別海町と中標津町の境に位置する中春別農業協同組合(以下、JA中春別)。地域の酪農家を支える総合農協として、金融や共済、購買、営農、生産など幅広い事業を展開しています。今回は、JA中春別に入職して21年目の総務部部長、山形則和さんと3年目の生産部販売課の佐藤俊和さんにインタビュー。酪農が盛んな中春別ならではの仕事や暮らしの魅力を、それぞれの視点から伺います。
札幌の大学から地元へ。地域の酪農を支える
まずは、入職21年目の総務部部長、山形さんにお話を伺います。山形さんは根室市で生まれ、1歳の頃に中標津町へ移りました。高校卒業後は札幌大学法学部に進学。その後、地元へ戻ることを選びます。
こちらが、JA中春別総務部部長 山形則和さん
「地元には友人もいましたし、親元に近いところで暮らしたいという気持ちもありました。それに、やっぱり住みやすいんですよね」
ちょうどその頃、中春別の学校で教員をしていた父を通じてJA中春別が職員を募集していることを知り、27歳で入職。最初に配属されたのは営農部でした。営農部で担当したのは、組合員である酪農家の経営相談をはじめ、税務申告のサポートなどです。
「当時は農協からのお知らせをFAXで受け取る農家さんも多く、FAXが壊れたという連絡があれば修理をしに行くこともありました。いろんな悩みを解決していましたね」
組合員のもとへ直接足を運ぶからこそ、自然と顔見知りも増えていき、困り事を解決すれば、その場で感謝の言葉をもらえる。地域の人と直接関わりながら働けることに、やりがいを感じていたといいます。その後は金融部門へ異動し、主に融資業務を担当しました。営農部にいた頃から組合員の経営について学んでいた山形さんは、培った知識を生かしながら組合員と事業計画を作成するなど、資金面から経営を支えてきました。

そして現在は、総務部長としてJAで働く職員を支える立場に。農協の法人税申告なども担当しており、これまでとはまた異なる専門知識を身につけながら仕事を続けています。そんな中で、山形さんが特に印象に残っているのが、「青色申告会」の立ち上げに携わったことです。制度の変更により、それまで農協が担っていた税務申告の代行ができなくなったため、組合員が主体となって申告を行うための組織をつくることになったのです。当時は自分で申告を行う組合員も多く、対象となる農家は約60戸。山形さんは、規程の整備など、組織の立ち上げに一から携わりました。
「いろいろな組合員さんの話を聞いて、何が一番良いのかを考えながら意見を調整していくのが大変でした。スケジュールの管理もありましたしね。でも、組合員さんたちと一緒に一から組織をつくり上げたことには達成感がありました」
異業種から転職し、 生産部販売課で牛の市場販売を担当
続いてお話を伺ったのは、入職3年目の佐藤さんです。佐藤さんは中標津町で生まれ育ち、学生時代はサッカーとテニスに打ち込んでいました。整骨院に通っていたことをきっかけに、柔道整復師の仕事に興味を持つようになり、高校卒業後は札幌の専門学校へ進学。3年間学んで柔道整復師の資格を取得し、卒業後は札幌の整骨院に就職しました。整骨院を退職した後は、羅臼町の漁協へ転職し、約5年間勤務します。
こちらが、JA中春別生産部販売課の佐藤俊和さん
その後、別海方面で仕事をしていた奥さんと結婚したことをきっかけに、別海町へ移住。JA中春別で働いていた同級生から職員を募集していることを聞き、転職を決めました。入職後、佐藤さんが最初に配属されたのは生産部販売課です。JA中春別の生産部では、生乳の検査や人工授精、牛の販売など、酪農の現場に関わるさまざまな業務を担っています。
「販売課と聞いて、『何かを売るのかな』くらいのイメージしかありませんでした。今は牛を市場に出す仕事を中心に担当しています」
毎週水曜日に開かれる市場に向けて、朝から運送会社のトラックとともに農家を回り、販売する牛を集めます。集めた牛を中標津の市場へ運び、1頭ずつ競りにかけるまでが佐藤さんの仕事です。
「今は牛の扱いにもだいぶ慣れましたが、最初は無我夢中でした」
そのほかに、「預託(よたく)」と呼ばれる業務も担当しています。預託とは、土地に限りがあって多くの牛を飼育することが難しい酪農家から牛を預かって妊娠させ、出産の約2カ月前に預け元へ戻す仕組みのこと。JA中春別では現在、主に千葉県と茨城県の酪農家からの預託を受け入れています。また、事務作業も佐藤さんの大切な仕事のひとつです。週2回行われる子牛の出荷や、年齢が高くなった牛を「廃用牛(はいようぎゅう)」として出荷に伴う精算、伝票作成なども担当しています。
「外に出る仕事と事務作業の割合は半々ぐらいですね」

