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まちおこしレポート
上川町

上川のまちを照らす灯台に。生活観光の拠点「ANSHINDO」20240314

上川のまちを照らす灯台に。生活観光の拠点「ANSHINDO」

地域を盛り上げるため、たくさんの人に来てもらおうと観光に力を入れている市町村は数多くあります。かつて、観光地と言えば、観光バスが何台もやってくるような温泉やリゾート、テーマパーク、景勝地などを指しましたが、ここ数年は旅のスタイルも多様化。大型観光だけでなく、ニッチな部分にスポットを当てたもの、地域の人や暮らしを結びつけるようなものなど、観光の形も増えています。

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旭川市から東へ車で約1時間。今回の舞台である上川町には、多くの登山客が訪れる大雪山国立公園があり、道内屈指の層雲峡温泉、ガーデナーに人気の「大雪 森のガーデン」などがありますが、こうした大型観光エリアと市街地は20キロ以上の距離があるため、市街地に暮らす人たちに観光の恩恵はほとんどないという課題がありました。市街地にある古い薬局を改装し、2024年6月22日にグランドオープンする「ANSHINDO」は、まちの人の温かさを感じられる「生活観光」という新しいスタイルを可能にする複合施設。現在、内装工事中という「ANSHINDO」について、ここを運営するEFC inc.の代表取締役・絹張蝦夷丸さん、EFC inc.スタッフの中川春奈さん、千葉あさ美さんに話を伺いました。

anshindo_kurashigoto_20240229_19.jpg向かって左側が現在内装工事中の「ANSHINDO」

出合ってしまった、かわいい建物。壊されるくらいなら...がはじまり

まず、ANSHINDOの話の前に、EFC inc.について紹介しておきましょう。EFCとは、Earth Frends Campの略。2019年に地域おこし協力隊として上川町へやってきた絹張蝦夷丸さんが、任期終了後もこのまちで面白く暮らしていくための事業を行えるよう、「層雲峡ホステル」を運営している志水陽平さんと2021年に立ち上げた会社です。

anshindo_kurashigoto_20240229_9.jpg写真左が絹張蝦夷丸さん、写真右が志水陽平さん

EFCは、まちの交流スペースである公設民営の「PORTO」の運営をメインに、アウトドアイベントや地域のコミュニティ事業などを手がけています。「PORTO」のコンセプトは、「海のない、このまちの港」。コワーキングスペースもあり、まちの人や移住を考えている人など、さまざまな人や情報が集まる場所になっています。

「PORTO」をEFCで運営し、軌道に乗せてきた絹張さん。自身は2022年から「KINUBARI COFFEE ROASTERS」というコーヒーショップも運営しています。

「ちょうど、KINUBARI COFFEEの物件を町内で探していたとき、かわいい建物を見つけて、ここを買うか借りるかできないかなと考えていました。調べてみたら、銀行に差し押さえられている物件で、その時はどうしようもできず...。結局、近くに元美容室の建物があり、そこをKINUBARI COFFEEにしたんですが、実はそのかわいい建物というのがANSHINDOなんです」

KINUBARI COFFEEをはじめるタイミングで、差し押さえにあっていたANSHINDOの建物が競売にかけられると耳にします。

「このかわいい建物を購入した人が解体させてしまうかもしれないと思ったら、いてもたってもいられなくて、自分がここを買いたいと思って...。志水にこの建物で宿をやろうよと相談しました」

市街地で宿ができればという構想を持ってたこともあり、「とりあえず買っちゃおう!」と2022年の秋にEFCで購入します。

「本当は1年くらいかけてじっくり事業計画を立てる予定だったんですが、知人から市街地活性化の補助金が出るかもと聞き、締め切りまで1週間くらいしかない中で、書類を全部用意し、商工会と連名で申請を出しました」

anshindo_kurashigoto_20240229_6.jpg店舗のなかで発見した「安心堂」の看板

補助金の申請が通り、のんびりしている暇もなく、プロジェクトをスタート。

「ポルトが港だったので、港の次は『灯台だ!』となり、ANSHINDOのコンセプトは『まちを照らす灯台』に決めました。ANSHINDOという場所が、まちの人や上川を訪れた人にとって灯台のような存在になれたらと考えています」

