「ここまで来ると、べつ・せ・かい」
北海道の東部、根室管内の中央部に位置し、東西61.4km、南北44.3kmに広がるマチ、北海道野付郡別海町観光協会のキャッチコピーです。牛が悠々と道路横断する景色や日本一の大きさを誇る砂嘴(さし)・野付(のつけ)半島など、「べつせかい」の名にふさわしい風景があちこちに点在するこのマチで、実は近年、地域おこし協力隊の数が急増しているって知ってましたか?
今回は別海町で現役協力隊として勤務する2名の協力隊員と、マチの未来のために尽力する役場の担当者にお話を伺いました!知れば知るほどもっと知りたくなる別海町の魅力を、一緒にチェックしましょう!
趣味のイラストを活かしマチの「おいしい!」を発信
最初にお話を伺ったのは協力隊1年目の新井優香子さん。埼玉県出身の新井さんは、大学まで故郷の埼玉で暮らしていました。理工学部出身とのことで、ゴリゴリの理系かと思いきや、意外なことに元々は文系で数学は大の苦手。なんでも高校時代の生物基礎の授業がおもしろく、自分の体内で起こっている免疫をはじめとした仕組みに興味が湧き理系の世界に足を踏み入れたそう。文系寄りの新井さんにとって理系大学の講義はそれはもう大変でしたが、無事4年間をやりきり、食品会社に入社します。
「生物も面白かったのですが、昔から英語も好きで、日本ならではの伝統的な食文化を海外に発信できる仕事をしてみたいと思ったんです。最初は海外営業を志望していましたが、他にも英語を活かせる職種があることを知り、品質保証の仕事を3年弱ほど担当しました」
得意の英語を活かし、海外から工場の視察に来たお客様をアテンドするなど楽しい思い出も多いそう。実は就職活動ではこちらの会社の他にも幅広い業種にエントリーしていました。
こちらが、別海町の飲食店の魅力をSNSで発信している、新井優香子さん。
「やりたいことは具体的に絶対コレ!」と絞るのではなく、やりたいことと合致する部分があればいろいろなことに興味を持って取り組める性格なのだそうです。生物への興味から理工学部へ進んだことも、この性格のなせる業です。
さて、新井さんが地域おこし協力隊を知ったのは、前述の食品会社で長野県にいた頃。現地で勤務する地域おこし協力隊員と知り合い、その仕組みを知り興味を持ちましたが、「就職して間もないし、まだまだ社会経験を積みたい」との思いから心の隅にしまいます。その後ホテルやデパートでの対面販売など、幅広い経験を積み半年がたった頃、地域おこし協力隊のことを思い出した新井さん。興味をひく募集先はないか調べ始めます。
ライターの仕事や新店舗の立ち上げなど、様々な任地で様々な募集内容があった中、候補地の一つとして見つけたのが別海町でした。
「広大な自然、美味しい食べ物、そして温かい人々。ここでの暮らしは、毎日が新しい発見の連続です」と、新井さんは言います。
「移住情報サイトを利用して町の方とやり取りをしていたんですが、別海町からのレスポンスが本当に良く、なんだか雰囲気もいいなと思いました。それで本面接の前に軽く面談しましょうと言ってくれて、その時に実はイラストを仕事にしたいと思っていることを相談したら、『それ別海でやりましょう』と言ってくれたんです」
なんでも趣味で「グルメノート」というイラスト付きのお店紹介を作っていたそうで(多才!)、そのノートを別海町の担当者に見せたところ、これを協力隊の仕事として別海町を盛り上げるためにやってほしいという話になったのだとか。現在は実際に別海町のお店を回ってノートを書き溜めながらSNSでも発信しています。イラストは料理だけでなくお店の方の似顔絵も。
「お店の紹介を作るのはもちろん楽しいのですが、それよりもお店の方とお話しするのが楽しくて、近頃はノートを楽しみにしてくれている方も増えてきて嬉しいです」
そんな新井さんが別海町に来て感じているのは「町民の寛容さ」だそう。2024年、別海高校がセンバツ高校野球に出場しました。別海町ではマチを上げての応援団が結成され、総勢約1,600名が現地の試合応援に臨みました。
「マチの一体感がすごかったです。私は以前吹奏楽部でサックスを吹いていたんですが、来たばかりの私も応援団の仲間に入れてくれて、一緒に甲子園に行ったんです。その受け入れ力というか、カベのなさに感動しました」
