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まちおこしレポート
旭川市

旭川家具の拠点・ADCがリニューアル。担当者はいつも笑顔の関西人20230621

旭川家具の拠点・ADCがリニューアル。担当者はいつも笑顔の関西人

日本の家具の5大産地のひとつ・北海道旭川市。豊かな森を有し、木材会社も数多く、家具作りに適した環境が整っている地域です。受け継がれてきた技術、そしてデザイン性の高さが旭川家具の特徴。その魅力に触れられるのが、国道39号沿いにある「旭川デザインセンター」(ADC)です。旭川や近郊の町で木工や家具を製造するメーカー約30社の常設ブースが入っています。この春、新たな産業観光の拠点になるべく、一部をリニューアルし、2023年6月17日にグランドオープンしました。今回は、このリニューアルをメインで担当した同センターのマネージャー・坂本庸司さんに、センター内を案内してもらいました。また、坂本さんは関西から旭川のとなりまちである東川町へ移住してきたということで、移住にまつわる話も合わせて伺いました。

ADC_19.JPG黒を基調とした雰囲気のある建物が旭川デザインセンターです

旭川家具の歴史や技術、デザインのことが分かるADCミュージアム

黒い外観の建物の中に入ると、吹き抜けの真ん中に螺旋階段があり、洗練された雰囲気が漂います。奥はギャラリーになっていて、左手にはガラス張りの体験スペースが見えます。今回のリニューアルで新たにできたのが、「ADCラボ」「ADCミュージアム」「ADCセレクション」。まずは2階に案内してもらい、坂本さんの解説付きで「ADCミュージアム」を見学することに。

ADC_5.JPG中に入ると、まるで美術館に来たような気持ちになります!

ミュージアムでは、旭川家具の歴史や技術、デザインなどを知ることができます。旭川で3年に一度開催される「国際家具デザインコンペティション旭川」(IFDA)の過去の受賞作品や、旭川家具の歴代のイスがズラリと展示されており、見応えたっぷり。また、組み立てられる前のイスのパーツが順に並んでいる様子は、イスがこうやってできているとは!と、なかなか興味深いものがあります。

「旭川家具の強みは3つ。良質な木を育む自然環境、職人の高い技術力、そしてデザインです」

2019年、旭川は世界で43あるユネスコのデザイン都市のひとつに認定されました。旭川がデザインの町と認識されるようになったのには、旭川家具の歴史とも大きく関係しているそう。ミュージアムの奥で流している映像を見ながら、旭川家具の歩みを学びます。

ADC_15.JPGこちらが新設された「ADCミュージアム」

旭川家具とデザイン。その歴史を知ると、先人たちの努力が見えてくる

大雪山のふもとに良質な広葉樹の森が広がる旭川では、昔から林業が営まれてきました。家具産業が始まったのは明治時代。旭川に陸軍第7師団が置かれると、軍で使うものをはじめ、人々が暮らすための家や家具が必要となり、多くの大工や建具職人が本州から移り住みました。戦後も豊富な森林資源を活かし、職人たちの手で家具作りが行われてきました。

60~70年代、旭川家具は婚礼タンスの産地として全国的に知られるようになりますが、ライフスタイルの変化とともに婚礼タンス(箱もの)の需要は減っていきます。1963年に旭川市からドイツへ派遣された家具職人の長原實氏は、道産のミズナラがドイツでデザイン性の高い家具になり、世界中に高級家具として販売されているのを見て、これからは技術力に加えてデザインも重要だと衝撃を受けます。帰国後、のちに旭川を代表する家具メーカーとなるカンディハウスを設立。地域全体で箱もの家具からの脱却を図り、イスなど脚もの家具へシフトチェンジしようと促し、デザイン力の向上にも力を入れ、旭川家具全体をけん引してきました。それに応え、各メーカーの職人たちも良質な素材、高い技術力を生かすため、デザイン力をアップさせようと切磋琢磨し続けてきました。

ADC_10.JPG旭川家具の歴史をパネルと動画で学ぶことができます

「1990年から国際家具デザインコンペティション旭川(IFDA)をスタートさせたのも、旭川家具のデザイン力を上げるという目的からでした。IFDAも12回目を迎えます。毎回、世界中から応募があり、過去の受賞作などは実際に旭川家具として製品化もされています」

そうした活動が旭川家具のデザイン性を向上。旭川はデザインの町として、国内はもちろん、海外からも注目されるようになり、ユネスコのデザイン都市に認定されます。歴史を知った上で、ミュージアムに展示されている過去のイスやIFDAの受賞作品を見ると、感慨深いものがあります。

ADC_14.JPG通路の両方の棚にレイアウトされたIFDAの受賞作品

木工体験ができるADCラボ、ショッピングが楽しめるADCセレクション

ミュージアムを堪能したあとは、1階のADCラボへ。壁には、昔実際に使われていたカンナやノコギリなどが飾られています。

「ここでは、木工体験ができます。まだ手探りなところもありますが、各家具メーカーや工房の方に講師になっていただき、スプーンやトレーを作ったり、キットを組み立てたりします。旭川の人や子どもたちには地域の産業に親しんでもらう場として、観光客の方には思い出作りにご利用いただければと思います」

旭川家具の職人たちの技術の高さは全国でもトップクラス。毎年、若手職人たちが技能五輪全国大会で素晴らしい成績を収めています。次世代の育成も進んでおり、メーカーの垣根を越え、旭川全体で更なる発展を目指そうと、2022年からは旭川家具のナンバー1職人を決定する「旭川木工技能競技大会」も開催しているそう。そんな高い技術力を誇る旭川家具の職人の方たちに木工体験の指導をしてもらえるなんて、とても贅沢です。

