生乳生産量が日本一という酪農王国・別海町。広大な牧草地を有するたくさんの酪農家さんたちが日々牛たちと向き合っています。
この広い牧草地を管理するのに欠かせないのがトラクターなどの農機具です。これらの整備を中心に、酪農家さんたちの仕事を支えているのが「有限会社 中春別マシンセンター」です。
今回は、同社の専務取締役を務める舘内啓二さんに会社のことをはじめ、ご自身の歩みも含めた地域への思いなどを伺いました。
地元農協の100%出資会社として誕生。組合員の農機整備などを一手に引き受ける
中春別マシンセンターは、中春別農業協同組合が100%出資して設立した会社です。もともとは、酪農家の規模拡大に伴う大型機械化が進んだ昭和55年に、農業用機械や農業車両のトラブルに対して整備できる工場が欲しいという組合員からの声をうけ、中春別農業協同組合が農業機械整備工場を作り、事業をスタート。
「その後、平成6年に中春別マシンセンターとして独立する形で会社が設立されました。そういった経緯もあるので、顧客の約9割以上が地元の農協組合員になりますね」と舘内さん。
同センターが行っている事業は農業用機械のメンテナンスや修理だけかと思いきや、想像していたよりも多岐に渡ります。
「当社でいう『メンテナンス』とは、農業機械を安全かつ良好な状態で使用し続けるために行う、日常的な点検・整備作業を指します。具体的には、機械の点検・確認、清掃、給油、部品交換、各部の調整などを行います。故障してから修理するのではなく、日頃から機械の状態を確認し、異常や劣化を早期に発見することで、突然の故障や作業中断を防ぎ、機械を長く安心して使用していただくことを目的としています」
専務取締役の舘内啓二さん。農協職員として人工授精師や営農計画の相談業務を長年経験し、酪農に関する深い知識と地域との強固な信頼関係を築き上げ、定年後にマシンセンターの運営を引き継ぎました。
このほか、牛舎などの施設設備工事も請け負っており、鉄鋼加工も自社で行っているそう。
「牛舎の中で使うゲート(仕切り)などを作り、スタンチョン(牛の首を固定する枠)の設置も行います。酪農家さんから『こんなのを作ってほしい』って頼まれたら、寸法通りに自社工場で溶接して作っちゃうんですよ。ほかにも、牛がロールベールの牧草を食べるときに、散らかして無駄にしないための専用の鉄製ケージの草架台(そうかだい)など、結構いろいろ作っていますよ」
さらに、牛舎で使う小農具や部品の販売、新品・中古の自動車や農機具の販売も行っています。中古の農機具に関してはしっかり修理、整備を施し、道内のJAグループで運営する中古農業機械の専用サイト「アルーダ」を通じて販売もしています。
「大型のトラクターなどはもちろんだけど、草刈り機やブロードキャスターなどの各種農機具や車周りのことは、整備や修理、販売までひと通り全部やっている感じですね」
「まさに地域の酪農家さんにとって欠かせない頼みの綱ですね」と問いかけると、舘内さんは頭をかきながら「頼りにされているかどうかは分からんけどねぇ」と笑いますが、現場の従業員の皆さんが常にあちこちの酪農家さんに呼ばれている様子を見れば、十分頼られているのが分かります。
農機の複雑なパーツに工具をあてて細やかな整備を行う整備士。電子制御のない旧型トラクターなどは、熟練の整備士による緻密なメンテナンスとオイル交換を施すことで、30年以上も動き続けます。
整備士自ら現場へ出向き整備や修理に従事。牧草収穫期はスピード勝負に
別海町の酪農家さんたちは牧草の収穫期になると、連日天候をチェックしながら作業の準備に取り掛かります。牧草を刈り取り、牛たちの通年の主食となる牧草サイレージを作る作業はとても大事な作業です。
「1回目のメイン収穫は6月。そして秋口には2番草の収穫が行われます。牧草収穫の原則はね、『雨に当てないこと』なんです。雨に当たってしまうと牧草の品質がガクッと下がって、牛の健康状態や産乳量にも直結してしまうんです。だから、牧草の収穫時期は、天候によって作業が大きく左右されます。特に雨の日が続くと、牧草の水分を十分に調整できないまま収穫作業を行わなければならない場合があります。牧草の水分が多い状態で作業をすると、収穫機械に大きな負荷がかかり、詰まりや部品の破損、機械の故障などのトラブルが発生しやすくなります。また、天候が回復した短い時間に一斉に収穫作業を行うため、機械の稼働時間も増え、故障が発生すると作業全体に大きな影響が出てしまいます。そのため、牧草収穫時期には、作業前の点検や日頃のメンテナンスをしっかり行い、故障を未然に防ぐことが非常に重要です。こうした現場の状況を理解したうえで、酪農家の皆さんの機械を整備し、安心して収穫作業を行っていただけるようにすることが、私たち整備業者の重要な役割だと考えています」