雄大な牧草畑や牧場、そして大らかな海が育んだ町民性と、新井さんの好奇心に従って飛び込んでみる性格がガッチリはまっているのかもしれませんね。ところで、マチの魅力を収集する新井さんには思うことがあります。それは「別海町の知名度の低さ」です。山の幸も海の幸も豊富なのに、「別海産」を見かけることはあまり多くありません。一部のコアなファンは知っているのでしょうが、もっと広く知ってもらうために、ひそかに計画していることがあるそうです。
SNS発信の傍ら、新井さんがお気に入りのカフェにて写真をパシャリ。
「今は自分が訪れたお店や食べ物を紹介していますが、ゆくゆくは私が出会った食材や特産物を活用して新たな商品を作ってみたいと思っています。別海町は元々食材が豊富ですし、チーズやバターも作っています。一次産業で頑張っている協力隊員もいるので連携できるといいですよね」
すでに試作品を作っているそうですが、本人曰く「まだ人様に出せるものじゃない(笑)」そう。完成したらぜひ食べたい!最後に、移住を考えている人へのアドバイスをもらいました。
「少しでも興味があれば、まず1回行ってみるのが良いと思います。候補がたくさんあるなら現地を見て話を聞いてから比べると、それぞれの良さがもっとわかるのでは。もちろん私も別のマチも見ましたが、マチの方とお話ししたことでデザインやイラストに携わらせてもらえることがわかり、別海町に決めました」
観光業の知見を活かし唯一無二の絶景ツアーを造成
続いてご登場いただく上田昌司さんは旅行会社からの転身。2023年8月に着任し、観光分野への造詣を活かした活動を行なっています。奈良県出身の上田さんは幼少期を野球少年としてスポーツに打ち込み、大学では経営学を学びながら、牛丼チェーンの深夜バイトに汗を流しました。卒業以降は33年間旅行会社で数々の分野を歴任し、出向で北海道観光機構にも4年間にわたり勤務していたそうです。
「旅行会社では主に海外向けの旅行商品を取り扱っていたので、あまり国内に目を向ける機会がありませんでした。北海道観光機構に出向してからは、北海道各地を視察し各地の魅力に取りつかれ、のめりこみました(笑)。離島が好きなので、利尻・礼文や奥尻島へも行きましたね」
写真が趣味という上田さんにとって、北海道の風景はまさに大好物。そんな中で出会ったのが野付半島の絶景。特に上田さんの心をつかんだのが「四角い太陽」だったそうです。「四角い太陽」とは、写真好きの間では有名な特定の条件下で現れる蜃気楼(しんきろう)現象で、朝日が光の屈折によって四角く変形するもの。上田さんは札幌の出向時代に25回通いましたが見れずじまいだったのだとか。激レア現象なのです。
こちらが、道の駅や地域プロモーション・ふるさと納税の拡充・ツアーの企画をおこなっている、上田昌司さん。
旅行・観光のフィールドで長年活躍してきた上田さんですが、いわゆる「第2の人生」について思うところがありました。
「55歳からの生き方を考えていたんです。60歳まで会社にしがみつき会社人として全うするか、70歳までの15年を新しい別の生き方で楽しむか。60歳からではできることの幅が狭まるのではないかと考えて、地域おこし協力隊に応募しました」
長年連れ添ってきた奥様にも70歳までの収入モデルを提出しプレゼンを行ない、快く送り出されたそうです。
上田さんの優しい笑顔と言葉は、いつも周りの人たちを明るくしています。別海町職員曰く、「活動を通じて、たくさんの人たちに元気と笑顔を届ける存在」だそう。
現在のミッションは「ふるさと応援」。道の駅や地域プロモーション、ふるさと納税の拡充など幅広く関わる内容です。中でもメインとなるのは道の駅。別海町の道の駅ではふるさと納税の返礼品に上がっている商品を気軽に購入できるそうです。またレストランでは札幌で人気のスープカレー店とのコラボメニューで別海町限定のスペシャルメニューも提供していたのだとか(9月で終了)。
「別海町の絶景をウリにしたツアーも作っていて、この冬も『別海町絶景フォトツアー』を実施する予定です」
旅行メニューの造成!さすがは旅行のプロ。聞けば総合旅行業務取扱管理者の資格もお持ちとのことで、その気になれば旅行会社を作れちゃいます。しかし冬のツアーとなると集客が難しいのでは?
