かつて炭鉱で栄えたまちという印象が強い赤平市ですが、現在は高い技術力を誇る「ものづくり」が盛ん。今回おじゃました「空知単板工業株式会社」もそんなものづくりの会社です。1972年の創業以来、半世紀以上にわたって木を活かしたものづくりを続けています。
常に新しいことにチャレンジをし続けてきた同社で、今年、新しい自社ブランド「木々之重(ここのえ)」が誕生。「木々之重」の生みの親である商材部商品企画課課長の須藤明さん、デザインや調香のセンスを発揮してブランドに新しい風を吹き込む若手社員の森心葉(ここは)さん、そしてそんな2人の挑戦を見守る積層事業部合板課の福本詩織さんにお話を伺いました。
フローリングは国内トップシェアを誇る単板の製造会社
空知単板工業の本社工場に足を踏み入れると、どこか心地よい木の香りが鼻をくすぐります。広い工場内では、大きな木材が専用の機械で次々とスライスされていきます。
薄い木板は基材となる合板に貼り合わせることで、表面は美しく高級感のある木目でありながら、強度にも優れた建材に生まれ変わります。これによって建材のコストもだいぶ抑えられるそう。
同社で製造されているものは、私たちが日常的に使う住宅の床材や家具などに幅広く採用されています。中でもフローリングの建材用単板の分野においては、国内トップクラスのシェアを誇ります。
住宅の床材や家具に広く採用され、国内トップクラスのシェアを誇る空知単板工業の「単板(薄い木板)」
言葉だけで言えば、とても簡単に聞こえますが、単板の製造は、ただ機械を通せば良いというものではありません。木の種類や乾燥の状態、その日の気温や湿度によっても木肌の滑らかさや伸びが変わります。
ベテランの職人さんたちが刃の角度や圧力を微妙に調整することで、初めて均一で美しい単板が生まれます。機械化は進んでいますが、この微妙な調整は人の目や経験、そして技術力が重要になります。
同社は、国内をはじめ、世界中から優れた原木を仕入れ、加工、製品化までを一貫して手がける循環型のものづくりを徹底してきました。これまで培ってきた技術力を生かし、商品開発にも積極的で、さまざまなアイデアで画期的な製品作りも行っています。
たとえば、体育館など屋内運動施設の床板のささくれをはじめ、損傷の抑制をする加工技術「ササクレス」(特許取得済)。床板の損傷による利用者のケガの回避にもつながると、全国の体育館で導入されています。

技術を活かして新しい商品づくり。2026年1月、新ブランド立ち上げ
「木」と共に発展を続けてきた同社。建材が主力商品ではありますが、時代の変化とともに日々の暮らしの中で使用できる文具や日用雑貨の商品開発も行ってきました。薄くスライスできる技術を活かした木の名刺やノート、うちわなどは、企業やイベントのノベルティグッズとして評判に。
さらに、これらを手にしたエンドユーザーの方から、直接購入できないのかという問い合わせが増えたこともあり、「木が持つ本当の魅力をダイレクトに一般消費者にも届けよう」と自社でも販売をスタート。これらを手掛けているのが、商材部商品企画課です。
2026年1月、新しい自社ブランドとして「木々之重(ここのえ)」が誕生しました。ここからは、「木々之重」の誕生秘話などを伺っていこうと思います。まずは、生みの親である同課課長の須藤明さんにブランド誕生の経緯を教えてもらいました。
商材部商品企画課課長の須藤明さん
「もともと、創業50周年のときに始めた『MOC』というブランドがあり、アロマオイルなどの商品展開をしていたんです。ただ、コンセプト作りからデザイン、パッケージの制作などは、ほぼ外注。一定の評価は得ていたのですが、外注先に任せきりだと、『自社で作っている』という実感が社内で薄れてしまいがちなのが気になっていました。ものづくりの会社なのだから、もっと自分たちの手で、職人の技術や端材の魅力を活かした商品づくりができるのではないかと考えていました」
