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まちおこしレポート
安平町

協力隊がハイヤードライバーとして活躍!町民のお出かけを支える20240722

協力隊がハイヤードライバーとして活躍!町民のお出かけを支える

2009年から制度化された地域おこし協力隊。道内の各自治体で地域おこし協力隊として着任し、地域の活性化のために活躍している人はたくさんいます。これまでくらしごとでも数多くの協力隊員を紹介してきました。

今回は安平町が募集する地域おこし協力隊について紹介します。2018年の北海道胆振東部地震で大きな被害を受けた安平町は、震災後「チャレンジする」ということを町全体で意識してきたそうです。町のために新しいことに果敢に取り組む姿勢は、2023年の年末から募集をはじめた地域おこし協力隊の募集内容からも伝わってきます。

町民のお出かけを円滑にする地域おこし協力隊を

「お出かけ円滑化支援員」。今の安平町が抱える課題を解決するために必要なチカラなのだといいます。


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「お出かけ円滑化支援員というのは、その名の通り、町民のお出かけをサポートしてくれる方を指します」と話すのは、安平町政策推進課政策推進グループの主幹・高橋克年さん。

高橋さんは、安平町が地域おこし協力隊の募集を始めた2014年から協力隊に関わってきた人物。町で困りごとが浮上するたびに、課題解決に力を貸してくれる人材を求め、募集をかけてきました。今回も町民の外出に関する課題をクリアするために「お出かけ円滑化支援員」を募集することになったそうです。

「若い頃は自分で車を運転して、買い物や病院通いなどができていた方たちも、年齢を重ねると自分で運転して外出するのが厳しくなっていきます。運転できる家族と同居していない方たちは、循環バス、デマンドバス、あとはハイヤーを利用して外出しています。バス停まで自力で行ける方はいいのですが、それも難しい方たちはハイヤーを利用するしかありません。ところが、早来地区を走っていた早来ハイヤーが胆振東部地震の2019年に廃業して以来、早来地区の住民から困っているという意見が多く寄せられました。ハイヤーは民間で運営しているものですので、当時、住民意見交換会で意見を聞いても、行政支援は馴染まないという意見が多く聞かれました。しかし、今は町民の暮らしを支えるために必要な公共交通機関であるのだから積極的に支援をして欲しいという風向きに変わりました」

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町では、唯一のハイヤー会社である追分ハイヤーを町民が利用した場合、乗車料金の半分を補助するシステムを設けているほか、町内を走る鉄道、路線バス、デマンドバス、ハイヤーで利用できるお得な共通回数乗車券も用意し、町民の外出サポートを行っています。

「それでもまだまだ充分とは言えません。そこで、地域おこし協力隊の制度を利用し、町民のお出かけ円滑化を図る任務に就いてもらおうということなりました」

このお出かけ円滑化支援員の面白いところは、単純にハイヤーのドライバーとして活躍してもらうだけではないという点。もし案があるならば、「お出かけを円滑にする」ためのアイデアを形にすることも可能なのだそう。

「もちろん、ドライバーとして活躍するだけでもOKです。しかし、最近話題のライドシェアを導入してみるなど、ローカルエリアの交通活性化のためのアイデアをお持ちの方がいれば、ぜひそれにもチャレンジしてもらいたいと考えています。地域の交通事業者らと連携して新しい形の移動手段やサービスを構築し、プレイングマネージャーとなって現状の課題を解決するという道を選択することも可能です」

また、第二種運転免許は隊員になってから取得でOK。しかも町民は第二種運転免許の取得費が全額助成されるのだそう。これは驚きです。

「あとは、さまざまな働き方に対応していこうと考えていて、たとえば子育て中のお母さんであれば朝から昼過ぎまで毎日6時間勤務というのも可能です。週3日集中して働いて、4日はお休みという形も相談に乗ります」

安平町ではその都度、町の課題や町内の法人による地域活性化の取り組みに対して、地域おこし協力隊の制度を活用してきました。今回の「お出かけ円滑化支援員」も新しいアイデアや企画で課題を解決に導いてくれるような方が来てくれることを期待していました。