別海町と東京カメラ部がコラボ企画した、「カメラで魅つける別海町」
「実はツアーについては別海町をよく知るプロカメラマンさんの持ち込み企画で、一緒に企画しているんです。会場は野付湾の海の上。1月下旬~2月の末頃まで、別海町では海が完全に結氷するんです。地元の人にとっては当たり前かもしれませんが、これってすごいことですよね」
さらに上田さんによると別海は晴天率が高く、ツアーの成功率も高いと見込んでいます。
「昨シーズンの2月に夕暮れフォトツアーを実施したのですが、結氷した野付湾(のつけわん)に沈む夕日は本当にすごいんですよ!凍った海の上に立ち入れるのはツアーの参加者だけ(一般立ち入りは禁止)。だからこそお連れした方の満足度は高いです。別海町は高い山がなく、空が広い。住んでみてわかることはやはり多いですね」
昨年は少し寒さが緩むのが早かったそうですが、今年もすでに20名ほどの参加者が集まっているのだとか。別海町の絶景と写真を組み合わせたツアー商品は今後も考えていくそうで、これを任期後の仕事にできないか模索中。ゆくゆくは後進の協力隊の受け皿になれればと将来を見据えています。
あれ?ということは...。そうです、もちろん任期後も定住する気マンマンなのです。そのくらい別海町に惚れ込んでいるんですね。
「やっぱり別海は人がいいです。それになんといっても自然が豊かです。別海町は北海道の東、根室管内のほぼ中央に位置するんですが、道東エリアの観光スポットに3時間以内に行けます。休日は天気予報を見てから、天気の良い方向に遊びに行くことができるので、アウトドアや写真好きにはピッタリですよ。」
休日はカメラを片手に、別海町の豊かな自然を巡ります。四季折々の風景や、そこに息づく動植物たちを写真に収めることが何よりの楽しみだそう。広大な牧草地に降り注ぐ朝日や、湿原に響く野鳥の声など、その一瞬をシャッターに収めるたびに、この地の美しさを再発見しています。
上田さんが別海町をはじめ北海道で撮りためた写真はSNSで発信中。またinstagramで80万人以上のフォロワーを持ち、SNSを活用したマーケティングを行なう「東京カメラ部」とも協働し、別海町で見られる四季の絶景をWeb上でPRしています。
「マチも役場も寛容で柔軟なので、地域おこし協力隊に対してもフレンドリーです。観光分野で見ると、自然や絶景といったハード面は申し分ないですが、PRやガイド育成などソフト面でやれることがまだまだあります。協力隊の募集も活発で、募集内容が細分化されミッション内容が明確なので、入ってからのズレも少ないのでは。今いる別海町の協力隊員は役場と連携しながらイキイキと活躍していますよ」
観光や写真・アウトドア好きのアナタ、検討してみては?
道の駅での接客、調理も担当している上田さん。
目指すは108人の協力隊!その先に見据えるマチの未来
さて、現役で活躍する協力隊のお二人にお話を伺いました。最後は別海町の「中の人」にご登場いただきましょう!別海町役場総合政策課で、地域おこし協力隊の募集やフォローを行なう菊地裕樹さんです。
別海町生まれ別海町育ちの菊地さんは令和3年度に総合政策課に異動し、地域おこし協力隊に関する事務に携わっています。
総務省がまとめた「令和5年度(2023年度)『地域おこし協力隊』の活用状況等について」によれば、道内で協力隊が多いのは東川町の76名を筆頭に厚真町39名、ニセコ町33名と続きます。別海町はというと12名。抜群に多くもなく、少なくもないという印象です。それが2024年現在は37名もの地域おこし協力隊が在籍しています。この数は道内でも屈指。なぜこんなにも急激に伸びたのでしょうか?