牛の市場では、元気で体の大きな牛の方が値段が高くなりやすいと話す佐藤さん。自身も競りを担当しているため、農家から預かった牛が少しでも高く販売できたときにやりがいを感じるといいます。思うように買い手がつかないこともありますが、それより苦労するのは市場へ連れて行くために牛を集める作業だそう。特に、初めて出産を迎える「初任牛(しょにんぎゅう)」を扱う際は、注意が必要だといいます。
「僕は基本的に大きな牛を扱っているんですが、やっぱりそんなに素直に付いてきてくれないんですよ。突かれたり、蹴られたりすることも結構あります。特に初任牛は暴れることもあって、そこは大変ですね」
若手職員も多数。仕事と暮らしを両立しやすい職場環境
現在、JA中春別では正職員51名、準職員24名の計75名が働いています。正職員の男女比はおよそ6対4で、平均年齢は30代半ば。20代の職員も多く、若い世代が活躍している職場です。
くらしごと取材班がおじゃました当日、ちょうど1年に1度のJA中春別主催のお祭りが真っ只中!別海町の子どもたちや町民の方々が集い、大賑わいでした
「新卒で入る職員もいますが、ここ4、5年は若い世代の中途入職も増えています。就職後、1、2年働いて転職してくる20代前半の職員も多いですね」と、山形さん。
JA中春別は別海町と中標津町の境に位置しているため、中標津町、別海町に住む職員が通ってきています。山形さん自身も現在は中標津町に暮らし、車で15分ほどかけて通勤しています。若手職員同士の交流も多く、仕事終わりや休日には一緒に食事をしたり、釣りに出かけたりする人たちもいるそうです。
「僕も同期とは焼肉や居酒屋に行ったりします。釣りに誘ってもらうこともありますね。僕自身はアウトドア派ではないので、あまり行かないんですけど(笑)、同世代で一緒に行っている人たちはいますね」と佐藤さん。
また、JA中春別では職員向けの住宅も用意しています。独身者向けだけでなく、家族で暮らせる部屋もあり、空きがあれば職員は利用可能です。子育て世代も多く、産休・育休を取得しやすい環境が整っているのも特徴。実際に、育児休暇の取得率は高いといいます。

「休みは取りやすい職場だと思います。忙しい時期もありますが、休みたい時には有給休暇を使える環境ですし、『休みづらい』という雰囲気はあまりないですね」
総合職は、未経験からでも幅広い仕事に携われる職種
A中春別では、酪農に関する専門的な知識や資格がなくても働くことができます。総合職として入職するとさまざまな部署に配属されますが、それぞれの業務に必要な知識や技術は、入職後の研修や講習を通して身につけることができます。また、総合職は配属先によって仕事内容もさまざまです。営農や金融、総務、生産など幅広い業務があり、店舗やガソリンスタンドに出向く機会もあります。中には、入職後に専門的な資格を取得し、新たな業務を担当している職員もいるそうです。