想像以上の傷み具合。それでも、もともとあった古いものを生かしながら改装

ANSHINDOの建物は、もともと「安心堂薬局」という名の3階建てのビル。「安心堂」というネーミングをそのまま生かし、ANSHINDOとしました。築年数は60年ほど。空き家になる前は広い建物におじいさんが1人で暮らしていたそう。

anshindo_kurashigoto_20240229_22.jpgおじいさんの子どもの頃...か、どうかは分かりませんが、安心堂薬局の歴史を感じさせる一枚

「競売物件だったので先に中を見学することもできず、購入して初めて中に入ったんですが、長い間使っていなかった部屋が多く、想像以上にボロボロで...。しかも家具などがそのまま残っていたので、まずはそれらの撤去からはじめました」

不要なものを撤去しながらも、もともとあるものを生かした空間作りをしたいと考えていた絹張さんたち。かつて銀行の建物だったという「PORTO」も、美容室だったという絹張さんのコーヒーショップも、古材や廃材をたくさん用いてリノベーションしてきました。「これまでも空き店舗を改装した場作りをやってきたのですが、今回、エリアリノベーションについて勉強しようと思って、長野のリビルディングセンタージャパン(リビセン)の方を招いて講習会を開いたんです」と絹張さん。

anshindo_kurashigoto_20240229_38.pngリビセンの東野さんご夫妻をゲストに迎えて開催した講習会

エリアリノベーションとは、まちの小さな場所、建物単体からエリア全体をリノベーションしていくという考え方。そのまちに住む人たちのネットワークから生まれるとも言われています。まさに絹張さんたちが取り組んでいることです。

講習に来ていただいたというリビルディングセンタージャパン(リビセン)は、長野県諏訪市にある古材や古道具を販売する会社。取り壊しが決まった家や建物からまだ使えそうな建築資材を引き取り、それをきれいにしてリサイクル。また、古材を使用した空間デザインなども手掛けています。

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「これがきっかけで、リビセンにデザインをお願いすることにしました。ANSHINDOは、リビセンが北海道で初めて設計する空間なんですよ。そして、施工は長沼町の大工・yomogiyaさんにお願いしました。僕個人としては、この贅沢な組み合わせにめっちゃテンション上がりましたね」

長沼町のyomogiyaといえば、道内の古民家店舗や古材を用いた小屋などを数多く手がけ、ファンも多い大工さん。全国的にも知られるリビセンとyomogiyaが関わるとなれば、絹張さんが興奮するのも理解できます。

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テンションが上がる部分もありますが、楽しいことばかりではありません。予算の都合もあり、すべての作業を外注できるわけではないため、絹張さんたちも大工仕事に取り組んでいます。「2、3階は作業が終わっているんですが、まだ1階の作業が残っていて、この2週間ずっと壁を塗っています」と笑います。

3階建ての建物に入るのは、シェアオフィス、宿、雑貨を扱うショップ

さて、そのANSHINDOの全貌ですが、3階には会員制のシェアオフィスを設けます。2018年から行われている「KAMIKAWORK PROJECT」という地方創生事業をきっかけに、まちで新たに創業する人や若い移住者による事業継承などが進み、今年新たに開業する会社が既にシェアオフィスを利用することになっているそう。

2階は宿。客室は4部屋で、最大10人が泊まれるようになっています。暮らすような感覚で滞在してもらえたらと考えているそうです。

そして、1階は雑貨などを扱うショップを予定。ここをメインで担当するのが、EFCスタッフの中川春奈さんと千葉あさ美さんの2人です。

1階のショップについて、「ただ雑貨を並べるのではなく、上川での暮らしを楽しんでもらえるショップにしたいと考えています。上川は道の駅がないので、上川町や周辺町村のものを置くなど、そのモノを作った作り手さんの想いも合わせて訪れた方たちに伝えたいですね。また、町外から訪れた方たちには上川のいいところを伝えられるような場所にしたいですね」と中川さん。

anshindo_kurashigoto_20240229_13.jpgANSHINDOの1階を担う中川さん(写真左)と千葉さん(写真右)

