全国各地で加速する人口減少と少子化。道内各地の自治体でも大きな課題のひとつとなっています。特にこれまで各地域にあった高校が閉校に追い込まれ、地域の未来を担う大切な高校生がまちからいなくなるという事態に陥っている自治体も少なくはありません。
そんな状況を見て、若い子がいなくなりじもとの活気が消えうせることに強い危機感を募らせ、何か手を打たなければと考えている自治体や地域の高校も数多くあります。 そうした社会課題に対して、真っ正面から向き合い、各自治体や高校と共に挑戦を続けているのが、「一般財団法人 地域・教育魅力化プラットフォーム」です。
今回は、同財団法人の北海道エリアを担当している坂内(ばんない)佑太朗さんに、法人で取り組んでいることや目指すところなどをインタビュー。また、坂内さんが法人で働くようになったきっかけなども合わせて伺いました。
地域の高校を守ることは地域の未来を守ること。「地域みらい留学」という仕組み
まずは坂内さんに、「一般財団法人 地域・教育魅力化プラットフォーム」がどのような事業を行っているのかを伺っていこうと思います。
「簡単に説明すると、島根県を拠点に全国の地方自治体や公立高校、企業、地域と連携しながら、主に都市部の中学生が地方の公立高校に3年間進学する『地域みらい留学』事業などを運営しています」
「地域みらい留学」の取り組みや全国の参画高校の魅力を伝えるパンフレットおよびガイドブック。島根県海士町での教育魅力化プロジェクトの成功事例をもとに、高校を地域の核として維持し持続可能な地域創生を目指すための多角的な支援プログラムや、中学生・保護者に向けた進学選択肢の情報がまとめられています。
2006年、廃校寸前だった島根県海士町の隠岐島前高校で始まった教育魅力化プロジェクトが法人の原点。地域を巻き込んだ教育改革によって、全国から生徒が集まる高校へと生まれ変わり、まちの人口も増え、年間平均出生率も改善されました。8年近くかけて取り組んだこの成功モデルを全国に広げようと、2017年に「一般財団法人 地域・教育魅力化プラットフォーム」が誕生しました。
地方から高校が消滅すると、若者がいなくなるだけでなく、子育て世代が減少し、じもとの雇用、ひいては産業の衰退も招くことになります。高校を地域の核として維持し、発展させることは、小規模な自治体の活気や生活基盤を守るための重要かつ現実的なセーフティネットであるという考えが同財団法人の根底にはあります。
「私たちは、高校を地域の未来を守る防波堤と捉えています。過疎化や再編整備が進む公立高校の魅力化を伴走支援する事業など、教育を軸に日本の未来をより良くしていくための多角的なプロジェクトを展開しています。その中でも主事業となるのが、『地域みらい留学』です。これは、中学生が都道府県の枠を越え、地方の特色ある公立高校に進学する国内留学プログラムになります。全国各地の地方の公立高校に働きかけ、私たちが運営、推進を行っています」
一般財団法人 地域・教育魅力化プラットフォーム 事業開発本部 地域共創事業部兼新規参画推進部 エリアマネージャー 北海道拠点長の坂内佑太朗さん。
留学生にもじもとの生徒にも、ひいては地域の人にとっても良い影響が
「地域みらい留学」は、新しい進路の選択肢として、都会に暮らす小・中学生の保護者や進路に迷う中学生からも注目を集めています。15歳から18歳という多感な時期に、都会とは異なる環境に暮らし、地方ならではの温かいコミュニティや独自の文化に触れることによって、子どもたちは視野を広げ、主体性や探究性、社会性といった生きる力を育んでいくことができます。
「地域みらい留学は、単に頭数を揃えるだけの生徒数の確保ではありません。都市部の子どもたちに広大なフィールドでの実践的な学びと挑戦の機会を提供すると同時に、地域社会には新しい風を吹き込むことを目指しています」
外からやってくる留学生の子たちが、地域にもたらす変化や地域のポテンシャルは計り知れないと坂内さんは話します。