「今年度も、入職後に人工授精師の資格を取得し、牛の人工授精に携わっている職員がいます。本来は、もともと資格を持っている人を専門職として採用するのが基本ですが、人員の状況などによっては、やる気があればそういった仕事にチャレンジすることもできますよ」
さらに、地域の酪農家で何かあれば、職員が手伝いに駆けつけることもあります。山形さんは、明るく笑いながらこんなエピソードを話してくれました。
「農家さんから『牛が逃げた!』と連絡があって、職員みんなで探しに行ったこともあります(笑)」

JA中春別の勤務時間は基本的に8時45分から17時15分まで。担当する仕事によって朝が早くなる日もありますが、時間どおりに退勤できることが多いといいます。佐藤さんも、家族との時間をつくりやすいことに魅力を感じているそうです。
「子どもがまだ6か月なので、これから大変なことも増えてくると思いますが、暦どおりに休めて、仕事が終わる時間も決まっているので、家族との予定を合わせやすいですね。やっぱり、家族と一緒に夕飯を食べられるのがいいと思います」
山形さんには、どんな人と一緒に働きたいかを聞いてみました。
「明るく社交的な人はもちろんですが、黙々と仕事をするタイプでもいいと思います。きちんと挨拶ができて、組合員さんとコミュニケーションを取れる人に来てもらえたらうれしいですね」
これからも中春別の酪農を守り続けたい

佐藤さんに、これからのことを伺うと「さらに牛を見る力を身につけていきたい」と話します。牛の競りでは、体格や骨格、お腹の張りなど、さまざまなポイントを見ながら牛の状態を見極めます。注文を受けて牛を選ぶ際にも、こうした知識や経験が欠かせません。
「まだわからないこともあるので、牛を見るポイントをもっと細かく理解して、良い牛を選べるようになりたいです。組合員さんとの交流も深めて、信頼してもらえる職員になりたいと思います」
JA中春別が拠点を置く中春別地区では、組合員である酪農家の戸数が年々減少傾向にあります。地域に根差して歩んできた農協だからこそ、山形さんはこれからも中春別の酪農を守り、次の世代へつないでいきたいと話します。

「組合員さんの戸数をできるだけ減らさず、生産規模を維持しながら、この地域がずっと続いていくことが一番です。そのために、これからも職員みんなで組合員さんをサポートしていきたいですね」
最後に、この地域で長く働いてきたお二人に、別海町やその周辺の魅力について聞いてみました。
「別海は人が温かいなと感じます。行政サービスも行き届いていて、『OTOMONO(オトモノ)』という地域内のデジタル通貨もあったりと、面白い町だと思います。田舎だからといって特別不便ということもなく、生活に必要なものはそろっています。空港がある中標津までも近いですし、暮らしやすいと思いますよ」と山形さん。
周辺には温泉も多く、別海町や中標津町はもちろん、少し足を延ばせば川湯温泉へ出かけることもできます。そして、車を走らせれば、窓の外には牧草地が広がります。「どこまでも似た景色が続くので、道に迷ってしまうこともありますが、それがいいところなのかもしれません」と山形さんは笑います。
一方、結婚を機に別海町へ移り住んだ佐藤さんは、静かに暮らせる環境が自分には合っていると話します。

「都会は、遊びに行くくらいがちょうどいいですね。別海は静かですし、車で20分くらい走れば中標津にも行けるので、特に不自由は感じていません」
そんな佐藤さんのお気に入りは、別海町にあるラーメン店「きらく」。仕事の合間に職場の仲間と訪れることもあるそうです。
「おすすめは豚丼ラーメンセットです。おいしいですし、ボリュームもすごいですよ(笑)。ぜひ行ってみてほしいです」
お二人とも穏やかで、ゆったりとした空気感がとても印象的でした。お話を伺う中からも、職員同士の距離の近さや、地域の酪農家との温かな関係が伝わってきます。仕事と家庭の時間を大切にしながら、自然に囲まれた環境でのびのびと暮らす。そんな働き方が少しうらやましく感じられる取材でした。

















