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まちおこしレポート
札幌市

「大札新(ダイサッシン)」─札幌の再開発最前線。20230530

「大札新(ダイサッシン)」─札幌の再開発最前線。

札幌市中心部ではビルの新築や建て替え工事といった大規模な再開発事業が進行中です。環境問題を考えたゼロカーボンの施策に則るだけでなく、災害に強い建物・まちづくりを行っているのが特徴。

この再開発事業で生み出される多くのオフィス用スペースに、官民一体となって道外から企業を誘致するため、札幌市が掲げたスローガンが「大札新(ダイサッシン)」です。
秋元市長が「2030年、札幌が大きく、新しく、変わります」とYouTube動画でもアピールしています。

「大札新パートナーズ」に関する情報と動画についてはコチラ

札幌中心部では、再開発により今後オフィス用フロアの延床面積が格段に増える予定です。札幌市役所では、IT業界を中心とした企業の誘致に力を入れていて、オフィスや働く人を増やすことを通じて、経済が大きく発展し、まちの一層のにぎわいを創出していく構想を進めています。

この「大札新」の中身について詳しくお聞きしようと、札幌市役所の経済観光局にお伺いしました。

再開発プロジェクトで広く好立地なオフィススペースの大量供給が可能に

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迎えてくれたのは、産業立地・戦略推進課長の納 真悟(おさめ・しんご)さんと、同課 立地促進係長の北舘 絢子(きただて・あやこ)さんです。

「まずは、このロゴマークを見てください」と納課長。「大札新の『札』が、ビルの形になっています。今、まさに進められている再開発で、新たに多くのオフィス用スペースが拡大していく予定です。そこで、官民一体となって札幌市に道外からの企業を誘致しようという、そのためのスローガンが『大札新(ダイサッシン)』です」

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全国の3万人を対象に、ブランド総合研究所が行った「地域ブランド調査2022」によれば、全国の中でも札幌市は「魅力度」「観光したいまち」ともに第1位。「住みたいまち」としても人気で、首都圏から移住してきた人は「長時間の通勤ラッシュに悩まされることがないし、食べ物がおいしくて、自然も豊かで...」と、口々にその魅力を語ります。北舘さんのように、地元の生まれ育ちでも「札幌が大好き!離れたくない!」と言う人が多いまちなのです。

それなのに、これまでの企業誘致の活動では「札幌のオフィスビルは古くて狭い」と言われてしまうことが多かったのだとか。北舘さんによれば、ある大企業が札幌への進出を検討したところ、広い面積のオフィスフロアが見つからず立ち消えになってしまった話もあるそうです。

それは、なんとも、もったいない...。

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「札幌が大都市に発展したきっかけは、1972年に開催された国際的なスポーツの祭典に合わせて大規模開発やインフラ整備が行われたことでした。しかし、そこから50年たった今では、建物の老朽化、供給オフィス面積の狭さがネックになっていたんですよね」と納課長は語ります。

「北海道新幹線の札幌延伸などを機に、まちの機能を強化しようという機運が高まり、大規模な再開発が中心部で行われています。2020年から2030年の10年間で札幌ドーム5個分以上のオフィス面積が新しく供給される見込みで、札幌が大きく成長するチャンスなんですよ」

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コロナの影響で仕事のリモート化が加速した現在、首都圏から地方に移転、進出する企業が増えています。しかし、残念ながら札幌で進んでいる再開発事業があまり知られていないことが問題だったそう。

「そこで『札幌が、大きく、新しく、変わる』ことを首都圏の企業さんに知っていただくため、札幌市では、ちょうど市制100年に当たる昨年度から、官民が一体となって主に首都圏でPR活動を行っていく『大札新(ダイサッシン)』プロジェクトをはじめました」

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「初年度である2022年には、認知度アップのためにJR品川駅のデジタルサイネージにCMを打ったほか、新聞や新幹線の車内誌にも広告を掲載しました」と、北海道に住んでいる人にとっては、その活動ぶりがわからないことも、いろいろと納課長が教えてくれます。

また、東京で開催した2回のビジネスセミナーでは、札幌の経済情勢や企業立地のメリットを紹介。札幌に進出されたITソリューション大手のアクセンチュア(株)さんや、ゲーム開発大手の(株)セガさんの社長を招いて札幌進出のメリットを語ってもらい、多くの参加企業や個人のみなさまから好感触を得たそうです。

札幌圏の豊富な人材資源を生かした企業誘致

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首都圏の企業さんにとって、札幌に進出するメリットはどんなものがあるのでしょう?

