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まちおこしレポート
上川町

町民が日常使いできる、上川町産生乳100%のチーズ作りに挑戦20230222

町民が日常使いできる、上川町産生乳100%のチーズ作りに挑戦

大雪山国立公園の玄関口にあり、道内有数の温泉郷・層雲峡を有する上川町。町とともにこの上川で地方創生に取り組んでいるのが、2017年に日本酒造りを始めた「上川大雪酒造株式会社」です。この上川大雪酒造のグループ会社である「FTC株式会社」が、2023年春の本格オープンを目指し、現在「KAMIKAWA KITCHEN」の名称でチーズ作りに取り組んでいます。ここを任されているのが、安住正弘さん。今回は、安住さんのチーズ作りの話や目指しているところ、上川町での暮らしなどについて語ってもらいました。

ミクニのサービス担当として、10年前に札幌から移住

札幌出身の安住さんが上川町へやってきたのは、ちょうど10年前。「大雪 森のガーデン」内のレストラン「フラテッロ・ディ・ミクニ」がオープンするタイミングで、サービス担当として移り住みました。札幌では、北海道イタリアンの第一人者・堀川秀樹シェフのテルツィーナ系列の店に勤務。堀川シェフが三國清三シェフと上川にレストランを出す話が浮上した際、安住さんにも声がかかったそうです。

kamikawaazumisan21.JPGこちらが、チーズづくりに奮闘中の安住正弘さん

「ずっと飲食業界で、サービスの仕事をしてきました。やはりイタリアンが多かったかな。上川へ来てからはずっとフラテッロ・ディ・ミクニに勤務していましたが、運営しているFTC株式会社がミクニ以外にも、森のガーデン内にあるカフェ・緑丘茶房(りょっきゅうさぼう)を運営していたので、レストランもやりながら、緑丘茶房の仕事もしていました」

上川大雪酒造が、町が所有する地産地消拠点「上川町たべもの交流館」の指定管理者となり、日本酒の次に町の産業として町内の生乳を使ったチーズ作りをこの場所で行うことになります。交流館は昭和初期に建てられた赤レンガ倉庫を用いた建物で、ここをリノベーションし、1階部分にチーズ工房を作りました。グループ会社であるFTCがサポートに入ることとなり、安住さんが抜擢されました。

「と言っても、FTCは人手不足なんです(笑)。実はこの工房ができるギリギリまでミクニと緑丘茶房で仕事をしていて、2022年の春にここが完成してからチーズ作りを始めました」

kamikawaazumisan22.JPGレンガづくりの特徴的な建物を活用。町の中心部にあります

そう言いながら、あっけらかんと笑う安住さん。「僕はチーズ職人だったわけでもないけれど、長くイタリアンにいたから、ある程度の良し悪しは分かりますよ。イタリアンにおけるチーズは、和食の味噌や醤油のように切っても切れないものですから。ただ、初めて青カビ系のチーズを食べたときは、こんなにくさいものは二度と食べられないと思っていたけど、食べ始めると不思議とおいしく感じるようになってね。初めてビールを飲んだときに、こんな苦いもの二度と飲めるかと思ったけど、大人になるにつれてなぜかおいしく感じるような、そんな感じ」と、自身のチーズとの関わりについて教えてくれました。

チーズ作りの一番の目的は、小さな町の地産地消と経済の循環

手探りしながらのチーズ作り、奥が深いし、難しいと話す安住さん。たくさんの職人さんに話を聞いたそうですが、「みんな言うことが違うんですよ。だけどそれは、それぞれ自分たちの経験値から話をするから当然なんです。チーズは発酵食品だから、いつも同じように作るのは難しく、その工房ごとに職人の勘や経験に頼る部分が大きいんです」と続けます。

