「花」を題材に移住・定住のプランを発表し、みごと入賞!
海岸沿いに、雄大な牧草地で過ごす馬がいる風景が印象的な、北海道日高地方。その日高地方の振興局がある町、それがここ浦河町です。町の中心部から、海沿いに少し車を走らせたところに、北海道浦河高等学校(以下、浦河高校)がありました。
2018年10月に札幌市で行われた「高校生プレゼンテーションコンテスト」最終審査で、「高校生が創るこれからの北海道の移住・定住」をテーマに道内の5校が発表。浦河高校は5人のチームで出場し、見事「アルキタ賞」を受賞しました。
発表のタイトルは、「花で繋げる北海道」。ガーデニングや家庭菜園に利用できる広大な土地があり、各地に花の名所がある環境に着目し、世代を問わず楽しめる花を活用した観光や移住を促進するプランを提案。学校内での選考で代表に選ばれ、予選を勝ち抜き最終選考の5校に選ばれました。
メンバーは、3年生の石田佑くん、伊藤未有さん、山﨑大航くん、佐藤未菜さん、前田楓花さんの5人。
石田くんのお祖母さんは町内で花屋を営んでおり、自分も将来は花の道に進みたいといいます。卒業後は、花のデザインを学ぶ札幌の専門学校に進学します。そんな花への思いから、プレゼンテーションのテーマも「花」を提案し、メンバーに熱弁を振るったとか。他のメンバーからも、馬の牧草地を生かしたアスレチックパークを作る構想や、イルミネーションなどのイベントで町を活性化するアイデアが出されたそうです。
「課題研究」の授業がプレゼン力の基礎に!?
ところでこの5人は、どうやって集まったメンバーなのでしょうか?
「選択科目の、『地域研究』で一緒のグループになったメンバーです」と石田くん。「地域研究」とは、耳慣れない科目名です。実は浦河高校は、総合学科という制度を取り入れている学校。2年生から進路や希望に合わせて5つの系列に分かれ、選択科目で授業を受けていく制度です。その科目の一つである「地域研究」では、町や企業の協力のもと「観光」や「防災」など地域のさまざまなテーマについて研究し、生徒の就職や進学への動機付けへとつながっています。
また、浦河高校では、「総合的な学習の時間」の授業の中の「課題研究」で、町の大人たちから話を聞いたり協力を得ながら、自分たちが設定したテーマに基づいてまとめ、発表をする経験をしているのが大きな特色。週1回2時間ずつ、計30時間かけて発表を作り上げる、一年でも一番大きな授業だといいます。授業で経験を積んだことが、コンテストでの受賞にもつながっているようです。グループのメンバーのことを知るために、この「課題研究」の授業で何を研究したのか、そして卒業後の進路についても聞いてみました。
自ら聞いて調べ、発表する授業で成長できた!
今回のプレゼンテーションでリーダー的な役割を担った石田佑くん。
課題研究では、様似町のアポイ岳ジオパークに自生する植物について、前年の3年生が行った研究を引き継いで調べました。学校内での発表のみならず、様似町で開催された日本ジオパーク全国大会でもポスター発表をする機会に恵まれました。「全国からの発表者から、いろいろなことを学べました」と目を輝かせる石田くん。
「プレゼンテーションコンテストの出場や課題研究を通して、人に伝える力やコミュニケーション力が身についたと思います。将来は世界で活躍するアーティストになれるよう、浦河高校で学んだことを生かしていきたいと思います」
浦河町の観光や移住・定住の施策について考え、全国の高校生を対象とした「田舎力甲子園」にもエントリーしたのは、前田楓花さん。授業を通じて観光への関心が高まったことから、北海道各地で温泉ホテルを営む企業に就職を決めました。「課題研究でみんなで話し合った経験を生かして、北海道にたくさんの人を呼び込みたいです」と意気込んでいます。
写真中央が前田楓花さん。
浦河町に観光客を呼ぶ施策を考え、特産品であるイチゴをPRする祭りなどを提案した山﨑大航くん。
将来は自転車の製造や整備を行う専門職に就きたいと、東京に5年前に新設された自転車の専門学校への進学を決めました。
「課題研究で、調べる力や自分から行動する力がついたと思います。この力を生かして、卒業後も頑張っていきます」
