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石狩市

子どもたちが健やかに成長できる地域社会を。石狩市のNPO法人20240916

子どもたちが健やかに成長できる地域社会を。石狩市のNPO法人

札幌中心部から石狩市役所まではマイカーで40分ほど。札幌まで走る路線バスの本数も多く、昔から札幌のベッドタウンとして発展してきた石狩市。近年は、子育て支援の手厚さに惹かれ、勤務先は札幌でも住まいは石狩という新たなファミリー層も増えています。転職はしたくない、でものびのび子育てしたいという人たちにとっては立地的にも環境的にも「ちょうどいい」場所のようです。そんな石狩市の子育てを長年支えてきたのが「特定非営利活動法人こども・コムステーション・いしかり」。今回は、同法人の歩みや活動内容について伺った内容のほか、実際に仕事に携わっている方の声も紹介します。

大型児童センター「こども未来館あいぽーと」を運営するNPO法人

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石狩市役所のすぐそば、図書館の横に立つ平屋の大きな建物が、今回おじゃました大型児童センター「こども未来館あいぽーと」です。0~18歳の子どもたちを対象にした施設で、子ども目線で造られたという建物の中に入ると、まるで宇宙船の中のような造りになっていてワクワクします。

体を動かして遊ぶことができるプレイスペース、ボードゲームや読書を楽しめるラウンジのほか、子どもたちが料理できるキッチン(申込制)、音楽やダンスを楽しめる登録制のスタジオもあります。さらに、就学前の子どもたちがパパやママと利用できる「地域子育て支援拠点 りとるきっず」も館内に設けられています。建物の裏には農作業体験ができる畑もあり、いわゆる一般的な児童館よりもかなり充実している施設だというのが分かります。いろいろなイベントも行われていて、ほとんどが無料で参加できるというのもポイント。全国の自治体関係者も多く視察に訪れるそうです。取材陣がおじゃましたときは、夏休み中の小学生たちがたくさん訪れ、楽しそうに遊んでいました。

さて、ここの指定管理者として石狩市から運営を委託されているのが、「特定非営利活動法人こども・コムステーション・いしかり」です。こども未来館あいぽーとのほか、花川南児童館、花川北児童館の指定管理にも携わっています。さらに8つある放課後児童クラブの運営も石狩市から委託事業として請けています。こうした場所の運営を行う中で、子どもたちがさまざまな体験をできる活動機会の提供、のびのび過ごせる居場所づくりなどに取り組んでいます。

前身は「おやこ劇場」。地域の「子育て力」をあげるのを目標に法人化

現在、「こども・コムステーション・いしかり」の理事長を務めているのが、伊藤美由紀さんです。2代目理事長という伊藤さんに、まずは「こども・コムステーション・いしかり」の歴史について伺いました。

06_kmk.jpg特定非営利活動法人こども・コムステーション・いしかり、理事長の伊藤美由紀さん

「もともとは、親子で舞台や芸術を鑑賞する『石狩おやこ劇場』の活動が前身でした。親たちが中心になって芸術鑑賞のほか、いろいろな体験活動などを行ってきましたが、社会の変化に伴って共働きのご家庭が増えたこともあり、活動自体も変わっていきました。子どもを取り巻く環境も変わり、それまでと異なった課題も増えてくる中、より良い子ども時代を過ごせるよう、地域の『子育て力』をあげていく必要があると考え、NPO法人化しました」

石狩おやこ劇場は1981年に設立され、21年間活動を続けてきた団体。2002年に「こども・コムステーション・いしかり」として法人化したあとも、地域の子どもたちに対して芸術文化体験、生活文化体験の機会を提供するほか、子育て支援も積極的に行い、行政とともに子どもが自ら育つ地域社会づくりを進めてきました。

「具体的には、プロの方たちの演劇やコンサートの鑑賞会、市街地から離れた自然の中でのキャンプといった野外体験、「ひとりだちクッキング」「こども料理教室」など大人を頼らないで自分の力で料理がつくれるスキルを持たせる食育講座を開いています。ほかにも、プログラミング講座の実施、あとは大学生のボランティアによる学習支援なども行っています」

赤ちゃんと触れるきっかけを。ユニークな10代のベビーシッター養成講座

中でもユニークな取り組みの一つが、「10代のベビーシッター養成講座」です。これは、小学5年生から高校生までの子が受講できる講座で、赤ちゃんのことを知り、赤ちゃんと触れ合う機会を設けるというもの。

