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まちおこしレポート
新十津川町

もみ殻を燃料に活用。環境を軸に町を活性化する新十津川の米農家20240617

もみ殻を燃料に活用。環境を軸に町を活性化する新十津川の米農家

米の作付面積が道内5位という北海道新十津川町。肥沃な大地、町を流れる清流・徳富川の水が、おいしいお米を育む道内有数の米どころです。その米栽培で、稲刈りの際に大量に出てくるのが「もみ殻」。大半が廃棄されていますが、それを資源として活用しはじめたのが、同町で農業を営む村田和也さんです。村田さんはもみ殻の活用だけでなく、農福連携やJGAP、ASIAGAPの指導員を務めるなど、農業を軸にいろいろなことに取り組んでいます。昨年行われた町の活性化に向けた取り組みについて話し合う「新十津川わいわい会議」にも参加し、もみ殻の活用について話をすると、町内の農家さんたちとの新しい繋がりも生まれたそう。今回は、田んぼのそばにあるもみ殻活用の工場へおじゃまし、商品を見せてもらいながらお話を伺いました。

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社会福祉の仕事を経て、自分の意志で実家の農業を継ぐことに

取材に伺ったのは5月半ば。ちょうど田んぼに水が張られ、代かき(田んぼに水を張り、土を細かく砕きかき混ぜ、土の表面を平らにする作業)が行われていた時期でした。太陽の光が田んぼの水面に反射し、いたるところがキラキラしています。農家さんにとって代かきは、苗を植え付けやすくし、しっかりと稲を育てるための大事な作業。米農家でもある村田さん、その忙しい合間を縫って取材に対応してくれました。

村田さんは祖父の代から続く農家の3代目。祖父が農業をはじめた頃は、空知管内にある砂川市でタマネギ栽培を行っていたそうですが、新十津川に移ってからはタマネギのほか、米の栽培にも取り組んできました。

muratanousan_5.jpgこちらが村田和也さんです。

「父自身が40代までサラリーマンをしていた人だったこともあり、特に跡を継ぐようにとは言われずに育ちました。それもあって、札幌市にある北星学園大学の社会福祉学部を卒業したあとは、困っている人の力になれるような仕事をしたいと思って、新十津川町のとなり、滝川市の社会福祉協議会で働いていました」

社会福祉の仕事も好きでしたが、30代前半で「農業も面白そうだな」と考え始めます。実家は農家で、土地もあり、機械もあり、必要なものはそろっていました。村田さんは、「自分に農業をやらせてもらえないか」と両親に相談します。

「跡を継がなくていいと言っていたわりには、農業に興味があると話したら、とても喜んでくれて(笑)。両親も高齢で農作業が大変そうだったので、ちょうどよかったのかもしれません」

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町で初のニンニク栽培に挑戦し、GAP認証の指導員も務め、農福連携にも取り組む

跡を継ぐことになり、村田さんはこれまで扱っていた作物を変えたいと父親に話をします。

「タマネギはとても手がかかるので、できれば違うものに変えたいと考えていました。ただ、うちは祖父がタマネギからはじめた農家で、父も思い入れがありました。無理かなと思っていたのですが、案外あっさり『やめていいよ』と言ってくれて。情熱を注いで真剣だったからこそ、その大変さを私には...、って気遣ってくれたんだと思います」

村田さんはタマネギをやめ、小麦やニンニクの栽培を始めます。ニンニクに関しては、新十津川町で最初に栽培をはじめたのが村田さんで、今も町内で一番多く作付けをしているそうです。そして、令和元年(2019)には、正式に父親から農場を譲り受けます。

muratanousan_10.jpg現在は、米、小麦、ニンニク、スイートコーンを主に作っています。

村田さんはJGAP指導員、ASIAGAP指導員の資格も取得。JGAPとは、Japan Good Agricultural Practices(日本の良い農業の取り組み)の略で、農産物の生産工程で生産者が守るべき品質管理や農場管理などの管理基準やその取り組みを指します。ASIAGAPはそのアジア版です。持続可能な農業を続けていくため、生産者が取り組むべきことがまとめられており、村田さんはその指導員として、JGAPを導入したい農場があれば、その指導や相談に乗っています。