留学先の地域で、じもとの大人や住民と高校生たちが対話や探究活動を行う様子。地域の基幹産業や文化に直接触れる体験を通して、生徒たちは視野を広げ、じもとの人々にとっても若者との交流が地域の魅力再発見につながるという、「地域みらい留学」がもたらす相互の相乗効果と人々の温かな繋がりを示しています。
「小・中・高とずっと同じ人間関係の中で育ちがちなじもとの生徒たちにとって、都市部から飛び込んできた留学生は良い意味で刺激を与えてくれます。また、じもとの人にとっては当たり前すぎる日常の風景も、外から来た子どもたちの目を通すことで素晴らしい価値に変わることもあります」
たとえば、道南の福島町では福島商業高校の生徒たちが早朝から、じもとの基幹産業のひとつである養殖コンブの生産現場でアルバイトとして働いています。水揚げされたコンブを洗ったり、干し機に入れたりする作業で、人手不足に悩むじもとの漁業者の力になっています。じもとの子たちにとっては見慣れたコンブの風景ですが、留学生たちは初めて見た長いコンブなどに驚くと言います。そんな留学生たちを見て、じもとの子や大人たちは自分たちのまちの魅力を再発見することもあります。
「また、地域のコミュニティの中で、お節介を焼かれながら育つ留学生の子どもたちはたくましく成長し、地域にとって大きな希望になっています。つい最近では、礼文島に留学生としてやってきた愛知県出身の生徒が、高校卒業後に礼文町に残って、漁業協同組合へ就職するなど、地域産業の担い手になるケースも。単なる一時的な留学を超えた関係や絆が生まれています」
「人」との温かな繋がりが、自分の人生を支えてくれることを実感
同財団法人の取り組みについて分かりやすく説明してくれる坂内さんの言葉からは、熱意と強い説得力が感じられます。そのわけは、坂内さん自身の経験がベースにあるから。ここからは坂内さんが法人に入るまでの歩みを伺おうと思います。
新潟県で生まれた坂内さんは三人兄弟の次男坊。じもとの小学校から高校まで野球に打ち込んできました。そんな坂内さんに大きな影響を与えたのが、中学時代の姉妹都市への派遣事業でした。姉妹都市はロシアの小さなまちでしたが、そこを訪問した際、まったく異なる文化を持つ人たちの暮らしに触れ、世界の広さを知り、衝撃を受けたと話します。
「それから世界に目が向き、もっと広い世界を見たいと思ったんです。ちょうど、海外の大学への進学を視野に入れた学びができるコースが県内の公立高校に設置されるということで、そのコースの1期生として入学し、卒業後はニューヨークの州立大学へ進学しました」
大学では「黒人史(公民権運動)」を専攻。社会的な変革の裏には名もなき若き活動家たちの泥臭い草の根運動があったことを深く学びます。
「このとき学んだ草の根的な活動というのは、各地を回って地道に『地域みらい留学』について伝えている今の仕事とも通じる部分があると感じています」と話します。
そして、大学4年のとき、新型コロナウイルスが世界的に猛威を振るいます。その影響で坂内さんは帰国を余儀なくされ、新潟へ。戻ったときに偶然知ったのが、「地域みらい留学」の取り組みでした。親元を離れ、国境を越えずとも自らの意思で地方へと飛び込んでいく子どもたちの勇気ある選択と、それを支える仕組みを知った坂内さんは、「この取り組みを日本中に広めることが使命だ」と強く感じます。
そして、自ら島根に拠点がある財団法人の扉を叩き、大学に在籍したまま、1年間インターンとして島根で仕事に取り組みます。当時、唯一の営業担当として、電話営業などを精力的に積み重ねます。
ニューヨークの州立大学の仲間たち。
「大学の卒業式には、マントを着て、四角い帽子を投げたかったんですけど、コロナの影響で結局アメリカに行けず、画面越しに卒業しました(苦笑)。そして島根から新潟に戻って、自分で同じような団体を立ち上げることにしたんですが、そんな折、父が雪山で遭難してしまい...」