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「核家族化、少子化が進み、昔のように身近に赤ちゃんがいない、そして気軽に赤ちゃんと接する機会も減っています。それこそ自分たちが若いころは、近所の赤ちゃんを『ちょっと預かる』『面倒をみる』というやり取りが気軽に行われていましたが、今は防犯の観点からもそういう気軽さはなくなりました。でも、若いころに赤ちゃんと接しておく経験はとても大事だと思い、この講座を行っています」

講座は2日間行われ、赤ちゃんがお母さんのお腹で成長して誕生するまでのことや、自分自身と向き合うことで生きること、命について学ぶ時間も設けています。さらに、赤ちゃんの発達に合わせたおもちゃの遊び方や実際に赤ちゃんを預かる実習も行うそう。

「講座を受け、自分もこうやって育ててもらったんだと親に感謝したいと話す子もいますし、自分より小さな存在を身近に感じることで人のお世話をする、支えるという感情も芽生えるようです。講座に立ち合っているこちらも感動するシーンを毎回見させてもらっています」

2日間の講座を終えると、参加した子どもたちは「地域子育て支援拠点 りとるきっず」の子育て支援ボランティアとして1年間登録され、実際にスタッフとして赤ちゃんや小さい子のお世話ができます。しかも1回のボランティアで500円の図書カードがもらえるそうです。

「講座を受けてただ終わりではなく、学んだことを生かして、地域社会に自分たちも参加をしているという意識を持ってもらいたいと考えています。また、大人のスタッフや赤ちゃんのママなど、異なる世代とのやり取りもとても大事な経験になると思っています」

子どもは、地域に暮らすたくさんの人の手で育てたほうがいい

伊藤さんは、夫の転勤で25年ほど前に札幌市から石狩市へ。当時は中学生、小学生、幼稚園の3人の子育て真っ最中でした。

「専業主婦だったこともあって、PTAにも参加していました。あの頃はPTAの活動も活発で、先生と親も距離が近くて、みんなで子育てをしているという感じがありましたね。振り返ってみれば、楽しみながら子育てができたなと思います。近所にも子育て中の人が多くて、地域全体で子育てしている感覚がありました」

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保健室の先生になりたかったという伊藤さん。札幌に暮らしていたころも、子どもたちの友達や近所の子がいつも家に遊びに来ていたそうで、宿題を見てあげたり、ご飯を食べさせたり、話を聞いてあげたりすることはしょっちゅうだったと振り返ります。また、地域に住む異年齢の子どもたちによるコミュニティ・子ども会の活動にも参加していたそう。

「家族以外の大人にも関わってもらう、目をかけてもらうのは、子どもの成長に必要なことだと思うんです。あと、学校、家以外の居場所があることで、子どもも親も救われることがたくさんあるんじゃないかなと。子育てって1人ではできないし、できるだけたくさんの手で育てたほうがいいと私は思っています」

伊藤さんは、一番下の子が小学校に入ると、市役所の嘱託職員として働く傍ら、「こども・コムステーション・いしかり」が運営していた乳幼児の親子が集まる子育てサロンのボランティアに参加するようになります。今の「りとるきっず」の前身にあたる集まりだったそう。

その後もボランティアの活動を続け、「こども・コムステーション・いしかり」が「こども未来館あいぽーと」の指定管理者になるタイミングで、正式に職員として働き始め、2016年に理事長に就任します。

ボランティアスタッフの時代から活動に携わってきた伊藤さん。たくさんの子どもたちに関わり、その成長を見守ってきました。「今、学習支援のサポートをしてくれている大学生の中には、かつて関わった子やここで遊んだ子たちもいます。彼らが戻ってきてくれるのもうれしい」と話します。地域の人たちと関わり、地域で育った子どもたちの中には、地域に対する愛着や感謝の気持ちも芽生えるようです。

伊藤さんはスタッフに対して、「私たちが運営しているのは、子どもたちにとって家でも学校でもないもう一つのコミュニティ。だから、所属に関係なく子どもたち一人ひとりをしっかりと見てあげよう」と常に話しているそうです。コミュニティ内で、子どもたちが経験するのは楽しいことばかりではありません。利用している子どもたち同士でケンカが起きることもあります。しかし、それも含めて、成長に必要な経験だと伊藤さん。

