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まちおこしレポート
留萌市

音楽、食、イベント...。挑戦を続け、町も実家のレコード屋も盛り上げたい20240709

音楽、食、イベント...。挑戦を続け、町も実家のレコード屋も盛り上げたい

実家は、町の商店街にあるレコード・CDショップ。地方特有の人との距離の近さが苦手で、夢を追って町を離れますが、コロナを機に地域おこし協力隊としてUターン。それが今回お話を伺う佐伯結さんです。一度外に出たからこそ見える町や商店街、実家の課題をなんとか解決したいと奮闘しています。「今は、自分にできることをやり続けること。そしてとにかくチャレンジすること」と話し、子どものころから常にそばにあった音楽をうまく取り入れたイベントなどを企画。これまでの活動や今後考えていることなどを伺いました。

高校卒業後に留萌を離れるものの、コロナを機にUターンを決意

「10代はいつも留萌を離れることを考えていました」と話す佐伯さん。留萌高校を卒業したあと、調理師になるため札幌の専門学校へ進学します。

rumoi_saekisann00009.jpg地域おこし協力隊として留萌にUターンした、佐伯結さん

「本当は舞台美術やインテリアなど、空間を作る美術系の仕事に子どものころから興味があり、美術系の学校への進学も考えたのですが、狭き門なのかなと当時は思っていて...。調理もクリエイティブな仕事ではあるので、調理師の道を選びました」

札幌で2年間調理を学び、卒業後は東京のレストランに就職。飲食業界で仕事を始めますが、25歳のときに「やっぱり本当にやりたいことをやろう」と音楽イベント関連の会社へ転職します。その会社は、ミュージシャンのコンサートステージやオリンピックなどの大型イベントの舞台を制作する会社。幼いころの夢を叶えられる場所にたどり着きます。

ところがコロナ禍に突入し、会社は休業状態に。半年ほど自宅待機の状態が続き、「このまま東京にいても、どんどん気持ちが腐ってしまうと思いました」と佐伯さん。「今動ける場所で、今できることをしたい」と実家の母に連絡すると、留萌で地域おこし協力隊の募集をしていることを知らされます。

「留萌に戻って実家のレコード屋(吉崎レコード楽器店)を継ぐことも考えましたが、高校を卒業したあとすぐに留萌を離れ、町のこともよく分かっていない自分がすぐに継いだところで経営がうまくいくとは思えませんでした。でも、協力隊として戻ることで、留萌の町の今をきちんと知ることができるいい機会かもしれないと思いました」

rumoi_saekisann00050.jpg音楽への熱量は、お母様(左)ゆずり

コアなファンに向けた、留萌出身バンドのトリビュート企画を実施

地域おこし協力隊として採用が決定し、佐伯さんは留萌へUターン。物産分野と道の駅関連を担当するという大枠のミッションを与えられましたが、当初自身が想定していたものとは異なり、佐伯さんなりに観光や物産における課題を見つけ、活動内容を決めていったそう。

「町に人を集め、町を活性化させることが何よりも重要。留萌は夕日とニシンだけと思われがちですが、実はそんなことないんです。もっといろいろな魅力があるから、そういうところから活性化させたいと思いました。意外と知られていないのですが、音楽に関しては留萌出身の素晴らしいアーティストがたくさんいるんです。それをフックに何かできないかを考えました」

留萌出身の代表的な音楽家と言えば、古いところで作曲家の佐藤勝氏をはじめ、歌手で作曲家の森田公一氏、シンガーソングライターのあがた森魚氏らがいます。ロックバンド・怒髪天のギタリストである上原子友康氏も留萌出身。そして、佐伯さんが一番注目したのが、ロックバンドのbloodthirsty butchers(ブラッドサースティ・ブッチャーズ)でした。メンバー3人が留萌出身で、レコード店の代表を務める母の千恵子さんとも交流があったそう。

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「ブッチャーズは、いろいろなアーティストに影響を与え、世界的にも知られている素晴らしいバンド。2013年にボーカルの吉村秀樹さんが亡くなってから活動自体は休止していますが、トリビュートアルバムにはそうそうたる人たちが名を連ねています。それで、吉村さんが亡くなってちょうど10年だった昨年、トリビュート企画を立てさせてもらいました」