「セカンドキャリアは地域貢献を」首都圏からUターンして協力隊に

こうした期待を受けながら、2024年6月1日に待望の地域おこし協力隊「お出かけ円滑化支援員」が着任しました。ハイヤードライバーとしての活動がミッションです。

ところでみなさんは、タクシーとハイヤーの違いってわかりますか?端的にいうと「道を流しているのがタクシー、予約専用なのがハイヤー」だそうです。
早来地域では2019年にハイヤー会社が廃業し、追分ハイヤーがその穴を埋めていましたが、やはり採算が合わず撤退した経緯があります。それ以来、タクシー&ハイヤーの空白地帯になっていましたが、実に3年ぶりにまちにハイヤーが走る日が来たのです。

取材当時は地域おこし協力隊としての着任からちょうど1カ月。ハイヤー業務を始めてたったの1週間というタイミングです。
にも関わらず、採用に関わった高橋さんに「入ってすぐにこんなに動いてくれるとは本当に驚いた」と言わしめる活躍ぶりだそう。一体どんな方なのでしょうか?
埼玉県から移住し、地域おこし協力隊としてハイヤードライバーの業務に就いたばかりの菅原裕公さんにお話を聞きました。

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北海道滝川市出身の菅原さんは今年で60歳。
左官職人の家に生まれ、ご自身も若い頃は左官の仕事をしていたそうです。当時、左官のお仕事は夏季限定。20代半ばまで夏は北海道で左官の仕事、冬は本州の大手自動車メーカーの工場で車体組立工、というサイクルの暮らしをしていました。

「こういう働き方は結構多かったですよ。車体組立の工場は全寮制で困らないし、都会的な華やかさもありました。当時の内地(北海道弁で本州のこと)はとても景気が良く、そういうのを目の当たりにすると、冬場に失業する左官の仕事を離れるのも選択肢の一つかなと思いました」

その後大手自動車メーカーの正社員に登用され、56歳の早期退職まで車体組立はもちろん資材調達役など様々な職種を歴任し、「行ってないのはヨーロッパくらい」というほど世界をまたにかけて勤め上げました。
早期退職後はキャンピングカーで移住先を探し始めた菅原さん。岐阜県や福井県などの物件を検討している折、キャンピングカーの入れ替えで北海道に戻る機会がありました。

その際、久々に会ういとこに良い手土産はないかと探していたところ、目にとまったのが「アサヒメロン」。昔から知っているメロンで、安平の道の駅で売っていると知った菅原さん、早速買いに向かいました。

ですが菅原さんは、「安平町」という町名に、ピンとこなかったといいます。それもそのはず、実は安平町が誕生したのは平成18年。追分町と早来町が合併して安平町になったのです。菅原さんが滝川にいたころまだ安平町は無く、アサヒメロンといえば追分町の名物だったんですね。

こうしてアサヒメロンをきっかけにそのまま協力隊として移住したのかと思いきや、そこから菅原さんは本州で移住先の検討を再開。宮城県で漁師や農家を体験しながら、その間に船舶免許や大型二種免許を取得し、埼玉で幼稚園バスのドライバーとしても働いていたそうです。

「船でも車でも運転は好きですね。トラクターに乗りたくて牽引免許も取りました」

菅原さんの移住先の絞り込み条件は、二種免許資格が活かせる仕事があって、そこそこ利便性がよく、地域貢献にもなること。奥様は雪が苦手なので、北海道はそもそも候補から外れていたそうです。
それでも試しに地域おこし協力隊を募集している自治体で、二種免許を活かせることを条件に検索してみると、出てきたのは奇しくも全て北海道のまち。「安平町・天塩町・下川町」でした。

「自宅がある本州とのアクセスを考えると、この3つの中なら安平かなと思いました。調べてみると案外住み良さそうだと感じたので、協力隊への応募を決めました」
こうして奥様は埼玉の家に残り、菅原さんは単身赴任という形で安平に移住。地域おこし協力隊としての活動を始めます。

早来でのハイヤー再開を、自作のチラシで伝える

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菅原さんは既に二種免許を持っていたこともあり、着任から1カ月足らずでハイヤードライバーとしてデビューしました。早来地区にとって待望のハイヤー復活です。

安平町ではハイヤーをお得に利用できる「町民割引」をの行政施策として行なっています。
「町内のハイヤー運賃が往復半額で利用可能」
「近隣の苫小牧や千歳の病院に行く際、ハイヤー運賃の片道分を半額補助」
など、利用者にとってなかなかうれしい内容。これはハイヤー利用の追い風になるのではないでしょうか。