問い合わせに応じている係長の北舘さんが話します。

「きっかけは札幌市に企業が進出した際の補助金についてのお問い合わせだったりもしますが、まず多くの企業さんが気にしていらっしゃるのは、補助金よりも『札幌で人材を十分に確保できるかどうか』ということですね。東京では人材の採用難が問題になっていますが、札幌市は人口197万、札幌圏として広域まで通勤できる範囲として広げれば、人口250万と豊富な人材がいること、若年層も多いので、むしろ人材採用の面で札幌進出はメリットになるのでは?とお伝えしています。業種によっては札幌だけでなく周りの石狩市や北広島市、恵庭市といった近隣地域のことも注目してもらえるような動きもしていて、周辺の市町村に立地した場合であっても札幌市からも補助金を出す制度があるんですよ」

現在は、IT関係の業種からの相談が多くなっていて、IT産業が強い札幌にとっては有利とも説明をされます。

「IT・コンテンツ系の大学や専門学校が数多くあるため、新卒者を採用しやすいのも強みです。また、札幌に多いコールセンターは、女性比率の高い地域であることもメリットとしてとらえてくださっています」

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具体的には、どのように対応しているのかもうかがってみます。

「例えば、IT企業の方から『札幌にIT系の専門学校があるか』とお尋ねがあればご紹介をしますし、さらに『学校へ行きたい、現地視察をしたい』とご希望があれば私たちがご案内させていただきます。大学や専門学校はもちろん、コールセンターであれば地元求人メディアや人材紹介会社をご案内したりと、ご要望はさまざまですね」

いわば企業誘致のコンシェルジュ、または伴走者として個別に対応を行ってくれるのは、企業側にとってもありがたいことに違いありません。また、北海道に、地元に残りたいと考えている学生さんにとっても、就職で首都圏に出なくても魅力的な企業が札幌にあれば、ここに住み続ける選択ができるというのは、素敵な未来につながるのではないでしょうか。

札幌転勤に不安を感じる社員へのサポートも

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この4月に産業立地・戦略推進課の係長として異動してきた北舘さんですが、実は以前にも同課で企業誘致を担当していました。2014年、札幌に第二本社を開設したグローバル企業のアクサ生命さんの誘致にも深く関わっています。

アクサ生命さんが第二本社を設置するプランを立てたきっかけは、2011年に起こった東日本大震災でした。首都圏の大企業はBCP(事業継続計画)、つまり、大きな災害などが起こったときに、ビジネスをどのように継続していくかという課題をより強く持つようになったのです。

アクサ生命さんでは「首都直下地震など大きな災害が起こり、本社が被災して機能しなくなれば、保険金の支払いに支障が生じてお客さまに迷惑が掛かる」と、実際に起きてしまった大きな地震により、会社としての存在意義を改めて実感。そこでリスクを分散するために、本社を分割して東京以外の都市に置くことを考えたといいます。

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たくさんの候補から札幌市が選ばれたのは、地震や台風の自然災害が少ないこと、都市基盤がしっかりとしていること、人材が豊富であることなどが挙げられます。その一方で、札幌への本社機能の移転では社員の転勤も必要となり、「会社が決めたことだから」という理由だけでは、働く社員には納得が得られない場合もあります。

特に、社員のみなさんからは北海道での生活面での不安があったということから、北舘さんたちはアクサ生命さんのスタッフに対して、札幌での暮らしと魅力を盛り込んだメルマガを発信するお手伝いに手をあげます。札幌に進出することや、北海道での生活にワクワクしてもらうことを願って。

sapporoshiyakusho004.jpg札幌市手稲区にあるスキー場の山頂からの冬の風景(くらしごと編集部スタッフ撮影)