現在、この工房でのチーズ作りのスタイルを確立するための作業の真っ最中だそうですが、「僕は経験を積んだ職人でなければ作れないチーズを作るつもりはないんです。誰が作っても同じくらいの、おいしく食べられるクオリティーが維持できればそれで十分だと思っています。だから、僕じゃない人が作っても同じくらいのものを作れるようにするためのここでのやり方を考えています」と意外なコメント。

kamikawaazumisan5.JPG部屋中に、ミルクの良い匂いが漂っています

しかし、それには理由がありました。チーズ作りを始めるきっかけは、町内の主力産業である酪農に光を当て、上川でしか食べられない加工品を作ろうというものでした。上川で搾乳した乳は、すべて旭川へ運ばれ、ほかの地域の乳と一緒になり、その時点で「上川産」ではなくなってしまいます。上川産の生乳を酪農家や町の人たちが誇れるような100%上川産のチーズを作ろうとなった訳です。また、上川町でしか購入できないとなれば、層雲峡帰りの観光客がチーズを買うために町に寄り、人の流れができるという狙いもありました。

「もちろんクオリティーがいいに越したことはないですけどね」と前置きをし、「町外の人がチーズを買いに立ち寄ってくれることも重要。だけど、まずは町の人たちに自分たちの町の乳で作ったチーズを日常的に食べてもらい、町の中で経済を循環させることも大事だと考えています。小さな町の地産地消ですね」と安住さん。そのため、町内の層雲峡で販売をする可能性はあるそうですが、今のところ町外に流通する予定はないと話します。

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週末だけの試験的なオープン。チーズのほか、ピザやグラタンも用意

2023年1月からは土日だけ「KAMIKAWA KITCHEN」の営業をスタート。本格営業は春からの予定です。今はモッツアレラチーズの販売を主にしており、ほかにチーズを使ったマカロニグラタンやピザなども提供しています。

「モッツアレラだけでなく、セミハードやフロマージュブランなども試験的に作ってはいますが、今販売しているのはモッツアレラ。昔のお豆腐屋さんみたいに水にプカプカ浮かせて、お客さんに好きなのを選んでもらい、重さを量って販売しています」

以前ヨーロッパを旅したとき、田舎町の酒屋に町の人たちがボトルなどを持参して、ワインの量り売りをしてもらっている光景を見て、「こういう雰囲気っていいなと思っていました」と安住さん。「エコだし、容器が必要ない分、価格も安くて。次から次へと酒屋にお客さんが入っていくんですが、きっとね、特別おいしいワインだったわけじゃないと思うんです。でも、樽からボトルに入れてもらってすぐに飲むと、おいしい気がするようで(笑)。そんな感じをここでもやれたらと思って」と楽しそうに話します。

kamikawaazumisan17.JPG熟成中のチーズたち

チーズを買いに来てくれた町民の評判は上々。ハード系の熟成タイプのチーズを希望する声も上がっており、夏ごろを目途にハード系も販売をスタートできたらと考えているそう。

町民の冷蔵庫にいつも入っている、そんな日常的なチーズでありたい

工房が試運転中の現在は、毎週金曜、各酪農家から集めた生乳を旭川へ運ぶ途中、ミルクローリーが工房に寄って、300キロの乳を工房のタンクに入れていきます。300キロの乳から作れるチーズの量は、チーズのタイプにもよりますが、水分量の多いモッツアレラだとだいたい30~40キロだそう。

「チーズ作りの際に出るホエーは、牛たちに飼料として飲ませることでそこもきちんと町内で循環させています」

金曜にチーズ作りをし、土日に店をオープン。月曜から木曜はグラタンの仕込みを行ったり、町内の層雲峡へ営業に行ったりしているという安住さん。何でも一人でこなしている状況です。春からは平日も店を開く予定であるため、一日でも早く、新しいスタッフが入ってくれることを望むと話します。
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「今は週1回届く生乳も、春からは週3くらいになる予定。忙しくなることは決まっているので(笑)、地域おこし協力隊のフードプロデューサーとして、食に興味のある人、チーズ作りや加工品販売に関心のある人、町を盛り上げることに興味がある人などが来てくれたらうれしいですね」

しかも春からはパンも工房で販売。パンとチーズの店としてKAMIKAWA KITCHENを稼働させていく計画なのだそう。

「パンも特別こだわりの強いものを焼くというより、町の人たちの日常使いのパン屋さんというイメージです。町の人たちに毎朝焼き立てのパンが提供できればというのが願いですね。とにかく、町の中でいろいろなものを循環させていければというのが第一です。こちらも人手が必要なので、パンが焼きたい人もぜひ来てほしいですね」