そうならないためにも、冬の間や収穫が始まる前のメンテナンスは特に力を入れてしっかり準備。それでも故障してしまった場合は、すぐに現場へ駆けつけられるようにしているそう。
安全管理を最優先にした整備士たちの予定表。普通免許(マニュアル)さえあれば、大型特殊や溶接、自動車整備士などの業務に必要な資格の取得費用はすべて会社がバックアップする体制が整っています。
「整備や修理は工場でやるものと思われがちですが、うちは現地へ整備士が行って、現場で直せるものは修理するんです。運んでいる時間がもったいないですしね。特に牧草の収穫時期は現場の緊急修理を最優先しています」
重篤な故障で現地修理が難しい場合は、大型セルフローダーを走らせてその機械を引き揚げて工場へ持ち込みます。少しでも早く直して農家さんのもとへ返し、収穫を再開してもらいたいという思いで懸命に作業にあたります。
牧草収穫の時期以外も現場を回って修理やメンテナンスを行う整備士メンバーがいるそうで、舘内さんは「自分は整備士ではないから、偉そうなことは言えないけれど、うちの整備士たちは、冬は氷点下になる中で、夏は炎天下の畑の中で機械を直すんです。確かに過酷ですよね。でも、壊れた機械がその場で再び動き出したとき、農家さんが心底ホッとした顔で『助かった、ありがとう!』って言ってくれると、何物にも代えがたいものがあるんじゃないかな」と話します。
日本一の生乳生産量を誇る別海町では、規模拡大に伴い大型の農業機械が数多く導入されており、酪農を支える日々のアフターケアが欠かせません。
人工授精師、営農担当を経験。酪農の知識と地域との繋がりを買われてマシンセンターへ
会社を取りまとめる役職の舘内さんですが、中春別マシンセンターへやってきたのは8年前。もともとは中春別農協の職員として働いていました。
舘内さんは十勝の大樹町出身。高校を卒業後、一度は実家の畑作農家を継ぎますが、経営は厳しく、数年で自営の道を諦めざるを得なくなったそう。
「そこから一念発起して、人工授精師の資格を取ろうと決めたんです。ホクレンの研修牧場で1年間勉強して、資格を取ったあと、昭和54年だったかな、中春別農協に就職しました」
知り合いがいたわけでもなかった別海町へ単身飛び込み、それから約20年、人工授精師として農協の組合員さんの牧場を駆け回ります。ところが42歳のとき、転機が訪れます。営農部へと異動になったのです。

営農部での仕事は、最初は大変でした。それまで私は人工授精師として仕事をしてきましたので、営農部の仕事は全く畑違いの分野でした。組合員の皆さんの経営に関する相談を受ける仕事で、まさに「何でも屋」のような存在でした。
牛の繁殖や状態を見ることには慣れていましたが、経営の数字を見たり、飼料費や機械費、資金繰りなどについて相談を受けたりすることは、当初は分からないことも多くありました。
しかし、組合員さんのところへ足を運び、実際に牛や牧場の状況を見ながら話を聞くことで、少しずつ経営のことを理解できるようになりました。
人工授精師として培ってきた「牛を見る目」や「酪農家と直接話をする経験」も、経営相談の仕事に大いに生かすことができました。振り返ってみると、これまで私は、人工授精、経営相談、農業機械修理と、全く違う分野の仕事を経験してきました。しかし、それぞれの経験が現在の仕事にもつながっており、新しい分野に挑戦することの大切さを実感しています。
「せっかくここに来たし、人手不足だから、整備士の資格を取らなくていいのかな?って言っているんだけど、取らなくていいって言われて...」と苦笑しますが、事務方としてしっかり会社を支えています。
牧草収穫期は雨を避けるためのスピード勝負となるため、重大な故障時には大型セルフローダーを走らせて引き揚げ、一刻も早い復旧を目指して懸命に整備します。
ベテラン整備士の心意気と知識、技術。これを次の世代に継承していかなければ...
