ものづくりの企業が多い赤平市で、半世紀にわたって独自の価値を提供し続けてきたのが「トルク精密工業株式会社」です。現在は自動車部品を主軸に、医療用検査キット、スーツケースの部品など、私たちの暮らしを陰で支えるさまざまな製品を生み出し続けています。
今回は、同社におじゃまし、開発技術部で活躍中の山平敦史さんと、生産管理部でバックオフィスを支える山本潮音さんに、仕事のやりがいや会社のリアルな魅力について伺いました。
スーツケースの部品から、車載部品、医療用検査キットと、幅広く対応
トルク精密工業株式会社は、金属プレス加工(金属の板材に金型を押し付けて成形品を作る)、射出成形加工(合成樹脂を加熱溶融し、金型に射出して成形品を作る)、そしてその2つを掛け合わせたインサート成形加工を主体に事業展開を行っているものづくりの会社です。同社の技術から生み出されたさまざまな部品は、私たちの生活の中で驚くほどたくさん用いられています。
同社はもともと神奈川県の会社でした。スーツケースの大手メーカーによる北海道進出に合わせて、1974年にこの地で事業をスタートさせた歴史があり、赤平に工場を設立した時はスーツケースの足元を支えるキャスター部品を製造(現在もスーツケースを構成する部品を作っています)。
その後、1987年に赤平に本社を置いた現在のトルク精密工業株式会社を設立しました。
「トルク精密工業株式会社」の社名看板。1974年に赤平市で事業を開始して以来、時代の変化や最先端のニーズに合わせて柔軟に技術を進化させ、地域に根ざしたものづくりを半世紀以上にわたり続けています。
同社は、時代の変化に合わせて常に柔軟に変化を遂げてきました。道内の主要電子部品メーカーとの連携による電子レンジ部品(マグネトロン)の製造を経て、現在は同社の主軸となる自動車用部品(車載部品)の製造へとシフト。特にオートマチック車のシフトポジションを検知する「ATスイッチ(ポジショニングセンサー)」の関連部品においては高いシェアを誇り、国内外の主要メーカーの多様な車種に採用されています。
さらに電動パワーステアリング部品やプッシュスタートの外装、近年は電気自動車のバッテリー制御部品など、最先端の車載ニーズに対応しています。
また、これまでの知見や技術力を生かし、医療分野にも進出。私たちもよく目にする医療用検査キットを手掛けています。大腸がんの採便用具やインフルエンザの検査で使う試薬カセットに関しては特許も取得しています。
さらに同社の大きな特徴でもあり、強みとなっているのが企画の段階からメーカーと共に部品を作り上げていくという点。図面の作成から試作、完成、そして量産体制を整えるまで一気通貫で行えるところは道内でも少ないそう。
同社が手掛ける多種多様な精密部品。高いシェアを誇る自動車のATスイッチ関連部品をはじめ、医療用検査キットやスーツケース部品まで、独自技術を駆使して人々の暮らしを陰で支える製品を生み出しています。
数多くの技能士を育成。確かな技術力はお客さまの信頼につながる
多岐にわたる領域の「ものづくり」に取り組んでいる同社ですが、それを支えているのが高い技術力と徹底した品質管理体制です。昔から、技術者の育成に力を入れてきました。
「うちの強みはその技術力です。技能士の資格取得を社員には推奨しています。プラスチック成形、金属プレス加工、金型製作の3つの分野で1級・2級の国家資格を持つ技能士が多数在籍しています」と開発技術部の山平さん。
現在、全社員約80名のうち、27名が技能士の資格を保有。この数字は製造業の中では多いほうなのだそう。山平さんの名刺にもプラスチック成形用金型製作2級、プレス金型製作2級と記されています。
開発技術部で活躍中の山平敦史さん
さらに、同社がプラスチック成形(射出成形)における北海道内の技能検定会場になっているというのも特筆すべきポイント。
山平さんは、「普段仕事をしている場所がそのまま試験会場となるため、先輩や上司から日常的に手厚い実技指導や対策を受けることができ、着実に技能を磨ける環境が整っているんです」と続けます。
技能士という国家資格の取得は、社員自身のスキルアップや自信、やりがいなどにつながるのはもちろんですが、技能士の社員がたくさんいることで取引先の大きな信頼にも結びついているそうです。
また、技術力はもちろん、積極的に設備投資も行っています。最新のロボットや独自の改良を加えた機械などをフル活用し、効率良く、高品質な製品を日々送り出しています。
クリーンで明るい工場内には最新の射出成形機などの設備が並びます。手厚い指導で国家資格である技能士を取得した社員たちが、効率的で高品質な製品づくりを目指して日々真摯に業務へ取り組んでいます。
設計したものが形となり、量産へ。難易度が高い分、やりがいも大きい
ここからは、社員のお二人にそれぞれの入社のいきさつや仕事についてお話を伺っていこうと思います。まずは先輩の山平さんから。
地元・赤平出身の山平さんは高校まで地元で過ごし、卒業後は札幌の専門学校で介護福祉を学びます。一度は介護の仕事に就いたものの、腰を痛めたことをきっかけに「モノを相手にする仕事がしたい」と一念発起します。
「介護の仕事をしていたときはずっと人と関わってきたので、次はモノと向き合いたいと思ったんです。それで、思い切って方向転換し、職業訓練校で半年間、CADや図面制作、加工の基礎を学びました」
当初、地元に戻るつもりはなかったそうですが、奥さまが滝川で仕事をしていたこともあり、空知エリアで就職先を探していたところ、たまたまハローワークでトルク精密工業の求人を見つけ入社しました。