こちらが、別海町役場 総務部 総合政策課 人口戦略担当の菊地裕樹さん。
「私が担当し始めたとき、別海町の協力隊は4名でした。一応各部署に聞いて回るんですが、要望そのものが少ない状況でした。転機になったのは令和5年度で、町として移住施策に力を入れ始めたんです。その時、実施している移住施策の中で、最も効果的に人口増加にアプローチできるのが地域おこし協力隊の募集強化だったんです」
それまでは任用形態が雇用型のみだったのを委託型も導入したことにより、一気に応募人数が増えました。応募増加の背景には、応募してくれた協力隊候補者とのコミュニケーションの改善があります。その一つが1次選考でのWeb面談の導入です。
「それまでは面接まで本人と顔を合わせることができなかったんです。画面越しでもお会いすることで、どんな方なのかとか得意な分野はなんなのかとか、わかっていればこちらでぴったりくる分野を用意するなど、できることがあると思うんです。」
地域おこし協力隊の採用活動にWEB面談を導入した結果、採用率が大幅に向上しました。これにより、遠方からでも気軽に応募者とコミュニケーションを取れるようになり、協力隊の魅力や具体的な活動内容を丁寧に伝えることができるようになりました。「画面越しのやりとりでも、熱意が伝わりました」と話す新たな隊員たちも。
また、それまで1次選考から2次選考まで1カ月かかることもざらで、その間に別のマチに行ってしまうことがあったため、その短縮にも尽力しています。
そのかいあって現在37名まで数を伸ばしており、来年度はさらに60名以上の募集を予定。それもそのはず、移住施策の数値目標として「地域おこし協力隊108人」を掲げているのです。
ぼ、煩悩の数...!と思いきや、「水滸伝百八星(すいこでんひゃくはっせい)」をモチーフにしているそう。梁山泊に集結した108人の剛の者のように、全国各地から個性豊かな協力隊が集まってほしいという願いが込められています。
「募集の際にはできるだけありのままの別海町をお伝えしています。お互いの求めるものが合っているかどうか、ちゃんと確かめた上で別海町を選んでもらえればと。来てくれた方がマチを好きになってくれたり、地元民も気づいていなかったマチの魅力をPRしてくれたりした時は、とてもやりがいを感じます。もしかしたら私よりもずっと町民と関わっているんじゃないでしょうか(笑)」
地域おこし協力隊はそれぞれに任務を持ち活動していますが、別海町ではその枠を超えて地域に貢献してくれていると言います。例えば以前、協力隊が主体となって行なった「ドッグレスキューマラソン」というイベントがありました。保護犬愛護活動の普及啓発や犬を介した地域交流を目的に立案されたそうですが、別の協力隊も手伝ってくれて当日は想像以上に賑わいました。また、町民からの求めに応じて町職員が講座を行なう事業の中で「移住者目線で見た別海町」というメニューを設けており、協力隊が講師を務めることも。
小中学校だけでなく、町の民生委員の集まり、さらには登校が苦手な児童が集まる「ふれあいルーム」で子供と関わってくれる協力隊もいるそうです。
協力隊の徳田正量さんが代表を務める「別海町ドッグマラソンクラブ」によるイベント。「道東(別海)に生きる 犬達の未来」「人との共生、保護犬達をスポーツの世界へ」を胸に別海町ドッグレスキューマラソンを開催するに至りました。
協力隊とともに目指す未来について、菊地さんはこう語ります。
「進学・就職などで別海町を離れる若い方が多いのは事実です。でも地域おこし協力隊の皆さんと一緒に、今までマチに無かった産業を生み出したり、当たり前すぎて気づかなかったマチの魅力をPRし、それを目当てに移住者が増えるなどマチが活性化すれば、別海町に住み続けてこのマチで働きたいと思う人が増えるはず」
すでにある別海町の基幹産業に加えて、新しい働き方ができる仕事の幅を増やすことで、Uターン・Iターンが増える。その先にマチの活性化があると菊地さんは話してくれました。
「別海町は可能性の宝庫です。地域の皆さんと一緒に、この町の未来をもっと輝かせていきたい」と語る新井さん。「一つ一つのプロジェクトを通して、町の魅力を再発見し、それを形にしていくことにやりがいを感じています」と上田さんも意気込みを見せます。二人が見据えるのは、地域資源を最大限に活用し、誰もが誇れる町づくり。笑顔の背後にある強い信念と熱意が、別海町の新たな未来を切り開いていくでしょう。
「役場は異動が多いのですが、私自身、協力隊に興味を持ってくれた方々や、実際に着任された協力隊のみなさんとお話するのが楽しくて、もうちょっと担当を続けたいというのが本心ですね。お話しした方が協力隊として別海町を選んでくれることが、私自身のやりがいになっているんだなと思います」
別海町の地域おこし協力隊として、マチが求める人物像を聞いてみると。第一にコミュニケーションが取れること。そして前向きに地域のことを考えてくれる人。面談を行ったうえで、得意分野や特技があれば地域の要望に沿う形でフリーミッションや活動提案型での着任にも前向きです。
「協力隊に入ってもらえた方にはまず地域を知ることをお願いしています。実際に町を見た上で、地域のためになるのであれば当初に決めたミッション内容からずれる分には構わないと思っています。ありがたいことに町民から地域おこし協力隊に対してネガティブな意見を聞いたことがありません。ぜひ色々な方に別海町に来ていただき、私たちに刺激を与えてもらえればと思っています」
別海町では地域おこし協力隊を紹介するnoteを公開しています。この記事に興味をもったあなたも、地域おこし協力隊108人の1人になってみませんか?
- 別海町役場 総務部 総合政策課 人口戦略担当
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北海道野付郡別海町別海常盤町280番地
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0153-74-9504
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