
安平町民の暮らしを守る、板金会社の一つである有限会社三曻(さんしょう)。「板金」と聞くと、車の修理を思い浮かべる方も多いかと思いますが、三曻さんは一般住宅・倉庫の屋根の張り替えや新築、飲食店のキッチンのステンレス換気口の製作・設置を手がける建築板金屋さんです。冬には安平町内の一般住宅の屋根の雪下ろしも行っています。そんなまちの板金屋さんで、北海道の胆振管内で初めて女性としての「建築板金技能士1級」の合格者が誕生しました。藤谷優由さん、なんと弱冠25歳!代表取締役の大場光弘さんの娘さんで、息子さんも三曻で活躍されているとのこと。板金という世界に踏み込んだ理由や今までと、これからのことを中心にお話を伺ってきました。
三曻の変革と、若く新しい風
お話を伺いに作業場の中へ入ると、金属を加工するための道具や機械がずらーっと並べられており、まさに製作途中の様子を見せてくださいました。苫小牧市で行われる「技能祭」に向けての出展作品を作っているとのことでした。
こちらが、今回お伺いした(有)三曻さん

普段目にかかれないような機械や製作道具がところせましと並んでいます
そして次に目に入ってきたのが、来客用のカウンターの上にある一枚の額縁。
その額縁の中には、2枚の新聞記事が挟まれています。
真ん中で表彰状をもっているのが、藤谷優由さん
三曻の代表取締役である大場光弘さんには3人のお子さんがいて、そのうち2人が三曻の板金技能士としてともに働いています。そして次女である優由さんは、2024年10月に建築板金技能士1級の資格試験に見事合格し、北海道胆振管内初の女性としての1級資格保有者に!その時にとりあげられた記事を、大場代表は大切に額縁にいれて飾っていました。優由さんの快挙を嬉しそうに語る大場代表の姿にこちらもなんだか嬉しくなってきます。
笑顔で出迎えてくださった(有)三曻代表取締役の大場光弘さん
三曻は1973年に、先代の代表が個人で立ち上げた会社です。現在安平町に本社をかまえ、苫小牧にも営業所があります。現代表取締役である大場光弘さんは18歳から板金の仕事ひとすじ。1993年に別の会社から転職する形で三曻に入社しました。先代の代表とは血縁関係はありませんでしたが、働きぶりが評価され10年前に専務に抜擢、2020年に代表取締役として就任しました。就任後、大場代表は、一緒に働くスタッフの労働環境の改善に努めます。大きく2つ、残業時間を減らすことと休日を増やすことを整えていくことで、良い方向に社内制度を変えていきました。
「時間調整の管理をすることで残業をしない風土づくりをしたり、業務のバランスを見ながら来週にまわせるものは回していくことで、土曜日も休めるようになりました。みんな(従業員)の協力があってこそ実現できたんだと思います」
率先して取り組んだ背景には、大場代表の実体験も深くかかわっていたようです。
「自分の子どもがまだ小さかったときは、家事と子育てをしながら働いていたんですが、そのころはまだ残業が多くって。いわゆる『ブラックな職場』に限りなく近かったというか(笑)夜遅くまで会社に残っていることも少なくなかったんです。」
当時のことを振り返りながら、大場代表はこう続けます。
「そんな自分の姿を見せていたから、まさか子どもたちが入社してくるなんてまったく想像もしてませんでした。仕事自体も、屋根の上にのぼって作業する仕事だから、どうしても夏は暑くなるし、冬も寒いし...でも2人とも子どもの頃から仕事をよく手伝ってくれていたんです」
小さい頃からお手伝いとして板金に日常的に触れてきた光大さんと優由さん。三曻に入社するまでのことをそれぞれに伺いました。
若き技術者、父の背中を追って
光大(こうだい)さんは、高校2年生の時から三曻でアルバイトを始めました。父である大場代表が指導者として技術を伝え、高校を卒業するときには既にある程度まで技術を一通り身につけていたのだとか!すごい吸収力です。学校から帰った後には毎日のように作業に励んでいたとのことで、努力家で職人肌な一面も伺えますね。
こちらが、大場光大さん
取材中には、ストーブの上に置いて加湿する蒸発皿を製作する様子を見せてくれました。ステンレスの金属板を土台に押し当てながら湾曲させて器の形にしていきます。「手の力加減で曲げ具合を調節していくので、かなり精密にみていかないといけないんですよね」と光大さんは蒸発皿を手に取りながら説明します。
作業に専心する光大さんの姿は職人そのもの。アルバイト時代から実直にコツコツとスキルを身につけてきたということを感じられました。
一方で優由さんは、高校卒業後に苫小牧市内のパチンコ店で勤務するかたわら、休みの日には三曻でアルバイトをするというサイクルの生活を送っていたそう。
「もともと、『高校卒業後に三曻に入社しよう』とは考えておらず、高校も普通科のところに通ってて、卒業した後も最初はパチンコ店で働いていました。ですが、三曻のアルバイトとして現場に出て屋根の張り替え作業などを見るうちに、楽しそうだなって思って。三曻への入社を決めたんです」
社員として三曻に入社した後、現場の仕事を実際に経験してみてどう感じたのかたずねると
「実際は大変でした。屋根の上で作業するので、使う道具や材料を屋根に上げるのですが、重くて全然持ち上がらなくて。『本当にこのまま続けていけるのか?』と思ったこともありました。今はもう慣れたんですけど、最初はすごく大変でした」
現場の作業では、体力的な面でついていくのに苦労したという優由さん。入社してから約6年と年数を重ねた今、改めて仕事に対して感じることに変化はあったのでしょうか?
「大変だけど、それでもやっぱり頼んでくれたお客さんが喜んでくれるのは嬉しいです。一般住宅の屋根の張り替えでも、すごく喜んでくれるんですよね。ただ、それぞれの現場によってやることは全部といっていいほど違ってくるので臨機応変に対応できるようになりたいなと思っています」
屋根の大きさが違えば使用する素材も変わるし、新築と張り替えの場合でも作業工程が変わってくるといいます。そんな中でも、喜んでくれる相手がいるということにやりがいを感じている様子でした。
1級資格取得までの道のり
冒頭の、資格合格者の新聞記事でピックアップされていたのは胆振管内での複数の女性合格者でしたが、実は三曻で優由さんの他に同じタイミングで建築板金技能士1級を取得した方がもう1人...!その方は、入社8年目の小川公隆(おがわ・ひろたか)さんです。
小川さんは、光大さんと同学年で、高校生のころからよく三曻の会社に遊びに来ていたそう。そのこともあって、入社前から大場代表に相談に乗ってもらっていたそうです
資格取得するためには、実技と学科の試験を受ける必要があります。仕事の合間を縫って自主練を繰り返し、優由さんと小川さんでお互いに苦手な部分を教え合っていたそうです。実技試験では、1枚の鉄板から、下の写真のような「集水器」と呼ばれる部品をつくります。寸法や展開図など全て覚える必要があったのだとか...!