また、商品の在庫の問題などブランド運用に関しての課題もあったため、2025年末をもって「MOC」を廃止し、企画からデザイン、製造、流通までをできる限り社内で一貫して行う新しいブランドへ切り替えることを決めます。こうして産声を上げたのが「木々之重」です。
須藤さんが考えた「木々之重」というネーミングには、単板加工の基本である「木目を重ね合わせる」という職人技への敬意や、想いを重ねて末永く愛されるブランドに育てたいという想いが込められています。また、漢字を用いたのは、年々増えている海外からの観光客にも手に取ってもらいたいと考えてのことなのだそう。
2026年1月に誕生した新自社ブランド「木々之重(ここのえ)」の製品ラインナップ。表紙に本物のシラカバを使用した木製ノートや木製絵はがき、樽の端材を活用したミズナラ エイジングスティック、北海道の自然をイメージしたアロマ製品など、木のぬくもりと香りを届ける生活雑貨が揃います。職人の重ね合わせる技術への敬意と想いが込められ、ECサイトや赤平の観光案内所で販売されています。
創業時から脈々と受け継がれる挑戦を続けることの大切さ
赤平出身の須藤さんは、学生のころからものづくりに興味があったと話します。隣の芦別市にある工業高校へ進学し、登下校時に道路沿いにある「空知単板工業」の看板を毎日見ていたそう。
「高校を卒業後は地元の安定した企業で働きたいと考えていました。入社前に一度見学に来てみたら、なんと母親が働いていたんですよ。母親がどこで働いているとか当時は知らなくて(笑)。母親も自分が見学に行くって話していたのに、驚かせようとあえて働いていたことを黙っていたらしく...」
そんな懐かしく微笑ましいエピソードも交えながら入社前のことを語ってくれた須藤さんですが、入社するとまずは積層事業部で大型のプレス機を担当します。何枚もの板を接着して強固な木のブロックを作り出す現場作業に従事。

「木のことは全然分からなかったので、先輩たちに教えてもらいながら日々勉強でした」。こうして木材の特性や加工の難しさを体に叩き込んでいきました。
その後、開発部や機械課を経験し、幅広い業務を経験。中でも須藤さんのキャリアにおいて大きかったのが、地元のものづくり企業が集う異業種交流組織「あかびら匠塾」での活動でした。
須藤さんは事務局長として地域の他社と連携し、ノベルティグッズの企画開発やイベントの運営に奔走。自社の中だけでは得られない「商品を企画し、消費者に届ける喜びと難しさを肌で学んだ」と振り返ります。
そして2014年に、現在の商材部商品企画課へ。ただ商品を開発するだけでなく、採算が合うかどうかなど精査も担ってきました。

「前会長(創業者)の時代からある『挑戦していなければ会社は死んでしまう』という強い信念が、会社には受け継がれています。単板メーカーとして本業を大切にしつつも、常に新しいことに目を向け、社員が『こんなものを作ってみたい』と手を挙げれば、計画性と熱意次第で自由にやらせてくれる風土がありました。失敗を恐れずにチャレンジできる環境があったからこそ、飽きることなく面白さを感じて走り続けられたのだと思います」
今回の「木々之重」の立ち上げに関しても、しっかり事業計画を立て、「自分たちの手の届く範囲で、徹底的にこだわったものづくり」を行いたいと上層部に提案。早い段階でGOサインが出たそう。
一般的には、会社で新しいことに着手する際はかなりの時間を要するものですが、会社全体のフットワークが軽く、風通しがいいというのが須藤さんの話からよく分かります。
「木々之重」のアイテムは、ECサイトや赤平の観光案内所「AKABIRAベース」で販売しています。極薄単板の技術を活かし、表紙に本物のシラカバなどを使用した木製ノートや、美しい木目の上に浮世絵などのデザインを印刷した木製の絵はがきなど、手触りと香りを楽しめる生活雑貨がそろいます。
美しい木目の上に浮世絵などのデザインを印刷した木製絵はがきを、光にかざして仕上がりを確認する商材部商品企画課課長の須藤明さん