「入社当時は、ひたすら図面を描いて読むという練習からスタートしました。最初はとにかく新しく覚えることばかり。でも、新しくモノを生み出すプロセスがとても新鮮で楽しかったですね。当時はベテランの先輩方がたくさんいたので、皆さんに一つひとつ教えてもらいながら仕事を覚えていきました」
山平さんが所属する開発技術部は、会社の強みのひとつであるメーカーと共に企画から部品を作っていく重要な部署。取引先からの相談を受け、見積もり作成から金型の仕様検討、金型メーカーへの手配、試作検証、そして量産立ち上げまでを一手に担っています。
ひとつの製品が、お客さまの相談から量産に至るまでは、平均して半年から1年ほど。長期間にわたるプロジェクトだからこそ、「無事にカタチになったときの喜びはひとしおです」と話します。
「自分が思った通りの製品が完成した時は、『キタ!』と心の中でガッツポーズが出ますね(笑)。すべての工程をクリアして、量産化のために製造部門へ引き渡せた瞬間は『無事に終わった』という大きな達成感があります。車のATスイッチなど非常に難易度の高い製品立ち上げも多いのですが、難しいからこそやりがいも大きいです」

会社の魅力のひとつが人間関係の良さ。働きやすい環境だから頑張れる
続いては、生産管理部で事務を担当している山本潮音さんにお話を伺います。山本さんは、新卒で入社し、7年目を迎えた25歳。若手のホープでもあります。
山本さんは隣町の歌志内市出身。高校在学時に、進学か就職か卒業後の進路について悩んでいたところ、学校の先生に「ここの会社から求人がくるのは珍しいから、見学に行ってみたら?」と勧められます。
「会社見学に来た時から、雰囲気が良くて、ここで働きたいと思いました。緊張していたんですけど、気になることがあれば何でも聞いてねと優しく声をかけていただき、すごく質問しやすい雰囲気だったんです」
入社してからもその印象は変わらず、歳の離れた先輩方も気さくに声をかけてくれたそう。
生産管理部でバックオフィスを支える山本潮音さん。
「入社してすぐは右も左も分からない状態でしたが、常に『分からないことはない?』『困ってることはない?』と声をかけてもらい、丁寧に教えてもらえたので、少しずつ仕事を覚えていくことができました」と振り返ります。
現在、山本さんが担当するのは、売上の管理業務や請求書の発行、品質保証関連の伝票処理、電話対応、来客対応といった営業事務全般。数字を扱う業務が多いため、「ミスがないよう何度も入念に確認することを心がけています」と話します。
「入社して7年ですが、社内の人間関係の良さが本当にこの会社の魅力だなと思います。仕事中はもちろんみんな集中して仕事に取り組んでいますが、休憩時間などは気さくに話ができる温かい人ばかり。部署に関係なく声をかけてくれますし、風通しもいいんです。仕事で困ったことがあれば、みんなで一緒に考えてくれるし、分からないことは教えてくれますし、自分も頑張ろうと思えます。本当に働きやすい職場だと思います」
ずっとニコニコ笑顔で答えてくれる山本さんを見ていると、会社の雰囲気が本当に良いのだろうなというのが伝わってきます。
「優しく丁寧に仕事を教えてくれるので、知識がなくてもゆっくり覚えられます」と語る、山本さん。
より魅力的な会社づくりのため、休みなど労働環境の改善も積極的に実施
風通しの良い環境で、やりがいや達成感を得られる「ものづくり」に取り組める同社。働く環境という点から見た会社の魅力についてお二人に尋ねると、「残業のなさや休みの取りやすさ」と答えが返ってきました。
山本さんは「ほぼ定時で帰れるので、自分の時間もしっかり確保できています」と話します。映画鑑賞が好きな山本さんは、帰宅後に配信サービスで映画を見ることも多いそう。
また、「有休も取りやすいので、連休などをうまく活用して、東京の美術館へ展覧会を見に行くこともあります」とプライベートも充実している様子です。

