HOME>まちおこしレポート>「町民のおでかけ」を支えたい!役場と地元ハイヤー会社の想い

まちおこしレポート
安平町

「町民のおでかけ」を支えたい!役場と地元ハイヤー会社の想い20240315

「町民のおでかけ」を支えたい!役場と地元ハイヤー会社の想い

安平町は、安平、追分、早来、遠浅と4つの地区に分かれた広い町。子どもやお年寄りなどマイカーを持たない町民にとって、電車・バス・そしてハイヤーなどの公共交通が生活に欠かせません。ですが、現在安平町で営業するハイヤー会社は1社のみ。全国的なドライバー不足も他人事ではありません。

この地域交通の課題に対し、安平町や地元企業が協力して取り組みを行っていると聞き、早速取材へ伺うことにしました。

地域交通の課題解決のため、地域おこし協力隊の採用も

abirakyouryokutai_takahashisan7734.png


安平町政策推進課政策推進グループの主幹・高橋克年さんは、安平町が地域おこし協力隊の募集を始めた2014年から協力隊に関わってきた人物。町で困りごとが浮上するたびに、課題解決に力を貸してくれる人材を求め、募集をかけてきました。今回も町民の外出に関する課題をクリアするために「お出かけ円滑化支援員」を募集することになったそうです。

「町内にはたくさんの高齢者の方が暮らしています。若い頃は自分で車を運転して、買い物や病院通いなどができていた方たちも、自分で運転して外出するのが厳しくなっています。運転できる家族と同居していない方たちは、循環バス、デマンドバス、あとはハイヤーを利用して外出しています。バス停まで自力で行ける方はいいのですが、それも難しい方たちはハイヤーを利用するしかありません。ところが、早来地区を走っていた(有)早来ハイヤーが震災の影響で5年前に廃業して以来、早来地区の住民から困っているという意見が多く寄せられました。『ハイヤーは営利事業だし、個人が乗るものだから行政支援は適さない』といった町民の方々の認識がその頃から変わっていったように思っています。安平町の地域公共交通計画では、ハイヤーが観光やビジネスのみならず、暮らしの最後の足『移動のセーフティネット』をも担う公共交通として、しっかりと位置づけしているのもこうした背景があります」

abirakyouryokutai_kotsuleef0407.png安平町では町民のため様々な交通サービスや補助を実施していますがそれでも「まだ充分ではない」のだそう

町では、唯一のハイヤー会社である(有)追分ハイヤーを町民が利用した場合、乗車料金の半分を補助するシステムを設けているほか、町内を走る鉄道、路線バス、デマンドバス、ハイヤーで利用できるお得な共通回数乗車券も用意し、町民の外出サポートを行っています。

「それでもまだまだ充分とは言えません。そこで、地域おこし協力隊の制度を利用し、町民のお出かけ円滑化を図る任務に就いてもらおうとなりました」

このお出かけ円滑化支援員の面白いところは、単純にハイヤーのドライバーとして活躍してもらうだけではないという点。もし案があるならば、「お出かけを円滑にする」ためのアイデアを形にすることも可能なのだそう。

「もちろん、ドライバーとして活躍するだけでもOKです。しかし、最近話題のライドシェアを導入してみるなど、ローカルエリアの交通活性化のためのアイデアをお持ちの方がいれば、ぜひそれにもチャレンジしてもらいたいと考えています。地域の交通事業者らと連携して新しい形の移動手段やサービスを構築し、プレイングマネージャーとなって現状の課題を解決するというのも任務の中に組み入れています」

ドライバーとして活躍するか、地域交通を支えるためアイデアを生み出すか。「お出かけ円滑化支援員」の活躍が期待されます。

「困っている人を助けたい」デマンドバスで町内を巡るドライバーさん

abirakyoryokutai_watanabesmile9040.png


続いて、実際に安平町の交通状況を知るためドライバーさんが活躍する現場へ。現在、町民の足として活躍中のデマンドバスの運転手・渡辺次彦さんが実情を聞かせてくれました。

安平町在住の渡辺さんは元自衛官。定年後は震災復興で道外にしばらくいましたが、60歳のときに安平町へ戻ってきました。(有)追分ハイヤーでドライバーとして仕事をはじめ、2022年の11月から早来地区のデマンドバスを担当しています。

abirakyoryokutai_demandBus9434.png安平町内を移動する「町民の足」のひとつ、デマンドバス。ハイヤーと同じ普通二種免許で運転できます

デマンドバスは、町民の自宅と街中のバス停を結ぶ町民限定の予約制バス。通院や買い物など、地域内での移動に便利と多くの町民が利用しています。利用者の大半は高齢者で、毎日の利用者は平均15人。多いときは1日で25人の乗客がいたこともあるそう。運行時間は8時~17時で、8時~9時は前日までの予約ですが、9時以降は当日予約もOK。

「もともと運転は嫌いではないし、何か自分でも役に立てることがあればと思って。今、早来地区はハイヤーがないので、できるだけその分をカバーできればと考えています。買い物や通院での利用が多いですが、駅や鶴の湯温泉までというのもよくありますね」

デマンドバスはワゴン車で、大きなバスと違って会話のやり取りがしやすいため、渡辺さんは利用者の方たちに必ず話しかけるようにしているそう。

「一人暮らしの高齢者の方も多いので、利用者の方には話しかけています。私がベラベラしゃべるわけではありませんが、バスに乗っている間、少しでも利用者さんに話をして気分転換してもらえたらと思っています」

