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まちおこしレポート
大樹町

増え続ける農作物の被害。使命感で駆除を行うハンターたち20240808

増え続ける農作物の被害。使命感で駆除を行うハンターたち

明治時代の開拓期に、肉や毛皮を取るために乱獲され、絶滅に瀕したこともあるエゾシカ。近年は生息数が急増し、北海道の農業や林業に大きな被害を与えています。ほかにも、ヒグマやキツネ、アライグマなどの野生動物による農作物の被害は拡大の一途をたどり、交通事故や感染症などで人間にも危険が及ぶケースも増えています。

それらの被害を食い止めるひとつの手段として、猟銃やわなによる駆除が行われています。しかし、報道でも見るように、ハンターの減少と高齢化が進んでおり、駆除が追いつかないのが現状。ハンターは、別の本業を持っている人がほとんどで、いつでも出動できるわけではありません。また、ハンターの収入だけでは生活することはできません。道内のいくつかのまちでは、課題解決型の地域おこし協力隊として、有害鳥獣駆除に関する支援スタッフの採用を行っています。

くらしごとは、今年初めて有害鳥獣駆除をミッションとする地域おこし協力隊を募集(※)した大樹町で、現役ハンターさんと農林水産課の担当の方にインタビュー。町内の被害の現状と、野生動物の個体数を管理する取り組みについてお聞きしました。厳しい現状のなか、人間と野生動物との共生に向けて奮闘する人たちのレポートです。
※上記の地域おこし協力隊の募集は終了しました。

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農家さんの被害額が2倍に。欠かせない駆除活動

十勝地方の南部にある大樹町は、畑作と酪農を中心としたまちです。牛のエサとなるデントコーンや牧草、ジャガイモやマメ類、ビートなども生産されていますが、野生動物による被害は年々増え続けてきています。農林水産課農政係長の奥村達也さんによれば、農家1件あたりの被害額は2019年度で約112万円、今年の調査では約269万円と2倍以上に急増しました。昔はカラスによる被害が多かったそうですが、現在はエゾシカによるものが最多です。

taikichoyakuba11.jpg大樹町役場農林水産課の奥村達也さん

大樹町役場では、予防対策として牧場や畑の電気柵設置に助成制度を設けているほか、農家さんからの通報などを元に、わなや猟銃による駆除を猟友会に依頼しています。捕獲するのはヒグマ、エゾシカ、キツネ、カラス、ハト、アライグマなどの有害鳥獣。北海道猟友会の大樹支部事務局が置かれている、農林水産課林政係の係長、須田 翔さんに、駆除の現状について説明していただきました。

taikichoyakuba03.jpg大樹町役場農林水産課の須田翔さん

「現在、猟友会に所属する猟師さんたちは約30名で、その数はほとんど横ばい状態です。猟師以外にメインのお仕事をお持ちの方が多いので、依頼したときに稼働できるかどうかも限られています。毎年、ある程度の数を駆除しているのですが、それ以上にどんどん増えているから駆除が追いつかない。そのために、農作物の被害は右肩上がりになってしまっているのが現状です」

この春、大樹町では初めて「有害鳥獣対策支援員」を行う地域おこし協力隊を募集し1名を採用しました。業務内容は有害鳥獣の被害を防止する活動や、猟友会事務局の担当、ホームページやSNSによる情報配信など。一般の人たちに有害駆除と猟師さんへの理解を深めてもらう活動を行う予定です。

駆除期間は春から秋まで、銃猟は日中に行われる

有害鳥獣の駆除活動について、詳しく教えてもらいました。まず、駆除が行える期間は毎年4月から10月の間に限られています。この期間に、役場から依頼を受けた上で駆除を行います。謝金がもらえますが、駆除期間以外には払われません。

この駆除期間を除いた晩秋~早春は『猟期』として自由にハンティングを行うことができます。道外から趣味の猟で大樹町を訪れる人たちもいるそうです。数が増えすぎているのであれば、1年を通して駆除期間にしたほうが良いようにも思われますが...? この疑問に、猟友会大樹支部長の加藤康浩さんが答えてくれました。

taikichoyakuba04.jpg北海道猟友会大樹支部長の加藤康浩さん

「個体数調整のためです。有害鳥獣だからといって、取り過ぎて極端に減ってしまえば絶滅するおそれがあるし、保護もしなくちゃいけない。昔のエゾシカのようにね。一方で、増えすぎてしまえば農業に被害が出るし、生態系も崩れてしまう。だから、猟期のシーズンでも種類によって何頭、何羽までといった捕獲制限がありますし、取った後は必ず報告を行うんです」