スタッフの1人は元看護師。まちの人たちに寄り添って仕事をしていきたい

ANSHINDOの1階を任されている中川さんは、札幌出身。地元で看護師としてバリバリ仕事をしていましたが、30歳になったタイミングで、ふとこれからの人生について考えてみようと思ったそう。

「違う場所で違う働き方をしてみたいと、ためしに1週間有休を取って、層雲峡ホステルでヘルパーのボランティアをさせてもらったんです。それで、EFCも知っていて、面白そうだな、関わってみたいなと思いました」

anshindo_kurashigoto_20240229_17.jpg人に伴走できるような生き方がしたかったという中川さん

勢いで上川移住を決めようとした中川さんに、絹張さんが「自分の想いや考えを交えながら、家を見つけるまでの移住検討日記みたいな記事を月1本ずつ書いたら?」と提案。中川さんは、EFCの「くらすように遊ぶマガジン」に、「なんとなく調子が良いから移住を考えてみた」という記事を書き始めます。

「記事を書くために上川へ来ることが増え、書くことで自分の中の気持ちや考えの整理ができました」

2023年4月に移住をし、現在はPORTOの運営に関わりながら、ANSHINDOプロジェクトにも携わっています。

「看護師のときも人に寄り添って仕事をしていましたが、それは体のケアがメインでした。でも、PORTOに集まるまちの人たちと話をしていると、話をすることで心を寄せることができるのだなと感じています。人と人の繋がりを大切にしていきたいなと思います」

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層雲峡ホステルを経て仲間に。宿泊に関することが得意なもう1人のスタッフ

ANSHINDOプロジェクトに関わり、1階部分を担当するもう1人のスタッフ千葉さん。千葉さんは釧路生まれですが、父親が転勤族だったため、各地で暮らします。東京の大学へ進学後、5年ほど東京で働きますが、「やりたいことをやるにしても別に東京である必要はないかな」と思い、東京以外の場所へ移ることを検討。

「海外でも良かったし、全国どこでも良かったんです。ただ、生まれが釧路だったし、姉が先に北海道へ移住していたこともあり、あるとき、北海道の移住フェアに参加してみたんです。そこで、たまたま上川町のブースが出ていたんです」

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そのとき千葉さんが興味を持ったのは、ブースに置いてあった「層雲峡ホステル」のことが書かれた記事。それがきっかけで、夏の間だけ「層雲峡ホステル」のスタッフとして働きはじめます。

冬になると別のまちの宿泊施設で働いたり、販売員のアルバイトをしたり、実家へ帰ったり、「夏に全力で頑張って働くという感じでした」と笑います。

「層雲峡ホステルが居心地良くて、結局4シーズン連続で夏の間、働いていました。宿泊業の仕事も自分に向いているなと感じていましたし。それで、昨年のシーズン終わりに、上川に住もう!と思ってEFCに参加させてもらいました。ちょうどANSHINDOがはじまると聞いて、おもしろそうだなと。宿もあるので、自分の得意なところを生かせるかなと思いました」

anshindo_kurashigoto_20240229_12.jpg商品を買って終わりではなく、作り手の想いも伝えられる雑貨店を目指して

さらに、雑貨屋巡りなども好きという千葉さん、1階のショップで雑貨などを扱うと聞き、「雑貨屋をやりたかったわけではないけれど、ほかの誰かがやるのはちょっと寂しいなと...(笑)。それで自分がやろう!と思って」と笑います。