デマンドバスは乗り合いなので、利用者同士がおしゃべりを楽しんでいることもよくあるそうです。予約の時間や利用者の都合などで少し遠回りなる場合も、「いいかい?」と渡辺さんが尋ねると、皆さん快く「いいよー」と言ってくれるそう。バスの中が町民の温かなコミュニケーションの場になっているようです。

abirakyouryokutai_unten9304.png

「安平町内の道は複雑ではないし、交通量も少ないので走りやすいです。ドライバー経験のない方でもやりやすいと思います。とはいえ、いつも安全第一でハンドルを握っています。悪天候時は緊張しますね」

利用者の中には、塾帰りの子どもたちもいて、「みんなが賑やかにおしゃべりしているのを聞いているのも楽しいですね。ドライバーをしていなかったら町の未来を担う子どもたちと接点なんてなかったでしょうし」とニッコリ。本人は謙遜されますが、高橋さん曰く、穏やかで優しい渡辺さんは、高齢者の方はもちろん、子どもたちにも人気が高いそう。

実際、取材チームもデマンドバスに乗せていただきましたが、利用者の方たちが「本当に助かっている」「渡辺さんにはいつもお世話になって」とおっしゃっていたのが印象的でした。「これ食べて!」と買い物袋からお菓子を取り出し、下車する際に渡辺さんに渡す方もいて、本当に町民の方たちに支持されているのだなと分かりました。

昔から困っている人を助けたいという気持ちが強いタイプという渡辺さん。「もっと町民の方たちが利用しやすくできたらと考えています。デマンドバスは今のところ、利用できる範囲が決まっているので、早来と追分がもっと行き来できるようになったら...とか、季節労働で町に来ている外国人の方も利用できるようになったら...とかね」と話します。

以前、町内の知り合いが亡くなったけれど、お悔やみを伝えに行きたくても足がないので行けないと肩を落とす高齢者の方がいたそうで、「そういうのも叶えてあげたいなと思うんです」と渡辺さん。今回募集する地域おこし協力隊の「お出かけ円滑化支援員」の方たちからの新しいアイデアや企画で、こうした課題もクリアできればと話してくれました。

町唯一のハイヤー会社として、交通を支える

abirakyouryokutai_okawasan9597.png


次は、デマンドバスの運行を担い、追分地区でのハイヤー業を行っている森本組の及川峻介さんにお話を伺いました。本業である建設、土木、設備のほか、(有)追分ハイヤーも担当している及川さんは、以前くらしごとでも取材をさせていただいたことがあり(森本組のくらしごと記事はこちら)、町を引っ張り、町を盛り上げていってくれるのではとたくさんの人が期待している若者です。

「ハイヤーは公共インフラの一つだと考えています。安平のように高齢者が多い町では、病院や買い物に行く際の足が必要。バスだけではカバーできない部分をハイヤーが担っていると思います」と及川さん。

とはいえ、経営面で考えるとハイヤーの収支が厳しいのは事実。デマンドバス、ハイヤーのそれぞれの役割分担をはじめ、新しい町の交通インフラを整え、いい方向に向かっていければと考えているそう。

安平町で募集している「お出かけ円滑化支援員」が、着任してすぐにハイヤーやデマンドバスのドライバー業務、運行管理などを行う際に受け入れ先となるのも(有)追分ハイヤーです。

「お出かけ円滑化支援員の方が、僕たちでは思いつかないようなアイデアや企画を出してくれるといいですね。うちのハイヤー事業を残していくために、町や協力隊の方と一緒に町民の皆さんのためにできることをやっていきたいですね」

安平町出身の及川さんは道外の大学に進学し、卒業後に実家の跡を継ぐために戻ってきました。森本組の代表で及川さんの父親である定行さんが、町からの依頼に「収支はプラマイゼロに近いけれど、地域のため」と請け負ってきた様々な事業を、及川さんも同様に「地域のため」と次世代で継承していきたいと思っているそう。そのためには、これまで通りではなく、変えていかなければならない部分もあると思うと話します。ハイヤー事業もその一つだと考えているそう。

また、20代、30代の人が町に増えてほしいとも考えている及川さん。

「早来学園ができて、ファミリー層の移住者も増えているようですが、もっと町に活気が戻ればと思います。若い人が増えれば、ライドシェアに対応したりもできるのかなと思いますし」と話します。

どんな方に協力隊員として来ていただきたいかと尋ねると、

「できれば若い層が来てくれたら、僕個人としては嬉しいですけど(笑)、世の中が変革している時期だと思うので、変化に柔軟に対応できる方、好奇心旺盛で新しいことにチャレンジできる方がいいかな。いずれにしても協力隊で来てくださる方には期待しています」と話してくれました。

町と地元企業が懸命に支える「町民の足」。町外から移住してくる、地域おこし協力隊という新たな力への期待も高まっています。

安平町役場 政策推進課政策推進グループ
住所

北海道勇払郡安平町早来大町95番地

電話

0145-22-2751

URL

https://www.town.abira.lg.jp/


「町民のおでかけ」を支えたい!役場と地元ハイヤー会社の想い

この記事は2024年1月17日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。