銃を使った狩猟は、日の出から日の入りまでと時間帯が定められています。「狩猟の方法には、銃のほかに『わな』も使いますが、昔からエゾシカは『脚の裏に目がある』といわれているぐらい、わなにかかりにくいんですよ」と加藤さん。実際に、道内で捕獲されたエゾシカの多くは銃猟によるものです。

牛舎にすみついたアライグマは仔牛を襲うことも

狩猟の方法のひとつである、わなの種類について教えてもらいました。使われるのは、主に『くくりわな』と『箱わな』の2種類。くくりわなは、エゾシカが通りそうな道にワイヤーをセットしておき、脚が入ればワイヤーが狭まって外れないようになる仕組みです。箱わなは、箱型のおりの内側にエサを置いて、中に入ると扉が閉まる仕組みになっています。山あいの場所が多く、箱わなを置きづらい大樹町では、くくりわなが主流なのだとか。

エゾシカだけでなく、アライグマやキツネなどの小動物や鳥による被害もあります。「外来種のアライグマは、牛の飼料を食べて、牛舎にすみつくことがあるんですよね。畑の作物より栄養価が高いですから」と奥村さんは語ります。猟師の加藤さんによれば、こんなケースもあるそうです。「アライグマやキツネは家畜の子どもを狙うんですよ。母牛がお産のときにやられる。産まれた仔牛が食べられちゃったりするんです」

アニメ番組をきっかけに輸入されて飼う人が増え、それが逃げ出して野生化し繁殖しているアライグマ。畑作や酪農を営む人たちにとっては、その被害が深刻になっています。

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エゾシカ猟は苦しまないように頭と心臓を狙う 

次に、銃による狩猟について教えてもらいました。

狩猟をするためには、狩猟免許と猟銃の所持許可が必要で、猟友会では免許取得のための初心者向け講習会を行っています。ちなみに、ハンター歴16年の加藤さんはライフル銃、同じく10年の半田道奈さんはショットガン(散弾銃)を使っています。半田さんは最近、より距離の長い標的を撃てるライフル銃を知り合いから譲り受けたのだとか。個人間の取引であっても、警察に提出する多くの書類が必要です。

実際の狩りの様子について、半田さんが話します。

taikichoyakuba06.jpg北海道猟友会大樹支部の半田道奈さん

「撃つ距離は、私の場合は最長で250M。170Mまではエゾシカの頭を撃ち、250Mまでは心臓を撃つと決めています。ショットガンだと弾はまっすぐではなく、山なりに弧を描いてとぶので、その分を計算して撃たなければいけない。ライフルだとその上がり下がりも少ないと思うし、加藤支部長が持っているライフルは350Mや400Mは狙えるんじゃないかな。当たった場所が少しずれているとか、当たらなかったりすると、私は猟友会の射撃場で、銃の調整を行います」

ちなみに、半田さんは狩猟の際に2匹の犬を連れているそうです。「私が撃った後に犬を出して、どこに倒れているかを探してもらいます。当たりどころが悪くて走って逃げた場合や谷底に落ちたときなどに、周りは草むらで血痕が見えず追跡ができないんですよね。探し出すのに人間なら30分かかるところを、犬たちは5分以内で見つけてくれる。まだ生きていた場合は、わなで捕らえたときと同じように『とめさし』を行います」

危険と隣り合わせ、あらゆるリスクを考えて動く

狩りには危険が伴います。半田さんがご自身の体験を話してくれました。

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「まだ経験が浅いころですが、大きい雄のエゾシカを撃って倒れたと思ったら、まだ生きていてこちらに向かってきたことがあります。別のときには、やはり撃ったシカを回収に行ったら近くにヒグマがいて、こちらに向かってうなっていたこともありました。あれは怖かったですね...。もっとも、こちらにも落ち度があります。回収に行くときに、もうシカは倒れていると思って銃をすぐ撃てる状態にしていなかったんですよ。このような経験を得ながらリスクコントロールを行っていく、猟師として成長していけるのが私は楽しいとも思っています」