「組織で働いていたことがあるから余計にそう思うのですが、きちんとやっていることを管理して記録に残しておかないとダメだなと思って。農家ってそういうのをやっていないところが多いんです。記録を残し、それを振り返っていくことは成長にもなるし、持続可能な農業を展開していくためにも大事だなと思います。僕は指導員ではありますが、自分の農場はまだ認証を取っていないので、早めに認証を取りたいと思っているのですが...」

日々の作業だけでも十分忙しいはずですが、村田さんの話を聞いていると、農業に携わる中で課題を見つけ、それを改善、解決していくため、必要だと思うことに果敢にチャレンジしているという印象を受けます。

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3、4年前からは農福連携にも取り組んでおり、町内外の社会福祉法人施設の利用者さんたちが作業にやってくるそう。

「もともと社会福祉の仕事に携わっていて、自分が学び、経験したことを生かせるし、福祉も農業も好きなんで、好きなことをミックスしてやれるならと思ってはじめました」

毎日ではありませんが、スポットで1日2時間畑の草むしりをお願いしたり、ニンニクの種を割ってもらったりするなどの作業をお願いしています。

「人から求められて仕事をする喜びってとても大きいんですよね。だから、利用者さんが仕事を終えて喜んでいるのを見ると、こちらも良かったなと思います」

muratanousan_14.jpg利用者さんがとても喜んでくれたというエピソードをとても嬉しそうにお話してくださいました。

ムダと言われるものを有効活用。もみ殻を固形燃料や土地改良剤に!

そんな村田さんが、以前から気になっていたのがもみ殻。村田さんのところだけでも毎年18トンほどのもみ殻が出ていました。周辺の米農家の中には、それを燃やしている人もいれば、畑にすき込む人も。また、お金をかけて廃棄をする人や畜産農家に飼料として引き取ってもらうケースもあるそうです。

「うちは燃やしたことはなく、畑にすき込んでいたのですが、稲刈りの忙しい時期にすき込むのは大変で...。なんとかこのもみ殻を資源として活用できないかなとずっと考えていました。ムダだと思うものを有効なものに変えたいなと思って」

いろいろ調べていくうちに、もみ殻を炭化させる「もみ殻くん炭」と、もみ殻を固形燃料「モミガライト」にする方法があると知ります。

muratanousan_1.jpgこちらが実際のモミガライトです。

「もみ殻くん炭は、実は以前から活用されていて、畑にまくと土壌改良になるからと昔の農家さんはやっていた人も多かったようです。もみ殻をそのまますき込むより、炭化したものを畑にまくほうが土の酸性化を抑えられるし、そこに植えた作物が強くなるんですよね。あと、土壌改良だけでなく、融雪剤としても使用できるんです」

土壌改良の炭を農地にまくことは、CO2削減に有効であるとし、日本政府のJ-クレジット制度の対象にもなっているそう。

muratanousan_7.jpgこちらはもみ殻くん炭。

そしてもう一つ、「モミガライト」はもみ殻をすり潰し、高温高圧で薪のような形に圧縮した100%もみ殻の燃料。薪ストーブの薪として使うことができます。接着剤も使っておらず、燃やしても大気中のCO2が増えません。さらに長期保存が可能で、災害時の備蓄燃料としても活用ができるそう。

「すでに本州のほうではモミガライトを製造する機械を導入し、積極的に活用している農家さんもいて、これはいいなと思いました」

村田さんは、もみ殻くん炭とモミガライトを製造する事業を立ち上げることにします。もみ殻を炭化するためのもみ殻燃焼機と、モミガライトを製造する機械を導入し、2023年12月に完成した工場の中にそれらを設置。2月から製造をスタートさせました。

muratanousan_8.jpgこの日は、改装中でしたが、中はとてもキレイで広い工場でした。

今年はまだ実証実験段階と言うものの、もみ殻くん炭は、近隣の農家さんから畑にまきたいというオファーがすでにあるほか、市町村レベルでまとめて畑にまきたいという相談もきているそう。