まちの人との出会いのきっかけに。イラスト入りの楽しいまち歩きMAP

「そうそう、まち歩きのMAPを作ったんです」と絹張さん。イラストがたくさん描かれたMAPには、上川の市街地の店の紹介が載っています。店の人の似顔絵や小ネタが描かれていて、見ているだけでも楽しい気持ちになります。

anshindo_kurashigoto_20240229_27.jpgこのまちに訪れた人が、たくさんの想い出と友達が作れるように「まちあるきマップ」を作成

「地方に行ったとき、そのまちのローカルな店に行ってみたいと思っても、入りにくいじゃないですか。もし店に入れたとしても、誰か知り合いが一緒か、誰かの紹介がないと店の人とも話にくいですよね。この間、ちょうど札幌から大学生が4人来たから、地元のスナックに連れていったんですよ。ローカルなスナックなんて入ったことがないって大学生も喜んでくれるし、スナックの人もわざわざ来てくれたことを喜んでくれて。こういう地域の暮らしに沿った観光の形もありだなと」

anshindo_kurashigoto_20240229_7.jpgまちあるきマップにも登場しているお菓子屋さんのおかあさん

ANSHINDOの宿がスタートしたら、泊まってくれた人をスタッフが連れてまち歩きし、まちの店や人と繋いでいきたいと考えているそう。「もしスタッフがいなくても、このMAPを片手にまちを歩いてもらい、MAPをきっかけにまちの人と会話をしてもらえたら」と絹張さん。まちの人たちも、MAPを手に訪れてくれる人が増えることに期待しているそうです。

「大型の観光地を訪れた思い出もいいけれど、こういうローカルな場所で出会った人やローカルな場所での経験って、すごくおもしろいし、いい思い出になると思うんです。そして、また訪れたいと思ってもらえたらうれしい」

まちの人といかに仲良くなれるか、そのまちに友達をどれだけ増やすか。絹張さんが考える「生活観光」の拠点が、まちを照らす灯台・ANSHINDOというわけです。

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「ここだからできる」を形にし、継続させることが結果としてまちのためになる

ANSHINDOは2024年3月にプレオープン。まずはシェアオフィスと宿を先にスタートさせ、グランドオープンは6月22日を予定しています。

「この日にローカルキャリアサミットを開催しようと話しているんです。ちょうど上川町のまち全体を会場にしたイベントを行う日なので、そこに合わせてオープンしたいと考えています」と絹張さん。

今は、6月の全体オープンを目指し、大工作業の日々。「私たちも手探りですが、こういう機会はなかなかないから、楽しんでやっています」と中川さん。千葉さんも「最初はヤバいと思いました(笑)。力仕事も辛かったし。でも、毎日少しずつでき上がっていく様子を見て、自分の働く場所を自分で作る経験ってそうあるものじゃないなと感じています。分からないことだらけですが、それもひっくるめて楽しんでます」と笑います。

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「ここ数カ月で、EFCの会社のビジョンを考えていたんです。それで出てきたのが、『ここだからできる』という言葉。これまでは、ここにいてもできないと思うからまちを出て行く人が多かったと思うんですが、そうではなく、意外とここでもできるということを見せていきたいし、ここで挑戦したいという人を応援したいと思います。人のつながりや応援し合える関係性などもひっくるめて、『ここだからできる』を形にしていきたいですね」と絹張さん。

そのひとつがANSHINDO。まちにある古い空き家物件をリノベーションしたり、資金調達のためのクラファンをしたり、まちの人たちとの繋がりを生むためのきっかけを作ったり...。絹張さんたちが経験してきたことを伝え、希望があればサポートもしていきたいとのこと。実は、地域おこし協力隊クラウドファンディングの2023アワードで「空き家活用部門賞」、CAMPFIREのアワードで「地域のみんなを喜ばせた賞」に選ばれ、CAMPFIREに関しては企画から集客までをサポートする公式キュレーションパートナーにもなったそう。

anshindo_kurashigoto_20240229_1.jpgこれまでの安心堂も、これからのANSHINDOも。変わらずまちの人に愛される拠点に

「一過性で終わるのではなく、続けていくことが大事。それがまちやまちに暮らす人たちのためになるから」と絹張さん。まちの灯台であるANSHINDOが、たくさんの人たちに長く愛される拠点として成長していくのが楽しみです。

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ANSHINDO
Earth Friends Camp Inc.
住所

北海道上川郡上川町南町1033

URL

https://www.instagram.com/anshindo_kamikawa/

お問い合わせは右記メールアドレスへ anshindo.kamikawa@gmail.com


上川のまちを照らす灯台に。生活観光の拠点「ANSHINDO」

この記事は2024年2月16日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。