元々東京・札幌で毎年開催されていたトリビュートイベント「吉村秀樹会」から名前をお借りして、佐伯さんが「留萌吉村秀樹会」として開催。bloodthirsty butchersのドキュメンタリー映画の上映会と吉村氏をよく知るメンバーらによるトークショーを行ったり、フリースペースを使って、交友のあった関係者からのメッセージや吉村氏が使っていたギターなど縁のものも展示しました。

「ミュージシャンをはじめ、俳優さんからもたくさんメッセージをいただくことができ、あらためてブッチャーズがすごいバンドだったんだなと思いました。そんなすごい人たちが留萌出身だということを誇りに思います」

このイベントに参加するために留萌を訪れたというファンも多く、上映会とトークショーは満席に。展示を見に来てくれた人もたくさんいたそうです。

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留萌の伝統食・糠にしんを手軽に食べやすくするための加工品を開発

佐伯さんは、地域おこし協力隊として、道の駅のアンテナショップにも勤務。留萌の伝統食である「糠にしん」を用いた新しい加工品作りも行いました。

「糠にしんって、すごくおいしいんですけど、焼いたら匂いが結構するし、小骨が多いからと敬遠する人も多くて、これをフリーズドライにしたら手軽にいろいろな人に食べてもらえるのではないかと思ってアイデアを出させてもらいました」

完成した商品は、その名も「ユルグネ、ヘリング」。北海道弁の「ゆるぐない」(簡単ではない)をかけたそう。「糠にしんを食べるときって、大変なので(笑)。でも、加工するのもなかなか大変でした」と笑います。大量の糠にしんを焼いて、それをほぐしてからフリーズドライに加工。道の駅で働く3人のスタッフと佐伯さんとで作業を行ったそう。

rumoi_saekisann00048.jpg佐伯さん作成のHP。糠にしんがとってもおしゃれに紹介されています

商品が完成すると、佐伯さんが写真を撮影し、専用のホームページも制作。ホームページには、これを使ったレシピ紹介も載っています。レシピを考えたのは、もちろん調理師としての経験もある佐伯さんです。

専用ホームページはこちら

「トマトソースに加えたり、マッシュポテトに混ぜたり、お茶漬けやパスタにも合います。ザクザクとした食感も楽しめますし、柔らかい食感が良ければお湯で少し戻してもらえばいいですし。アンチョビのような使い方ができます」

パッケージもおしゃれで、ちょっとした手土産にも良さそうです。商品は、道の駅で購入ができます。

イベント活動を通じて感じた課題。それをクリアするため、まずは自分がチャレンジ

このほか、一昨年には道の駅を訪れた人たちに商店街の方まで周遊してもらおうと、謎解き町歩きイベントも実施。スマホを駆使しながら、謎を解いていくというもので、参加者からの評判も上々だったそう。

rumoi_saekisann00030.jpgこのまちに、商店街に、人が集まるように日々模索しています

「観光協会、商店街の方たちなどの力を借りて、「るもい未来観光創生チーム」という若手チームの仲間と共に作ったイベントでした。こうしたイベントなどの活動をして課題に感じているのは、興味関心を持ってもらうためにはまだまだ自分自身の発信力が足りないということ。それから、内容だけでなく、誰がそれをやるかというのも大事なのだと実感。地元の人たちに自分事として捉えてもらい、参加してもらうためにも、あの人がやるなら、協力してあげよう、応援してあげようと思ってもらえるような関係構築もこれからは大事だと感じました」

さらに、町を紹介するような動画制作やフライヤー作りを行っているほか、地元の人たちのインタビュー企画も。動画に関しては、全国地域おこし協力隊動画コンテストで優秀賞を獲ったそう。話を伺っていると、そのマルチさに驚かされますが、「とにかく何でも自分でやるしかないという状況が多く...。でもチャレンジしてみたら意外にできて、逆に可能性が広がったりもして...」と笑います。とはいえ、「いろいろチャレンジさせてもらえているのはありがたいかもしれませんね」と続けます。

