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まちおこしレポート
音威子府村

地域活性化起業人と役場職員。小さな村で活躍する2人の思い20260914

地域活性化起業人と役場職員。小さな村で活躍する2人の思い

人口約580人と北海道で最も人口が少ない村・音威子府村(おといねっぷむら)。道北にあるこの小さな村では、現在20人を超える「地域活性化起業人」が村の課題解決のために活動を行っています。地域活性化起業人とは、都市部の企業が社員を地方の自治体に派遣し、地域貢献活動を支援する制度。

「この村の規模で20人以上の地域活性化起業人がいるのは、珍しいかもしれませんね」と話すのは、音威子府村役場職員の金子賢樹(まさき)さんです。今回は、この春(2026年)から地域活性化起業人として活躍している飯盛(いさかり)広規さんに活動内容や暮らしのことなどを伺うとともに、金子さんにも地域活性化起業人に期待することや村のことを語ってもらいました。

地域活性化起業人とは?移住ありきではないけれど、地域の課題解決などに貢献

まずは、「地域活性化起業人」の制度について少し詳しく説明をしましょう。これは、総務省が推進している人材派遣制度。東京や大阪などに本社を置く民間企業の社員が、その企業に籍を置いたまま地方自治体に派遣され、専門的なノウハウや知見を活かし、地域の課題解決に取り組み、地域を活性化するというものです。

これまで「くらしごと」ではたくさんの地域おこし協力隊の方を取材してきました。読者の中には地域活性化起業人と地域おこし協力隊は何が違うの?と混同されるかもしれませんが、まず、協力隊が自治体に直接雇用される(または委託契約を結ぶ)のに対し、地域活性化起業人は企業に在籍したまま、自治体へ派遣または副業として関わります。派遣されるのは、民間での実務経験や専門スキルをすぐに活用できる即戦力人材。行政に対して直接的にそのノウハウやアイデアを注入できるのが大きな特徴です。また、協力隊は移住が必須となりますが、地域活性化起業人は企業のノウハウを活かした地域貢献を目的としているので移住する必要がない点も大きな違いです。

otoineppu16.jpgお話を伺った音威子府村役場の金子賢樹さん(左)と地域活性化起業人として活躍する飯盛広規さん(右)

冒頭で、音威子府村では20人以上の地域活性化起業人を受け入れていると紹介しましたが、アートや映像、デジタルアーカイブなど多岐にわたる分野で、地域活性化起業人を受け入れています。今回紹介する飯盛広規さんは、村役場の「DX推進」という重要課題を託されている人物。地域活性化起業人には、企業派遣型、副業型、シニア型があり、飯盛さんは副業型で携わっています。副業なので、普段は本業をこなしながら、本業以外の時間で関わるというスタイルです。

これまでの経験を活かし、音威子府村のDX化に向けたプロジェクトに参加

さて、ここからは飯盛さんが音威子府村と関わるようになるまでの歩みを伺っていきましょう。

飯盛さんは岐阜県岐阜市出身。子どものころ、ゲームが好きだったことから岐阜大学に進み、情報工学を専攻します。卒業後はそのまま同大の大学院へ進み、プログラミングやAI(人工知能)の研究に没頭してきました。

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「ゲームが作れたらと思っていましたが、ゲームをプレイするのと作るのは大きく違うと入学してからよく分かりました。ただ、プログラミングやAIについて学ぶにつれ、面白さも感じるように。ちょうど大学院時代、医療画像を解析するAIの開発に携わったんですが、そのとき『プログラミングは単なる手段であって、本当の目的は誰かの役に立つことなんだ』と気づきました。そこからプログラミングがより楽しくなりましたね」

大学院を修了後、大手通信事業会社に入社します。東京の本社勤務となり、クレジットカードサービスのスマホアプリ開発でプロジェクトリーダーを務め、システム開発手法の大幅な改善や、SNSの顧客の声を自動収集するシステムを一人で構築するなど、最前線で実績を重ねていきます。

新進気鋭のITエンジニアとしてキャリアを順調に築いていた飯盛さん。転機が訪れたのは、入社6年目のことでした。

2025年にその大手通信事業会社と音威子府村が、「持続可能な森づくりに関する基本合意書」を締結。村有林を活用したJ-クレジットの創出などによる森林保全活動の取組とともに、大手通信事業会社がもつ知見やソリューションを活用した取組に向け人材交流が検討され、社内で「音威子府村のDXを推進する人材」の公募があり、応募されます。

