生まれ育った町の活気を取り戻したい。道内の各所でそんな想いを抱いて活動している方たちにとって、今回の記事は取り組みのヒントになるかもしれません。
主人公は、(株)フィフティファイブスターの代表取締役である村井かすみさん。苫小牧市の認定商工会「とまこまいWEB商店会」立ち上げのきっかけを作った女性です。
笑顔がかわいい村井さん、小柄な体からは想像もつかないバイタリティーさを持ち合わせています。村井さんのこれまでの歩みとこれからの想いを伺ってきました。
自分が好きなものを人に紹介するのが楽しい。地元のスポーツショップに勤務
村井さんは生まれも育ちも苫小牧市。苫小牧総合経済高校を卒業後、地元で一度就職しますが、しばらくして退職します。すると、友人から「会社で短期のアルバイトを募集しているからやらない?」と声をかけられます。その会社とは、伊達市に本社を置くアルファスポーツ。苫小牧の駅前の商業施設に入っている同社店舗での短期アルバイトでした。
今回、取材をさせていただいた村井かすみさん。
「当時、ナイキのスニーカーなどが流行っていて、自分もよくアルファスポーツに買い物に行っていました。もともとスポーツブランドのファッションが好きだったこともあり、店に並んでいるものはどれも好きなものばかり。なじみもあったので、アルバイトをしてみることにしました。最初、接客は苦手だから無理だろうと思っていたのですが、いざやってみると、自分の好きなものを人に紹介するのって面白いと思ったんです」
いきいきと楽しそうに接客をする村井さんを見て、会社の担当者から「社員になって働かない?」と声をかけられます。
「好きなもののいいところをどう伝えるか。それを考えるのが楽しかったのもあって、社員として入社しました」
撤退に伴い、伊達へ転勤。ネットショップの立ち上げに携わることに...
苫小牧市内の店舗で経験を積むうちに仕入れも任せてもらえるようになり、ますます仕事の面白さを実感していました。ところが、入社から15年ほど経ったとき、会社が規模を縮小し、苫小牧から撤退することになります。
「伊達の本社に来ないかと声をかけてもらい、伊達へ。初めて苫小牧以外の場所で暮らすことになりました。ちょうど伊達へ行くタイミングで、会社がネットショップを立ち上げるということになり、それを任せたいとも言われました」
ネットショップのコンセプトも店名も好きに決めていいと言われたものの、まったくのゼロから立ち上げるということで、右も左も分からない手探りの状況からのスタートでした。
「もちろんスポーツショップのネット通販なので、そこから大きくズレたものではなく、普段着としても着られるスポーツウェアなどを集めたセレクトショップというコンセプトにしました。それで、セレクトスポーツという店名で楽天市場の中にショップを出しました」
苫小牧へ戻り、独立。ネットショップと実店舗を立ち上げる
試行錯誤した立ち上げから5年経った頃、ネットショップをやめるかもという話が社内で浮上します。
「この頃、父親が亡くなって母が苫小牧に1人で暮らしていたこともあり、ちょうど苫小牧に戻ることも考えていました。そこで、戻った際に何をしようかと考えたとき、これまでの経験を生かして実店舗をやってみようかなと思いました。そして、もし会社がネットショップをやめるなら、自分にそれをやらせてもらえないかと相談したところ、とりあえず楽天以外はセレクトスポーツオリジナルなら使っていいと許可をもらうことができました」
ネット通販の申込み対応を行っている様子。
そして、「初心に戻る、原点に返る」という意味も込め、店名を「セレクトスポーツ オリジナル」とし、独立することに。
「とはいえ、最初からどちらか一つだけで生計を立てていくのは難しいと考え、実店舗もネットショップも持つことにしたんです」
学生時代はもちろん、アルファスポーツに勤務していたころも、長い間、苫小牧の駅前を利用していた村井さん。賑やかだった駅前を知っているだけに、年々、人通りも店舗も減った駅前やその周辺の状況に対し、「なんとか昔のような活気が戻ってこないかな」と思っていました。
2019年1月にオープンした「セレクトスポーツ オリジナル」
そこで店を出すなら駅前付近でと決め、近くの商店街で物件探しを始めました。立ち上げ時は1人で切り盛りするので、商業施設のテナントより路面店のほうが好都合ということもありました。
「自分の店が1軒できたところで、大きく駅前が変わるわけではないと思いながらも、何かできることをしたいと思いました」
そうして見つけたのが、現在の店舗がある場所。ちょうど「駅前通り商店街」に所属できる場所でした。
村井さんはネットショップに詳しくても、起業に関してはまったくの素人。不安がゼロというわけではありませんでした。それでもとにかく前へ進むしかないと、起業関連の書籍を片手に奮闘。2018年11月に(株)フィフティファイブスターを設立し、2019年1月に実店舗の「セレクトスポーツ オリジナル」をオープン。ネットショップもスタートします。実店舗の一角には、ネットショップにアップする商品撮影用の白背景のロールバックや大きなライトも設置しました。
1年目はネットショップと実店舗の売上が半々でしたが、2年目にコロナ禍に突入し、実店舗の売り上げは大幅ダウン。一方でネットショップの売上が良く、結果としてネットショップをやっていて良かったという状況になりました。
少しでも周辺の店の力になれたら...。「とまこまい商店会」をオープン