首都圏に比べて通勤時間が短くなること、首都圏よりも断然安い家賃の相場や、雪降る冬場の生活や休日の過ごし方など、主に札幌での暮らしの情報を提供。「企業誘致チームのメンバーで順番に配信しました。北海道はこんな楽しみがあるとか、子どもを持つ職員であれば『うちの子はこんな遊びをしている』といった、生の声をお届けしたんです」

このようなサポートもあって、アクサ生命さんからは「札幌市は、東京からの転勤者への配慮をしてくれた」と感謝の言葉をいただいたのだとか。納課長は「アクサ生命さんにはとても札幌を気に入っていただけたようでして、現在はすすきののすぐそばにある地下鉄中島公園駅付近に、アクサグループさんがオフィス機能とラグジュアリーホテルからなる複合ビルを建築しているんですよ」と、うれしそうにお話しされました。また他にも生命保険関係では、アフラックさんも札幌に本社機能の一部としてIT部門を移転しているそうです。私たちが知らないだけで、大手企業がどんどん札幌に来ていることに驚かされます。

製造業が少ない札幌、先駆けて誘致したITやコールセンターが大きな産業に

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ところで、企業向けの補助金を見ていくと、IT・バイオ関連やコールセンターに特化したものがあります。尋ねてみると、それらの業種に対して札幌市が誘致・育成に取り組んできた歴史がありました。納課長が説明します。

札幌市では1986年、厚別区に「札幌テクノパーク」を造成し、全国に先駆けて情報通信関連の企業の集積を図っています。「昭和の終わりごろですね。パソコン、じゃなくてマイコンと言っていた時代ですから」と笑う納課長。その2年後には「第2テクノパーク」も造成し、全国でも先駆的なIT関連企業の集積拠点として札幌市は発展してきました。

いまでこそ、IT業界は日本でも核となる業種ですが、なぜ札幌市はいち早く誘致を行ったのでしょうか?

「札幌って、製造業が少ない都市なんですよね」と納課長は言います。「昭和の産業といえば製造業、それも鉄鋼や造船、工業プラントなどの重化学工業が強い時代でした。一方で、製造業は少ないけれども、札幌には北海道大学などの高等教育機関が多く『知の集積・人材』があったわけですよ。そこで、理系の方々の就職口という位置づけとして、製造業の代わりにIT産業の誘致に力を入れていきました」

なるほど、IT先進地である札幌市のルーツは、ここから始まっていたんですね。

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また、札幌市はコールセンターの集積地として全国トップクラスですが、これも札幌市の積極的な誘致活動が実を結んだもの。

「きっかけは、札幌の不景気です」

「たくぎん」と呼ばれた北海道拓殖銀行が1997年に経営破たんするなど、バブル期以降不景気に陥った札幌で「なんとか雇用を増やそうと、2000年からコールセンターを誘致するために全国に先駆けて施策を進めてきました」

札幌市は若年層や女性などの人材が豊富なこと、なまりが少ないことから誘致に成功。コールセンターという業界自体が発展してきたこともあって、現在では約4.6万人と大きな雇用を生み出しています。2022年には大手の(株)ベルシステム24が第二本社を開設されたそうです。

観光や食べ物だけじゃない、ビジネス都市としての札幌に

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10年後は150社を誘致するという目標に向けて「もっと、どんどんやっていきますよ!」と意気込みを見せるお二人。北舘さんはこう話します。

「6年ぶりに『大札新』というタイミングでこの部署に戻ってきて、私自身とても楽しみにしているんです。アクサ生命さんのような大手企業から、スタートアップのような形でユニークなことを手掛けている企業さんにもたくさん来ていただいて、札幌といえば食べ物や観光というだけでなく『ビジネスのまち』としても知られるように、私たちも活動していきたいと思っています」

企業誘致でもコミュニケーションが大切!