次に、ギャラリーの横にある「ADCセレクション」へ。ここは、お土産にぴったりなクラフト作品やオリジナル製品が並ぶミュージアムショップのようなスペース。木の器やコースター、トレー、時計、オブジェなど、多彩なアイテムが並びます。旭川や近郊の町で活動している木工作家をたくさんの人に知ってもらう場にもなればと考えているそうです。

「各メーカーのブランドブースに展示してある家具は販売も行っています。しかし、観光で立ち寄られた方でいきなり家具の購入は難しいと思うので、家具を見ていただいたあとに、ここで持ち帰りがしやすいサイズの木工クラフトをお土産として手に取っていただけたらと思います」

滑らかなトークで和ませてくれる関西出身のマネージャー

ひと通り見せていただいたあと、坂本さん自身のお話を伺うことに。案内中の坂本さんのよどみない説明に感心していると、「しゃべるのが大好きなんです。若い頃、アパレルショップで6時間しゃべり続けたことがあって。お店の人にとってはいい迷惑ですよね」と笑います。話が上手なので、つい聞き入ってしまい、時間が経つのを忘れてしまうのも分かります。

兵庫県の加古川出身の坂本さん。神戸高専へ進学しますが、卒業したらエンジニアになるという決まったコースに対して反発心があったそうで、卒業後はまったく異業種の大手製薬会社の工場で生産管理の仕事に就きます。

ADC_8.JPG高専でものづくりの基本も学んだ経験のある坂本さん

「このとき、労働組合にも携わっていたのですが、この頃に培った調整力はココで役に立っています」

旭川デザインセンターは、旭川家具工業協同組合が運営している全国でも珍しい施設。組合には、41の組合員・団体が加盟しています。皆さん仲はいいそうですが、それでも何かをやるとなると、いろいろな調整ごとは発生します。そんなときに坂本さんの調整力が発揮されるそう。

移住のきっかけは妻。住んでみたい町に出会えたのがうれしい

さて、東川町への移住はどういう経緯で決まったのでしょうか。

「妻がもともと東川町のまちづくりのプロモーションの仕事をしていて、付き合っていた頃から、すごくいいところだといつも東川町の話を聞かされていました。いつか関西を出て移住してみたいなという思いはあったので、結婚のタイミングで東川町へ移住することにしました」

奥さまは何度も東川町を訪れていましたが、坂本さんが移住前に訪れたのは夏と冬の2回だけ。

「たった2回?と思われるかもしれませんが、2回訪れてまったくマイナス面がなかったんです。むしろ、住んでみたい町に出会えた喜びのほうが大きかったですね。周りからも心配はされたのですが、基本的に楽観主義者なので(笑)」

ADC_3.JPG東川町は旭川市の中心部から車で30分ほどの距離にあります

関西人らしい人懐っこさと、持ち前のコミュニケーション能力の高さで、すぐに地元の人とも仲良くなった坂本さん。「こういう物件があるけど」と中古の戸建てを紹介されます。理想的な物件だったため、即購入。半年近くかけて、DIYでリフォームをします。

「天井も床も自分たちで直しました。もう、楽しくて仕方なかったですね」

キッチンを直している際、扉の部分をどうするかで悩んでいると、旭川デザインセンターでキッチンの展示をやっていると知人から教えてもらいます。そこで、初めてセンターを訪れます。

「最先端のデザインの家具が並び、洗練された雰囲気がステキだなと思いました。もともと高専でものづくりを学んでいたので、センターに展示されている旭川家具がいかに素晴らしいものかというのもよく分かりました」

組合が運営しているということを聞き、ここなら自分の力が生かせるのではないかと思った坂本さんは、すぐに採用募集をしていないか確認。すると、ちょうど10年ぶりにセンターで求人を出したばかりだったそうで、トントンと話は進み、2021年2月から勤務しています。

ADC_12.JPG関西弁が一切出ない坂本さんでしたが、「仕事中ですからね、全然でますよ!」と笑います

旭川家具の魅力を、国内外問わずもっとたくさんの人に伝えたい

センターをリニューアルすることになり、全体の施工管理や進行を任された坂本さんは、「製薬会社の工場で生産管理をしていた経験がここでもまた役立ちました。移住するまでの経験は、すべてここで活用するためのものだったみたいですよね」とニッコリ。

「あさひかわデザインウィーク」の期間中に行われる産地展「Meet up Furniture Asahikawa2023」のエキシビジョン会場にもなる旭川デザインセンター。国内外のバイヤーや家具、インテリア関係者が多数来場します。グランドオープンもあって、忙しい日が続くのは必至。とはいえ、笑顔を絶やさない坂本さんはその忙しさも楽しんでいるように見えます。

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「毎日楽しいですよ。プライベートも充実しているし、仕事でも志の高い魅力的な職人さんや作家さんたちと関わらせてもらい、日々刺激をもらっています。家具もデザインもまだまだ勉強中の身ですが、旭川家具の魅力をもっと発信し、国内だけでなく海外の方にもたくさん知ってもらいたいですね」

身長が高く、体の大きな坂本さんですが、物腰が柔らかくて親しみやすく、ほかの職員の方たちとも楽しそうに話している様子が印象的でした。日々を楽しみながら、これから旭川家具の発展のためにますます活躍してくれそうです。

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旭川デザインセンター
旭川デザインセンター
住所

北海道旭川市永山2条10丁目1-35

電話

0166-48-4135

URL

https://asahikawadesign.com/

営業時間 10:00〜17:00
定休日​ 毎週火曜日(祝日除く)、年末、年始、お盆


旭川家具の拠点・ADCがリニューアル。担当者はいつも笑顔の関西人

この記事は2023年6月2日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。