浦河町の木を使ったおもちゃを町内の業者と連携して開発した、伊藤未有さん。実際に作ったおもちゃを幼稚園児に使ってもらい、保護者にアンケートを取りその評価を聞きました。卒業後は、道内の大手の馬産牧場に就職が決まっています。
「学校で行われた職業講話で話を聞き、ここに就職したいと思いました。浦河高校の授業では、言われなくても自分から行動する力が身についたと思います。就職先でもそれが大事だと思いますので、生かしていきたいと思います」
SNS「インスタグラム」を通して浦河町をアピールし、観光客や移住者を増やす取り組みに挑戦したのは、佐藤未菜さん。
「インスタ映えでふるさとを広めよう!」をテーマにしたアカウントを作り、メンバーの家の牧場の馬や、町の風景、店や特産物を、継続して投稿しました。卒業後は、札幌の医療事務の専門学校に進学します。
「以前は勉強が嫌いで、やっても意味がない...なんて思っていたけれど、高校に来て周りのみんなを見て、危機感を持ちました。今は、進学してからも自分のためにコツコツ頑張りたいという気持ちになっています」
写真中央が佐藤未菜さん。
地域の大人と接して、主体性を育む
自分が勉強してきたことや、これからの進路について、堂々と語ってくれた5人。感心する取材班に対し、キャリアガイダンス部長の佐藤友洋先生はこのように話してくれました。
「以前から、浦河高校の生徒は、『言われたことはできる、素直な良い子』と言われていました。そこから一歩踏み込んで、主体性を持って物事に取り組めるように、外部の方の力を借りて総合的な学習の時間などの授業を行うことにしたんです」
後列右が佐藤友洋先生。取材中もみんなを温かく見守ってくれていました。
町や観光協会、企業などと連携し、地域の大人と接する機会を増やし、自分たちでテーマを決めて調べ、まとめ、発表するという機会を持つことで、生徒はぐんぐん成長します。そして、自分がどのような大人になって、どのように社会に貢献していくかというイメージも鮮明になっていきます。例えば、地域の防災について研究した生徒が、町の防災に取り組みたいと志望し、実際に役場の防災担当として採用された例もあるそうです。町のお土産として買ってもらえる商品を作ろうと、地域のお菓子屋さんと連携し、パウンドケーキを開発。町外のイベントに出展した際には好評で、今後ふるさと納税の返礼品にしたいという声も挙がっているそうです。
また、ボランティアを推奨する学校は多いと思いますが、浦河高校では、ボランティアの経験も進路に結びつくものとして位置付けています。浦河町は障がい者施設などが充実した福祉の町として知られており、そのような施設や、教育機関、芸術関係のイベントなど、ボランティアにも自由に参加できる機会を豊富に設けていますが、その際も、希望の進路に関わるものに参加を勧めています。
「総合的な学習の時間」の授業の一コマ。
「役場を始め、町の方々が高校への応援に意欲的なのがありがたいです。生徒には、とにかく大人と話をさせたいと思っています。いろいろな年齢、性別、職業の方と話をすると、明らかに変わりますから」と佐藤先生。
町の人に必要とされる高校という存在
机の上だけでなく、学校を出て町の人から学べるから、進学希望の生徒も就職希望の生徒も、将来のビジョンを描きながら目標を持って進んでいける。そのような教育に強い感銘を受けました。高校のウェブサイトの「校長マニュフェスト」には、「周辺の地域の中学校出身者が、費用と労力をかけて町外へ進学しなくてもよいような存在意義をもった魅力ある学校づくりを推進します。(中略)本校がいつまでも有為な人材を世に輩出しつづけるために(後略)」とあります。町の人が積極的に学校の存続・発展に貢献するのは、やはり高校が町に必要だから。その思いを背負って、今年の卒業生も町から羽ばたいていきます。
浦河高校を卒業した後も、それぞれの道を笑顔で歩んで欲しいです!
浦河高校は全道では17校で採用されている「総合学科」の高等学校です。
- 北海道浦河高等学校
- 住所
北海道浦河郡浦河町東町かしわ1丁目5-1
- 電話
0146-22-3041
- URL