新商品でもある「ミズナラ エイジングスティック」は、同社ならではの特徴を生かしたアイテムです。社内の他部署でウイスキー樽や酒造用の樽材を加工する際にどうしても出てしまうオーク材などの端材に着目。スティック状にカットして燻したこれをウイスキーの瓶に入れることで、自宅で手軽に熟成したような風味付けが楽しめるとして商品化しました。
「外部任せにせず自分たちで企画・製造することで、大量生産・大量消費とは異なる小回りの利く誠実なものづくりが可能になりました。自社で製造するので、小ロットで作ることができ、自分たちが作ってみたいものをテスト的にまず作ってみることができるのも木々之重のいいところです」
今後は販路を拡大し、商品アイテムも増やしていきたいと意気込みます。「ダイレクトにお客さまへ商品を届けられる体制が整ったので、たくさんの人に木々之重を認知してもらい、ファンを増やしていきたいですね」と語ってくれました。
自社内の機器を使用して木製うちわなどの雑貨に印刷加工を施す作業の様子
若い力とセンスをフルに活かし、新ブランドの商品づくりに取り組む
次に、須藤さんの部下で「木々之重」の商品づくりに携わっている入社1年目の森心葉さんにお話を伺いたいと思います。
森さんは「木々之重」のプロジェクトにおいて、ブランドの顔とも言えるデザインやSNSの発信、ホームページの管理などを担当しています。砂川出身の森さんは、高校時代に校内で開かれた企業説明会で空知単板工業の存在を知りました。
木を用いたものづくりに魅力を感じたものの、当時は音楽業界への憧れが強く、札幌市内の音楽系専門学校へ進学。音楽ビジネスやイベント運営、プロモーションなどを学びました。
しかし、卒業を控えて自身の将来を見つめ直した際、頭に浮かんだのは「生まれ育った空知エリアで、地域に根ざした魅力ある企業で働きたい」という想いでした。高校時代の印象が残っていた空知単板工業の求人募集を見つけ、昨年(2025年)10月に入社しました。
入社1年目の森心葉さん
面接時に「MOCの雑貨やアロマに興味がある」と伝えていた森さん。須藤さんから「MOCを廃止して、全く新しい自社ブランドを立ち上げる」と告げられた時、「ショックを受けるどころか、『新ブランドの立ち上げにゼロから関われるなんて、むしろすごくラッキーで楽しみ!』とワクワクしました。型にはまった仕事をするよりも、自分で考えて作っていくほうが好きなので、願ってもないチャンスだと思いました」と話します。
晴れて入社した森さんは、須藤さんから「パソコンやデザインソフトは自由に使って試していいからね」とデザインなどを託されます。専門学校時代に少し触れた程度だったデザインソフトの操作を、実務をこなしながら独学で習得していきました。
ブランドのカラー設定から、ECサイトのレイアウトデザイン、さらには商品のパッケージデザインや、日々の公式SNSを通じた写真・動画の発信まで、森さんは持ち前の感性と高い行動力で次々と形にしていきました。
「どれも楽しくて、ここで仕事ができて良かったと感じています」と顔をほころばせます。
さらに、森さんの才能が大きく開花したのがアロマ製品の調香でした。北海道の豊かな自然をイメージしたカーフレグランスやルームスプレーの調香を担当。

専門的な知識や調香師の資格を持っていたわけではありませんでしたが、数十種類ものエッセンシャルオイル(精油)を取り寄せ、何度も何度もブレンドの比率を変え、香りを確かめるという作業を重ねました。
「最初は鼻がバカになりそうになりながら(笑)、毎日ノートに細かく記録をつけてテストしました。車の中で使うカーフレグランスなら、運転中に眠気覚ましになるような爽やかさが必要だし、家で使うスプレーならリラックスできる深みがほしいなど、直感を大切にしながら、集中して香りを完成させました」
こうして誕生したアロマのアイテムはECサイトやAKABIRAベースでも人気が高いそう。中でも、赤平にある「エルム高原リゾート」の森や温泉をイメージして作ったアロマ「elm texture」は、社内でも「すごく良い香り!」と評判。