登山を愛していた父親が雪山で遭難し、突然他界してしまうという悲痛な出来事に見舞われます。深い悲しみとショックによりどん底に突き落とされ、何も手につかない状態だった坂内さんを救い出したのは、インターン時代に出会った島根の法人メンバーや地域の人たちでした。「よかったら島根に戻っておいで」とわざわざ坂内さんを迎えに来て、温かく手を差し伸べ、どん底から引き上げてくれたのです。
「血の繋がりがなくても、辛い時に支えてくれる大人が地域にいることの温かさを、このとき自分の身をもって知りました。地域みらい留学も同じです。人はたくさんいても、都市部でこういう大人になかなか出会えない子どもたちにとって、自分を丸ごと包み込んでくれる地域の人々や大人との出会いは、人生において心のお守りになります」
自分を救ってくれた人たちへの恩返しと社会に貢献したいという想いを胸に、坂内さんは正式に同財団法人の職員として歩み始めます。地域みらい留学の取り組みを全国に広めることに「自分の20代、30代の人生をかけよう」と決意。営業スタッフとして全国各地の自治体や公立高校、じもと企業などを回り、各地域の特色や課題をヒアリングし、どのようなことができるか、どのような伴走ができるかを提案しています。
全道を駆け回って感じる、北海道の地方のポテンシャルの高さ
敏腕営業マンとして全国を飛び回ってきた坂内さん。現在は、都道府県単位で「地域みらい留学」の参画校数が全国で最も多い北海道に拠点を立ち上げるべく、1カ月のうち、3週間近くは北海道のどこかにいるそう。
ここ数年、道内各地の自治体や高校を訪問してきた坂内さんは、「北海道は広大であるがゆえに隣の市町村へ移動するのも容易ではなく、電車や高速道路などの移動インフラが限られている地域も多いため、地域から高校がなくなってしまうと、15歳から18歳の若者が一気にまちから消えてしまい、子育て世代の移住者も減り、じもと企業が高卒求人を確保できなくなるという、切実な危機感を抱える自治体が非常に多いと感じています」と話します。
危機感が強い自治体や公立高校の中には、人口が減り、まちが衰退していく様子を、ただ指をくわえて見ているのではなく、自分たちでアクションを起こし、変革を起こそうという自治体や高校も数多くあり、坂内さんもそこに高いポテンシャルを感じていると続けます。
「地域みらい留学の取り組みに興味関心を持っていただいた自治体や高校に伴走させていただくのが私たちの仕事です。地域の良さを取り入れながらいかに高校の魅力を高めるか、必要となる整備をどう進めていくかなど、あらゆる課題に対し、共に取り組んでいきます」
行政、高校、そして地場企業を巻き込み、地域社会の未来をデザインしていく
これまで「地域みらい留学」の事業は、自治体・高校・坂内さんらの財団法人の3者の連携で推進されてきました。しかし、高校で充実した3年間を過ごした子どもたちが、卒業後もその地域に関わり続け、将来的に地域へ戻って働ける未来を作るためには、行政や学校の枠組みだけでは不十分でした。じもとの生業を支えている金融機関やじもと企業を巻き込むことが不可欠だと考えた坂内さんは、北海道を代表する金融機関である北洋銀行との連携を形にします。
「地域の衰退は、銀行の支店の統合やじもと企業の縮小に直結するという強い危機感を持っていらして、北洋銀行の方たちが私たちの原点である島根県海士町へ視察にいらっしゃったんです。隠岐島前高校で、自らの軸を持って未来を見つめる留学生たちの姿をご覧になり、感銘を受け、『北海道でも、このように意欲的な若い人材を育む支援をしよう』と共感いただき、いよいよ連携が始まりました」
こうして生まれたのが、北海道内の高校に留学する子どもを対象とした返済義務のない「奨学金制度」の創設です。経済的な理由で留学をあきらめてしまう家庭のハードルを取り払うと同時に、企業にとっても早期から意欲ある若者との接点を持てる仕組みを構築しました。
北洋銀行が大きな旗を掲げたことで、サツドラのような北海道を代表する企業をはじめ、帯広信用金庫や大地みらい信用金庫など道内の各信用金庫なども次々と共感を表明し、賛同の輪が広がり始めています。