チーズ作りに関する目標は、「町の人の家の冷蔵庫にいつもうちのチーズが入っているような状態にまでなること」と安住さん。町でKAMIKAWA KITCHENのチーズが当たり前に日常使いされる存在になることが、この事業に関わっている人たちみんなの願いだそうです。

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都会にはない大自然が常に癒やしてくれる。住み心地は最高

とにかく多忙極まりないという状況の安住さんですが、話を聞いているとどこか余裕のようなものを感じます。どっしり構えているという雰囲気ですが、ストレスなどはないのでしょうか。

「もちろん大変なことはいろいろありますよ。でも、なんかそんなに引きずらないかもしれません。年齢を重ねたということもあるでしょうが、札幌にいたときに比べれば、仕事で何かあっても上川の自然の中に自分の身を置くと、解消されてしまうというか...。たとえば、仕事帰りに丘の上まで車を走らせ、満天の星空を見上げていると、くよくよ考えていたことがとても小さく思えてしまって、もういいやってなるとか(笑)」

上川に移住して10年になりますが、日常的に周囲に自然のある環境が心地良く、日々癒やされているそうで、ここでの暮らしをとても気に入っていると話します。

「プライベートで自分の時間をたくさん作れるようになったのは大きいですね。札幌にいたときは、プライベートの時間を人付き合いに充てなければならないことが多く、時間もエネルギーもすごく消耗していたと思います。有意義なものもあれば、ムダな人付き合いもありましたからね...。都会にいれば、それはそれで必要なことだったのかもしれませんが、上川へ来てからはムリをする必要がなくなったんです」

kamikawaazumisan20.JPGインタビュー中の笑顔からは、気負いの無い、しかし充実した感じが、伝わってきました

最終的には、尊敬できるシェフの料理をお客さまに運んでいたい

そんな安住さんが、上川へ移ってからはじめた趣味が写真。上川や周辺の景色を見ているうちにカメラに収めたくなったそう。

「札幌にいるときは、まったく写真に興味なんてなかったんですが、こっちへ来てから撮ってみたいと思うように。原付バイクに乗って、勝手気ままに走って、気に入った景色があれば停まって、撮影するということをやっています」

車ではなく原付バイクなのは、車だと見過ごしてしまう景色も気付くことが多いからだとか。今はまだ忙しい日々ですが、もう少し時間に余裕ができたら、まったくのノープランで原付バイク旅行をしてみたいと考えているそうです。

そして、仕事に関しての個人的な目標や夢を伺うと、「できるだけ若い人たちに活躍の場を譲っていきたいという思いはあります。レストランにいたときも、自分の経験してきたことや積み上げたものを若い世代に手渡していかなければと思っていました。このKAMIKAWA KITCHENもある程度の形が整ったら、僕は引っ込もうと思っています」と安住さん。その上で、「僕自身は今、いろいろな経験を重ねている時期に入っていて、チーズ作りも店の管理などもそのひとつ。そうした経験を積んで、次のステップに行けたらと思っています。そして、最終着地点としては、レストランのサービス、ウエイターの仕事を静かにやっていたいです。やっぱりサービスの仕事が好きなんですよね。死ぬギリギリまで、尊敬できる料理人が作った料理をお客さまに運んでいたいですね」と話してくれました。

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多忙な日々はしばらく続くと思われますが、たくさんの町の人が期待しているチーズとパンの店KAMIKAWA KITCHEN。春からの本格オープン、私たちも楽しみにしています。

KAMIKAWA KITCHEN (FTC 株式会社) 安住正弘さん
KAMIKAWA KITCHEN (FTC 株式会社) 安住正弘さん
住所

北海道上川郡上川町北町189番地3

電話

01658-7-7201

URL

https://kamikawa-taisetsu.co.jp/


町民が日常使いできる、上川町産生乳100%のチーズ作りに挑戦

この記事は2023年1月30日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。