今回はいつものくらしごととはちょこっと趣向を変えまして、アートの世界に興味のある若者たちのお話。
取材に行ったのは北海道で唯一「普通科」に「デザインアートコース」のある札幌市立平岸高校の「絵画専攻」の2年生。
このデザインアートコースに入学するには実技試験もあるというので美術やデザインに興味関心の高い生徒が多く見受けられます。
そんな美術好きな女子14名と美術担当の齋藤周先生に普段の授業風景を覗かせてもらい、また、2018年12月8日から2019年1月6日まで札幌プラニスホールにて『フェルメールとレンブラント オランダの2大巨匠展』が開催されたことをうけ、その展覧会開催中に絵画鑑賞をし、その後感想や感じたものを何らかの作品にして提出してもらうという企画を行いました。
平岸高校デザインアートコース・絵画専攻の担当である齋藤周先生の全面協力のもと成り立った今回の企画。
まずは齋藤先生からいつもの授業の様子を見せていただきました。
ただ単に教えるだけではなく「考えさせる」授業の組み立てにレベルの高さを感じ、取材陣に「こんな授業習いたい・・・」と思わせるその手腕はさすがでした。
「デザインアートコースと言いつつ、美術の世界で生き残るのは一握り」と現実を話してくれたのは齋藤先生です。
「いつか社会人として世界に羽ばたいていったときに、言われたことだけをやっているのではなく、きちんと考えられる人になって欲しい」という想いが込められていました。
さて本題。
「真珠の耳飾りの少女」で世界的な人気を誇る『ヨハネス・フェルメール』と、教科書で誰しもが一度は目にしたことがあるであろう「夜警」で有名な『レンブラント・ファン・レイン』。
この二人の作品をリ・クリエイト(※)した作品を展示する美術展ということもあり、会場内は絶えず人が流れている様子。
はじめはレンブラントから始まり会場後半にはフェルメールの作品が並ぶこの美術展。全世界に散らばった2人の巨匠の作品を一度に見ることは不可能ですが、リ・クリエイトによって当時の色彩を再現された作品を一度に見ることができるのです。
(※)リ・クリエイト・・・作品の画像データを最新のデジタルリマスタリング技術によって、当時の色調とテクスチャーで再創造。
この企画に参加した高校生14名(発表時2名休み)も、思い思いに作品を眺めていました。
作品の前でラフスケッチを描く生徒や感じたことをメモする生徒、リ・クリエイト作品だからこそ写真撮影OKということもあり作品の前でポーズを決めて撮影する生徒など鑑賞方法もさまざま。
2人の作品を見比べた上で、高校2年生の彼女たちがどんな作品を創り上げるのか、非常に楽しみな企画となりました。
制作時間は約1カ月。冬休みを挟んでの制作時間。思い思いの作品を仕上げてきてくれました。
「作者の心の中が見えた気がした」と言ったのは類家珠未(るいけたまみ)さん。
「光と影を丁寧に描いている作品ばかりだったので陰と陽が混じっている印象を受け、作者自身も意見や考えが陰と陽で色々葛藤していたのではないかと言う気がしました。そして自分が絵を描きたいという衝動の火おこしは何なのかと考えたときに【自我】を表現したいと思いました。どんな人たちに届けたいのかとかを探しながら、それを努力目標にして大学への道にしたいと思って描きました」という作品がこちら。
「自我を表現したときに気持ちの中の光と影を表現したくてこのような作品を作った」と類家さん。「見た人がただ明るい気持ちになるだけじゃない、色彩やデザインによって目を惹くような作品をイメージした」と恥ずかしそうに話してくれました。
実際にぱっと見て一番気になったのはこの作品。子どもと大人のはざまの今しか描けない難しい感情を表現した作品に仕上げてきてくれました。
同じく高校生らしい内面を表現してくれた生徒がもう1人。
「2人の共通点は光と闇を表していることと物を客観的に見て表現していることだと感じた」と話すのは小柳真生(こやなぎまお)さん。
「レンブラントでは特に光と闇の印象が強くて、そういうのが出てくるのは中学生時代だなと思ったのでそういったことで思い悩む姿を描きたいと思って描きました」。
自分でもなく友達でもなく、想像で描く光と闇に悩む思春期の少年を作品に描いています。
「コラージュするのが好きなんです」と自分の得意なことを披露してくれたのは遠山梓(とおやまあずさ)さん。
「私フェルメールが好きだなぁ」と率直な感想を言った後に
「ラピスラズリの青とそれを引き立てる黄色のコントラストが綺麗な絵だなぁと思ってそれを自分なりの作品にしたいと思いました。青と黄色をテーマに、フェルメールの描く部屋を小屋に見立てて作品を作りました。コラージュの面白さは、コレとコレを組み合わせるんだ?!という意外性が好きでコラージュ作品をつくっています」と話す遠山さん。
