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まちおこしレポート
札幌市

林業の担い手をサポート!北海道森林整備担い手支援センター20241118

林業の担い手をサポート!北海道森林整備担い手支援センター

「緑の雇用」という言葉を聞いたことはありますか? 林野庁が平成15年(2003年)からスタートさせた事業で、林業の新規就業者を増やし、彼らが働きがいをもって定着できる就労環境整備や研修を通じてキャリアアップの支援を行うという内容です。北海道で「緑の雇用」事業の窓口となっているのが、「一般社団法人北海道造林協会 北海道森林整備担い手支援センター」です。同センターでは、「緑の雇用」に関することをはじめ、北海道の林業について知ってもらうための仕事ガイダンスの開催、担い手の労働条件改善のための事業者向け研修会の実施なども行っています。今回は、同センターのセンター長を務める及川弘二さんにセンターの活動内容と林業の担い手の現状についてお話を伺いました。

shiencenter_7.jpg札幌市の中心部にある林業会館に同センターがあります

道産木材に囲まれた心地よい林業会館の中にある担い手支援センター

道庁の北向かいに立つ林業会館。ソラリア西鉄ホテルとの複合施設として、2020年に完成しました。随所に道産木材が贅沢に用いられた同会館には、道内の林業関連の団体が多数入居。今回伺った「一般社団法人北海道造林協会 北海道森林整備担い手支援センター」は同会館の4階に入っています。

取材の対応をしてくださる及川センター長は、宮城県仙台市出身。北海道大学農学部で林学を学び、卒業後は林業職として道庁へ。主に林産関連や企画の仕事に携わり、開発局や振興局の森林室、林産試験場などを経て、2019年から同センターに勤務しています。

shiencenter_14.jpgこちらがお話を伺った及川弘二さんです

センターの職員の多くは、及川センター長のように長年林業に関わってきた人たち。林業の仕事に興味がある方たちの就業相談やガイダンスの実施、林業事業体への巡回指導などのほか、林業の担い手たちのための研修講師も務めています。植栽、土木など、それぞれの経験をもとに得意な分野を生かし、講師として指導にあたります。及川センター長は、スマート林業の現状や、生産性向上のための林業におけるECRSの解説、人間工学から見た安全動作などを研修で伝えているそうです。

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センターの業務の柱でもある「緑の雇用」事業の北海道の窓口

「センターでは、林野庁からの委託を受けて北海道における『緑の雇用』の窓口を務めているほか、林業に関わる道庁の事業、厚労省の事業も請け負っています」と及川センター長。そのうち、大きな柱となっているのが「緑の雇用」。まず、この「緑の雇用」制度について詳しくお話を伺いたいと思います。

「世の中どこも人手不足と言われていますが、林業の人手不足は顕著であり、高齢化も非常に進んでいました。もともと農業と林業を兼業でやっている人たちが多かったこともあり、1990年の国勢調査では50歳以上の人が林業従事者全体の68%という結果が出ました。全産業で見たときの数字が31%であることと比べれば、林業の高齢化がいかに深刻かは分かっていただけるかと思います。若い人たちに山の仕事について知ってもらい、人を育てていかなければ林業が衰退してしまうというこのような危機的背景があり、新たな人材育成に取り組む林業事業体を支援する事業として『緑の雇用』が生まれました」

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未経験者であっても、審査により認められた森林組合などの林業事業体(認定事業主)に採用された人に対し、必要な技能や技術が習得できる講習や研修を行い、キャリアアップを支援するという制度です。つまり、「緑の雇用」事業の対象は林業事業体であり、研修の対象は森林組合や林業会社などの事業体に雇用された方々となります。

その年の予算によって若干違いはありますが、今年は全国で2,000人近くが「緑の雇用」を活用しているそう。そのうち北海道は7月の時点で80人ほどが対象となっています。例年、北海道は100人前後が「緑の雇用」の対象となっているそうです。

shiencenter_17.jpg実際のフォレストワーカー研修の様子です

全道には大小約700の事業体があり、そのうち「緑の雇用」事業を活用できる認定事業主は約160ほど。認定事業主になるには、事業体に5人以上の作業員が必要で、さらに「緑の雇用」事業の研修には指導員となる現場管理責任者(フォレストリーダー)、または統括現場管理責任者(フォレストマネージャー)がいなければならないという規定があります。

「諸々の研修をスムーズに進めるため、すでに認定事業主となっている事業体にはフォレストリーダーやフォレストマネージャーを複数名置いていらっしゃるところもあります。センターとしては、さまざまなサポートもしやすいのでこれからも認定事業主の数を増やしたいと考えています。個人や小規模で運営されている事業体の方は難しいかと思いますが、ある程度の人数がいる事業体の方たちには検討していただければと考えています。申請や登録など面倒と思われがちですが、そのあたりに関してはセンターや道、振興局の林務課にぜひ一度相談してみてほしいと思います」

shiencenter_11.jpgここで北海道の林業の担い手に関わるさまざまなサポートを行っています

林業に携わりたいという希望者の相談や就業前支援の講習も実施

「緑の雇用」の制度を活用して研修などを受けられるのは雇用されてからということですが、林業に興味があり、林業に携わってみたいという未経験者は、まずどうすればいいのでしょう? センターのほうではどのようなサポートをしてもらえるのでしょうか?