ただ、菅原さんの話では

「町民割引のほか共通回数乗車券も利用できるのですが、どうやら割引自体を知らなかったり、自分事だと思っていない町民が結構いる印象です。しばらくハイヤーが存在しなかったことも理由にあるのかもしれません。なので改めてチラシにも記載し配布することで、気軽にハイヤーを使えるようになったんだという認知を高めているところです」

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このチラシ配り、実は3つの効果を狙って行なっているのだとか。
まず一つ目はもちろん「ハイヤー復活のPR」。チラシには大きく「6/24(月)スタート」と前出の「町民割引」適用の文字が描かれています。

二つ目は土地勘の獲得。北海道出身とはいえ安平町を訪れたことは数える程度の菅原さん。積極的に足を使い、主要な道や目印となるランドマークを記憶していきます。

そして三つ目がデータ収集です。もう人が住んでいない家があったり、不動産登録上の住所と地図データの住所の位置が微妙に一致しないことなど、実際にまちを歩いてわかったことをデータ化し、配車や営業に活用しているそう。課題設定や打ち手を考えるためにも、共有できるデータを多く積み重ねていくことが必要だと思う、と菅原さんが教えてくれました。

チラシは個人宅に配るだけでなく、人の目に触れやすい郵便局に置かせてもらったり、巡回する警察官にも配ってもらったりと、協力してくれる人も増えている様子。取材中も自発的にチラシを配っているという飲料販売の女性に遭遇しました。喜んでいる人の多さを感じますね。

よりよい地域の交通のため、もう1人ドライバーが欲しい

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菅原さんに仕事のやりがいを尋ねると、

「今は毎日がむしゃらで、なにもかも手探り状態です。以前、幼稚園バスのドライバーをやっていた時は、子どもたちから元気をもらっていました。今は逆に私がまちの皆さんにしてあげられることがある。デマンドバスでは拾いきれない困りごとを解決できるのがハイヤーだと思っていますので、そういう意味でどこか福祉的な気持ちが入りますね」

やはり高齢の方の利用が多いそうで、買い物帰りのお客さんなどから飲み物の差し入れを頂くことも多いのだとか。暖かいやりとりにほっこりしますね。

町としても、菅原さんが集めているデータや知見に基づいて課題と対策を設定し、どうやったら7300人のまちで公共交通を将来的に継続していけるのか、二人三脚で解を導こうとしています。

そんな役所の高橋さんと協力隊の菅原さん、お二人が口を揃えて言うのは、「もう一人ドライバーがいてくれたら...」。

菅原さんの地域おこし協力隊としての労働時間上限は週31時間。現在は月・金・土の週3日、9:00~19:00(金土は~21:00)で勤務しています。つまり、残りの週4日間は車両が空いており、ここに入ってくれる人が現れることは、地域の利便性アップに直結するのです。
データ収集や集計にしても、人手は多いほうが有利。なにより、同じ目標に向かって話し合える仲間の存在は、それ自体が大きな心の支えになるのではないでしょうか。

休みの日は「バタンキューだ」という菅原さんの行きつけの場所は、癒しの温浴施設「ぬくもりの湯」。回数券を買ってほぼ毎日通っているそう。

そんな菅原さんに安平町の魅力を尋ねると、

「札幌や苫小牧など都市部へのアクセスも良いですし、新千歳空港にも近い。月1回は札幌に住んでる友人と飲みに行きますよ。地元産のチーズを使う絶品ハンバーグ店やラーメンの新店など、おいしいグルメも結構あります。あとは、ノーザンファームや社台などがあるので、馬が好きな人にはたまらない環境ですよ。初めて行ったときは私も感動しました」

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7300人の人口でも継続できる「地域の足」の姿を一緒に模索する、もう一人の地域おこし協力隊。まちの未来を切り開けるのは、これを読んでいるあなたかも知れません。

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安平町役場 政策推進課政策推進グループ
安平町役場 政策推進課政策推進グループ
住所

北海道勇払郡安平町早来大町95番地

電話

0145-22-2751

URL

https://www.town.abira.lg.jp/chiikishinko/chiikiokoshi


協力隊がハイヤードライバーとして活躍!町民のお出かけを支える

この記事は2024年2月13日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。