とっても精巧に作られていて意図したとおり「こんな作品を作るんだ!」という意外性に取材陣もびっくり。
自分の得手な分野に落とし込んで作品にしてくれました。
「フェルメールの作品に同じ部屋とか同じ構図が多かったので、冬休み中は毎日ソファーに寝っ転がっている家族を描きました。なにか同じものを書き続けたらわかることがあるかと思って」と話してくれたのは絵画専攻2年生のうちの一人、溝江楓花(みぞえふうか)さん。
毎日毎日同じ構図で人を書き続けると何がみえてきましたか?ときくと「まだわからないです。寝っ転がっている人を描くのは上手になったけど、もうあまり描きたくないです」と正直な感想を言っていたのが印象的でした。
「フェルメールの作品はある一方向からの光がとても強く、明暗の意識が強いなと感じた。物語性があるものが多く、鑑賞しているときに作者がどの様なことを想像したり考えたりしながらこの絵を描いたのだろうと考えると楽しかった」という感想も。
「レンブラントとフェルメールはどちらも華やかな作品だと思い、ただ華やかな作品を描く裏では苦労が迷走しているのだろうなと考えて、それを抽象的に表現できたらなと思ってこの絵を描きました」と発表したのは北友香帆(きたともかほ)さん。
人物画や登場人物を使った作品が多い中、「色々なところに散らばっている粒は、光にこだわりを持っていた二人だと思ったので光の表現をしたくて粒を描きました」と彼女は抽象画を作品にしてきていました。
水彩画が多い中、油彩画を描いてきた子も。
「強い色でところによっては使いがたい『黒』を大胆に入れる様子に憧れた」と話すのは駒形優衣(こまがたゆい)さん。
なんと取材日当日に作品を家に忘れてきてしまい、スマホで撮影した写真を使って作品紹介をしてくれました。
「特にレンブラントの絵に心惹かれて、光と影のコントラストの強さが印象的でした。このコントラストの強さによって絵画がまるで映画のワンシーンになったようなドラマチックな雰囲気を漂わせていた」と話します。
よく油絵を描くのが好きだそうで、「自分が絵を描くときは、周りの色と馴染ませすぎてくすませてしまうことが多いので、強烈なコントラストで見る人の記憶に残る作品を作りたい」と今後の作品作りにも意欲を見せてくれました。
「うちなる女性の魅力が描かれているなと思った」と話すのは佐藤爾子(さとうにこ)さん。
「綺麗なんだけど楽しくなさそうだなと思ったので、荒廃している面もあらわせたら、と思って灰色をたくさん使いました。」
漫画として表現してきたのは山岸由佳(やまぎしゆか)さん。
「フェルメールとレンブラントの2人が仮に出会っていたらどうなるんだろう」という想像を漫画作品で表現しています。
「2人の作品とも人の動きがよく捉えられていてアニメーションを切り取ったように見えた」と話したのは山田千尋(やまだちひろ)さん。
自身の作品も歩いている人の途中を切り取った作品を仕上げて来ました。
「たくさんの驚きと感動があって、なかでも感動したのはフェルメールの窓辺で手紙を読んでいる女性の作品でした」と話してくれたのは川本千代里(かわもとちより)さん。
フェルメールの作品の部屋を箱の中に表現し、恋文を読んでいる女性を立体的に表現してきました。
作品を作れなかった生徒も2名いましたが、
「ガラスとかの透明感、光の粒が見えるような描き方を真似してみたい」舛田糸子(ますだいとこ)
「光と影だけでユダの心情を描いたレンブラントの作品が一番心に残っていて、光の使い方を取り入れてみたい」堂向明日香(どうむかいあすか)
と話していました。
色々な作品を作り出す若者の発想と感性の鋭さ、自分なりに落とし込んで自分の得手で表現を試みる吸収力と表現力にはとても驚かされ、また作者の心情までをも推し量りながら作品を仕上げて来た高校生たちを見て「絵画専攻」として学んできたことを体現しているようでした。
自分のやりたいことが何なのか、これから何を学んでいきたいのか、可能性が無限に満ちていながらも、すぐそこに進路が迫っているという現実もある高校2年生の冬。
思い思いの作品へと表現してくれたことへの感謝と今後の若者たちの活躍に期待です。
【VR動画】フェルメール・レンブラント二大巨匠展
平岸高校の絵画専攻2年生が見た、2018年12月8日から2019年1月6日まで札幌プラニスホールにて開催された『フェルメールとレンブラント オランダの2大巨匠展』の前期の映像を360度VRカメラにて撮影しました。人のいない美術展をこころゆくまでご堪能ください。(ちょっと動くと画像が粗くなり文字などは見づらくなっております。ご了承下さい。)
VR動画の視聴方法についてはコチラ(VR動画の視聴方法についてのレクチャー)
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- 平岸高校 普通科 デザインアートコース 絵画専攻2年(2018年度)