協力隊として地元に戻り、いろいろな人と関わる機会が増え、町の人に対する見方が少し変わったと佐伯さん。一度町の外に出たからこそ、新たな視点で見えるものもあるようです。

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「高校生のときは田舎特有の距離の近い感じが苦手でした。逃げ道が少ないところも10代はきつくて。だから、早く都会へ行きたいと思って、実際札幌や東京へ行ったのですが、協力隊になって戻ってきて、自分の狭いフィルターでしか留萌という町や人を見ていなかったと気が付きました。人口2万人という規模で、都市部の距離感と田舎の距離感の両方を持っていて、いい意味で放っておいてくれて、いい意味でお節介になる、ちょうどいい距離感で実は暮らしやすいと分かりました。市役所の人たちをはじめ、新たな出会いもたくさんあって、今は違う角度から町や人を見られるようになったと思います」

その上で感じているのが、留萌を活性化させるためにも今の状況を自分事として捉えられる人がもっと町に増えてほしいということ。「いろいろなことに挑戦しようとする人が増え、それをみんなが応援する機動力のある町になってほしいと思っています。まずは今以上に自分がいろいろなことにチャレンジをしていきたい」と話します。

rumoi_saekisann00071.jpgじもとの高校生からの、まちの活性化についてのインタビューに、正直に、丁寧に、こたえる佐伯さん

時代に合ったレコード屋のスタイルを模索。いつかは音楽フェスも...

「自分を形成している大部分が音楽です」と言う佐伯さん。幼いころからずっとそばに音楽がある環境で育ち、大人になった今も常に音楽がそばにあると言います。

「いろいろな感情や経験を得るのって、人によってそれが映画だったり、スポーツだったりするかもしれませんが、私は音楽でした」

「吉崎レコード楽器店」の代表である母の千恵子さんの影響も大きいそう。「田舎のレコード屋って思われるかもしれませんが、母やスタッフさんの熱量と知識量は本当にすごい。ジャンルや年代に関係なく、本当に詳しいんです」と続けます。今でもインディーズバンドの情報などをいち早く入手するなど、利益うんぬんではない音楽愛が店を支えています。佐伯さんがbloodthirsty butchersのトリビュート企画を思いつき、実施できたのもこういった環境で育ったからこそと言えます。

佐伯さんは、長年、地域の人たちに音楽やエンタメの楽しみを提供してきたこの「吉崎レコード楽器店」をなくしたくないと言います。「でも、このままでいいとも思っていないので、時代に即した形で店を残していけるように考えたい」と話します。店の半分をピザ屋にして、音楽好きな人が集まれるCDショップにするなど、構想はいろいろあるよう。自身の経験から、高校生が家と学校以外で友達と集まれるような居場所も作りたいと考えています。

また、「自分が生まれ育ったこの商店街が好きだから、この商店街で起業したいと考えています」と話し、規模が小さく、店の数が少なかったとしても、商店街を訪れる人たちの満足度を上げることはできるはずだと考えています。

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「老若男女、みんなの居場所がここにできることが商店街の活性化につながると思います。町全体としては、宿泊施設が少なく観光で訪れた人も通過型になりがちなので、アートギャラリーと宿泊を組み合わせたような施設など、ほかにないようなものができたらおもしろいだろうなと思います」

音楽フェスなど、やってみたいことはまだまだたくさんあるという佐伯さん。「今はとにかくできることを続けていきながら、少しずつまちづくりや活性化に結び付くチャレンジをしていきたいです」と話してくれました。

留萌市地域おこし協力隊 佐伯結さん(吉崎レコード楽器店)
留萌市地域おこし協力隊 佐伯結さん(吉崎レコード楽器店)
住所

北海道留萌市錦町3丁目2-45

電話

0164-42-1223

URL

https://www.facebook.com/yoshizaki.record/?locale=ja_JP

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音楽、食、イベント...。挑戦を続け、町も実家のレコード屋も盛り上げたい

この記事は2024年6月7日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。