猟師はみんな怖い目にあったことがある、と加藤さんは言います。例えば、雄のエゾシカの立派な角は、人間に対しても『武器』になります。それでも、取材した5月は「角が生え変わりの後だから時期的に安全」と言いながら、加藤さんはエゾシカのミニ知識を教えてくれました。

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「エゾシカの角って白いと思われがちだけど、成長している間は黒いんですよ。外側に血管があって、そこから伸びていく。牛の角は内側から伸びるけれど、エゾシカは逆なんですよね。角の成長が止まって繁殖時期ぐらいになると、木なんかにこすりつけて黒いのを落として白くなるんです」 

エゾシカの生態をよく知る加藤さんの話しぶりには、シカに対する親しみのようなものが感じられました。

まちの農業と安全を守る使命感で駆除を行う

それにしても、加藤さんと半田さんは、どのようにして猟をするようになったのでしょうか。加藤さんは、町内で自転車や除雪機、草刈り機などを扱う販売店を営んでいます。狩猟は、趣味として始めたのだとか。
半田さんの本業は、農家さんから頼まれた家畜を売る仲介業者さん。牛の人工授精や搾乳なども行っています。猟をするようになったのは「畑に出没する野生動物を食べてみたい」、つまりジビエに対する興味からでした。猟で捕獲したものがお肉だけでなく、皮革を使ったアートになるなど、狩猟を通じて世界が広がっていくのが楽しいと語ります。

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おふたりに、駆除活動に対しての思いを語ってもらいました。

「依頼されたら行かざるを得ないと思っています」と答える加藤さん、隣で半田さんも強くうなずきます。農作物や家畜がやられてしまえば、それは収入の減少に直結します。また、ヒグマなどによる人的被害も見過ごすことはできません。農家さんたちをはじめ、有害鳥獣からの被害を防ぎたい町役場にとって、猟師さんは必要不可欠な存在であり、加藤さんと半田さんは強い責任感と使命感を持って駆除活動を行っているのです。

身近になったヒグマ、知識と情報のアップデートを

有害鳥獣を駆除する目的は、まちのなりわいや、住民の被害をなくすこと。事前に防ぐ取り組みとして電気柵の助成などを続けてきた大樹町では、今年、住民を対象にした訓練を新たに始める予定だそうです。

「警察と猟友会、広尾町とも連携して、2町による合同訓練を行う予定です。野生動物に対してどのように対策していけばいいのか、例えばクマに遭ったときの対応訓練など、住民のみなさんに知っていただく、勉強していただくことが大切だと思い企画しました」

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半田さんも、被害を抑えるための駆除をするだけではなく、その地域に住む人たちが、被害に遭わないための情報と知識をインプットしていくことが大切だと語ります。

「この5年ぐらいの間でも、野生動物のフィールドと、私たち人間が住む土地の間が狭まっていることは実感しています。畑の防風林沿いに、クマのふんがあったりするんですよ。ワナをかけてみると、実際にクマがかかったりする。ですから、札幌もそうでしょうけど、『もう私たちの住んでいる身近にクマはいる』という前提で、どうすれば被害に遭わないか、何を持っていればいいかを考えなくてはいけないんです。クマよけのスプレーを持っていくにいても、リュックの中に入れていたら意味がないんですよ、遭ってもすぐには出せませんから。また、むやみに怖れるのではなく、大切なのは相手を知ること。動物園に行ってクマのにおいをかいでみたりとか、知識や情報を入れておく、そしてアップデートをする。被害を減らすには駆除の数を増やすこともひとつの方法ですけれど、一般の住民にもできることがあるし、そうでなければアンフェアだなと思います」

半田さんによれば、山を切り開くときに、クマの通り道をつくることで人里に下りてくることなく、すみ分けられるようにしようといった大学の研究も行われているそうです。被害を減らすために駆除は必要だけれど、野生動物との共生のために、まだできることはある。そう考えさせられた取材でした。

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大樹町役場 農林水産課
大樹町役場 農林水産課
住所

北海道広尾郡大樹町東本通33

電話

01558-6-2115

URL

https://www.town.taiki.hokkaido.jp/

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増え続ける農作物の被害。使命感で駆除を行うハンターたち

この記事は2024年5月14日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。