴らしさを伝えたいと班のみんなで協力して頑張っています。

ちなみに、将来どんな家具を作りたいか聞いてみたところ、「インスタ映えするような、一見変わった机や椅子なんか作ってみたいです!」と笑顔で夢を語ってくれました。

asanou10.JPG温かみのあるペーパーナイフです。

森林循環班「林業作業の労働負荷に関する研究」

次は森林循環班の大柳陸人くん、堀部康太くんのお二人に話を聞きました。

「僕たちの班は『林業作業の労働負荷に関する研究』というテーマで、8名で活動しています。林業で使用するチェーンソーや刈払機の作業を行う際に、体にどれだけ負担がかかっているのかということを調査しています。具体的には筋肉の固さを調べる機械を用いて、作業前後におけるデータの変化を集計しています」と大柳くんが教えてくれました。

asanou11.JPG部活は野球部の大柳くん。

想像はつくかと思いますが、林業の仕事は体力を使うお仕事です。まして仕事の大半は山の中、斜面でチェーンソーを使ったり木を倒したりと、そんな体を動かす作業が長時間に及ぶこともあります。こうした体への負荷の軽減を考えていくべく、まずはどこにどの程度の負荷が生じるのかを調査・研究しているとのことです。続けて、堀部くんもこう教えてくれます。

「自分たちで実際にチェーンソーや仮払機の作業を繰り返し行い、計測してデータ集計していくんですが、この作業が結構大変なんです。また、その日の体調や人によっても計測値が異なってくるので、そこがデータの扱いの難しいところですね」

高性能林業機械といった重機での作業も増え、体への負担も少なくなり、男女共に活躍しやすい環境になってきた林業ですが、この班のみんなが研究している労働負荷の軽減は、林業という仕事の大きな課題の一つなんだと感じました。

asanou12.JPG「将来は人手不足の林業業界をなんとかしたい」と教えてくれた、堀部くん。

森林資源活用班「木育」

最後に話を聞いたのは森林資源活用班の鈴木晶喜くんです。テーマは「木育」ということで、詳しくお話を聞いてみました。

「森と人を繋げることを目的に、年に9回、旭川大学付属幼稚園との木育交流を行ってます。実際に子供たちに木の栽培作業や加工作業を体験してもらい、木を身近に感じてもらう活動です。また、木を使ったスロープトイ、フォトフレーム、お面なんかの木工品を作成し、それらで遊んで木と触れ合ってもらうということもしています」

asanou13.JPG森林資源活用班の班長、そして生徒会長でもある鈴木くんです。

将来は木育マイスター(※)として木育を広めていきたいという鈴木くん。実はこの班に入る前までは、木育という言葉を聞いたことはなく、子供もどちらかというと苦手で、さらに何かを人に伝えることも苦手だったといいます。ただ、苦手なことにあえてチャレンジしたいとこの班を選んだと言います。

「今では、回も重ねてきたので子供たちと会えるのがとても楽しみです。僕自身もまだまだ林業について勉強中ですが、学んだことを伝え教えることは自分にとってとても刺激があります。自分が分かっていても、どう言葉で伝えるかが難しくもあるんですが、面白いところですね」

生徒会長も務めているという鈴木くん。人に伝えていく、人に喜んでもらう、人を繋ぐ、こうした経験を活かして将来林業や木育の分野できっと活躍してくれることでしょう。

(※)北海道が認定する、木育を普及させる専門家。

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将来の林業を支える若き芽

こうして5つの班の研究について話を聞きましたが、それぞれの班の一人ひとりが林業の将来、そして自分自身の将来を考えて、一歩一歩頑張っているのが伝わってきました。そこで、みんなに卒業後の進路についても聞いてみたところ、約8割が林業に関連する仕事への就職を希望していました。

林業経営班の二川さんは「中学生の時から林業関連の仕事に就きたいと考えこの学校を選んだ」と言います。

また、森林環境班の森田くんはインターンシップで災害復旧の現場を見た際に、人が大変な思いをしている時、そうした復旧作業をしている姿に心を打たれ、林業土木の道に進みたいと考えているそうです。

他にも、林業に関わる公務員、製材会社への就職を考えている生徒さんもいました。

こうした生徒さんの将来の就職について、森林科学科の須山佳彦先生にもお話を伺いました。

asanou17.JPG森林科学科の須山先生。

「本校では、ここ5年間で71名の生徒が林業への就職という道を歩んでいきました。就職先を選定する際、私たち教員は『一番はその仕事に就いて何がしたいのか、どういったことにやりがいを感じたいのか、これをしっかりと考えることが大事』ということを伝えています。また、高校生の就職先選びでは、親御さんとの話合い、そして相互理解も非常に重要です。そのため、まずはその仕事を知ることとして、インターンシップや仕事体験、仕事見学、セミナーなどを通し、森林組合や会社の方との対話や実際の仕事現場を見て感じるといったことを経験して欲しいと思っています。最近では、応募前見学といった見学会や内定後の親御さん向け説明会などを実施し、就業後のミスマッチを防ぐための取り組みをしている会社もありますよ」

全国的に林業の担い手不足が問題となっている昨今ですが、ここ旭川農業高校森林科学科では、将来の林業を支える若き芽がたくさん育っていました。

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北海道旭川農業高等学校 森林科学科
北海道旭川農業高等学校 森林科学科
住所

北海道旭川市永山町14丁目153番地

電話

0166-48-2887(事務室)

URL

http://www.kyokuno.hokkaido-c.ed.jp


未来の森林を支える、高校生たちの今

この記事は2019年6月12日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。