森さんは、「休日に車でドライブに出かけた時も、自然と雑貨屋さんやインテリアショップに立ち寄って『この商品はどう見せているんだろう』『どんなパッケージが手に取られやすいかな』と研究するようになりました。自分がデザインしたパッケージや考えたアイテムが形になり、お客さまに使っていただけるのがやりがいです」と目を輝かせます。
デュアルモニターに向かい「ミズナラ エイジングスティック」等のデザイン作業を行う入社1年目の森心葉(ここは)さん。独学でデザインソフトを習得し、ブランドのカラー設定からECサイト、パッケージデザイン、公式SNSの写真・動画発信まで一手に担当しています
子育て中でも働きやすい環境。風通しの良さは会社の雰囲気をより良くしている
森さんの調香した「elm texture」をとても気に入っていると話すのは、積層事業部合板課の福本詩織さんです。
「ここちゃん(森さん)が調香したフレグランスを試させてもらったのですが、本当に良い香りで一気にファンになっちゃいました。すごく落ち着く香りなので、自分のデスクに置いて、仕事の合間に香りを嗅いでリフレッシュしています。自分が働く会社で、こんなにおしゃれで素敵な商品が生まれているのはすごく誇らしいですし、応援していきたいですね」
福本さんの所属する積層事業部は、会社の中でも一番の主軸となる部署。新しいブランドの立ち上げという挑戦が社内を活気づける一方で、こうした挑戦を足元から支える積層事業部のような安定した組織基盤があるのも同社の強みです。
積層事業部合板課の福本詩織さん
福本さんは、赤平出身で高校卒業後に入社し、今年で15年目を迎える中堅です。これまでに生産部や商材部などで事務を担当し、工場の円滑な運営や受発注管理、社員のサポートを行ってきました。
「15年間働いてきて一番強く感じるのは、どの部署にいっても人間関係が本当に良いということです」と語ります。
「工場というと、少し固いイメージや男性中心で話しかけづらい印象を持つ方もいるかもしれませんが、うちの会社は全然違います。みなさん気さくで優しくて、部署の垣根を超えて声を掛け合える雰囲気があるんです。何か困ったことがあっても『どうしたの?』とすぐに誰かが手を差し伸べてくれます」
福本さんは現在3歳になる息子さんのママ。1年間の産前産後休業・育児休業をしっかり取得し、スムーズに職場復帰を果たしました。
勤続15年目で3歳の息子のママでもある福本さんは、育休復帰後も助け合える社内風土に救われたと語ります
「復帰直後は『子育てと仕事の両立ができるだろうか』と不安もありました。子どもが小さいうちは、突然熱を出してお迎えに行かなければならなかったり、急にお休みをいただいたりすることがどうしても増えてしまいます。でも、周りのみなさんが『子どもが小さいうちは当たり前だから!仕事はみんなでフォローするから安心して休んでね』と当たり前のように言ってくれるんです。その言葉にどれだけ救われたか分かりません」
同社には、正社員だけでなく工場で働くすべてのスタッフに対して「仲間を大切にする」という文化が昔から根付いています。創業以来、働く人の雇用形態によって壁を作らず、時間や体力を考慮しながらお互いを支え合う姿勢が徹底されてきました。
また、社内イベントや食事会なども定期的に行われ、普段異なる部署で働く社員同士も自然と顔なじみになり、打ち解ける機会が豊富に用意されているそう。
安心して長く働けるのはもちろん、しっかりした土台があるからこそ新しいことにも果敢にチャレンジできる環境が整っている同社。一人ひとりが持っているものづくりに対する熱い思いや、長い年月をかけて築き上げられてきた社員の一体感と風通しの良さなどが、会社全体の魅力につながっているように感じました。
「仲間を大切にする」文化と部署を超えた風通しの良さが根付いており、この温かく安定した組織基盤があるからこそ、社員が一体となって新ブランドなどの新たな挑戦へ果敢に臨めています
- 空知単板工業株式会社
- 住所
北海道赤平市平岸西町6丁目12番地6
- 電話
0125-38-8001
- URL