北洋銀行をはじめとする道内金融機関やじもと企業との連携により創設された返済不要の奨学金制度をアピールする様子。単なる社会貢献にとどまらず、経済的ハードルを下げて意欲ある若者を受け入れることで、将来的な地域雇用の確保や持続可能な地域社会のデザインを目指す先進的な仕組みを表しています。
「教育や過疎化の課題を、単なる社会貢献(CSR)や善意だけで終わらせるのではなく、企業にとっても採用や地域維持という実利につながる持続可能なシステムとしてデザインしていくことに大きな意味があると感じています」
坂内さんは、「自分の足で泥臭く地域を回り、地域のことを理解し、行政・教育機関・地場企業という多様な立場の方たちを繋ぎ合わせながら、誰も見たことがない地域の新しい未来をかたち作っていくことに、面白さとやりがいを感じています」 と目を輝かせ、仕事の面白さを語ります。
ちなみに地域を理解するために、坂内さんはじもとのスナックへ必ず足を運ぶそう。
「どんな人が暮らしていて、地域にどんな思いを持っているか。お酒を飲みながら、地域の方たちの本音を聞くことができる場所なんです。と言っても、単純に私も地域の方との交流を楽しんでいるんですけどね」と笑います。
全国に先駆け、北海道に拠点を設置。地域に根差し、じもとの人と信頼を築く
これまで島根の本拠地から主に遠隔で全国各地の自治体や公立高校をサポートしてきた同法人ですが、現場に深く密着した伴走支援と企業連携をさらに加速させるため、まずは参画する高校が最も多い北海道に新たな現地拠点を設けることにしました。
現在は坂内さんが全道の市町村や地場企業、高校を精力的に回っていますが、今後は十勝、道南、根室・釧路エリアといった各地域に根差し、じもとに密着して活動するスタッフの存在が必要となるそう。
「さすがに広い北海道で私一人ができることには限界があります。法人としても、教育と企業、そして地域を力強く結びつけるモデルを北海道から全国へと打ち上げていかなければなりません。そのためには、実際にその地域に暮らし、じもとの人々と信頼関係を築きながら地域の課題に向き合える仲間が必要。机上の理論やアカデミックな教育論はまったく必要なく、地域に飛び込み、多様な関係者の声に耳を傾けながら課題を発見し、共感の輪を広げていけるような熱意があって、北海道が大好きな人が仲間になってくれると嬉しいですね」
坂内さんのように、教育や地域に対して自分なりの深い問いや原体験を持ち、「目の前の課題をどうにか解決したい」という情熱を抱いている人にとって、同法人の事業は自らの想いを社会へ具現化できる場所かもしれません。
取材のあとも札幌から十勝へ向かうという坂内さんの横には、スーツケースがありました。道内各地の高校魅力化を進め、地域社会を活気づけるために奔走する背中にエールを送りたくなります。
地域の未来と子どもたちの挑戦を支え、過疎化が進む地方に新しい希望の光を灯す「地域みらい留学」の取り組み。北海道の地方自治体が抱えるあらゆる課題を解決するきっかけになる可能性を感じずにはいられませんでした。高校の3年間で育まれた地域の人との繋がりが子どもたちのその先の人生の支えになることで、未来の社会が強く豊かに成長していく。その取り組みの輪が北海道からどんどん広がっていってほしいと強く願います。
- 一般財団法人 地域・教育魅力化プラットフォーム
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北海道札幌市東区北8条東4丁目1-20
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070-8528-8639
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【島根事務所】
住所:島根県松江市東本町二丁目25-6 みらいBASE 2階
電話:0852-61-8866