試作品の集水器

細かな寸法が書き込まれた展開図。この数値をすべて頭に入れて本番に臨みます
作業場の棚には、試験のために練習してつくった試作品がずらりと並んでいました。優由さんと小川さんは「本当はもっとあったんですけど、数が増えちゃったので結構捨てちゃいましたね(笑)」とさらっとお話していましたが、その言葉からも日々コツコツと積み重ねて練習されてきたことが裏付けられていました。
北海道を襲った大震災。町民の生活を守るために
2018年9月6日に発生した北海道胆振東部地震。安平町では震度6強の揺れが観測されました。当時の代表である会長を始めとして、震災後の復興支援に早急に取り組みました。神社のくずれてしまった瓦礫を重機で運び出したり、安平町内の一般住宅で屋根や壁にへこみや穴があいてしまったところは鉄板でふさいで1軒ずつまわりました。
小川さんは苫小牧の自宅から、ポリタンクに水を入れて安平町まで車で往復して運んだのだとか。
「もともと震災前は、安平町内の別の場所に工場があったんです。地震があった日は、工場の中がぐちゃぐちゃになっていました。立てかけてある道具や、金具も全部倒れてしまって。町の中もひどい状態でした。建物もくずれて、道路もひび割れてしまっていて。みんな総出で復旧作業に取り組みました」
このように若手社員も一体となって行われた三曻の復興支援活動は、当時の安平町の方たちにとって欠かせないものだったのではないでしょうか。
輝くチームワークが循環をうみだす
人手不足や跡継ぎ問題に悩まされることの多いといわれる建設業界ですが、三曻では、繁忙期などで人手が必要になったときには組合にヘルプを頼むことができるような体制が整っているほか、跡継ぎとして息子さん・娘さんもおり、同世代の小川さんも入社してくれたので若い世代も活躍してくれているから一安心だそう。
「優由は営業もやってくれているんです。『行ってくるわ〜』と言って出て行ったと思ったら、受注してくるんだよね」と大場代表は誇らしげな笑顔。また、他社の現場作業のヘルプに入ることも多いとのことで、そのときに「良い仕事をしてくれますね」と評価してもらい次の仕事に繋がることがあるそう。また、チームワークの良さが伝わって「三曻さんは楽しそうに仕事をしている」と言われることも。お仕事をしていて楽しいと思う瞬間はどんなときですか?と優由さんにたずねると、
「仕事が終わった後に、みんなで食べに行ったり、休みの日に焼き肉したり。最近だと、北広島のショッピングモールにいって服を見に行ったりしましたね。仕事自体には関係ないことかもしれないんですけど(笑)」
車が好きな優由さん。愛車はクラウン...!かっこいい... お休みの日にはドライブに出かけることも多いそう。
「楽しそうに仕事をしている」と言われることも、仕事の関係ありなしにかかわらずスタッフ同士が仲良く、コミュニケーションもよく取れているといったことが外から見てもわかるからなのだろうと感じました。三曻で、ひとつの現場で稼働するスタッフの人数は最大8名。現場が大きくなればなるほど、チームワークや意思疎通のスムーズさが求められます。その点において、抜群なチームワークは三曻の武器となっているのでしょう。
若い世代の勢いもこれからより一層増し、盤石な人員体制を整えている三曻さん。今後のさらなる活躍をぜひ期待したいです。