「モミガライトも薪ストーブに使いたいという人から問い合わせが入っています。薪として使用すると、木材の薪よりも持続力があり、価格も安価。コスパはすごくいいと思います。そして、環境にもいいですしね。実際に使った方からは、ほんのり甘い香りがするという感想もあります」

モミガライトは完全に乾燥したものしか使えないということもあり、今後需要が増えた際のため、乾燥したもみ殻の確保が必要になってきますが、近隣の農家さんで、もみ殻タンクを持っている方から「協力するよ」と声をかけてもらっているそう。「資源活用し、事業としてうまく軌道に乗せていければと思います」と村田さん。

muratanousan_3.jpgこの機械からモミガライトが作られます。

「環境」を軸に町を盛り上げ、子どもたちに大人が楽しんでいる姿を見せたい

村田さんは、昨年の11月に行われた「新十津川わいわい会議」に登壇。会議のテーマは、地域の資源をどう生かし、持続可能な社会づくりを行っていくかでした。村田さんはもみ殻の活用について話をしました。

「意外と農家同士って繋がりが薄かったり、誰が何をやっているか知らなかったりするんです。会議で話をさせてもらったことで、聞きにきてくれたほかの農家さんとの繋がりができたのが良かったなと思います。あと、近年は気候変動の影響を受けて、なんとなく農業全体に元気がないような気がしていたのですが、わいわい会議で新しくこんな事業をやるよと話したことで、少しでも元気を与えられたのではないかなと思っています」

会議が終わったあと、参加していた農家の方から「自分も挑戦したいことがある」と声をかけられた村田さん。それがきっかけで、有機栽培に興味を持っている町内の農家5軒で有機栽培に挑戦することにしたそう。

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「一人だとちょっと...ということも、何人か賛同してくれる人がいれば、チャレンジするための一歩を踏み出し、頑張れる。うちも今年から、田んぼ1枚分を有機でやってみることにしました」

みんなで有機栽培に取り組みたいから町にも応援してほしいと役場へ要請に行くと、町としても環境に配慮した農業を推進していきたいと考えていたと判明。逆に、環境啓発のイベントをやりたいから、そのメンバーで実行委員をやってほしいと依頼されたそう。

「町内に、以前からコツコツと有機栽培を続けていた高山くんという人がいるんだけど、彼曰く、以前は環境の話とかをしにくい雰囲気だったのが、わいわい会議以降、環境や有機に関心を持っている人が結構いると分かったと。そして、周囲の意識も変わり始めて、すごくうれしいと言っていたんです。今後、環境という軸で、農業はもちろん、それ以外のいろいろな人たちと繋がっていけたら、町の活性化にもなるんじゃないかなと考えています」

muratanousan_21.jpgわいわい会議をきっかけに、これまで繋がるはずもなかったいろんな人と出会えたこともとても良かったと語ります。

わいわい会議のあと、登壇者たちを含め14人ほどのグループLINEができたそう。農家の人もいれば、商工の人も参加しており、これまでなかなか繋がる機会がなかった人たちと交流ができるようになったのも大きいと村田さん。

「農業、商工、一緒に何かやれたら面白いなと思います。それのテーマが、環境だったら尚いいですね。新十津川にはおいしい米も野菜もあるし、おいしい肉もあるし、モミガライトでバーベキューとか、みんなで町外から人を呼べるような楽しいイベントができたらとも考えています」

日々忙しい村田さんですが、「環境系のことも、わいわい会議も、楽しいからやっている」と笑います。そして、「大人たちが楽しんでいる姿を子どもたちに見せたいというのが一番の理由なんです」と最後に話してくれました。3人のお子さんがいる村田さん、子どもたちに「この町の大人たちは楽しそう。この町って楽しい」と思ってもらいたいという思いが原動力になっているようです。

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村田農産/村田和也さん
住所

北海道樺戸郡新十津川町字弥生104番地1

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もみ殻を燃料に活用。環境を軸に町を活性化する新十津川の米農家

この記事は2024年5月14日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。