「センターで開催している森林(もり)の仕事ガイダンスに参加する、あるいはメールや電話で直接相談していただくのが最初の一歩になりますね。そこから就業に関する支援講習を受けていただくなど、就業前の知識や技術を身に着けるためのサポートもセンターで行っています」

今年札幌で行った「森林(もり)の仕事ガイダンス」は10月に開催。同センターの相談ブースをはじめ、フォレストワーカーとの交流コーナーや、全道各地から集まった24の事業者のブースが並びました。トークショーも行われ、「緑の雇用」の研修生たちが仕事のこと、地方での暮らしのことなどをざっくばらんに語ったそう。また、9月には全国のセンターが集まった東京の「森林(もり)の仕事ガイダンス」に出展し、北海道の雇用情報や移住に関することなどの相談に応じました。これらのガイダンスは毎年開催しているそうです。

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「電話やメールでの相談も年間100件以上ありますね」と及川センター長。「北海道の自然に憧れて林業に興味を持ったという本州からのIターンの方が多いかもしれません。テレビドラマの『北の国から』に影響を受けて...という方もいらっしゃいます。あとは、50代で退職された自衛官の方も重機免許など資格を生かして再就職をしたいと相談の連絡がきますね」と続けます。

また、せっかく就業したものの「思っていたのと違う」と離職してしまうミスマッチを防ぐため、ガイダンスに参加した就職希望者を対象に林業の現場見学会も実施。伐採、造材、植付、木材加工の現場を見学してもらい、本当に林業に携わりたいかを判断するきっかけにしてもらっているそう。「山の中での仕事なので、泥まみれになることもありますし、もちろん虫もいます。機械化が進んでいるとはいえ、外仕事なのである程度の体力も必要。そういう意味での適性をご自身で考えてもらう機会になればと考えています」と及川センター長。

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円滑な就業を支援するために行っているという「林業担い手研修(森林施業基礎研修)」「林業就業支援講習」。どちらも受講料は無料なのだそう(交通費や食費は実費。宿泊費は一部助成)。「林業担い手研修」では、森林作業の基礎的な知識や技能を4日間で習得するという内容。もう一歩踏み込んだ「林業就業支援講習」は、20日間コースと5日間コースがあり、基礎知識のほか、安全衛生講習、実地講習、現場見学などが行われます。20日間コースに参加すると、刈払機、チェーンソー、小型車両系の建設機械の安全操作などの講習、資格取得もできるそう。

「支援講習は各地で実施しているので、Iターン希望の方の中には住んでいる地域で20日間コースを受講してから、北海道へ移住してくるという方もいらっしゃいます」

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また、新規就業者に対して準備資金の無利子の貸付事業なども行っています。センターではこのほか、現場で活躍している作業員たちの労働環境や就業条件の改善のサポート、作業員の技術向上の支援も行っています。

「雇用管理に関する研修会も開催しているほか、センターの職員らが道内各地の林業事業体に足を運び、雇用管理の改善指導を行ったり、雇用に関する相談を受けたりもしています。また、『緑の雇用』の認定事業主のところを職員が訪れ、研修生と面談を行ったり、指導員が実際に指導している様子をチェックしたりすることもあります」

shiencenter_15.jpg林業会館の3階に設置されている、道産材を使い、北海道179市町村を象ったオブジェ

今年創設された国家資格「林業技能士」。林業を取り巻く環境に変化の兆しも

北海道の林業に携わる新規就業者を見ると、道外から移住してきたIターンも一定数いますが、一番多いのは道内の学校を卒業した新卒者なのだそう。「道内にある農業高校の先生たちが林業をプッシュしてくれているようで、『緑の雇用』を活用している認定事業主による地元採用率は6割以上です」と及川センター長。

「若い人たちの新規就業が増えている中、これからは専門的なことをきちんと教えられる若手の指導者も育てていかなければならないと思います。一次産業にありがちな属人化をさせないことがこれからは大事なのではないかと考えています。誰にでもできるよう技術をしっかりと伝えていける仕組み作り、たとえば教える内容をデータ化するなど、きちんと伝えられるようにしておくことが、今後の人材確保にも繋がっていくのではないかと思っています」

shiencenter_1.jpg定期的にこうした情報誌も発行しています

今年、国家資格である技能認定制度に林業職種が新設されました。130近くある技能検定の中にこれまで林業関連はひとつもなかったそうですが、及川センター長は「今回、林業技能士の資格制度ができたことも含め、林業を取り巻くいろいろなことが変わり始めている時期なのかなと感じています」と話します。

厚労省が発表した林業職種の技能検定試験新設の理由によると、検定を新設することで林業従事者の技能向上、就業環境の整備、社会的・経済的地位の向上、安全性の向上と労働災害の減少にも寄与できると書かれています。検定試験は学科と実技。来年度からは北海道でも林業技能士の検定試験を行えるそう。これによって、センターが取り組んでいることにも拍車がかかり、及川センター長が話すように林業の担い手を取り巻く環境も変化していきそうです。

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一般社団法人北海道造林協会 北海道森林整備担い手支援センター
住所

北海道札幌市中央区北4条西5丁目1番地 西鉄・林業会館ビル

電話

011-200-1381

URL

https://www.shiencenter.or.jp/

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林業の担い手をサポート!北海道森林整備担い手支援センター

この記事は2024年9月11日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。