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「確かにそのときは辛かったり、悲しかったりすると思いますが、そういう思いをさせまいと大人が先回りしたり、大人が解決してしまうのは少し違うと思っています。みんなで見守りながら、解決していく力を育むことは結果として地域で生きていく力を育むことにもつながると思います」

温かな繋がりに惹かれ、利用者がボランティアや職員になることも

利用者がのちにボランティアとして関わることもよくあるという「こども・コムステーション・いしかり」。この春から「りとるきっず」の職員として採用になった長澤奈穂美さんも、元利用者であり、ボランティアスタッフでした。

「今年5歳になる息子を生んだのがコロナ禍だったんですが、ちょうど市からもらった子育てに関する冊子にここのことが出ていたんです。なかなか外出もできない、話す相手もいない中での子育てでしたが、冊子に出ていた子育てサロンなどにできるだけ参加していました。ここには息子が1歳を過ぎたくらいから、通っていました。スタッフの皆さんも話しやすい方ばかりでいいところだなと思っていました」

14_kmk.jpgこの春から勤務している長澤奈穂美さん

その後、長澤さんは月に1、2回でしたが、スタッフが足りない時に入る有償ボランティアとして関わるように。息子さんが幼稚園に入園したのを機に、何か仕事を始めようと思っていたところ、「ここで働きませんか」と声をかけてもらったのだそう。

「もともとCADオペレーターで、保育士の資格があるわけでもなかったし、自分にできるか心配でしたが、周りの先輩たちがとても親切なので、皆さんに支えられながらなんとか頑張っています」

明るくて気さくな長澤さんは利用者のママたちからも人気。自身が子育て中ということもあり、子どもに関する相談事などを気軽にできるのがいいようです。

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「そうは言っても、まだまだ勉強の日々で、もっと知識や経験を増やしていきたいと考えています。私自身が、ここを利用させてもらって助かったこともいっぱいあったし、次は自分が支えられたらと思っています」

最近は、ママだけでなく、パパと一緒に訪れる赤ちゃんたちも増えているそう。「育児休暇を取得しているパパが増えているので、パパたちがもっと気軽に利用できる場所にしようとみんなでいろいろ工夫しています」と長澤さん。

長澤さんのように、子育て支援を受けたママが次の利用者のために何かしたいと行動を起こす温かな循環や繋がり、親しみやすさが、りとるきっずやあいぽーとの魅力になっているのかもしれません。

地域のみんなで子育てできる場所があることをたくさんの人に知ってもらいたい

長年、子育て支援に携わってきた伊藤さんは、「私が現役で子育てをしていた時代とは大きく違って、近所の人の家に遊びに行くということもないし、外で遊ぶにしてもいろいろ制限があります。場所がないために、あらゆる経験の機会も失っています。そういう意味でも、あいぽーとのような異年齢の子どもが集まり、大人たちとも関わる場所が必要だと考えています」と話します。

また、共働き家族が増え、核家族化が進む中、乳幼児の保護者たちの支援も重要だと考えています。孤独なワンオペ育児にならないよう、「りとるきっず」をもっと活用してほしいとも話します。

石狩市には「こども未来館あいぽーと」のほか、同様の大型児童センター「ふれあいの杜 子ども館ふれっコ」もあります。こちらは2022年の10月に開設しました。

■こども未来館あいぽーとのHPはこちら
■ふれあいの杜 子ども館ふれっコのHPはこちら

「親が働いていても、こういう施設がある石狩市は安心して子育てができる市だと思います。時代の流れに合わせてその形は変わっていくと思いますが、根っこにある大事なものは変わらないはず。子どもたちが地域で健やかに成長していくために、これからも大人たちができることをよく考えて支援していきたいですね。そして、まだここを利用していない親御さんにはみんなで子育てできる場所ですよと伝えたいです」と最後に話してくれました。

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特定非営利活動法人こども・コムステーション・いしかり こども未来館あいぽーと
特定非営利活動法人こども・コムステーション・いしかり こども未来館あいぽーと
住所

北海道石狩市花川北7条1丁目22番地

電話

0133-76-6688

URL

https://comstation.sakura.ne.jp/

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子どもたちが健やかに成長できる地域社会を。石狩市のNPO法人

この記事は2024年8月7日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。