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取材先は札幌市役所ということで、少々襟を正してお伺いしましたが、お二人のカジュアルで楽しい語り口に終始笑いが絶えなかったインタビュー。気さくで明るい納課長と、係長の北舘さんに、少しプライベートについてもお聞きしてみました。

納課長は旭川市出身で小樽商科大学に進みます。「私、学生の時は税理士になりたかったんですよ、名前が『納(おさめ)』だから」とニヤリ。えーっ、本当ですか?と返せば真顔で「本当です」と答えた後、またもニヤリ。冗談なのかなと思ったのですが、本当に本当だそう(笑)。「でも、大学で学んだら、税理士は自分に合わないなと思って進路としては断念。それなのに市役所に新卒入職して、初めて配属されたのが課税課でした(笑)。もう、どうせなら納税課だったら良かったんですけど〜なんて(笑)」と、まるでネタのような経歴を語ってくれます。

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安定して成長が見込める職場をと、札幌市役所に就職してからは「なぜか企画の仕事をすることが多くて」...と、2014年は札幌国際芸術祭の担当として坂本龍一さんとお会いしたお話しなども語られました。可愛がっていた3人のお子さんも成長し、いまの趣味はロードバイクで「普通に100kmは走りますよ。道北の日本海側にある初山別(しょさんべつ)村から最北の稚内市までとか」。

自転車で100kmとは、なんというバイタリティ!札幌からバスで初山別に行って一泊した後に走るそうで、札幌市は道内のアクセスが豊富で便利なところが気に入っているそうです。

「でも、やはりラーメンはしょうゆ味で旭川の山頭火!ジンギスカンは焼いてからタレに付ける『後付け派』じゃなくて、タレに漬け込んでから焼く『味付け派』の松尾ジンギスカンですね!」と、札幌だけでなくご出身の旭川から北海道のソウルフードまでPRも忘れません。

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係長の北舘さんは、生まれも育ちも生粋の札幌っ子。

「このまちが大好きで、ずっと住んでいたいです」と笑顔で話します。趣味はご夫妻、友人と行くキャンプや登山。ちなみに、進学した北海道大学では法学部を専攻されていて、その理由を尋ねたところ「高校生の時にキムタクが大好きで、ドラマで演じていた検察官になりたいと思ったんです」

それが、なぜ札幌市役所に?

「法律を深く学ぶことが、私はあまり得意ではないことに気づいたんですよね...」。北舘さん、あなたもですか!と、納課長に続いて、同じようなお話に驚きます(笑)。地元に住み続けていられて、大好きな札幌に貢献できる仕事をと、札幌市役所に就職したのだそうです。

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そんなお二人は「この仕事はコミュニケーションが大事!」と声を揃えます。

「いろいろな企業さんとお話をする仕事なので、コミュニケーション力が非常に大切なんですよ」と北舘さん。「例えば、国内の大きな展示会で札幌市が企業誘致ブースを出すこともあるのですが、来られた方に私がいきなり補助金の話を始めたら、なんだか面白くないじゃないですか。その方が『札幌に行ったことがある』と言えば、『どこに行ったんですか?』といったふうに、相手も話しやすくなるよう軽い話から広げていくことも大切で、わたしも納課長のようにトークスキルをもっと磨きたいと思っています!」

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新ビルの建設ラッシュでマンションやホテル、商業施設や劇場などができることは話題になっていますが、新しいオフィスのフロアが一気に増えることについては、札幌市民にはあまり知られていません。一方で、今回の取材では納課長や北舘さんのような行政の方々が「大札新(ダイサッシン)」という旗を掲げて企業の誘致活動に奔走、頑張っていらっしゃることを知りました。

たくさんの企業、そして多くの人が札幌に来れば、まちも賑わって元気になる。

「生まれ育った札幌が好き」という若い人たちも、働きたいと思う会社の選択肢が地元に増えることで、北海道に、札幌に残りたいとと考えてくれるはず。

全国から、そして海外から注目される、自然豊かなビジネス都市としての札幌が近い未来に実現することを考えると、なんだかワクワクしてきませんか?

札幌市経済観光局 経済戦略推進部 産業立地・戦略推進課
住所

札幌市中央区北1条西2丁目

電話

011-211-2362

URL

https://www2.city.sapporo.jp/invest/

URLは「NEXT SAPPORO企業進出総合ナビ」


「大札新(ダイサッシン)」─札幌の再開発最前線。

この記事は2023年4月12日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。