現在、中春別マシンセンターで働くスタッフは総勢13名(もうすぐ14名に増える予定)。そのうち整備士は9名。その中には、なんと74歳で今も現役バリバリの整備士もいるそう。
「実は元専務なんですけど、彼がいないと古い型のトラクター整備が回らないんですよ。本当にすごい人で、頭の中に何十年分もの機械の構造と整備手順が全部叩き込まれているんです。どういう頭の中をなのか一度覗いてみたいくらいです(笑)」
近年、最新型のトラクターは電子制御やコンピューターが積まれ、メーカーしか修理できないケースが多いそう。
しかし、30年以上前の頑丈なトラクターを今でも現役で使っている農家さんは多く、「オイル交換と適切なメンテナンスさえしていれば十分動き続けるんです。だからこそ、それを直せる熟練の職人技術が必要になんです」と舘内さんは話します。
そして、「今はその技術の継承をどう進めていくかがうちの課題」と続けます。

「農機の整備の技術は、1年や2年勉強したくらいでは身につきません。一人前になるには最低でも3〜5年はかかる職人の世界です。会社的には、新人を一人育てるとなると、作業効率が落ちて一時的に人件費がかさむために悩ましいところではあるんですけど、それでもね、やっぱり地域の農家さんを支えていくためにも育てていかなきゃ未来がないんです」
当社では、未経験で入社された方でも安心して仕事を覚え、技術を身につけられるよう、先輩社員がマンツーマンで丁寧に指導しています。
また、安全衛生を最優先に考え、業務に必要な特別教育・技能講習については、教育指導機関が実施する講習を受講し、必要な資格を取得することを必須としています。経験がない方でも、基礎から一つずつ技術を身につけられる環境を整えていますので、安心して仕事に取り組んでいただけます。
「マニュアル車の運転ができればいい」と話し、ほかに必要となる資格関係(大型特殊免許、フォークリフト、溶接、自動車整備士など)の取得費用はすべて会社が負担するなど(条件付き)、バックアップするシステムが整えられています。
「機械が好きだったり、興味があったり、人のために役立つ技術を身につけたい人であればOK。地域の酪農家さんのために働きたいという人は尚歓迎」と舘内さん。
酪農家さんから「機械のここがおかしい」という話を聞き出す最低限のコミュニケーションが取れれば十分とのこと。そして、「うちで得られる知識や身に着けた技術は、一生モノになると思う」とも話します。
自然環境と調和のとれたまち。そんな別海の基幹産業を支え続けることが使命
20代からずっと別海町に暮らす舘内さんに、「別海町のいいところは?」と尋ねると、「自然豊かな当地域では、広大な牧草地や美しい景色に恵まれており、四季折々の自然を楽しむことができます。仕事の合間に雄大な景色を眺めると、心が癒され、気持ちをリフレッシュすることができます。春には山菜を採って、旬の味覚をおいしくいただき、夏から秋には川や海へ魚釣りに出かけるなど、自然を身近に感じながら暮らすことができます。仕事だけでなく、自然の中で趣味や暮らしを楽しめることも、この地域の大きな魅力です」と回答。
「北海道の景色なんて、どこを走ったって同じですよ(笑)。でもね、人との距離感がすごく心地いいのが別海のいいところかな。変にベタベタ干渉しすぎず、かといって見捨てるわけでもない。程よい距離感で暮らしやすいまちだと思うよ」
別海町は行政も若者の定住や婚活支援に力を入れています。中でも昭和59年から続いている友好都市・大阪府枚方市との婚活交流イベント「菊と緑の会」では、これまで90組以上のカップルが誕生しているそう。
「実はね、農協の営農部にいた頃、その婚活ツアーの地区担当もやっていたんですよ。担当していたときにはテレビの取材なんかもたくさん入ってくれてね。大阪から来てくれた女性陣はみんな本気で結婚しようと熱意を持って来ていただいているし、地元の酪農家の男性たちは真面目で優しい方が多く、何組も結婚して、今も幸せに暮らしていますよ」
取材当日に在社していたスタッフさんをパシャリ。撮影中も仲睦まじい様子が伺えました。
当時のことを懐かしそうに語る舘内さん。まちに根差して、農協職員として酪農家さんたちのために尽力してきたのがよく分かります。また、辛口なことを言いながらも地元を大切に思っているのが伝わってきます。
そんな舘内さんだからこそ、酪農家さんを支える中春別マシンセンターの今後についても、「まずはしっかり後継者を育てていくことが大切」と話します。
「農機が使えなくなると、場合によっては酪農家の日々の作業や経営に大きな負担となることがあります...。地味に思われるかもしれないけれど、別海の基幹産業である酪農業を守っていくためにも自分たちの仕事は重要なんです。他に代わりができる会社が地域にないですから、うちがなくなったら困るよとよく農家さんたちにも言われます。だからこそベテランの技術を継承できる人材を育成したい。それに尽きますね」
それまでは冗談を交えながら笑って話していた舘内さんでしたが、最後は真剣なまなざしでそう語ってくれました。
「有限会社中春別マシンセンター」の社屋。元々は地元農協の整備工場としてスタートし、現在は酪農家たちの頼れるパートナーとして、トラクターなどの農機具から一般車両の車検整備まで一手に担っています。

- 有限会社 中春別マシンセンター
- 住所
北海道野付郡別海町中春別南町3
- 電話
0153-76-2117
- URL