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「役場で働く、役場の仕事に関わるという選択肢は、それまでの人生に全くありませんでした。でも、だからこそ一生に一度あるかないかの貴重なチャンスだと感じたんです。また、大企業だと自分の仕事の影響力が見えにくいこともあります。でも、人口が少ない村であれば、自分の発揮した価値や効果がダイレクトに見えるんじゃないかと考え、思い切って応募しました」

基本的に音威子府村の担当者とはリモートでやりとりを重ねました。まずはどのような課題があるのかというヒヤリングからスタート。

「職員の皆さんは長くアナログで役場仕事をしてきているので、特に不自由を感じていないという部分もあり、なぜDX化が必要なのか、DXを進めることでどういうメリットがあるのかという説明もし、一緒に課題を見つけるような感じで進めていきました」

少しずつ互いの理解を深め、信頼関係を構築しながら、DX化に向けて計画が進んでいきます。ちょうど1年経ち、プロジェクトが終わりを迎えることになったとき、飯盛さんの胸中に「計画だけでなく、実装するまで関わってやり切りたい」という思いが芽生えます。同じタイミングで村のほうからも引き続き関わってもらえないかと打診があり、飯盛さんは副業型の地域活性化起業人として参加することを決意します。

地域活性化起業人として、東京と音威子府の2拠点生活をスタート

2026年4月から、地域活性化起業人となった飯盛さん。通信事業会社の通常業務をこなしながら、副業として音威子府村のDX化に携わることになり、東京と音威子府村を行き来する二拠点生活をスタートさせます。現在は、月の半分を村で暮らしていますが、なんと、音威子府村に通いやすいように東京の住まいも羽田空港から近いところへ引っ越したそう。

さて、東京の最先端のIT現場から音威子府村へ足を踏み入れた飯盛さんを最初に待ち受けていたのは、想像以上の「アナログ」な世界でした。「分かってはいましたが、かなり驚きました」と話します。ペーパーレスでメールやチャットでのやり取りが当たり前の飯盛さんにとって、役場にいまだ残っている紙・電話文化は衝撃だったそう。

「でも、いきなり最先端のツールを導入したところで、現場の皆さんは現状困っているわけでもないし、逆に訳が分からないと思ったので、丁寧にコミュニケーションを取りながら、『アナログのままだとこれだけ時間とコストを損しているんですよ』と丁寧に紐解いていく作業からスタートしました」

飯盛さんは、副業型のため本業のフルタイム勤務も抱えていますが、音威子府村に滞在している間は、あえて役場に出向いてリモートで本業をこなし、役場のデスクに長く座るようにしています。

「席にいると、肩を叩かれて『Wi-Fiがつながらないんだけど』『パソコンの動きが遅いんだけど』『ソフトのライセンス認証画面が出ちゃった』と、DX以前の日常的な相談がたくさん来るんです(笑)。でも、直接顔を合わせてそういう困りごとを解決していくうちに、『ITのことはあいつに頼めば大丈夫だ』という信頼関係が生まれていき、DXに関しても関心を持ってもらえるかなと考えています。今はツールを入れること以上に、使う人のマインドを変え、人間関係を築くアナログなアプローチこそがDXの第一歩なんだと実感しています」

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お金をかけずに課題解決をする。音威子府村の事例は全国の町村でも役立つはず

地域活性化起業人として音威子府村に通い始める前の年、リモートでやり取りをしていた夏に1週間ほど村に滞在した飯盛さん。その際に、村の人たちと初めてリアルに会い、村長も交えて食事をし、村の人たちの温かさを感じたそう。

「確かにコンビニが24時間営業じゃないとか、JRの本数が限られているとか、東京との暮らしと比べるとインフラ面での不便さはあるけれど、暮らせないほどのことではないし、逆に不便さがあるからこそ村の人たち同士が自然と助け合う形ができているのかなと思いました。音威子府村は、人と人との距離の近さが村の魅力のひとつだと感じています。夏も涼しくて過ごしやすくていいですよね。でも、実は虫が苦手なんです。東京の虫よりもずっと大きなサイズの虫がいたり...、それだけは勘弁ですね(苦笑)」

休みの日には村の人たちと飲みに行ったり、先日は村の祭りに参加して神輿を担いだり、すっかり村の人や地域にも馴染んでいる様子の飯盛さんですが、自身のキャリアや将来については客観的かつ冷静な視点を持っています。