楽天市場のネットショップは「とまこまい商店会」という名前でスタートさせていた村井さん。そのとき、こんな思いがあったそう。
「駅前通り商店街のお店の店主さんのほとんどが高齢者の方。ネットショップなんて考えたこともない、小さい店だからネットショップなんてしても...というような方が大半でした。少しでも皆さんの売り上げにつながり、閉店率を下げられないかと考え、一緒にネットショップに出品できたらと思いました」
「とまこまい商店会に一緒に出品しませんか」と声をかけると、「いいね」と言ってくれる人は多くいましたが、なかなか参加に踏み切ってくれる店は少なく、「最初はとりあえず自分のところのものだけを出しながら続けていました」と村井さん。
しばらくして動きがあり、「とまこまい商店会」は、2022年に名称を「とまこまいWEB商店会」に変更します。
「山口時計店の山口敏文さんが、WEB商店会にして、ここの商店街だけでなく、苫小牧市内にある店であれば誰でも加盟することができるように幅を広げてはどうだろうとアイデアを出してくれて、今の形になりました。駅前だけでなく、苫小牧市全体を盛り上げるという発想です」
「とまこまいWEB商店会」で生まれた繋がりを機に、苫小牧を賑やかに
「とまこまいWEB商店会」は、苫小牧市の任意商店会としても認められ、現在は苫小牧市内の27店舗が加盟店として参加。時計店、電気屋、布団店、パン屋、肉屋、カフェ、エステなど、その業種はさまざま。楽天市場、ヤフーショッピング、ストアーズの「とまこまいWEB商店会」の店舗に、加盟店の商品を集めて販売しています。
「1店舗で楽天市場やヤフーショッピングに出店するとなると、テナント料が高額になってしまいますが、加盟店が増えるとそのテナント料も複数店で分け合えます。また、ネット販売の経験がなくても、わかりやすく商品を出せるような仕組み作りも行っています」
「とまこまいWEB商店会」では、YouTubeのライブ配信によるライブショッピングやSNSを活用した広報活動も行っています。「これらは、商店会の会長である石澤ともみさんや山口さんらが得意を生かして展開してくれています」と村井さん。
現在、村井さんはネット販売で売れた商品の出荷の取りまとめを行っています。気になる配送料も商店会メンバーであれば、各運送会社との契約料金でお得に利用が可能なのもポイント。加盟すると、パソコン相談サポートなどの特典もあるそう。
とまこまいWEB商店会では、InstagramやTikTokなどのSNSアカウントを運用する部員を募集中!
「今のところ、売れているものは特に苫小牧と関係のないものだったりするし、商品の打ち出し方などまだまだ難しさも感じていますが、ネットショップは全国の方がお客さま。苫小牧のものを集めて、苫小牧をもっと全国へアピールできたらと思っています。ここでしか買えないようなものも出していきたいですね」
村井さんをはじめ、事務局メンバーは40、50代が中心ですが、加盟店の店主たちは20~60代と幅が広く、世代間を超えて繋がりができているそう。商売をはじめたばかりだから横の繋がりがほしいと加盟する方もいて、「とまこまいWEB商店会」がきっかけでリアルの輪も広がりつつあります。
「市内で商売をする人と人の繋がりができ、町が活性化するひとつのきっかけになったらいいなと思うので、これからも頑張って『とまこまいWEB商店会』の加盟店を増やしていけたらと思います」
自身の店も盛り上げながら、苫小牧の町も活性化していきたい
インタビューさせていただいた実店舗「セレクトスポーツ オリジナル」には、村井さんが選んだスポーツブランドの洋服やリュックなどが並びます。中には、アイスホッケーの町・苫小牧らしく、スポーツウエアブランド「サッカージャンキー」が作った「アイスホッケージャンキー」のTシャツも販売。これは同店にしかない限定アイテムです。ちなみに、アイスホッケーのレッドイーグルス北海道の選手が買い物に寄ってくれることもあるそう。
スポーツウエアブランド「サッカージャンキー」が作った「アイスホッケージャンキー」のTシャツ。
「スポーツブランドのファッションアイテムは、機能性の高いものが多く、品質もいい。普段着として、オシャレに日常に取り入れてほしいと思っています」
メインのターゲットは、30、40代ですが、ファミリーで訪れる方たちも多く、子ども向けのアイテムも置いています。
「最近は3世代で来てくださる方や、遠方にいるお孫さんにプレゼントを贈りたいと立ち寄ってくださる方も。うちで買った服ならお孫さんが着てくれると言ってくださって...。うれしいですね」
期間限定ですが、現在は駅前のドン・キホーテの一角にもショップを出店。「面積が狭く、置ける商品も限られているのですが、こういう店があることを知ってもらい、こちらの本店にも足を運んでもらうきっかけになったらと思っています」と話します。
苫小牧には人気のキャンプ場もあり、アウトドア用品の需要が高まっていることから、店舗にはアウトドアグッズも。村井さんのイチオシは、「ピースパーク」というアウトドアギアブランドのソーラーライト。購入するには価格が...という人たちに向け、今年はこれらアウトドア用品のレンタルも始める予定だそう。
最後に、「自分の商売も頑張りながら、みんなで苫小牧を盛り上げていきたいですね」と、元気いっぱいの笑顔で語ってくれました。
- 株式会社Fifty Five Star(フィフティファイブスター)
- 住所
北海道苫小牧市王子町1丁目6番13号
- 電話
0144-84-1448