実家のある歌志内から赤平市へ移住してきた山本さんは、市の定住支援策(家賃補助として市内で使える商品券が交付される制度)を活用して一人暮らしをスタート。
「赤平はスーパーやホームセンター、コンビニなどが揃っていて、日常生活で不自由は感じません。また、職場と家が近くなったことで、尚更自分の時間を有意義に使えるようになりました」と話します。
一方、三人のお子さんがいる山平さんは「休みは子どもたちの部活や大会などで、ほぼほぼ潰れてしまいます」と苦笑しますが、「でも有休は取りやすいと思いますし、確かに残業は少ないです」と続けます。
特に開発の仕事は、取引先との兼ね合いもありますがスケジュール調整を自身でできるのも魅力のひとつだと思うと話します。ちなみに山平さんは、時間ができたらゲームに没頭してリフレッシュするそう。

同社では、社員のワークライフバランスをさらに高めるため、勤務日数の見直しや連休取得の推奨など、若い世代の意見を積極的に会社カレンダーへ反映させる取り組みも進行中。「シルバーウィークに休みがほしい」という若手の声に応えて特別休日を設定するなど、常に働く環境の改善が進められているそうです。
また、山本さんが社内の人間関係の良さについて話してくれていましたが、それを象徴しているのがイベントや懇親会の出席率の高さです。忘年会や新年会といった集まりには、強制ではないにもかかわらず毎回多くの社員が参加。
イベントに関しては、過去にはバスを貸し切ってエスコンフィールドへ野球観戦に行ったり、周年の節目にはみんなで沖縄や台湾、箱根などへ社員旅行に行ったことも。
「次はどこへ行くか楽しみにしています。せっかくならおいしいものが食べたいですよね」と山平さんは笑います。

次の世代へより良い状態でバトンを渡していけるように盛り上げたい
赤平に工場を構えて半世紀以上になる同社では、次世代を担う若手・中堅層への世代交代の時期を迎えています。
中堅層の代表格でもある山平さんは、今後の会社のことについて、「これからは私のような年代が先頭に立って、他部署の同世代とも手を取り合いながら会社を盛り上げていかないといけないと感じています」と語り、もともと行っている忘新年会や社員旅行以外でも、普段からみんなが交流を持てるような機会も設けてみたいとも話します。
「また、ホームページなどを新たに作り直して、会社の魅力をもっと発信していかなければならないとも考えています。高い技術力を誇り、たくさんの人の暮らしを支えているものを作っていることを知ってもらえたら、ものづくりに興味関心がある人にとっては魅力的な会社だと思うんです」
さらに、自分より若い世代が、もっと伸び伸びと働きやすい環境を作っていきたいと山平さん。
製造ラインを流れていく青い成形品。
どんな人がこの会社に向いているかを尋ねると、「ものづくりの現場では、黙々と作業に没頭できる『集中力』がある人が向いています。さらに、失敗を恐れずに『まず挑戦してみよう』という気持ちを持っている方と一緒に働けたら嬉しいです」と答えてくれました。
また、山本さんは「若いスタッフが増えてくれたら、もっとコミュニケーションを深めてお互いに助け合える関係を作っていきたいですね」と話します。
そして、「個人的には、今やっている業務をさらに効率よくこなせるように努力し、まだ経験していない部署の仕事にも挑戦し、会社全体の流れをもっと深く理解できるようになりたい」と意気込みます。こうした若手の存在は、頼もしくも感じます。
アットホームな人間関係と手厚い技術指導、そして進化を止めることのない受け継がれるものづくり精神。これまでも時代の流れに合わせて、その技術をあらゆる形で活かし、チャレンジしてきたトルク精密工業。次世代の若手を丁寧に育てながら、この先も地域に根差し、しなやかに成長していくのでしょう。

