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「最終的に僕がいなくなってもシステムや業務が回り続ける状態を作るのが音威子府村でのゴールと考えています。しっかり現場に実装し、引き継ぎを完了させるのが僕の使命。僕自身は、これからも常にITのプロであり続けたいと考えています。任務が終わったあとも、今まで通り、都市部で最先端の技術や情報に触れ続け、インプットしたものを質の高い状態で地方に提供し、地方の役に立ちたいと思っています。そういう意味では、地域活性化起業人の働き方は自分に合っているかもしれません」

また、音威子府村は財政規模が小さいからこそ、『お金をかけずに業務課題を解決する』という工夫も求められるわけですが、「音威子府村の事例は、全国の同じような課題を抱える小さな自治体で横展開できるはず。目の前の課題を一つずつ解決した先に、新しい可能性が広がると思っています」と最後に話してくれました。

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前向きな村民気質に感じるポテンシャルの高さ。地域活性化起業人の活躍にも期待

飯盛さんの取り組みを役場側で支えているメンバーの一人が、音威子府村総務課地域振興室の金子賢樹さんです。主に、関係人口創出や二地域居住促進などの地域振興全般を担当しています。 実は金子さんは道庁職員で、この春から音威子府村に派遣で着任。そういう意味では飯盛さんと同じタイミングで村へやって来たことになります。

埼玉県鴻巣市出身の金子さんは、中学時代からの電車一人旅をきっかけに地方の暮らしやまちづくりに興味を持ち、北九州市立大学や早稲田大学大学院で地方創生や公共政策を学びました。 「住んだことがない場所で挑戦したい」という好奇心から北海道庁に入庁。「現場に入って、地域施策や地域活性化に関わるチャンスをずっと望んでいたので、音威子府村で直接携わる機会を与えられたのはありがたいと思っています」と話します。

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そんな金子さんですが、役場職員の立場から地域活性化起業人の重要性について尋ねると、「役場職員はゼネラリストとして幅広い業務をこなしますが、デジタル分野などの高度な専門知識をすべて網羅するのは不可能です。飯盛さんのような第一線の専門家が村に滞在し、同じ目線で伴走してくれる存在は本当に心強いですね」と話します。「特に飯盛さんは、専門知識を振りかざすのではなく、職員の気持ちに寄り添って丁寧に動いてくれるし、いつも役場のデスクにいて気軽に相談に乗ってくれるから、役場内の信頼もすごく厚い」と続けます。

金子さんは外から来たからこそ感じる音威子府村のポテンシャルについて、次のように熱く語ってくれました。

「人口約580人という数字だけを見ると『過疎化が深刻だ』と思われがちですが、実際に住んでみると村の人たちはすごく前向きなんです。特別な悲壮感はなく、自然体で今の暮らしを楽しんでいる感じがしています。『守り』に入らず、新しい挑戦に対してフットワークが軽い空気感があるんですよね。そういう意味では、さっき飯盛さんも話していましたが、音威子府村が最初にチャレンジしたことや取り組んだことが、全国の同じような規模の自治体のお手本になるかもしれない。もちろん、村の人たちの承諾、協力を得て行わなければなりませんが、音威子府村はトライアルしやすい小さな実験場のような場所だと感じています。ここで生まれた小さなイノベーションが、いずれ大きな波紋となって他の地域へ広がっていくかもしれない。そんな面白さと可能性が、この村には詰まっていると思います」

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人口の少なさを逆手に取ったチャンスはたくさん眠っているように感じます。「ただ、トライアルすると言っても、すべては村民が幸せに暮らせることが大前提」と金子さん。村民の声を丁寧に拾いながらできることを一つずつ取り組んでいければと話します。

飯盛さんと金子さんは31歳と同い年。撮影中の他愛もない会話から気心知れた仲であることが分かります。共に穏やかな語り口の2人。最先端のITスキルを持った地域活性化起業人と、行政の制度や地域事情を知り尽くした役場職員として、立場やアプローチは違っていても、それぞれ「地域のために」という熱い思いを持っているのがよく伝わってきました。地域の活性化に必要なのは、地域を思い、行動できる2人のような「人」の存在。こんな若手メンバーが活性化に力を注ぐ音威子府村、これからのプラスの変化が楽しみです。

音威子府村役場
音威子府村役場
住所

北海道中川郡音威子府村音威子府444番地1

電話

01656-5-3311

URL

https://www.vill.otoineppu.hokkaido.jp/

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地域活性化起業人と役場職員。小さな村で活躍する2人の思い

この記事は2026年7月31日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。